2018年11月09日

冬の夜に

これは俺の体験談である。



ちょうど、小学4年生の冬だったと思う。



実は俺の父親というのはかなり厳しい人で、特に勉学の成績に関しては



一切妥協をしてくれない父親だった。



常に勉強を強要され、成績の向上を約束させられていたが、



やはり遊びたい盛りだったのか、俺は全く勉強には興味が持てなかった。



厳しい父親に叱責されても、その場限りで謝り頑張ると嘘をついていた。



それが父親には許せなかったのだろう。



その年の12月頃だったと思うが、学期末の試験でとんでもない



点数と、通知表をもらって来た俺に父親が完全に切れてしまった。



もうお前などうちの子供ではない、と。



だから、早く出て行け!



そう言われた。



最初は、冗談かと思っていたが、どうやらそうではないと気付いた。



だから、俺は必死で父親に許しを請うた。



しかし、もう俺の言葉には、もう父親を納得させるだけの本気が



無かったのだろう。



父親は、力ずくで俺を玄関まで連れて行き、外に連れ出そうとする。



そして、我が家は父親に反対出来る者など1人もいなかった。



母親でさえも・・・。



そして、俺は、そのまま外に出されて玄関の鍵を掛けられてしまう。



外は生憎の雪模様だった。



俺は台所がある場所の小屋根が付いた所にしゃがみこんだ。



寒かったが、雪のおかげで辺りがぼんやりと明るかったのだけが、



小学生の俺にとっては救いだった。



それでも、時間が経つにつれて寒さが身に染みてきた



その時、それなりに暖かい服を着ていたのだが、外の寒さに耐えられる



ものではなかった。



しかし、俺はこう思っていた。



きっと父親は、俺を懲らしめるために外に出したのだと・・・。



だから、大人しくして反省していればきっとすぐに家の中に



入れてくれるはずだ、と。



しかし、その時の父の怒りというものは俺の想像を超えていたらしい。



1時間が経ち、そして2時間が経った。



回りの家々の明かりもどんどんと消えていき、とうとう俺の家の明かりも



消えてしまった。



相変わらずユキは降り続いており、俺の頭や服にはかなりの雪が



積もっていた。



家の中は完全に真っ暗になっており、この時点で俺は生まれて初めて



”死”というものを身近に感じた。



不思議と泣き叫ぼうとか、玄関をドンドンと叩こうとは思わなかった。



全て自分のしてきた事の結果だ、と。



だから、もしも、このまま凍死するのだとしたら、少しでも家族の



近くでこのままうずくまって死のう・・・。



そんな事をぼんやりと考えていた。



確かに近所には友達の家もあったし、俺がしゃがみこんでいる



すぐ近くを何人かの大人たちが通っていったが、そこに助けを



求める気分にはなれなかった。



それは恥ずかしさでもなければ、絶望というものでもなかった。



上手くは言えないが、これはあくまでうちの家族の問題であり、



他人を巻き込むのは違う・・・・。



そんな風に思っていたのかもしれない。



体はどんどんと寒くなっていったが、ある時期を越えると



何故か、それほど寒さを感じなくなった。



俺は出来るだけ小さくなってうずくまり、あわよくば朝まで



生き延びられれば・・・。



そう思っていたのかもしれない。



そして、雪はどんどんと強くなっていく。



すると、不思議なもので、すぐ近くを通る国道の車の音も一切



聞こえなくなり、無音状態になった。



自分が家から外に出されてから、どれ位の時間が経っているのか、



まったく分からなくなっていたが、それでもかなりの遅い時刻に



なっていたのは、子供の俺にも分かった。



思い出すのは、家族旅行の思い出や、レストランに行った時の事



など家族に関する事ばかりだった。



だから、俺は子供ながらに感じていた。



人間は死ぬ前に走馬燈の様に思い出を回想するというが、もしかしたら



これがそうなのか、と。



だとしたら、きっと自分はもうすぐ死ぬのだろう、と。



そう思いながら、ふと空を見上げた。



空からは大きな雪がどんどんと降り落ちてきていた。



俺は思った。



このままでは、朝になる頃には、俺はすっかり雪に埋もれてしまい、



誰にも見つからないかもしれない、と。



だから、俺は一旦立ち上がり、もう少し雪が積もらない場所に



移動しようとした。



そして、立ち上がったとき、それは俺の目の前に居た。



女の人だった。



痩せてはいたが、普通の女性に見えた。



ただ、白い着物を着ていたその女性が俺にはとても奇妙に感じた。



そして、こう思った。



この女の人は、こんな時刻に此処で何をしているのだろう、と。



怖いという感覚は無かった。



むしろ、こんな夜中に誰かが側にいてくれる、という事のほうが



嬉しく感じていた。



自分の事を気付いてくれる人がいた、という事実が心強かった。



相変わらず、その女性は黙ったままで俺を覗き込んでいる。



俺は、一旦視線を逸らして深呼吸し、挨拶しようとした。



すると、



何してるの?



そんな声がすぐ近くから聞こえた。



ハッとして俺が顔を上げると、俺の目の前に、その女性の顔があった。



とても嬉しそうに笑っていた。



俺は思わず、うわっという声を出してしまった。



そして、それと同時に先ほどまでは全く感じていなかった恐怖という



ものに頭が完全に支配されてしまう。



こいつ、なんなんだ?



人さらい?



いや、それ以前に人間なのか?



そう考えていると、どんどん恐怖が増幅していく。



俺は、黙ってその女性の顔を見ているしかなかった。



年齢は、俺の母親と同じくらいだったと思う。



しかも、不思議な事に、その女性の頭にも服にも、雪というものが



一切積もってはいなかった。



良い所に連れて行ってあげようか?



そう聞こえた。



俺は完全に固まってしまい、その言葉に対して首を横に振る



事しか出来なかった。



すると、突然、何かが俺の腕を掴んだ。



ハッとして顔を上げるとそこには先ほどの女がニターッと笑ったまま



俺の腕を掴んでいるのが分かった。



その腕は、冷え切った俺の腕にすら、冷たく感じた。



まるで、何か別世界の、そして気が遠くなる様な冷たさ。



俺は大きな声を上げようとした。



しかし、何故かまったく声は出なかった。



喉の奥までは声は出ているのに、それが全く外へは出てこない。



俺は必死に首を横に振って、自分の意思表示を行った。



しかし、次の瞬間、俺の体はいとも簡単にそこから引きずり出されてしまう。



とにかく、凄まじい力だった。



そして、俺の体は、そのまま強引に引き摺られながら雪の上を



滑っていく。



どれだけ両足で必死に踏ん張っても、何の抵抗にもならなかった。



しかも、その時、回りの景色はいつもとは違っていた。



俺の住んでいる地域は古い町並みが立ち並び、どこまでいっても



そんな風景が続いているはずだった。



しかし、その時、俺がその女に引き摺られていった先には、何故か



ただ、真っ暗な闇が広がっていたのだ。



そこには、町並みは無く、ただ、木々の間に深い闇がどこまでも



続いているように見えた。



それでも、俺は諦めなかった。



声にならない声で必死に両親に助けを求め続けた。



そんな時、その女がこう言った。



もうすぐ・・・・もうすぐだから・・・・。



どうせ、お前は要らない子なんだから・・・・・。



そう聞こえた。



女に摑まれている腕は酷く痛み、感覚がどんどん無くなっていった。



それでも、最後の力を振り絞って俺は必死に両足で踏ん張り続けていた。



そんな時、突然、俺の家の明かりが点いたのが見えた。



そして、そこから飛び出すようにして出てくる父親と母親。



そして、俺の姿を見つけると、



こら!何してる!



と父の大きな怒鳴り声が聞こえた。



すると、その女は、ふっと掴んだ腕の力を抜いて、



また・・・来るからね・・・・。



そう言って、そのまま滑るように闇の中に消えていった。



そして、その場で倒れている俺を必死に抱き起こしてくれる母。



俺はそのまま安堵の為か、意識を失った。



そして、目が覚めると両親と兄が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。



俺が、



どうしたの?みんなで・・・。



昨日の夜の人は?



そう言うと、父親が、



あれは夢だ。



だから早く忘れてしまいなさい・・・。



そう言った。



その後、母親に聞いた話なのだが、あの夜、両親は少ししたら家の中に



俺を入れなければ、と思い、そのまま電気を消して寝たフリをして



居間で待機していたそうだ。



しかし、突然、強烈な眠気に襲われてしまい、そのまま両親は



居間で寝入ってしまったそうだ。



だが、突然、耳元で、



お母さん・・・助けて!



お父さん・・・助けて!



そんな切羽詰った声が聞こえたという。



そこで、慌てて外に出てみると、俺が見知らぬ女に連れて行かれそうに



なっていたのだという。



でも、助かって良かったよ!



母はそう言ってくれた。



そして、俺はこう聞いてみた。



俺って、お母さんやお父さんにとって、要らない子なのかな?と。



すると、母は笑いながら、



自分の子供が可愛くない親なんて居ないよ!



兄いちゃんも、そしてあんたも、私やお父さんにとって、宝物なんだから。



そう言ってくれたのが、とても嬉しかった。



ちなみに、その件があってから、俺は真面目に勉学に取り組む



ようになった。



そして、あれから、あの女は二度と現れてはいない。
  


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2018年11月09日

写真を辞めた理由

彼は俺の兄と同い年。



年齢で言えば、2歳年上になる。



ただ、趣味が車ということで共通の話題も多く、そして何より



カメラ屋の跡継ぎだった彼とは何かと親しくさせて頂いていた。



そんな彼は、大学を卒業後は、別の会社に就職していた。



まあ、それは決してカメラ屋を継がないという意思表示ではなく、



父親が年老いて、世代交代の時期が来るまでは好きにして良い、



という事だったらしい。



まあ、それには、カメラ屋という職業では、親子二人が普通に



暮らしていけるだけの収入が得られないという事も関係している



らしいのだが・・・・。



そんな彼は、自分が思っていたよりも早く、そのカメラ屋を継ぐ



事になった。



父親が、急病で他界したのだ。



それを契機にして、俺も彼の店に足繁く通う様になった。



カメラ屋というのは、カメラを販売するだけではなく、写真の現像から



プリントまでを行ったり、行事があると、そこに出かけて行き、集合



写真をとったりと色々と忙しい。



中には自分の撮影スタジオを持っているカメラ屋さんもいるらしいが、



彼の所ではそんな余裕は無かったようだ。



そんな彼なのたが、カメラ屋を継いでから、1年が過ぎた頃、急に



カメラ屋を廃業して、他の仕事に転職してしまった。



勿論、彼の写真撮影の腕はかなりのものだったし、もしも転職するとしても、



きっとカメラの知識が生かせる仕事なのだろうと思っていた。



しかし、もう二度とカメラで撮影はしたくないと言った。



その時に話してくれたのが、これから書く話である。



それは父親から引き継いだカメラ屋が軌道に乗り始めた頃だった。



ある時、電話がかかってきて、出張での撮影依頼が入った。



場所は能登のとある岬。



彼は、何故、地元の写真屋に頼まずに、わざわざ、うちに依頼の電話



をくれたのか、と一応聞いてみた。



すると、ちょうど、数年前に前の店主である父親に依頼したから。



そう言われた。



彼としては特に断る理由も無く、また謝礼の金額も大きかったので



二つ返事で快諾したという。



そして、いよいよ当日になった。



彼は、車で早めに出発し、能登の岬を目指した。



そして、ちょうど約束の時刻の1時間前には、その岬に到着した。



しかし、天気は雨に変わっていた。



どしゃ降りというのではなく、しとしとと降っている感じだったので、



彼は撮影機材を持って、指定された岬の方へと歩いていく。



しかし、そこは彼が数年前に訪れた時とは完全に様変わりしていた。



おみやげを売っていた店も、軽食を販売していた店も既に潰れており、



以前の観光地としての認識とは、程遠いものになっていた。



駐車場から岬へと続く道も、草木が張り出して、道を覆っていた。



だから、内心、心配していたという。



本当に撮影を依頼した人達は来るのだろうか?と。



まさか、騙されたのではないのだろうか、と。



しかし、確かに代金は前払いできちんと支払われていた。



振込みではなく、現金書留で、送られてきた代金は、古く汚れた



紙幣だけが入れられていた。



普通なら、銀行振り込みだろうけどな・・・。



そんな事を思いながら、現場に向かうと、何やらガヤガヤと騒がしい。



彼は重たい機材を持って、長い石の階段を降りると、そこには



沢山の人が立っていた。



そして、彼を見つけると、



おーい・・・ここだよ!



と声を掛けてくれた。



しかし、彼はその時、何か違和感を感じていた。



というのも、そこに集まっていたのは、老若男女さまざまな人達であり、



その人達が、まさに写真を撮る為だけに集まったかのように、岬の先端を



背にして、綺麗に並んで立っていたのだから・・・。



彼は、それでも、仕事だと割り切り、急いで機材を取り出して撮影の



準備を始めた。



しかし、不思議だった。



先ほどまであれほどガヤガヤと騒がしかったはずが、今まさに写真撮影の



準備をしていると、全く声が聞こえてこない。



いや、声どころか、何の音も聞こえず、ただ、波の音だけが聞こえていた。



彼は思わず、顔を上げて、彼らの方を見た。



そこには、まるで無表情で生気の無い顔が20個以上並んでいた。



そして、それらの顔は、全て彼の方をじっと見つめているのだ。



彼は心の中で思った。



まさか、自殺する前の記念撮影じゃないだろうな、と。



そして、何度か、笑ってくれるようにと頼んだところ、全員が



笑ってくれたらしいのだが、その笑顔というのが、言葉に表せない



くらいに不気味な笑顔だったという。



しかし、それから後は、何事も無く無事に撮影は終了し、彼らはぞろぞろと



歩いて石段を登っていった。



彼はそれを見て、



ああ・・・やっぱり思い過ごしだったか・・・。



まあ、自殺する前に記念写真を撮る物好きなやつなんかいないよな。



そう思いながら、機材を片付け、彼も急いで車へと戻った。



そして、その時、彼は気が付いた。



その岬の駐車場には、歩いて来るなど絶対に不可能な場所だった。



しかし、先ほどの団体客が乗ってきたであろうバスも車も、一台も



見てはいなかった。



彼は背中に寒いものを感じながら、急いで車を走らせ、店へと戻った。



そして、急いで写真のネガを現像している時に異変は起こった。



彼が撮影したカメラのフィルム。



そこには、誰一人として写ってはいなかった。



写っているのは、岬と、その先に見える海だけだった。



ピンボケとか露出の問題ではなかった。



実際、風景はきちんと写りこんでいるのだから・・・。



それでは、20人以上の人が一体何処に消えたのいうのか・・・。



確かに、そういう仕事をしていると、妙な写真が撮れてしまう事は



よくあるらしい。



手足が消えていたり、変な顔や手が写りこんでいたり・・・。



しかし、撮影した全員が消えた写真など彼は見た事が無かったという。



しかも、万が一の為に、同じ写真を数枚撮っていたが、やはり



どの写真にも誰一人写ってはいなかった。



彼は思わず蒼ざめてしまう。



そして、そんな顔をしている彼を見て、母親が聞いてきた。



何があったのか、と。



そして、彼はそれまでの経過を葉親に話すと、母親の顔はどんどん



蒼ざめていき、恐怖で顔が引きつっていたという。



そして、慌てて何処かへ行くと、すぐに彼の元に戻ってきてこう言った。



これはお父さんが書いていた日記帳・・・。



そこには、今、あんたに聞いた事と同じ事が書かれてるの・・・。



そして、それからしばらくしてお父さんは、死んでしまった。



ああ・・・どうして話してくれなかったの?



知っていれば絶対に止めたのに・・・・。



そう言って泣き崩れたという。



彼は一瞬、父親の日記帳に書かれていることを読もうと思ったが、



すぐに止めた。



そして、そんな恐怖心を払拭しようと、依頼主のところへ電話を



かけた。



写真撮影の失敗を詫びる為に・・・・。



しかし、その番号にかけると、その番号は使われていない旨の



音声が聞こえてきた。



それからである。



彼が撮影した写真には、必ず、関係の無い誰かが写りこむようになった。



それは、顔みたいなものではなく、明らかにはっきりとした顔だった。



その都度、写りこむ顔は違ったが、どの顔も、得体の知れない不気味な



笑みを浮かべていた。



そう、ある日、撮影した人達の顔のように・・・。



そして、そんな日が1ヶ月ほど続いた時、彼は突然、カメラ屋を



廃業した。



そして、そのカメラ屋の建物自体を売りに出し、新しい場所に



移り住んだ。



そして、彼は言っていた。



廃業したのは、もう限界だったから。



たぶん、もう一度でも写真を撮ってしまったら、きっと俺は



死ぬ事になるから・・・。



そう言っていた。



そして、実は俺はその時の写真を一枚もらっていた。



彼は止めた方が良いと助言してくれたのだが、俺にはどうしても



その写真の謎を解明してみたかった。



その写真には、彼が言ったとおり、確かに、岬の先端と、その先の海だけが



写っていた。



どこをどう見ても人の姿は何処にもなかった。



その時には・・・・。



それから、俺はその写真の事をすっかり忘れていた。



そして、何かのきっかけで、その写真の事を思い出し、再びその写真を



取り出してみた。



すると、そこには、岬の先端に、手の様なモノが写っていた。



まるで、何かが崖の下から這い上がってきている様に見えた。



だから、俺はその写真をAさんに見て貰った。



すると、Aさんは、



ああ・・・これは駄目な奴ですね。



持っていては危険すぎます!



この写真は、簡単に人の命くらい奪ってしまいますよ・・・・。



そう言われてしまった。



そして、今、その写真は富山の住職の所に保管されている。



絶対に誰も開けられない様な厳重な鍵を掛けられた状態で・・・。



そして、俺は思っている。



彼の父親が死んでしまったのは、もしかしたら、その写真に



写りこんだ、這い上がってくるモノを見てしまったから、



なのではないか、と。



この世には、確かに触れてはいけない危険すぎるものが



存在しているようだ。
  


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2018年11月09日

彼の家を護るもの

これは知人から聞いた話。



彼は年齢は40代。



結婚し、妻と子供二人で金沢市内に住んでいる。



趣味はゴルフと音楽鑑賞という、まあどこにでもいる会社員だ。



中古で購入した家をリフォームして住んでいる。



家には彼と妻の車が2台停まっており、玄関の横には



犬小屋がある。



そう、犬を飼っているのだ。



実は俺は過去に2回ほど、犬に咬まれている。



そのどちらも、友人の家に行った時だった。



1度目は、小学校高学年の時。



友人の家に行き、玄関のチャイムを鳴らすと、背後から唸り声が。



振り返ると、そこには小さな成犬が牙を剥いて威嚇していた。



そして、思わず反射的にその場から逃げようとした俺は、



そのまま犬に咬まれてしまった。



その後、友人の親御さんが謝りに来てくれたが、その時、俺の



母親はしっかりと笑っていた。



そして、2回目は、中学生の時。



その時も新しい学年になり、新しく出来た友人の家に行った時のことだ。



玄関のドアを開け、そしてチャイムを鳴らした。



すると、友人よりも先に、犬がこちらに向かって走ってくる。



思わず、逃げた俺は玄関のドアを閉め忘れてしまい、そのまま



犬は外まで追いかけてきた。



俺は必死で逃げ、ブロック塀に登ろうとして、そのまま落下。



そして、落下した俺の足に犬が噛み付いてきた。



これも、小さな成犬だった。



そして、タイミング悪く友人の妹が帰宅してきたらしく、俺を



不思議そうな目で見ながら家の中に駆け込んで入った。



そして、家の中から大きな声で、



お兄ちゃん、家の外で○○○に咬まれてる人がいるんだけど?



と言っているのが聞こえ、その後、駆けつけてくれた友人は



犬に咬まれたままの俺を見て、大爆笑していたのを憶えている。



何を言いたいのか、といえば、俺は犬が好きだが、実は怖いという事。



2回咬まれたどちらも、咬まれた傷口からは血が流れていたし、



その痛さはかなりのものだった。



だから、その恐怖というのがきっとトラウマになつているのだろう。



だから、友人の家に招かれると必ず確認する。



犬は飼ってるの?と。



それくらい、犬というものにたいして敏感になってしまっている。



ただ、誤解して欲しくないのだが、俺は犬という生き物は嫌いではない。



いや、むしろ、好きな動物の筆頭が犬なのは間違いない。



小さな時に犬をしばらく飼っていたし、その時の充実した日々は



簡単に忘れられるものではない。



だから、表現が難しいのだが、犬は好きなのだが、怖いという



矛盾した考えなのだ。



しかし、彼の家の犬は、とても好ましい。



俺が初めて伺った時も、全く吼えず、ただ、寝そべって寝ているだけ。



かなり大きな犬なのだが、彼の家に行く時には俺は緊張しなくてもすむのだ。



彼に言わせると、



番犬として飼っているのに、誰が来ても全く吼えないんだ・・・。



本当に役立たずな犬なんだ・・・・・。



という事になるらしいが、俺敵には、何処の名犬よりも、



大好きな犬である。



そして、彼が役立たずと言った犬が、実はとても大切な役目を



担っているのを後で知る事になる。



それは、彼が、仕事で県外のビジネスホテルに泊まった時の事。



部屋に入った時から、部屋の空気が冷たく、そして重く感じた。



彼には霊感というものは無く、そんな感覚になったのは初めての事だった。



そこで、彼はフロントに部屋を変えてもらうように頼んだ。



しかし、生憎、その日は満室だったらしく、冷たく断られたという。



かといって、彼には新たに空いているホテルを探す気力も無く、



その晩はそのまま、その部屋で過ごす事にした。



彼はコンビニでお弁当と一緒に、大量のビールを買い込んでくる。



そして、シャワーも浴びたかったが、やはり何処か気持ち悪いので、



朝に浴びる事にして、その晩は弁当と大量の酒を胃袋に収め、テレビを



観ていた。



部屋の電気も点けたままにして、その晩は一晩中明かりを点けたまま



ベッドの上で過ごす事に決めた。



しかし、やはり仕事で疲れていたのだろう・・・。



突然、睡魔に襲われた彼は、そのまま知らないうちに寝入ってしまった。



彼は夜中に目を覚ました。



時刻は午前3時を回っていたという。



彼は一瞬、自分が何処にいるのか、全く把握できなかった。



真っ暗闇の中で、彼は呆然と上半身を起こした。



そして、思い出した。



自分は、部屋の明かりとテレビを点けたまま、寝入ってしまったのだ



という事を・・・。



しかし、何故かテレビはおろか部屋の明かりまで消えていた。



一体何故消えているんだ?



そう考えた時、突然、気味悪さで固まった。



しかし、そのままでは、埒が明かない。



彼はベッドから立ち上がると、手探りで部屋の明かりのスイッチを探した。



そして、そのスイッチはすぐに見つかった。



しかし、何度スイッチを押しても部屋の明かりは点かなかった。



部屋のドアの隙間からは、廊下の明かりが漏れていた。



彼は一刻も早く、藁にもすがる思いで、真っ暗闇の中から抜け出し



たかったのだろう。



彼は急いで入り口のドアのロックを外し、ドアノブを回した。



しかし、何故かドアは開かなかった。



どれだけ押しても引いても、まるで何かで固められているように



びくともしなかった。



そして、その時、彼の耳は聞いた。



シャワーを浴びているような音が急に聞こえてきた。



その音は明らかに彼が泊まっている部屋から聞こえてくる音だった。



そして、次の瞬間、ユニットバスのドアが開く音が聞こえ、シャワー



の音が一層大きく聞こえ出した。



その部屋には当然、彼1人しか泊まってはいない。



だとしたら、一体誰が・・・・。



そう思うと、彼は恐怖で固まり、その場にうずくまって両手で



耳を塞いだ。



しかし、何かがズルッズルッと床を這って来る様な音が聞こえてくる。



そして、その音はどれだけしっかりと耳を塞いでも関係ないように、



はっきりと聞こえてきた。



彼は、その場にうずくまって身動きが取れなくなっていた。



もう一度電気を点けてみようか、ドアノブを回してみようかとも



思ったが、もしもその時に、今聞こえている音の主を見てしまったら・・・。



そう考えると、恐怖で体がガタガタと震えていた。



そして、部屋の中を這いずる音はどんどんと近づいてきた。



もう、彼のすぐ背後まで来ている事は容易に想像出来た。



もう駄目だ・・・・。



そう思った。



しかし、その瞬間、隣の部屋から、ドンドンと部屋の壁を叩く音が



聞こえてきた。



彼は思った。



こんな夜中にシャワーを浴びていればきっとうるさく思って



壁を叩く者もいるだろうな、と。



そして、その音が聞こえたとき、這いずる音は停止し、そして今度は



どんどん離れていった。



それは、その音の主が、彼から隣の部屋の宿泊客にターゲットを



変更したのだと、彼は確信した。



そして、その考えは的中する。



彼が恐る恐る振り返ると、何かが部屋の中を這ったまま、隣の部屋の



壁に向かって消えていくところだった。



彼は急いでドアノブを回した。



すると、今度はいとも簡単にドアが開いた。



彼はそのままフロントに行き、今、体験した事を告げると、強引に



フロント横の長椅子に寝転がって、そのまま目をつぶった。



寝ることは出来なかったが、横になっただけでも少しは疲労が



軽くなっていくのを感じていた。



そして、朝になり、部屋に戻ると、部屋の中が酷く荒らされていた。



彼は急いで荷物を持つと、そのまま部屋から出て、早々に



チェックアウトをした。



そんな事があった出張から彼が帰宅したのは、2日後。



ところが、彼が車を駐車場に停めて家の玄関に近づくと、いつもは



だらしなく寝ているだけの愛犬が、激しく吼えてくる。



それも、牙をむき出しにして本気で威嚇してくる。



そんな状態の愛犬を見るのは初めてだったから、彼はもしかすると、



その犬の頭が変になってしまったのかと思ったという。



そして、無理やり頭を撫でて家に入ろうとしたが、やはり今にも



飛び掛からんといった具合に吼えまくる。



そして、その声を聞いた家族が家の中から出てくると、今度は



家族の前に立ち塞がるようにして、彼を威嚇した。



しかも、愛犬は家族が頭を撫でてなだめても一向に変わらない。



その時、彼はあることに気がついたという。



それは犬の視線が彼ではなく、彼の左横辺りを睨んで吼えている



という事だった。



その時、彼は、先日泊まったビジネスホテルでの怪異を



思い出した。



そして、あの時以来、背中が重く感じており、左肩が痛むことを・・・。



だから、彼は家族に言って、愛犬を繋いでいる首輪を外させた。



すると、犬は一気に彼の右横辺りに飛び掛かると、そのまま



牙を剥いて吼えながら、そのまま彼の横を通り過ぎて走っていった。



まるで何かを追いかけるかのように・・・・。



そして、しばらくすると、愛犬はすぐに戻ってきて、再び首輪に



繋がれると、いつもの様に玄関前に寝転がってしまった。



彼はようやく家の中に入る事が出来た。



その後、彼は風呂に入り食事をして寝たらしいが、その間も、



時折、愛犬が家の外で激しく吼えて威嚇している様な声を聞いた。



そこで、彼は俺に電話をかけてきた。



こんな事があったんだけど、大丈夫だろうか?と。



そこで、俺はAさんに相談し、それまでの経緯を話した。



すると、Aさんは、何故か彼よりも、その犬に興味を示した。



だから、俺とAさんは、翌日、時間を合わせて、彼の自宅に



訪問する事にした。



玄関に行くと、いつもの様に、その犬は寝ていた。



しかし、Aさんが近づいた時、突然、むくっと起き上がると、



まじまじとAさんの方を見つめてから、まるで進路を開ける



様に後ずさりした。



俺は、いつもの様にその犬に近づいて、頭を撫でてやると、



いつも通りに穏やかに反応し、頭をこすり付けてくる。



俺は、



やっぱり、Aさんが怖い人だって、分かるんだな?



と犬に向かって言うと、Aさんは馬鹿にしたように、



本当に単細胞ですよね・・・・。



この犬は私が霊的な力があると分かって道を開けてくれたんです。



そして、この犬自体も、そうとうな力を持っていますね。



犬っていうのは。元々霊的な力が強くて、呪いなどにも使われたり



するんですけど、この犬は、そんな事に利用される犬と同程度の



力を持ちながら、その力をこの家の家族を護る事だけに



使っています。



本当に、この家の家族が大好きなんですよ。



いつも寝てばかりいるっていうのも、一種のカモフラージュ



なんでしょうね。



だから、大丈夫です。



私が何もしなくても・・・。



この犬が護ってくれてますから、この家の家族には、悪いモノは



一切近づけません。



さっきからこの家を遠巻きに見ている女がいるんですけど、きっと



それが、ビジネスホテルから連れて来てしまったモノですね。



でも、この犬のお陰でかなり弱っていて、もうすぐ消滅してしまいますから。



本当、Kさんも、この犬くらい役に立てば良いんですけどね!



そう言っていた。



その犬は相変わらず俺が家に伺っても、誰かが来てもいっこうに



吼えようとはいないが、きっと相手を見ているのだろう・・・。



この件で俺もまた犬が飼いたくなってしまった。
  


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2018年11月09日

守護霊と動物霊

姫はとても強力な二つの力で守護されている。



とても徳の高い守護霊とそして、凄まじいほどに強力な悪霊。



ただ、その力が憑いているから、姫の力が凄いのかと言えば、



そうではないらしい。



姫の素性が凄いから、その様な特別なものが憑いているのだという。



だから、それらが相乗効果となった時の姫の力は比するものが無い。



Aさんは、そう言っていた。



それでは、守護霊というモノを持っていないAさんは、どうなのかといえば、



明らかに自分の力のみで全てを行う。



だから、きっと、単独の力で比べるとしたら、現時点ではAさんの



右に出る者はいない、と俺は思っている。



逆に考えれば、Aさんにとても強力な守護霊が憑いたとしたら、



それはきっと想像を絶するほどになるのかもしれない。



だから、俺はある日、言ってみた。



Aさんも、何処かで強い守護霊を見つけてくれば良いのに・・・・と。



すると、Aさんは、完全に呆れた顔をして、



あの・・・ですね。



相変わらず想像を絶するボケ具合ですよね。



守護霊って、中古車やペットを買うのとは全然違うんですよ。



だから、何処かで見つけてくれば良い、という様な簡単な



ものではありませんから。



それに、守護霊がいない人って、凄くとり憑かれ易いんです。



それに、強い守護霊が憑いたとしても、それに支配されてちゃ



意味ありませんから・・・。



姫ちゃんみたいなのは別格としても、それだけ強い守護霊を憑かせる



のだとしたら、自分もそうとう強くならないといけないんです。



だから、そんな事を簡単に言うもんじゃありませんよ・・・。



そう言われてしまった。



そして、その話を聞いた少し後で、こんな事があった。



それは俺とAさんの共通の友人の身に起こった。



彼女は、誰からも好かれる存在だった。



常に他人のことを親身に考え、真面目で勤勉。



決して他人の悪口は言わない、というAさんとは真逆の



性格なのだから、敵など出来るはずもない。



しかし、ある日、彼女は友人と山登りに出掛け、そして帰ってくると



別人になっていた。



どうやら山で、彼女ははぐれて道に迷ったらしく、再び友人の前に



現れたときには既におかしかったという。



仕事にも行かなくなり、寝て食べるだけの生活。



性格も怒りっぽくなり、威張り散らす。



そして、常に誰かの悪口を言う様になった。



その変わり様は、驚くほどで、まるで別人の様だった。



そして、それは言動だけではなく、容姿にも現れていた。



目は吊りあがり、口元からは常によだれが垂れている。



目の焦点は定まっておらず、時折、妙な奇声を発した。



その姿を最初に見た時、俺はきっと何かに憑依されたのだと思った。



なんとか、悪い霊を祓わなければ、と。



しかし、全く別の視点で見ている人がいた。



それはAさんだった。



俺が、彼女の姿を見て、Aさんに、



何とかしてやってよ・・・・。



と言うと、Aさんは難しそうな顔をして、



助けてあげたいけど・・・・無理・・・ですね。



そう呟いた。



俺が、



なんで?



Aさんなら、簡単に祓えるんじゃないの?



と聞くと、



ええ・・・憑依されたのなら・・・。



でも、あれは憑依されてるんじゃないんです。



実は彼女にも守護霊がいなかったんですよ。



だから、私も以前から気に掛けてたんですけどね。



そして、今の状態は守護霊がついた状態とも云えるんですけど・・・。



守護霊って、元々、対等か、もしくは本人の方が上の立場にある



ものなんですけど・・・。



たまに、立場が逆転して、守護霊の方が支配してしまう事もあるんです。



まあ、それが徳の高い守護霊なら別に問題は無いんですけどね。



でも、彼女の場合、そうではないんです。



守護霊がいない人に、一番憑き易いのは動物霊です。



守護霊気取りで人間を支配しようとするんです。



それでも、本人が強い霊力を持っているか、もしくは、姫ちゃんみたいに



潜在能力が高い人なら、動物霊も下手な事は出来ないんですけどね。



はっきり言ってしまえば、彼女に守護霊として憑いてるのは、



狐です。



それも、かなり位の高い狐。



これって、かなり厄介な事なんですよね・・・。



普通の狐だったら、なんでもないんです。



いわゆる、狐憑きという状態なら・・・。



でも、位の高い狐は、とても手強いんです。



プライドが高いだけでなく、その霊力も強大です。



だから、犬と蛇と並んで、狐は最も相手にしたくない動物です。



そう返してきた。



それでも、やはり放っては置けなかったのだろう・・・。



Aさんは、単身、彼女の所へ出向き、狐を説得しようとした。



俺はその時、車の中で待機していたのだが、彼女の部屋から出てきた



Aさんを見て、思わず目が点になった。



何かをかけられ、びしょ濡れになったAさんがトボトボ歩いてきた。



あのAさんが・・・・。



俺が、



どうしたの?



と聞くと、



見て分かりませんか?



水をかけられました・・・・大量に・・・・。



出て行け、と。



お前などの出る幕では無い、と。



むかつきました!



完全に彼女を乗っ取って守護霊気取りでいますね。



狐のくせに・・・・。



実力行使に出ようかとも思ったんですが、そうなると、彼女の身が



心配ですからね。



でも、このままでは絶対に済ましませんから・・・・。



だから、俺は、



このままでは済まさないって、狐を相手にして、何か方法はあるの?



狐は相手にしたくない動物なんでしょ?



と聞くと、



彼女の身の安全を確保した上で、寝ているところを攻撃するとか・・・。



そう言われたので、俺は



Aさん、狐の霊がいつ寝るか、知ってるの?



と聞くと、



そんな事知ってるわけないじゃないですか!



と自信たっぷりに返してきた。



そして、Aさんはこう続けた。



狐を彼女の中から出て行かせるとしたら、



もっと位の高いもの、例えば、同じ狐に説得して貰うのが一番



なんですけどね、と。



だから、俺は素朴な疑問をぶつけてみた。



それって、姫についてる狐じゃ駄目なの?



確か、相当、位が高いって言ってなかった?



それとも、彼女に憑いてる狐の方が位が高いとか?



そう言うと、Aさんの目が輝きだした。



そして、



姫ちゃんの狐より位が高い狐なんて、たぶん日本にはいません。



そうでした。



姫ちゃんに頼んでもらえば良いんですよね。



確かに、あの子の憑いてる狐というのは、もう伝説的な存在の



狐ですから・・・。



確かに彼女に憑いてる狐の位も高いみたいですけど、さすがに相手には



ならないと思いますから。



Kさんもたまには良い事言うじゃないですか!



そう言ってニンマリと笑った。



そして、数日後、姫と一緒に彼女の部屋を訪れたAさんは、とても



嬉しそうな顔をしていた。



まるで、積年の恨みでも晴らせるかのように・・・。



姫は相変わらず、呑気に、



狐ちゃん、同属の争いは嫌だ、って言ってますけど?



などと喋っていたが、Aさんが手を合わせて、



お願い!



このままじゃ、私のプライドが・・・・。



だから、狐さんに頼んでみて!



姫ちゃんがお願いすれば、断れないでしょ?



と言うと、姫が、



その狐にそんなに酷い事されたんですか?



と俺に聞いてきたが、まあ、俺が常日頃、Aさんから受けている



言葉の暴力にら比べれば可愛いものだと思うのだが・・・。



そんな感じでAさんと姫は部屋に入っていく。



俺はいつもの様にドアの外で待機する事にした。



そして、10分ほど経っただろうか・・・。



部屋から出てきた彼女はもう既に以前の彼女に戻っていた。



そして、どうやら、姫の狐の力を借りて、その狐に説教しまくった



らしいAさんは、



あ~スッキリした!



ととても晴れ晴れとした顔をしていた。



ちなみに、その後、聞いた話では、姫と一緒に彼女の部屋を



訪れた時、姫の背後に憑いている狐の姿を見て、すぐに、その狐は



彼女から離れて、ひれ伏していたそうだ。



それを観たAさんが、狐に説教を開始して、言いたい放題、文句を



言っていたそうだ。



いつもの上から目線で・・・。



そして、



今すぐ、この人から離れなさい!



と言われ、二つ返事で、その狐は逃げるように何処かへと消えていった。



その話を聞いた俺は、



Aさんなら、きっとどんなに強い狐に憑かれても大丈夫だろうから、



いっその事、狐でも守護霊にしたら?



と言うと、



ひとそれぞれだと思いますけど、私は守護霊がいない方が気楽



なんですよね・・・。



自分の身は自分で護りたい方なので・・・。



でも、以前はちゃんと居たんですよ、私にも。



守護霊が・・・・。



そう言って少し寂しそうな顔をしたのが、何故か気になって



仕方なかったが、俺にはそれ以上、聞く勇気は無かった。
  


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2018年11月09日

火葬された携帯

これは知人から聞いた話である。



知人の親戚に、、母親と息子1人で生活している家族がいた。



父親は、息子が生まれた後、しばらくして急逝した。



それからは母親は息子を溺愛した。



何をするにも何処に行くにもいつも息子に付いて回った。



そんな感じだったから、息子には彼女はおろか友達も



いなかったという。



息子は孤独だった。



しかし、母親の前ではいつも明るく振舞っていたという。



母親を心配させないように・・・・。



孤独ではあったが。それでも息子にとって母親はかけがえの無い



ものであったし、それは母親も同様だった。



それでも、やはり息子は、過度のストレスを感じていたのだろう。



それは本当に死ぬつもりはなかったのではないか・・・。



事故だったのではないか、と警察に指摘されたという。



つまり、彼は自殺の真似事をしてしまい、そのまま運悪く本当に



死んでしまった。



大量の市販薬を飲んだ息子は、苦しくて吐き出そうとしたところを



同時に強烈な睡魔に襲われてしまい、そのまま喉を詰まらせて



死んでしまった。



本気の自殺ではなかった。



たから、当然、遺書もあるはずも無い。



母親は半ば半狂乱になってしまい、息子の死を受け入れようとは



しなかった。



だから、葬式の準備も一切行わず、ただ時間だけが過ぎていった。



そして、それを見かねた親戚から、諭され、ようやく葬儀の準備を行った。



それでも、



きっと息子は生き返るはず・・・・。



そう言い続けて、葬儀の日取りを出来るだけ遅くしたりもした。



しかし、息子は生き返ることも無く、そのまま葬儀の日を迎えた。



それでも、母親は息子が愛用していた携帯電話を解約せず、葬儀の



間もずっと息子の手にしっかりと握らせていたという。



通夜が終わり、葬儀も終わった。



息子の生前の交友関係の少なさを象徴するかのように、参列者は



どちらも、とても少ないものであった。



そして、いよいよ斎場に向かうバスに乗り込むことになった。



嫌がる母親を、親戚はなかば力ずくで霊柩車の助手席へと



座らせた。



そして、火葬する段になると、母親は激しく泣き叫び、気が狂ったように



息子の棺にすがりついた。



親戚達も、とても辛い光景に思わず、誰もが正視出来ず、俯いたまま、



時間が経つのを待っていた。



そして、ひとしきり泣き明かした母親は、急に元気を取り戻し、



そうだ・・・この携帯があれば、いつだって○○と話せるんだよ。



そう言って、棺の中に携帯を入れようとした。



しかし、親戚と係りの人に止められてしまう。



それでも、母親は決して引き下がらず、頑として携帯を棺の中に



入れるんだ!と主張し続けた。



しばらくの押し問答の後、根負けした親戚と係員は、仕方なく



棺の中に携帯を入れることを黙認した。



そして、いよいよ、棺が火葬された。



完全に火葬できるまで、しばらくの時間がかかると言われた



親戚達は、いったん待合室で待つ事になったが、母親だけは、



きっと、息子からの電話があるはずだから・・・・。



と言って、その場から離れようとはしなかった。



そこで、知人と数人の男性達も、その場に残る事にした。



これ以上、係員に迷惑は掛けられないと判断したから・・・。



嬉しそうな顔で、携帯を見つめる母親の顔は、まるで気が変になって



しまったのではないか、と思えるほど不気味なものだった。



そして、見えてはいないが、今、すぐそこで、息子の遺体が



燃やされている場所にいる事自体が、とても苦痛に感じていた。



すると、突然、母親の携帯電話が鳴った。



あっ、きっと○○だわ・・・・。



そう言って、急いで電話に出る母親。



そして、どこから掛かってきた電話なのかは分からなかったが、それでも



母親は、とても嬉しそうに話し込んでいる。



すると、その場で、一緒に待機していた、母親の兄にあたる叔父が



母親から電話を取り上げた。



いい加減にしなさい!



そう言って、電話に出た叔父は固まったまま、どんどん蒼ざめた顔に



なっていく。



そして、呆然とした表情で、携帯が知人に渡された。



知人が電話に出ると、ゴーッという音とともに、何かが弾ける



ような音が聞こえてきた。



その音が、今まさに火葬されている電磁釜の中の音だと気付くのに、



それほど時間はかからなかった。



知人も、血の気が引いていくのを感じていた。



そして、その様子を、まるで楽しいゲームでもしているかのように



嬉しそうな顔で見つめている母親の顔がとても恐ろしかったという。



それから、知人は呆然としたまま、携帯を母親に手渡した。



すると、それから、ずっと母親は何かを話していた。



火葬されている息子と・・・・。



しかし、そんな事があったものの、火葬は無事に終わり、骨を拾う段



になったが、母親は、骨など拾おうとはしなかった。



それどころか、



息子は死んでいない・・・。



そう繰り返すばかりだった。



それから、どれだけの月日が流れたのだろうか・・。



とある親戚の集まりがあった際、その母親もその集まりに参加



してきた。



そして、相変わらず元気そうな顔で、



昨日は息子とこんな事を話した・・・とか、



息子が、今日もこの場所に遅れて来る・・・という話を親戚達に



話して回っていた。



そして、また電話が鳴った。



急いで電話に出た母親は、



もう、皆さん、集まってるんだから、出来るだけ速く来てね!



等と訳の分からない事を話していた。



そして、またしても、叔父が母親の携帯を取り上げて、自分の耳に当てると、



電話の向こうからは、プープーという連続音だけが聞こえていた。



叔父や知人は思ったという



やはり、ショックで頭がおかしくなってしまったのかも・・・と。



すると、突然、玄関のチャイムが鳴った。



叔父は走るようにして玄関に向かうと、外に向かってこう言った。



もう、お前は死んでるんだ・・・。



そうやって優しくする事が、かえってお前のお母さんを苦しめてる。



それに気付いてくれ!



そう言ったという。



すると、玄関のチャイムが鳴り止んで、玄関の向こうで誰かが



お辞儀をする姿が見えたという。



それからは、もう母親の携帯に、息子からの電話がかかってくる



事は無くなったそうだ。



辛く、そして悲しい話である。
  


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2018年11月09日

映画館

俺はもう長い間、映画館という所に足を運んでいない。



パソコンの画面が大型化し、ブルーレイも登場してしまうと、



わざわざ



足を運んで映画館に行って映画を見る気になれなくなった



というのが、その理由だ。



そんな事を書くと、映画好きな方に怒られてしまいそうだが、



それでも、やはりゆったりと横になって好きなお菓子と飲み物を



片手に観るブルーレイの映画は魅力的なのだ。



今の映画館は、1回の上映毎に観客が総入れ替えになるのだそうだ。



しかし、昔の映画は違った。



好きな時に入館し、好きなだけ何度でも観てから帰る事が出来た。



しかも、金沢という田舎のお陰か、都市圏ではありえない、



話題作の2本、3本同時上映というものまで存在した。



そんな古き良き時代を知る者としては、やはり今の映画館に



あまり魅力を感じられない。



ただ、俺の友人は違っていた。



とにかく映画という文化が好きなのである。



だから、話題作であれ、全く人気の無い作品であれ、そして子供向けの



アニメであれ、余程のことが無い限り、全て観るのだそうだ。



しかも、平日が休みの彼女は、平日の休みには、特に用事が



無い限り、必ず朝一番の映画の為に映画館に向かう。



そして、そういう場合はあえて難しそうな内容で、且つ、不人気な



映画から観るのだそうだ。



そうすると、ごく稀に、観客が彼女1人、という場合もあるのだという。



難しい内容の映画を見て、製作した監督の伝えたかった事などを



考えながら観る映画は、彼女にとってはかけがえの無い時間



なのだという。



しかし、そんな彼女はある時以来、1人では映画を観ないようになった。



今日はその話をしようと思う。



その日も彼女は朝早くから準備をして映画館に向かった。



平日ということもあり、映画館の前には、誰もいなかった。



もしかしたら、1人きりで優雅に映画を観られるかもしれない・・・。



彼女はそんな期待を抱きつつ、出来るだけ話題になっていない



難しそうな映画を選び、館内へと入った。



彼女の期待は、現実となった。



どうやら、その映画には彼女以外の観客は1人もいない様だった。



彼女は喜んで指定席に座り、上映開始を待った。



いよいよ、館内が暗くなり映画が始まった。



確かに難しい映画ではあったが、1人で観ていると雑念が



取り払われたかのように、すんなりと頭の中に入ってくる。



彼女は、その時、思っていた。



映画というのは1人きりで観るべきものなのだ、と。



そして、これからは、映画は平日の朝一番に来て、出来るだけ人気の無い



映画を観ることにしようと・・・。



それほど、その時観た映画は快適であり、彼女にとっては理想的な



視聴環境だったという。



そんな感じで映画に集中していると、ちょうど30分ほど経った



頃に何かの気配を感じた。



彼女は、



おかしいな・・・私1人しか映画を観ていないはずなのに・・・。



そう思って根回りを見回した。



すると、彼女を取り囲むように館内には、観客が4人増えていた。



見知らぬ女が4人も・・・。



どうして?



映画が始まった時には、私1人しかいなかったはずなのに・・・。



そして、彼女は考えた。



もしかしたら、あまりにも観客が少ないものだから、従業員の人が



勝手に観ているのかも・・・・。



でも、従業員の人ならば、マナーはしっかりしているはず・・・。



そう思うと、彼女は再び、映画の中に入っていった。



映画は、他の客の雑音に悩まされる事も無く、快適なな環境が



続いていたが、彼女はその時、ふと違和感を感じてしまう。



それは、彼女の他に、4人が映画を観ているというのに、全く



雑音が聞こえてこない事だった。



座りなおしたり、咳をしたり、少しは何か音が聞こえるのが普通



だと思っていた。



しかし、彼女の耳には、何一つ、雑音が聞こえては来なかった。



だから、彼女は、そっと画面から視線を外し、周りにいる4人に



視線を移した。



え?



彼女は思わず声を出しそうになってしまった。



彼女が回りの4人を見回したとき、その4人は映画のスクリーン



ではなく、間違いいなく彼女の方をじっと見つめていた。



彼女は慌てて視線を映画のスクリーンの方へと戻したが、



既に完全にパニックになっていた。



どうして、私の方を観てるの?



しかし、その4人が女性だったこともあり、彼女は、気を落ち着かせて



映画に集中しようとする。



すると、突然、スクリーンの映像が変わった。



彼女が見ているのは、アメリカの古い年代のストーリーだった。



しかし、彼女の目の前のスクリーンに映し出されていたのは、紛れもなく、



現代の高層ビルの屋上。



彼女は、



もしかしたら、映画の演出なのかもしれない・・・。



そう思って、スクリーンを見続けた。



完全な1人称視点で映画は進んでいく。



屋上の端に向かって視界は移動していく。



そして、1段高い場所に昇って、辺りを見回している。



そして、次の瞬間、急に視線が宙に舞った。



凄まじい速度で視界が地上のアスファルトへと近づいていく。



ちよっ・・・何これ?



彼女がそう思っている間に、視界はそのままアスファルトへと



叩きつけられ、とても嫌な音が聞こえた後、真っ暗になった。



そして、またすぐにスクリーンの映像が切り替わった。



またしても1人称視点。



今度は駅のホームに立っている。



どうして・・・アメリカの古い時代のストーリーでしょ?



そう思っている彼女に、映像はそのまま流され続ける。



視線が敵のホームの線路を見つめている。



どうやら、日本の駅・・・のようだった。



そこへ駅員の声とともに、凄まじい速度で電車がホームへと



走りこんでくる。



え?・・・・・え?・・・・。



そう思っていると、視線はそのまま前へと駆け出して、ホームの下に



向かって飛び込んだ。



凄まじい衝撃音とともに、何かが引きちぎられる音、そして、



ホームにいた人たちの悲鳴が聞こえてくる。



そして、耳が痛くなるほどのブレーキ音の後、視線は電車に



巻き込まれる音とともに、静寂が訪れた。



彼女の心臓は早鐘のように鳴り響いていた。



そして、また映像が変わった。



彼女は、もうスクリーンを正視出来なくなってしまい、そのまま



席を立とうとした。



すると、突然何かとても強い力で、席へと再び座らされた。



彼女の目には、彼女を押さえつけている8本の手が見えた。



さっきの女達だ・・・・・。



でも、どうして?



そう思った時、耳元から声が聞こえた。



最後まで観て・・・・・。



その途端、得体の知れない凄い力で彼女の体は、差席に押し付けられ、



全く身動きが取れなくなってしまう。



その後は、もう目を閉じていたから、彼女は何も見ていない。



しかし、その後も、嫌な音が聞こえた後、また静寂が訪れた。



そして、ちょうど4回目の音が聞こえた後、完全な無音状態になった。



彼女は、恐る恐る目を開けてみた。



すると、彼女の目の前には、崩れた顔や腐った顔が、合計で



4つ並んで、彼女を覗き込んでいた。



そして、耳元から、



ちゃんと、観た?



と聞こえたという。



そこで、彼女は気を失ってしまい、次に目を開けたのは、映画が終わり、



係員によって揺り起こされた時だったという。



係員に起こされ、辺りを見回すと、やはり彼女以外にはその



映画を観ている者など1人もいなかった。



彼女はそのまま逃げるように映画館から出て、家に向かった。



そして、その帰り道、彼女は人身事故を起こしてしまう。



単なる偶然の中もしれないが・・・。



ちなみに、その後、彼女に怪異は起こっていないが、それ以来、



絶対に1人では映画を見に行かなくなったという事だ。
  


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2018年11月09日

夢枕

夢枕と聞いてどんな事を想像するだろうか?



亡くなった友人や親族が何かを伝えたくて、枕元に立つこと。



もしくは、親しい関係の人が、死ぬ間際に、自分の死を知らせる



為に、枕元に立つ事。



だいたいが、そんな感じではないだろうか・・・。



しかし、今回書くのは、俺の友人が体験した、少し変わった



夢枕の話だ。



彼女には、幼い頃、両親が離婚するという経験があった。



彼女が10歳の頃だったという。



どういう事情なのかは分からないのだが、その時、彼女は父親に



引き取られ育てられた。



それから、取り立てて不自由も無く彼女は成長していった。



中学、そして高校と大学。



彼女は片親というハンデを少しも感じる事無く、沢山の友人、



そして当たり前の幸せの中で暮らしてきた。



しかし、片時も、幼い頃に離婚し離れていった母親の事を忘れる



事は無かったという。



父親は、再婚もせず、真面目に働き、一人っ子の彼女が寂しい



思いをする事の無いように常てに努めてくれたし、何より大学



までの学費を1人で捻出してくれた事には、とても感謝していた。



ただ、やはり母親の事は頭から離れる事は無かった。



それは、きっと彼女が幼い頃から、常に病弱だった母親の姿を



見てきた事に起因しているのかもしれない。



彼女の母親は、彼女が物心をついてから離婚するまでの間に、



何度も病院に入院していた。



病名こそ知らなかったが、その中には集中治療室に入れられる



こともあったから、きっとかなり重い症状だったのは、容易に



想像出来た。



だから、彼女は大学を卒業し社会人になると、父親に内緒で母親の



所在を確認しようとした。



最悪でも、母親の安否だけはどうしても知りたかった。



だから、父親に隠れては、大学の授業が無い日などは、母親の知り合い



の所を回って、情報を仕入れようとした。



それでも、母親の所在は全くつかめず、いつしか彼女の中にも



諦めにも似た感情が芽生え始める。



そんなある日、彼女は高熱を出して寝込んでしまう。



何かの菌に感染した彼女は、診察を受けた後、そのまま病院に



入院する事になった。



しかし、色んな薬を処方されたが、彼女の熱はいっこうに下がらない。



そんな時、見舞いに来た親戚が、こう口を滑らせた。



あの子の母親と同じ症状だよね・・・。



その言葉を高熱の中で聞いた彼女は、何故か嬉しい気持ちになったという。



確かに高熱で頭が朦朧としていたが、彼女にとって、母親と同じ



病気になれた事は、少しだけ母親に近づけた様な気持ちになったのかも



しれない。



そして、母親が、今、自分が見舞われている症状だったのだと分かった



事だけでも彼女にとっては大きな収穫だった。



そうして、高熱にうなされていたある夜、彼女は誰かが自分の横に



立っているのを感じた。



ぼんやりした顔で見上げると、そこには、紛れもなく幼い頃に



離婚によって生き別れた母親の姿があった。



夢かと思ったという。



その姿は、彼女が10歳当事に憶えていたままの姿だった。



だから、彼女はこう思った。



きっと、お母さんはもう死んでいるんだ、と。



そして、自分を助ける為に、こうして姿を見せてくれたのだ、と。



彼女は、横に立つ母親に手を伸ばした。



すると、母親は、しっかりと両手で握り返してくれた。



とても冷たい手だった。



そして、まるで骨と皮しか感じられないほどのゴツゴツした手。



それでも、彼女には、何よりも心強いものだった。



高熱でぼんやりした頭だったから、尚更、その手が心地よくすら



感じたという。



お母さん・・・。



彼女は、母親にもたれ掛かる様に甘えてみた。



すると、その両手は、しっかりと痛いほど強く彼女を抱きしめてくれた。



そして、母親はそのまましっかりと彼女の体を抱きしめ続けていたが、



朝が近くなると、そのままゆっくりと立ち上がり病室から出て行った。



彼女は心の中で、



お母さんが来てくれたんだから、速く元気にならなくちゃ・・・。



そう思ったという。



しかし、それからも高熱は収まる事は無く、次第に悪化していった。



それでも、毎晩のように、母親は彼女の元を訪れた。



感情の全く無い無表情な顔だったが、彼女自身、幼い頃に母親が



笑ったのを、それほど見たことは無く、それが母親にとっては



当たり前の顔なのだと思っていた。



彼女の容態は既に呼吸する事も苦しい位に悪化していたが、それでも



毎晩やって来てくれる母親は彼女の心の支えになっていた。



そして、彼女は、集中治療室に運び込まれる事になった。



もう自力では呼吸も困難になってしまい、常に看護師の監視の下に



置かれてしまう。



しかし、それでも、母親は毎晩、彼女の横に立った。



深夜、しかも午前2時を回った頃になると、必ず母親はやって来た。



そして、どうやらその姿は、看護師達には見えていない様だった。



ただ、彼女が集中治療室に入ってから、少し母親の様子が変わった。



まるで、彼女が集中治療室に入ったのが嬉しいかのように、薄気味悪い



笑みを浮かべるようになっていた。



そして、いつしか彼女はこう考えるようになる。



このまま、死んでお母さんと一緒に行くのも悪く無いかな、と。



その頃になると、彼女は病室と集中治療室を行ったり来たり



する毎日になっていた。



そんな矢先、昼間、ベッドで寝ている彼女の耳に信じられない言葉が



聞こえてきた。



どうやら、見舞いに来た親戚の叔母が、彼女の母親と偶然出会った、



という話だった。



派手な服装に身を包み、かつての印象など微塵も残ってはいなかった、



ということだった。



最初、聞いた時は、



それって、人間違いだよ・・・・。



そう思った。



しかし、話を聞いてみると、その叔母は、確かに偶然母親と出会い、



立ち話までしているのだという。



そして、彼女の病気の事を聞いた母親は、少しだけ顔を曇らせると、



私にはもう何もしてあげられる事はありませんから・・・。



そう言って立ち去ったという。



その母親の言葉も彼女にはショックだったが、それ以上に彼女の気持ちを



動揺させた事がある。



それは、毎晩彼女の元にやって来ているものが、彼女の母親で



ないとすると、一体なにものなのか?



という事に他ならなかった。



そこで、彼女は初めて、父親や近しい親戚に、毎夜現れる母親の事を



話した。



最初は、疑心暗鬼な目で聞いていた父親だったが、どうやら彼女が



本気で話しているのが分かると、親戚の男性とともに、その日の夜から



病院に泊り込むことにした。



彼女のベッドの横に椅子を並べて、腕を組んで仮眠していると、急に



部屋の空気が冷たく変わるのを感じた父親は、ハッと目を覚ました。



そして、入り口のドアを見ると、何やら人影の様なモノが映っている



のが見えた。



父親は親戚のの男性を急いで起こすと、二人がかりでドアを押さえた。



すると、何か得たいの知れない強い力で、ドアが押された。



父親と親戚の男性は必死になってドアを押さえつづけたが、それでも



手に負えない程の強い力に、何度もドアが半分ほど開かれた。



その時、父親は見たという。



ドアの隙間から覗く不気味な顔を・・・・。



それは決して彼女の母親の顔ではなく、般若の様な顔だったという。



父親が大声で看護師達を呼ぶと、慌てて看護師達が、なだれ込んできて



その影はどこかに消えていったという。



もうこれは自分達の手には負えないと判断した父親は、知り合いの僧侶に頼み、



その僧侶に紹介される形でAさんが呼ばれた。



Aさんは、病院を見回った後、彼女に面会したが、すぐに死霊に



取り憑かれていると判断した。



また、彼女の高熱の原因も、その霊によるものだと断言した。



そして、このままでは彼女の命が危ないとも判断したAさんは、



一刻の猶予も無い、とその日の夜さっそく病室で、彼女の父親と



待機する事になった。



そして、その日の夜、Aさんが病室で待機していると、突然、病室の



ドアが少しだけ開けられた。



そして、ドアの隙間から、気味の悪い笑みを浮かべた女の顔が覗き込んだ。



そして、そのまま、その母親は彼女の所へ入ろうとしたらしいが、



当然、Aさんが、それを黙って見ている筈も無い。



椅子から立ち上がったAさんは、少し開かれたドアを片足で蹴り戻すと、



それじゃ、ちょっと行ってきます・・・・。



と言って病室を出て行った。



そして、そのまま、どこかに連れて行かれ、遂にはAさんに



消されてしまった。



そして、病室に戻ってきたAさんは、心配そうに見つめる父親に



向かって、



もう大丈夫です。



全部終わりましたから、安心してください・・・。



そして彼女の高熱も、あいつの霊障だった筈だから、すぐに



回復すると思いますよ。



そう言って、Aさんは病院から帰っていった。



すると、あそこまで酷い状態だった彼女の容態が、朝には完全に回復



しており、数日のリハビリの後、彼女は元気に退院していった。



ちなみに、その後、彼女には怪異は一切起こってはいないが、



高熱の中、自分を抱きしめていた冷たい手を思い出すと今でも



怖くなるという事だ。
  


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2018年11月09日

毒をもって毒を制す

姫は現在、大学1年生。


今年の3月で高校を卒業し、晴れて女子大生になった。



それなりの大学に進学出来た筈だが、どうもAさんの


側に居たいらしく、あえて県内の某大学に通っている。



おっとりした性格のためか、誰からも嫌われる事は無い。



軽音楽部に所属し、楽器の練習にも余念が無い。


本当に何処にでもいる女子大生、いや高校生にしか


見えない。



しかし、Aさんが、いつも言っている。



姫ちゃんは、そもそも私とは出発点が違いますから・・・。



私がどれだけ頑張っても、最終到達点は、比較にならないでしょうね。



あの娘と比較されると、馬鹿らしくて、笑えてきますよ。



だって、あの娘は、まだ、生まれたばかりみたいなものですから。



それでいて、あれだけの力を持ってるというのは、本当に奇跡の



存在なんです、!



だから、これから一体何処まで成長するのか、私も興味がありますよ、と。



今夜は、そんな姫に関する話をしてみたいと思う。



それは姫と知り合ってしばらくしてからの事だった。



Aさんから、とてつもないレベルの守護霊と悪霊が姫の中で同居?



しているという話を聞かされてはいたが、姫を見ているとそんな感じは



微塵も感じなかった。



いつも、ニコニコ笑っており、のどかな雰囲気さえ感じてしまうし、


喋り方もおっとりとしており、少し天然ボケも入っている。



何より、怖がりで平和主義、争いごとは決して好まない。



この辺はAさんとは真逆の存在ということになる。



だから、俺はいつもAさんに言っていた。



姫が潜在的に凄いのは分かるけど、でも、強い守護霊と強い悪霊が、混在



するなんて事が本当にありえるの?と。



そして、



才能があるんだったら、もっとちゃんと何処かで修行とか



させた方が良いんじゃないの?



今のままじゃ、強いのと遭遇したら、一巻の終わりなんじゃないの?と。



すると、Aさんは、いつもの呆れた顔でこう言った。



ああ・Kさんには見えていないんでしたよね?



あの子に憑いてるものが・・・・。



それに、あの娘に修行させるって、一体誰が師匠になるんですか?



少なくとも私は過去にあれほどの潜在能力を持った者には



出会っていません。



そして、勿論、私も、そうです。



だから、あの子はこのまま自然体が良いんですよ。



はっきり言えば、あの子は無意識に嫌いな霊を消滅させられるんです。



それに、今のままだって、あの子に敵う相手なんてそうそう居るもんじゃ



ありませんからね・・・。



まあ、凡人のKさんにも今に分かるとは思いますけどね・・・と。



そう言われて俺は何も言い返せず、そのまま



ふ~ん、そんなもんかな・・・。



と思った記憶がある。



そして、その姫の力の一部を垣間見る機会がすぐにやってきた。



その頃、とある廃病院に肝試しにて出掛けた若者たちが、大怪我を



したり、気が変になるという事故が多発していた。



勿論、自己責任で行ったのだから、本人の責任なのだろう。



しかし、自治体としては、そうもいかず、回りまわってAさんの所に



その廃病院の調査依頼が届いた。



そして、Aさんが俺を呼び出した。



例の廃病院の調査依頼が来ました。



まあ、調査以来といっても、要は、その場所を安全な場所にしろ、と



言う事なんですけど・・・。



ただ、あそこは今、とても危険な状態になってます。



悪霊の巣窟とでも言うんですかね・・・。



私でも、躊躇してしまうくらいに・・・・。



だけど、うってつけの人材が居たんですよね。



そう言って、Aさんは俺を見た。



え?もしかして、俺がうってつけなの?



そう返すと、Aさんは鼻で笑いながらこう言った。



Kさんにうってつけなのは、掃除とか力仕事とかの雑用全般でしょ?



そんな人に頼むわけないじゃないですか(笑)



姫ちゃんですよ。うってつけなのは!



毒を持って毒を制す・・・・というやつですかね(笑)



あの子の中にいる悪霊というのが、どれだけ凄いのか、Kさんにも



間違いなく分かる筈ですから・・。



そう言ってAさんは薄ら笑いを浮かべた。



当日は、日曜日。



市内から少し離れた場所あるその廃病院へ、俺はAさんと姫を乗せて



向かった。



その途中、車の中で、



なんか怖いですね~



でも、Aさんの活躍が見られるなら頑張らなきゃ・・・。



あ~、どうしよう・・・なんかワクワクしてきました!



と呑気な事を言っている姫。



いよいよ、廃病院の前に到着し、車から降りると、その異様な佇まいに



思わず怯んでしまった。



人が近づくのを拒むかのように、それは昼間の日差しの中でも、



まるで陽が差さない程の暗さで辺りを圧倒していた。



姫も、Aさんの影に隠れるように怯えていた。



すると、Aさんから地獄の命令が・・・。



姫ちゃん、これから1人で病院の中、見てきてくれる?



私達はここで待ってるから、何かあっても大丈夫!



だから、安心して行ってきて!



それを聞いた姫はいっきに泣きそうな顔になった。



それじゃ、Kさんと一緒に行っちゃ駄目ですか?(涙)



すると、Aさんは、こう続けた。



Kさんなんか連れてったって何の役にも立たないって(笑)



それどころか、邪魔になるだけだから(笑)



それに、これも修行の一環だよ?



姫ちゃんは、私みたいになりたいんでしょ?



それじゃ、頑張らなきゃ!



大丈夫!



何もいないから・・・・。



ただ、下見をしてきてもらうだけだから・・・。



そう言われ、姫は少しだけ俺の方を睨んだ。



どうしてKさんは、何もしなくて良いの?



そんな顔をしていた。



すると、Aさんが更に追い討ちを掛ける。



ほらほら・・・早く行かないと暗くなってもっと怖くなっちゃうよ?



それとも、挫折かな?



すると、姫は少し口元に力を入れて、



大丈夫です!



行って来ます!



でも、本当に何もいないんですよね?



そう言って病院の入り口に向かった。



しかし、さすがに不安だったのだろう・・・。



病院の入り口に着くまでの間、何度もAさんの方を振り返り、



本当に何かあったら助けてくださいね・・・。



と泣き出しそうな顔をこちらに向けた。



そして、病院の中にいよいよ入っていく姫。



すぐに、



うわぁ!とかキャーという叫び声が聞こえてくる。



そして、何かいますけど~?



という泣き言が聞こえてくる。



だから、俺はAさんに言った。



やっぱり追いていった方が良いんじゃないの?



なんか、無理っぽいけど?



すると、Aさんは、



何言ってるんですか?



Kさんも、いつも姫に憑いている悪霊の本当の力が見たいって



いつも言ってたじゃないですか?



それに全然危険じゃありませんよ。



此処には、かなり強い悪霊が居るのは事実だけど、あくまで、それは



普通の霊能者にとっての話です。



あの子は別格だから・・・。



あの子に対峙出来るほどの悪霊なんて、滅多にいません。



中には勘違いして襲い掛かる奴もいるかもしれませんけど、



まあ、すぐに消されちゃいますから・・・。



それ程、高い序列の悪霊が姫ちゃんの中には居ますから・・・。



勿論、あの子はまだ、それに気付いていませんけどね(笑)



そう言って笑った。



そして、それからは、俺とAさんは、じっと黙って病院を外から



眺めていた。



相変わらず、うわぁ!とかキャーとかの悲鳴は聞こえていたが、



その声とは裏腹に、その廃病院から、次々に、黒い靄の様な



ものが、外へ逃げるように出で行くのが俺にも分かった。



そして、姫が悲鳴をあげながら病院を見回り、外に出てきた頃には



病院からは、悪い気は払拭され、何故かとても明るい気が満ちて



いるのが分かった。



そして、半べそをかいて外に出てきた姫に向かって、Aさんは、



はい。ご苦労様。



今回の用事はこれで済んだから、帰りましょ!



そう言って、俺の車へと戻った。



そして、車の中で、姫は、その廃病院の中で見たモノを、必死に



Aさんに訴えていた。



怖かったんですよ・・・。



死ぬかと思いました・・・と。



しかし、それを聞いたAさんは、



でも死ななかったでしょ?



だって、殆どの悪霊は、姫ちゃんの中のモノを見ただけで間違いなく



逃げ出しちゃうと思うしね・・・。



そう言われて、姫も、



そう言えば、皆さん、私を見たら、何故か近づいてこないですぐに



何処かへ行ってしまいましたけど・・・。



そう言っていた。



それから、姫を送り届け、Aさんと二人で車に乗っている時、俺は



こう質問した。



実際、Aさんと姫だと、どちらが強いの?と。



すると、



強いとか強くないという概念が分かりませんけど・・・。



でも、私が一番闘いたくないのは、恐れているは、悪霊とかではなく、



間違いなく姫ちゃんでしょうね・・・。



本気のあの子には、勝てる気がしませんから・・・。



そう言っていたのが、とても印象に残っている。
  


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2018年11月09日

スマートフォン

彼女はその日、会社に着いてから自分のスマホを自宅に



忘れてきた事に気付いた。



最初は、まあいいか、とも思ったが、やはりスマホが手元に



無いととても落ち着かない。



しかし、自宅に置いてきたという確信も無かったので、すぐに



自宅に電話をしてみた。



彼女の家は、彼女の他に、両親と弟の4人家族だった。



そして、父と弟は働いていたが、彼女の母親は専業主婦として



自宅にいる。



そして、電話をかけると、案の定、母親がすぐ電話に出た。



そして、彼女は母親に、



スマホを家に忘れてきたみたいだから、



自分の部屋を見てきて欲しい



と頼んだ。



通話状態のまま、母親が彼女の部屋を見てくるまで、待っていると



息を切らした母親が電話に出た。



本当に忘れたの?



スマホなんて、どこにも無かったけど?



そう言われ、彼女は一度電話を切った。



そして、もしかすると、バッグの中にでも入っているのかもしれない、と



色々と調べてみたが、やはり何処にも見つからなかった。



もしかしたら、何処かで落としたのかも・・・・。



そう思った彼女は急に怖くなってしまい、朝起きてからの自分の



行動を思い出していったが、どうもスマホを落とす様な事は



一切していない事に気付く。



だから、もう一度自宅にいる



母親に電話をかけた。



そして、今度は母親に、



こちらから私のスマホの番号に電話をかけてみるから、着信音が



聞こえるかどうか、耳を済ませて聞いていて・・・・。



と頼む。



そして、会社の別の電話から自分のスマホに電話をかけた。



電話からはスマホを呼び出している音が聞こえてきた。



彼女はいつも電話をマナーモードにはしていなかった。



その事で、たまに父親から怒られる事もあったが、こういう時には



やはりマナーモードにしてなくて良かった、と感じた。



ちょっと、待ってて!という母親の声が聞こえ、母親が何処かへ



バタバタと走っていく音が聞こえてきた。



もしかしたら、見つかったのかも・・・。



彼女は内心ホッとしていた。



しかし、戻ってきて電話に出た母親は、



やっぱり何も聞こえなかったわよ・・・。



あんたのスマホ・・・本当に家に忘れたの?



もう一度しっかり思い出してごらんなさい!



そう言って電話を切られた。



彼女は、もう気が気でなかった。



もし落としたとして、誰かタチの悪い人にでも拾われてしまったら・・・。



そう考えると目の前が真っ暗になった。



しかし、家にもバックの中にも無いとなると、やはり何処かで



落としたとしか考えられなかった。



彼女はすぐに携帯ショップに電話をして、自分のスマホを使用停止に



して欲しいと頼んだが、来店の上、本人確認が出来なければ、



対応しかねる、と冷たく言われてしまう。



しかし、それでも、仕事の帰りに寄りますから、とショップの女性に



告げ、彼女は電話を切った。



それから、彼女は仕事に集中しようとしたが、どうも集中できない。



かといって、もしも、もう一度電話をかけて、知らない人が



出てしまったら・・・。



そう考えるととても怖くて電話が出来なかった。



そして、昼休みの時間、彼女がスマホの話をすると、同僚の男性が、



それなら、俺がもう一度電話をかけてやるよ!



そう言ってくれた。



そして、彼女は自分の番号をその男性社員に教え、彼はその番号に



電話をかけた。



その時は、同僚達も暇なのか、貴重な昼休みだというのに、男女合わせて



5~6人が彼女の元に集まっていた。



そして、皆の見つめる中、彼が電話をかけるとしばらくして、



彼女に受話器を渡された。



え?どうして?



彼女がそう言うと、



電話に誰か出たから・・・・良い人みたいで良かったじゃん・・・・・。



そう言われた。



彼女は恐る恐る゛受話器を耳に当てた。



あの・・・すみません・・・・スマホ拾われたんですか?



と聞くと、



はい。私が拾いました。



これから、貴女のところへお持ちしたいんですが、住所を教えて



頂けますか?



そう言われた。



年配の男性の声で口調は丁寧だが、何故か加工した声の様に聞こえたという。



そう言われた彼女は、



いえ、それでは申し訳ないですから、私が引き取りに伺いますから、



ご住所を教えて頂けますか?



と聞くと、



その男性は、ゆっくりとした口調で住所を告げると、そのまま電話が



切れてしまった。



彼女は相手の名前も聞けなかった事で落胆していたが、同僚からは



住所が分かってるんなら、問題なくたどり着けるだろ?



と言われ、彼女はメモした住所をパソコンに入力した。



そして、その住所でヒットしたのは、市内にある斎場だった。



それを見た彼女が青ざめた顔をしていると、同僚男性が、



うん・・・冗談にしては悪趣味すぎるよな・・・と言って



もう一度、彼女のスマホに電話をかけたが、何度電話しても



誰も電話に出る事はなかった。



彼女は先ほどの電話の声がずっと頭から離れなかった。



そして、斎場の住所を教えた相手がとても気持ち悪く感じていた。



そして、いつもより早い時間に退社した彼女はそのままま



携帯ショップに直行し、その日のうちに機種変更を済ませた。



そして、これでもう一安心だと思い自宅に帰ると、彼女の部屋に



無くなった筈のスマホが置いてあったという。



母親に何度も聞いたが、確かに昼間確認した時には、彼女の部屋には



スマホは絶対に無かったと逆キレされてしまった。



彼女は気味が悪くなり、翌日には、それまで使っていたスマホを



処分してしまおうと決めた。



しかし、その夜、突然彼女の古いスマホが着信音を鳴らしだした。



機種変更で、もう使えない筈のスマホが・・・。



それはとても恐ろしい現象だったが、そのまま電話に出なければ、



もっと怖くなるかもしれない。



それに、もしかしたら、携帯ショップの方から確認の為に



このスマホにかけてきたのかもしれないし・・・・。



そんなありえない事を考えてしまった彼女は、思い切って



その電話に出た。



もしもし・・・・・。



沈黙が続いていたが、何故か電話は繋がっているように感じた。



すると、突然、電話の向こうから、



ずっと、待ってるんだけど・・・・・・。



来れないなら、こちらから行きましょうか?



それは、昼間に聞いた、あの男性の声だったという。



彼女は、その声を聞いた瞬間、反射的に電話を切った。



急いで、マナーモードにした彼女は、そのままスマホの電源を



落とした。



心臓が大きく、そして速く脈打っていた。



そして、その晩、彼女は、恐怖に震えながらベッドに潜り込んだ。



部屋の明かりをつけたままで・・・。



しかし、結局、朝になるまでずっと、電源を落とした筈の、



繋がらないスマホが着信のバイブ音を鳴らし続けており、



恐怖で一睡も出来なかったという。



窓の外に、先ほどの電話の男が立っている・・・。



そんな気がして生きた心地がしなかった。



翌日、携帯ショップにそのスマホを持ち込み、事情を話してから



そのスマホの処分をお願いしたそうだが、どうやら、そんな怪異には



慣れているようで、



よくある事ですからあまり気にしないほうが良いですよ!



と明るく笑顔で対応されたということだ。



ちなみに、それ以降、彼女に怪異は発生していない。
  


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2018年11月09日

時間が止まった場所

これは知人から聞いた話である。



彼女はその頃、完全に自暴自棄になっていたのだという。



彼女は東京に住んでいた。



それは彼女が望んだ事ではなく、生きる為の唯一の選択だった。



元々は北陸のとある県に生まれ、大学を出るまではずっと家族と



一緒に生活していた。



その生活はとても温かく居心地も良かったし彼女にとっては、



まさに幸せな生活。



その時には、それに気付いてもいなかったが・・・・。



彼女の家族は、公務員の父親とパートで働く母親、そして



2歳離れた兄が1人いた。



たまに喧嘩する事もあったが、それでも家族は優しく誰よりも



彼女を理解してくれていたし、彼女は、その生活がずっと



続くものだと確信していた。



当たり前のように・・・。



しかし、彼女が大学生の時、兄が事故で他界した。



横断歩道を歩いていて、信号を全く見ていなかった年配女性の



車にノーブレーキで撥ね飛ばされた。



即死だったという。



年配女性は、訳のわからない理屈を並べて自分を正当化しようと



していたらしいが、業務上過失致死は免れず、交通刑務所に入る



だろうと思われていた。



しかし、その後の調べで、その事故は、兄の方から突然、車に



飛び込んでいった自殺だと判明する。



そこから家族の歯車が狂いだす。



長男である兄は成績も優秀で誰とでも仲良く接していた。



両親にとっても自慢の息子だったのだろう。



それ故、事故で死んだのではなく、自殺したという事実が



家族それぞれに重く圧し掛かっていた。



どうして自殺しなければいけなかったのか?



一体誰に責任があるのか?



そういった事も、家族間に不協和音をもたらした。



父親は仕事を休む様になってしまい、母親もパートを辞めた。



確かに兄が亡くなって、それなりの保険金が支払われ



金銭的には働かなくても生活には何ら支障は無かったのだが。



ただ、それまでの明るく真面目な両親は彼女の自慢でもあったから、



その変わり様は彼女にはとても悲しいものだった。



そして、ある日、彼女の母親が行方不明になった。



パートも辞めてしまった母親は、毎日テレビ漬けの生活を送っていたが、



ある日、



ちょっと旅行してくる…と言って家を出て行き、そのまま行方不明になった。



警察に捜索願も出したらしいが、行方は全く分からず・・・・。



そして、それから1年後、母親の遺体が発見された。



服毒自殺だったという。



遺体は酷く腐乱しており、直視すら出来ない状態だったが、その傍らには



父親と彼女に宛てたと見られる遺書らしきものが置かれていた。



あの子に会いに行きます・・・・。



そう書かれていたという。



母が自殺した事は勿論、悲しかったが、それ以上に、彼女や父親



に、一言も書く残してくれなかった事が、それ以上に辛かった。



そして、母親の自殺が判明して以来、父親の様子もおかしくなった。



毎日、パチンコに明け暮れ、家に帰ると、



死にたい・・・死にたい・・・・・。



と口走っていたという。



彼女にとっては最後に残った家族である。



父親にまで死なれては、自分も生きてはいけない、と思った彼女は



大学の授業が無い時には、出来るだけと父親と一緒に過ごす様に



努めた。



そして、父親も彼女に対して、



お前たけがお父さんの生き甲斐なんだから・・・・。



と毎日のように言ってくれた。



しかし、ある日、彼女が家に帰ると、テーブルの上に置手紙が置かれていた。



少し一人になって考えたい・・・。



そう書かれていた。



彼女は半狂乱になって警察に助けを求めた。



しかし、捜索も虚しく、3日後に森の中で首を吊っているのが発見された。



傍らには遺書が置かれており、



○○と母さんに会いに行く・・・・。



そう書かれていた。



またしても、彼女には一言も残してはくれなかった。



彼女は家族とは何なのかと、分からなくなった。



そして、自分の存在価値とは何なのか?と。



あまりの悲しみに涙は全く流さなかった。



そして、彼女は決まっていた地元の就職を辞退し東京に出た。



もう考える事自体が嫌になっていた。



かといって、自分には自殺する勇気など無い。



だから、東京に出た。



東京なら、たくさんの人間の中に紛れ込んだ様にただ流される様に



生きる事が出来ると思った。



男ばかりの危険な仕事をあえて選び、汚いアパートに住んだ。



自暴自棄になっていた彼女に怖いものは無かった。



本能と欲望のままに生きた。



危険な仕事も怖いと思った事は無かった。



自殺こそする勇気は無かったが、事故でこの世を去れるのであれば、



それはそれで全然構わないと思っていた。



いや、むしろ、それを願っていたのかもしれない。



あえて誰もしたがらない危険な仕事を率先してやった。



彼女は仕事でも誰とも喋らず、友達も作らず、当然彼氏などいない。



部屋にも家具は最低限しか置かず、毎日、コンビニの弁当だけで



生活していた。



それは、いつ自分が死んでも大丈夫なように・・・。



死ぬのならば、極力、誰にも迷惑は掛けたくない・・・。



そんな気持ちが彼女の生活の根幹にあった。



彼女は自殺する勇気も無い自分をいつも情けなく思いながら、



早く家族が迎えに来てくれる事ばかりを祈っていた。



そんな彼女が久しぶりの休日ももらい、久しぶりに外に出た



時の事だ。



その時、いっそのこと、自殺出来そうな場所は無いものか、と



ふらふらと街を徘徊していたという。



しかし、飛び降り、飛び込み、首吊り、リストカット、服毒、



睡眠薬、一酸化炭素・・・。



そのどれもが彼女にとっては恐ろしいものであり、そんな彼女に



自殺を決断させる場所など、何処にも存在しなかった。



彼女がそうして歩いていると、知らぬ間に、下町の中に入っていった。



そこは、間近いなく東京なのだが、何故か家族で暮らした故郷の



街並みに似ている・・・。



そう感じたという。



だから、彼女は、そのまま町中を歩き続け、自分の生家に似ている家を



探そうと思った。



何故かその時、その街中には人の姿は誰も見えず、ただ家並みが



続いているだけだったという。



まるで夢の中にでも迷い込んだ様な気分だった。



そこには誰もいないが、間違いなく彼女が幼少の頃に見た街並みが



生活感を伴って、其処に存在していたのだから。



そして、歩き続けた彼女は、街並みを抜けた所で思わず息を呑んだ。



そこには、彼女が生まれ育った家とそっくりな家が目の前に



立っていた。



いや、そっくりというレベルではなく、間違いなく彼女が生まれ育った



家そのものだった。



彼女は導かれるように、その家の玄関の前に立った。



そして、ゆっくりと静かに玄関の引き戸を開いた。



え?



思わず声が出てしまった。



玄関の引き戸を開けた時、彼女の眼に飛び込んできたのは、紛れもなく



彼女の生家とそっくりな景色だった。



小さな玄関と奥に続く長い廊下、そして、廊下の横にある部屋の間取りも



寸分違わず、彼女が生まれ育った家そのものだった。



玄関に置かれた小さな下駄箱、そして、その上に置かれた金魚鉢・・・。



そして、何より家の中から漂う匂いも、彼女がずっと嗅いできた



匂いだった。



だから、彼女は思ったという。



もしかすると、此処でなら私は死ねるのかもしれない・・・。



いや、死ななければいけないのだ・・・・と。



最後に神様が自分にとってまかけがえのない時間を再び見せて



くれているのかもしれない、と。



もう彼女を止めるものは何も無かった。



一応、ごめんください、とは声をかけたが、彼女はそのまま靴を



脱ぐと勝手に家の中に入っていく。



長い廊下をまっすぐに進み、右手にある部屋を目指した。



そこが彼女の生家ならば、そこには居間が在るはずだから・・・。



そして、右手の部屋の襖を開けた。



彼女は思わず息を呑んだまま固まった。



彼女が幼少から過ごしてきた居間が、そこには在った。



そして、居間には、紛れもなく、彼女の両親と兄がテーブルを



囲んで座っていた。



それは以前、間違いなく存在していた理想の幸せそのものだった。



そして、驚いたまま固まっている彼女に、



おかえり!



と明るい声をかけてくれた。



それでも、何が起こっているのか、いまだに理解出来ない彼女に



早く座りなさい!



もう夕飯の時間だから・・・。



そう声をかけてくれた。



彼女はそのままテーブルの空いている場所に座った。



家族なのに、何故か照れくさく感じてしまった。



そして、母親の、



それじゃ、すぐ用意しますからね!



と言う声に反応して彼女も母親と一緒に台所へ向かった。



母親は彼女に、手ほどきするように、煮物の作り方やみそ汁の作り方を



教えてくれたという。



彼女にとっては夢のような時間だったという。



昔から憧れていた時間がそこに在った。



そして、料理が出来上がると、母親と一緒にテーブルに運んだ。



おお・・美味しそうだな!



もうお腹空き過ぎちゃって・・・。



という父親と兄の言葉が妙に照れくさく感じた。



そして、家族団らんで食事を済ませた。



食事の間は、家族が皆それぞれに、その日あった事を話したが、



彼女には何も話すことが無く、ただ、話を聞くだけだった。



ただ、時には笑いながら話す出来事は、聞いているだけでも



十分、彼女を幸せにしてくれた。



そして、食事を済ませ、テレビを点けようしした時、彼女は思わず



こう口にした。



やっぱり家族といるのが幸せだね。



だから、私もずっと此処に居ても良いかな?と。



すると、テレビを点けようとしていた父親がそのまま振り向くと



黙って首を振った。



そして、それに呼応する様に母親も兄も首を横に振った。



それからはしばらく沈黙が続いた。



彼女は思わず叫んだ。



どうして、私だけ残されなくちゃいけないの!



私だって、家族なのに・・・。



それは彼女がずっと心の中に抱いていた心からの言葉に



他ならなかった。



だから、彼女はこう続けた。



誰も私なんかを必要としていない・・・。



だから、これからもずっと一人ぼっちで生きていかなくちゃ



いけないのに・・・。



私にも自殺する勇気があったら、こんなに辛くないのに・・・。



彼女は泣きながらずっと心の奥底に隠していた気持ちを吐露した。



そして、再び、家族の顔を見ると、家族は皆、悲しそうな顔をして



やはり首を横に振っていた。



そして、母親がこう言った。



自殺する事は決して勇気がある行為じゃないの・・・。



辛さに立ち向かう勇気が無かったから自殺してしまった・・・。



でも、自殺しても少しも楽にはならなかった・・・。



今気付いても遅いんだけど・・・。



本当に情けないよね・・・。



そして、あんたをこんなにも苦しめてしまって・・・。



だから、こんな私達が言えるべき言葉ではないのかもしれないけど、



あなたには生きて欲しい・・・。



私達の分まで・・・。



あんたは昔からとても強い子だったから・・・きっと大丈夫!



今の辛さなんて、すぐに取り払えるよ。



心の壁さえ取り払ってしまえば・・・。



あんたは、自分から一人ぼっちになってるだけ・・・。



それに、この世の中に必要とされていない人間なんて



1人もいないんだから。



だから、私達の夢をあんたに託したい・・・。



私達の幸せは自ら壊してしまったけど、あんたなら大丈夫だよ・・。



私達と同じ過ちは繰り返して欲しくない・・・・る



幸せになって・・・。



幸せな家庭を作って・・・。



誰にでもその権利はあるの・・・。



勿論、あんたにだって・・・。



だから、明日になったら、また元の姿に戻って欲しい・・。



私達はずっとあんたの幸せを祈りながら見守っているから・・・。



そう言われた。



彼女は、何を今更・・・という気持ちになったが、それでもその時



目の前にある幸せを失いたくは無かったから、それを声にはしなかった。



それから、まるで、何も無かったかのように父親がテレビをつけると



家族全員が、テレビに見入った。



何を放送していたのかすら覚えていなかったが、それでも、不思議と



テレビって良いものだな、と感じた。



家族は誰も喋らなかったが、それでもテレビをつけているだけで



家族がひとつになれている気がした。



そして、そのまま夜が更けると、居間に4人分の布団を敷いて



家族が一塊になって寝た。



まるで、幼い頃の様な光景に彼女は少し照れくさかったが、それでも



言葉に出来ないような幸せを感じていた。



そして、電気を消してから、彼女は、母親、父親、兄に、それぞれ



声を掛けた。



起きてる?どこにも行かないでよ・・・・と。



すると、母親の手が伸びてきて彼女の頭を撫でてくれた。



そして、彼女は知らぬ間に深い眠りに落ちた。



それほど深く眠れたのは本当に久しぶりだった。



そして、積年の疲れや辛さが少しずつ緩和されていく様な



気がしていた。



そして、気が付いた時、既に朝になっており、彼女はハッとして



飛び起きた。



そこは、彼女のいつものアパートだった。



そして、見渡してみたが、そこには家族の姿は無かった。



やっぱり連れていってはくれなかったんだ・・・。



そう思った時、彼女は不安になると同時に、昨夜体験した幸せな



時間を思い出したという。



もしかしたら、私に家族団らんの幸せを思い出せる為に、みんなが



出てきてくれたのかも・・・。



そう思うと、何か熱いものがこみ上げてきて、彼女は大泣きした。



そして、泣き止んだ時、彼女には少しの希望が蘇っていた。



まだ、間に合うのかな・・・。



そう思える自分が、とても不思議に感じたという。



それから、彼女は、東京から金沢に引っ越してきて現在に至る。



すぐに友達が沢山出来て仕事にも恵まれた。



そして、今では、、同い年の夫と、長男と長女の4人家族



で暮らしている。



ちょうど、彼女が失った家族と同じ構成で・・・。



だから、この家族だけは何があっても守り抜かなきゃ!



彼女は力強く、そう言ってくれた。

  


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2018年11月09日

土葬と鈴

これは知人から聞いた話である。



今でこそ、亡くなった人は火葬してからお骨をお墓に納めるのが



一般的であり、それが当たり前の事だと思っている方も



多いのかもしれない。



しかし、実は現代でも土葬というもの自体は法律で



禁止されている訳ではない。



だからといって、誰でも簡単に土葬することが出来るか、と



聞かれれば、その辺はグレーゾーンという事になるのだが。



ただ、外国では未だに土葬が一般的な国も多く、鳥葬などと



いう過激なものまで存在しているのだから、土葬自体が



悪いというわけでは無いのかもしれない。



実際、自分が死んだとしたら、火葬されて骨だけになるよりも、



そのまま土の中に埋められた方が、より自然に還るという意味では



好ましいとさえ考えてしまう。



そして、実は現代でも土葬によって死んだ人をそのまま土の中に



埋葬するという形をとっている集落というのがやはり存在するらしい。



知人の出身地である中部の山間部にある集落では、昔から今に



至るまでずっと土葬が行われているのだという。



そして、その集落では、人が亡くなると数日間かけて葬儀をし、



故人と最後の渡れをした後、村人全員が見守る中で、



遺体は土の中に埋められる。



その際、故人が愛用していた品々も一緒に埋葬されるのだが、



それと同時に、紐が付いた鈴も一緒に埋葬されるのだそうだ。



それは、過去に仮死状態だった人を誤って埋葬してしまった教訓に



拠るものらしいのだが、遺族にしてみれば、万が一でも蘇って



欲しいという希望もあるのだろう・・・。



その地域では、どんな死に方をした者に対してでも、遺体と一緒に



鈴を埋葬し、そこから伸びた紐が地上に繋がっており、万が一でも



鈴が鳴らされれば、すぐに土を掘り返すというしきたりに



なっているのだという。



しかし、一度死んだ人が蘇るなどということは、そうそう起こる



ものではなく、今では単なる形式だけの、ものになっているらしい。



しかし、想定外の事というのは、いつでも起こりえるらしい・・・。



それが今夜の話である。



知人が高校生の頃は、高校の近くに下宿していたのだという。



その集落の近くには高校というものは無く、あるのは分校という名の



小さな小学校と中学校だけだった。



そして、その集落から1日2往復のバスしか出ておらず、知人は



仕方なく、市内に下宿しながら高校に通っていた。



過疎化した田舎での暮らしでは麻痺していた感覚や常識というものが、



市内での生活により、再認識させられたという。



毎日が常に新しい発見の連続だったという。



そして、ある時、その集落に住む親戚が亡くなった。



亡くなったのは知人の従姉妹だった。



知人にとっては、年上の従姉妹にあたるその女性とは小さな頃から



よく一緒に遊んでいたし、年もそれほど離れていなかったので、



亡くなったと聞いた時は、とても驚いたという。



なんで、そんなに若くして死んだのか?



そんな思いが頭の中を駆け巡った。



その亡くなった従姉妹というのは、親戚の中でもとりわけ優秀な



女性であり、常に模範となる女性だった。



それでいて、既に結婚していた故人は、少し大人びた感じで、



いつも知人には優しく接してくれていた。



だから、知人も葬儀を手伝う為に、暫くの間、高校を休む事になった。



しかし、地元に戻った知人だったが、故人の遺体は、奥の間に安置



されたまま、誰もその部屋に入る事は許されなかった。



いつもなら、普通に布団に寝かされ、誰でも死に顔に会う事が



許されるのに、変だな、と思ったという。



これでは、従姉妹にお別れも言えない・・・・。



そう思ったという。



それでも、親達の指示に従い、知人は決して、奥の間には行かなかった。



その集落では、親戚や年寄りの指示は絶対的なものだったから・・・。



そして、故人と対面出来ないまま、葬儀は進められた。



そして、知人は両親から、従姉妹は、すぐその日のうちに、土葬



されるのだと知らされた。



それまで、その集落の葬儀では、少なくとも3~5日間は、葬儀が



続けられた後、村人全員の立会いの元に遺体が土の中へと埋められるのが



常識だった。



だから、その点でも知人は強い違和感を感じていた。



そして、、いよいよ遺体を土葬する段になった。



そこでも、知人は少し不思議に思った。



通常は1メートルほどしか掘らない穴が、その時は底が見えないほど



深い穴が掘られていたのだから・・・。



しかも、その場に立ち会ったのは、村人全員どころか、親戚が



ほんの数名だけ・・・。



そして、遺体の入った重い木箱を埋める役目を担った力自慢の



男達だけだった。



そして、遺体を木の箱に入れ、それを地中にゆっくりと降ろしていく際、



泣いている者は誰もいなかった。



知人を除いた全員が、



早く土の中に埋めてしまわなければ!



という焦りと緊張が入り混じった顔をしていたという。



その時、急に故人の夫が大声で叫んだ。



どうして鈴をいれないのか、と。



遺体と一緒に鈴を埋めるのがしきたりになっていたから、確かに



それを聞いたとき、知人も不思議に思ったという。



これじゃ、妻が生き返っても分からないじゃないか!



いや、これはお前の為にしていることだから・・・。



今回ばかりは鈴は入れないほうがいい!



そんな大人たちのやり取りを知人はただ黙って聞いていたが、そのうち、



夫の言い分が通り、鈴も一緒に埋葬される事になった。



その時、回りの大人たちが、



本当にどうなっても知らんぞ!



と吐き捨てる様に言っていたのが、強く記憶に残っているという。



そして、それは埋葬した日の夜から始まった。



鈴が鳴るのだ・・・。



しかも、まるで坊さんが読経の際に木魚を叩くかのようなリズムで。



その鈴というのは、万が一、鳴らされれば村中の誰にでも聞こえる



様な仕組みになっているそうであり、すぐに遺体を掘り返す決まりに



なっていた。



そして、その鈴の音は一晩中、鳴り響いていた。



その鈴の音を聞いた知人も、両親や祖父に、



鈴が鳴ってる・・・・早く助けてあげなきゃ・・・・。



と言ったらしいが、両親も祖父も、まるで聞こえていないかのように



平然と構えていた。



そして、それは、故人の夫の場合、もっと大変だったらしく、急いで



墓を掘りかえそうとする夫を何人もの大人達で、無理やり取り押さえたという。



その鈴の音も、朝になるとすっかり消えてしまい、いつもの平穏な



村に戻っていた。



葬儀の間中、降り続いていた雨が、いまだ止まない事を除いては・・・。



しかし、その夜になると、再び、鈴の音が一晩中、村に鳴り響いた。



そして、知人もまた、昨夜と同じように両親や祖父に訴えたのだが、



良く見ると、両親も祖父も何かに怯えているように見えてしまい、



知人は口を閉ざしたという。



何か得たいの知れない事が起こっている・・・・。



そんな気がして、怖くなってしまったから・・・。



しかし、夫はそうはいかなかった。



昨夜と同じように、土を掘り返そうとした。



そして、それを止めた村人に大怪我をさせてしまう。



結局、その夜も夫は土を掘り返すことは出来なかった。



それどころか、村人に怪我を負わしたということで、大きな土蔵の中に



監禁されてしまったという。



土蔵の中からは、



早く助けないと!



大変な事になるぞ・・・・。



そんな声が響いていた。



それでも、夜が来ると、また、村中に鈴の音が鳴り響いた。



そして、それは土蔵の中から大声で叫ぶ夫の声と共鳴するかのように、



耳に痛いくらいだった。



そして、その頃になると、もう両親達は耐え切れないかのように、必死で



両耳を塞ぎ、恐怖と闘っているのが伝わってきて、



とても怖くなったという。



そんな夜が7日間連続した。



そして、8日目に、ようやく鈴の音は聞こえなくなった。



土蔵の中からは、相変わらず、夫の叫び声が聞こえていたが、その声も



何故か、



早く此処から出してくれ!



アレがやって来てしまう!



そんな声に変わっていた。



それでも、鈴の音が聞こえなくなった事が全てを解決したのか、



両親だけでなく、村中の人たちが皆、ホッとした顔をしていたのが、



凄く奇妙に感じたという。



生き返った従姉妹が、鈴の音を鳴らせなくなってしまった事がそんなに



嬉しいのか?



知人は、従姉妹を見殺しにした罪悪感を1人で感じていた。



しかし、怪異は7日間で終わったわけではなかった。



それから、真夜中になると、家の外を誰かが這いずる様に動き回る



音が聞こえるようになった。



そして、朝になると、大人達が、土葬した場所に集まって、何か



必死になって作業していた。



しかし、それでも、家の外を這いずる音は、一向に収まらなかった。



それどころか、家の中からも音が聞こえるようになった。



更に、土蔵の中に監禁されている夫の声が、まるで気が狂ったように



意味不明なことを叫ぶようになっていた。



だから、その頃になると、夜は完全に外出が禁止された。



知人も家の中で過ごしていたらしいのだが、ある夜、



寝ていると、スーッと部屋の襖が開いたという。



誰か来たのかな?



そう思って、知人は布団をめくろうとして固まった。



そこには、顔が潰されたようになり、腐りかけた女が立っていた。



それは、間違いなく、死んだ従姉妹の姿だと分かったという。



そして、その従姉妹は何も無い顔で部屋を見回して、その後、



再び、スーッと襖を閉めて出て行ったという。



知人は恐怖で震えたまま一睡も出来ずに朝を迎えたが、その朝、



土蔵に監禁されていた夫が、外から鍵が掛けられたまま、行方不明に



なっていたという。



そして、その日もやはり、土葬した場所で大人たちが必死に作業を



していたが、その日以来、怪異は収まってしまったという。



そして、大人たちはこう話していたという。



あいつが望んだことだから・・・。



あの娘も、これで本望だろうから・・・。



そして、それを聞いていた知人はとても恐ろしくなり、予定を繰り上げて



市内へ戻ったという。



そして、結局、行方不明になった夫の捜索は行われなかったという。



今となっては、従姉妹がどんな死に方をしたのか、は分からないが、



大人になってからも、両親にその話をすると、



知らないほうがいい・・・・。



とだけ言って、何も教えてはくれないのだという。



ちなみに、その地方では死人返りという邪法が伝説として



今も語り継がれているらしいのだが・・・・。



それと何か関係があるのだろうか?
  


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2018年11月09日

オフ会での怪異

これは俺の友人から聞いた話である。



彼は仕事としては、学校で物理を教えている教師である。



基本的に根は良い奴なのだが、かなりの合理主義者であり、



科学的に実証出来ないものは一切信じてはいない。



そんな彼の裏の趣味とも言えるのが、インターネットを利用した



ブログの運営である。



しかも、その内容は、妖怪について・・・・である。



最初に彼からそのブログの話を聞かされた時、俺は大いに笑ってしまった。



勿論、良い意味で・・・・。



実に彼らしいというか、公には、科学最優先に徹しているのだが、



それでも昔見たテレビアニメの影響なのか、妖怪というものに



強く魅かれている。



それは信じるとか信じないとかではなく、もしも本当に妖怪が



居てくれたら世の中も楽しいだろうな、という想いから



湧き上がった衝動に忠実に体が反応したのだろう。



確かに毎日の更新というわけにはいかないが、それでも暇があれば



妖怪の伝説がある土地に出向き、色々と調査したり話を聞いたり



している。



そして、その熱い思いの丈をブログに書き綴る。



確かに閲覧者数はそれ程でもないらしいが、あくまで彼の自己満足



のためのブログであるから、それで良いのだという。



そんな彼だが、幽霊というものは一切信じてはいない。



理由は簡単。



本当に幽霊がいたら、怖いからだという。



妖怪なら、話も通じるかもしれないが、幽霊には、話は一切



通じないから・・・・。



そう言っていた。



俺としては、そんな事もないと思うのだが・・・・。



そんな彼がある日、オフ会というものを開催する事になった。



要は、ブログの読者さん達が、彼を囲んで妖怪話に花を咲かせようと



企画し、彼がその企画に乗っかる形で、開催に漕ぎ着けた。



しかし、やはり仕事が多忙な彼だったから、日時の調整でかなり



難航してしまう。



そして、決まったのが、とある土曜日の深夜だった。



開始時刻は午前0時。



勿論、そんな時間帯しか彼には暇な時間が作れなかったのが



一番の理由だが、どうせ妖怪の話で盛り上がるのならば、深夜の



方が良いのではないか、という安易な考えがそこには在った。



そして、どうやらそのオフ会に参加するのは、地元の男性2人と



遠い県外からはるばるやって来る女性3人という事になった。



それなら、男女がちょうど3体3になって盛り上がるのではないか、



と彼はやはり安易に考えていた。



当日、彼はそりなりにお洒落して会場として指定された個室居酒屋



に向かった。



店の前で待ち合わせになっていたが、彼が到着すると、男性2人



は既に店の前で待っていた。



初めて対面する彼らは、彼は丁寧に挨拶し、まだ来ていない女性



参加者の到着を待った。



しかし、どれだけ待っても女性達は来なかった。



彼は仕方なく、店の中に入ると、既に女性達はかなり前から部屋で



待っていたという事実を知った。



彼らは慌てて指定された個室に向かうと、店の店員が言っていた



様に、確かにテーブルには3人の女性達が座っていた。



彼らは、冗談交じりに挨拶し、そのまま席に着いた。



そして、思いつく限り、沢山の料理と酒を注文した。



やはり、妖怪の話を店員に聞かれたくは無かったし、何より、



妖怪の話で盛り上がっているところを、料理を運んできた



店員に邪魔されたくなかったのだという。



そして、料理と酒が運ばれてくるまでの間、男性人は3人の女性達



に色々と話しかけた。



その3人の女性というのは、どの女性も甲乙付けがたいほど綺麗であり



まるで、ファッション雑誌の中から抜けて出来たくらいに、



全員がスタイルが良かった。



街中ではめったにお目にかかれないくらいに・・・・。



しかし、何故か殆ど喋る事はなかった。



ただ、ニコニコと笑って相槌を打っているだけであり、無口



というレベルを超越していた。



しかし、まあ初対面という事で緊張しているのだろうと思い、



彼らは特に気にも留めなかった。



そして、料理と酒が運ばれてきて、乾杯の後、いよいよ妖怪話



がスタートした。



しかし、女性3人は乾杯といってグラスは持ったが、誰もそのグラスを



口に運ばなかった。



それでも、妖怪馬鹿なのだろう・・・。



彼らはさして気にする事も無く、自分の体験した妖怪話を



披露し始めた。



それから、男性陣は、どんどんと新しい話を披露していったが、



女性陣はといえば、相変わらず、ニコニコしながら相槌を



打っているだけ・・・。



だから、彼は女性3人に話を振った。



貴女達は、どんな妖怪の体験話を持っていますか?と。



すると、女性の中の1人が初めて口を開いた。



先生は、妖怪は信じていらっしゃるのに、幽霊は否定されるのですか?



彼は思わず、酒をこぼしそうになったという。



彼はブログでは一切自分の身の上に付いて触れてはいなかった。



勿論、彼が物理の教師だということも・・・。



それなのに、目の前に座っている女性が、何故自分が教師だと



知っているのか?



彼は思わず、目の前の女性に不気味な何かを感じたという。



ただ、その時は、同席した男性達も、彼の事を先生と呼び出したので、



ああ、もしかしたら、ブログのオーナーである自分の事を思わず



きっとブログの主ということで、自分の事を先生と



言ってしまったのかな?



と思い、彼はふと彼女達の顔を見た。



その時、女性達は3人が全て俯いたまま薄ら笑いを浮かべて



いるように見えた。



しかし、他の男性達は、何も感じていないのか、3人の女性に妖怪の



話を振ったのだが、その時、



返ってきた話はやはり異常だった。



幽霊は、そんなに怖いですか?



幽霊は実在していると思いますか?



幽霊と妖怪の違いは何だと思いますか?



全てが、妖怪ではなく幽霊に付いての質問だった。



そして、3人の中の1人が、



先生は物理を教えていらっしゃるから、その目で見たモノ以外は



信じられませんか?



そう聞いてきた。



その言葉を聞いたとき、彼は思わず固まった。



勘違いなどではなく、目の前の女性達は間違いなく、彼が物理の



教師だということを知っている。



知り得るはずの無い事実を・・・。



そして、彼は目の前の女性達をまじまじと見た。



そして、彼はまた固まった。



正座した咳に座っている女性3人。



その顔の位置が明らかに、30センチ以上、高くなっていた。



それは首だけが伸びたというものではなく、全体的に縦に



引き伸ばした様に、いびつに上へと伸びていた。



そして、それは同席したほかの二人の男性達も気付いているようで、



先ほどから一言も喋らず、その場で固まっている。



沈黙が続いた。



そして、彼は考えていた。



これはどういうことなんだ?と。



自分の目がおかしいのか、それとも・・・・。



その時、店の店員が、ラストオーダーの注文を聞きに個室



へと入ってきた。



すると、3人の女性達は、



見たモノ以外は信じられないんじゃ、しょうがないです・・・・。



これで信じて貰えますか?・・・・・。



そう3人が口を揃えるように言った。



それがあまりにも、まったくのずれも無く、発声されたものだから、



思わず、店員も呆気に取られていた。



そして、次の瞬間、彼は思わず



うわぁ~、と大声を上げてしまった。



彼ら3人の男性と、そして店員の目の前で、3人の女性達が、



どんどんと大きくなっていき、とうとう天井に頭が届いていた。



そして、彼を見下すような目で笑うと、



そのまま消えてしまった。



男性陣と店員はしばらく放心状態でその場に固まっていたが、



店員が逃げるように部屋から出て行ったのを見て、彼らは



我に返ったという。



そして、それから、そのオフ会はすぐにお開きとなった。



彼らは、まだすぐ側に先ほどの女達がいるのではないかと



ひとかたまりになって、別の店に行き、朝が来るまで時間を



潰した。



恐ろしくて、とてもじゃないが、1人にはなれなかった。



結局、彼がその女性達の姿を見たのは、そのオフ会の席だけだった



らしく、それ以後は全く見ていないという。



そして、今でも彼は幽霊は信じてはいない。



自分の目で確かに見ているのに・・・・。



だから、俺が、



そんな体験をしても、まだ信じないの?



と聞くと、



いや、実際に見てしまうと尚更恐ろしくなってしまって・・・。



あんなのが実際に存在すると思っただけで、怖くて何も手に



付かなくなってしまうから・・・。



だから、否定するしかないだろ・・・・。



そう言って不安そうに辺りを見回していた。
  


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2018年11月09日

噂というもの

これは以前、バンド関係の仲間内で起こった事。



バンドといっても、色々なタイプがある。



純粋に音楽を追求している者もいれば、異性と知り合う



目的として音楽を利用している者、日頃のストレス解消の



一環として音楽を楽しんでいる者。



更に、ジャンルもそれなりに幅広い。



さわやか系のJ-POP系もいれば、ハードロック、ブルース、



メタル、ジャズ系、そして昔ながらの1人での弾き語り系。



メンバーも多いところでは10人を超えるし、弾き語りの人は



勿論、1人きりである。



そして、それぞれのレベルもプロ級のもの~初心者まで幅広い。



しかし、それで良いのである。



皆が自分のやりたい音楽を人前で披露する。



プロではなく素人だからこそ可能な音楽への自由度。



実際に、公募で参加バンドを募り、ライブを行うと、そんな



様々な人達との出会いがあって、とても楽しい。



動機や目的は違っていても、聴衆に自分の音楽を聞いてもらいたい



という気持ちがあれば、ライブは成立する。



まあ、中には某バンドでキーボードを担当している協調性の



かけらも持っていない美人教師さんもいるのだが・・・。



そして、これも余談だが、長い間、バンド活動をしていると、とても



面白い傾向に気付く。



それは、見た目がさわやかで、メルヘン系の音楽をやっているバンドほど



プライドが高く、自意識が過剰だ。



こちらが挨拶をしても返してもらった記憶が無い(笑)



そして、逆に、見た目が怖くてアウトローなバンドほど、腰が低く



必ず、向こうから先に挨拶をしてくれる。



しかも、深々と頭を下げて・・・。



ご迷惑をお掛けしないように精一杯頑張りますので、宜しくお願いします、と



予想外の丁寧さで挨拶をしてくれるものだから、こちらとしても



最初の頃はその対応に困惑してしまった(笑)



そんな様々な人間が集まるのだから、その中にはやはり変わった人もいる。



きっと何処の世界にも似たような人間はいるのだろうが、バンドという



音楽を楽しむために集まりでも、それは例外ではない。



自らが常に話題の中心に居ないと、気がすまない人。



他人の音楽を平然と否定する人。



そして、最も厄介なのが、自分の考え方を他人に強要し、拒否すると、



攻撃する人なのかもしれない。



それはとあるライブの構成いついて話し合った事がきっかけだった。



実は、どれだけお金持ちなのかは分からないが、何でもお金に



物を言わせて話を強引に進めるTという男が居た。



そして、彼はこう主張した。



次回のライブは、未婚女性限定にして、オオトリは自分達のバンドに



やらせて欲しい、と。



そうしてくれれば、ライブに関する費用は全て自分達が持つから、と。



しかし、その主張に、S君という若い男性が反対した。



そもそも、ライブというのは、それぞれやりたい事、伝えたいことが



違うのだから、未婚女性限定にして欲しくない、と。



それに、ライブの費用はそれぞれのバントが負担して、成功に向けて



一丸となって頑張るものではないのか、と。



実は、Sという男性は若いながらも、とてもしっかりしており、他の



バンドからの評判も良かった。



そして、その逆に、Tという男性の評判は、かりな悪かったというのが



本当のところだ。



しかし、他のバンド連中は、チケットを売りさばいたり、会場費用を



負担してくれるのなら、細かいことはどうでも良いと考えたのかもしれない。



だから、何故かSという男性が孤立してしまう。



しかし、俺の意見はS君に近かった。



そもそも、そんなライブをしたければ、勝手に単独ライブをすれば良い。



それに何故付き合わなければいけないのか?



そして、独身女性限定というのも引っかかった。



まあ、Tの目的は大体想像できるが、それならば、尚更のこと、



そんな引き立て役に回るつもりは毛頭無かった。



だから、俺は唯一、S君の側についた。



それが、余程面白くなかったのだろう・・・。



俺達のバンドはキャリアだけは長いから、それなりに発言権がある。



その俺に反対されてしまっては格好がつかなかったのだろう。



そして、次のライブでそれは起こった。



実はライブ会場というところは、何処でも一つや二つは怖い噂が



存在している。



勿論、実際に霊を目撃する人も多い。



いつもなら、誰かが変なものを見た、という程度でおわるのだが、



その時は違った。



ライブの最中、突然、照明が消えたり、音声が途切れたり・・・。



そして、挙句の果てには、Tのバンドメンバーがステージの上から



落ちてきた照明に当たって怪我をした。



それが原因でライブは途中で中止されてしまった。



俺のバンドもS君のバンドも出番は無かった。



そして、その数日後、変な噂が耳に入ってくる。



その噂とは、Tのバンドに恨みを抱いていた俺とSくんが、二人で



共謀してTを呪い殺そうとしたという噂だった。



勿論、出所はTなのだが・・・・。



最初に、その噂を聞いたとき、俺は思わず笑ってしまった。



呪いというものの愚かさを誰よりも知っているつもりの俺が



呪いなどかけるはずがないだろう・・・と。



しかも、のろいの掛け方など、俺は当然知るはずも無い。



しかし、ただでさえ、Aさんのお陰で霊が見えたり、霊的な力が



あると思われていた俺だから、その噂は瞬く間に広がった。



そして、俺とS君のバンドはそれ以後、どのライブにも呼ばれなく



なってしまった。



Sくんは、俺に丁寧に謝りに来たが、当然Sくんには何の罪も無かったから



俺は笑って、



今度は二つのバンドだけでライブやろうな、とS君を励ました。



勿論、俺のバンドでも一度そんな話題になった事があったが、他の



メンバーは、謝る俺に対して、



別にお前が悪いわけじゃないだろ、と笑って返してくれていたが。



そして、俺とSくんのバンドは、その界隈のバンドとしては完全に孤立してしまった。



Tにとっては、予定通りの展開だったのだろう。



勿論、他のバンドの中には、



俺達はそんな事信じていませんから・・・と言ってくれる者もいたが、



その時の流れとしては、やはりTに逆らうと、もうライブは出来ない、



という風潮があったから、誰も声を上げる者はいなかった。



そして、毎年恒例の年越しライブの季節がやってきた。



さすがに、そのライブだけは出演しないわけにもいかず、俺達のバンドも



そして、S君のバンドも当然お呼びがかかった。



そして、第一回のミーティングの際、Tのバンドからこんな意見が出された。



気に食わない奴が居ると、呪い殺そうとする奴らとは、恐ろしくて



ライブなど出来るわけが無い、と。



勿論、気に食わない奴を呪い殺そうとする奴らというのは、俺と



S君のことなのだが・・・・。



その頃はもう変な噂は消えかけていたのだが、その言葉でまた再燃



してしまう。



もう、そうなつてしまっては、俺も馬鹿らしくなってしまい反論



する気も起きなかった。



そこで、突然、



馬鹿じやないの?



という大きな声が聞こえた。



Aさんだった。



Aさんは、面倒くさそうに席から立ち上がると、



此処に集まってる人達って、本当に馬鹿ばっかりなの?



小学生じゃあるましい、単なる噂に乗っかって・・・・。



私は知ってるよ。



Sさんも、そしてKさんもそんな人じゃないって・・・・。



それに、誰が誰を呪ったって?



いっておくけど、Kさんに、誰かを呪う力なんて在るわけ無いでしょ?



そんな力があるのなら、もっと世の中の役に立ってるよ。



Tさんが一体何をしたいのか、よく分からないけど・・・。



少なくとも私は貴方の価値観をそのまま鵜呑みにするほど



馬鹿じゃないので・・・。



私は噂は信じない。絶対に。



噂だけで人を判断なんてしない。



噂の中にに本質なんて在るはずがないから・・・。


そして、噂というのは、一種の呪いみたいなものだから。



だから、私は自分の目で見てきたSさんとKさんだけを信じる。



あんた達が、何を言っても私の耳には届かない。



っていうか、耳障りなだけだから・・・。



それに、私は前々から思ってたんだけど、自分の意見が通らないと、



それだけで、誰でも攻撃してきたのは、あんたなんじゃないの?



それでも、まだSさんやKさんのバンドが出ないとしたら、私達の



バンドも辞退させて貰いますから・・・。



皆もいい加減、自分の目で見たものだけを信じてみたら?



これまであなた達が接してきたSさんやKさんは、他人を平気で



呪えるような人間だったのかどうかを・・・。



そこまで言うと、そのままAさんは席に座った。



すると、ポツリポツリと拍手が起きて、やがて会場全体が拍手に



包まれた。



そして、結果として、Tのバンドはその年の年越しライブには参加



出来なくなった。



ミーティングのあと、俺はAさんに駆け寄って、お礼を言った。



どうも、ありがとう。助かったよ、と。



すると、Aさんは、



別にお礼を言われる事は何もしてませんから・・・。



思ったままを言っただけですから・・・。



以前からKさんがトラブルに巻き込まれてるのは知ってましたけど・・・。



良い勉強になるかな、と思って見ていたら、それどころじやなくなって。



私は噂なんかに振り回されて、その人を判断するのが嫌なんです。



自分の目で見てきたものだけを信じる。



それだけです。



それに、あそこのライブ会場に居る霊達は、音楽が好きなだけであって、



決して人間に危害は加えない・・・。



Kさんはともかくとして、あそこの霊達の事を悪く言われるのだけは



我慢出来なくて・・・。



そう言われた。



そして、俺が、



今度、何かお礼しなくちゃね・・・。



と言うと、



あっ、お礼はして欲しいですね。



それと、さっき言われてたように、Kさんもちゃんと人を呪える



位の力は最低でも身に付けておかないと・・・。



Kさんは、ボーっとしてるから気にならないかもしれませんけど、



さっきまでの調子が続いたら、間違いなくKさんの守護霊がTさんを



攻撃してましたから・・・。



そうなったら、笑い事ではなくなってしまいますから・・・。



だから、Kさんの守護霊に代わって、私がTさんにお灸をすえて



おきますから・・・。



呪いじゃありませんけど、まあ少しはあの性格が直るくらいの



体験をしてもらいましょうかね(笑)



そう言って、さっさと何処かへ立ち去っていった。



その後、Tが霊的な現象に悩まされて、音楽どころではなくなっている、



という噂を聞いたが、それがお灸ということなのだろうか。
  


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2018年11月09日

解剖というもの

今の会社で働く前はコンピュータ関係の会社で働いていた。



その時によく担当させられたのがいわゆる大学病院というやつだ。



実はその会社では病院関係の担当、その中でも大学病院の担当と



いう事になると、なかなか担当が決まらなかった。



正直、誰もやりたがらないのだ。



それは別に病院だから、曰くつきの話が多いという



理由だけではなく、



毎日、帰りが遅くなってしまうという理由もあった。



実際に、コンピュータを納入してもらおう、と思うと、



まず教授と



呼ばれる人達の元を訪れる。



そして、顔と名前を覚えてもらってから、仕事の話に



持ち込み、そして



事務的に予算を取ってもらう。



そして、運よく予算が付けば、翌年には導入という事に



なるのだが、



実際にはその道のりは遠く険しい。



当然、競合他社もあるわけであり、その中で自分を気に



入って貰うのは



至難の業である。



だから、今でも薬品関係や試験機材のメーカー営業を見かけると、



本当によくやるよな、と感心してしまう。



そして、現在ではどうなのかは分からないが、



その当時は教授に



アポイントメントを取るのは容易ではなかった。



やはり教授という職業もかなり忙しいようで、



わざわざ売り込みの



営業に会ってくれる時間を容易してくれるほど優しくもない。



では、どうするのか・・・。



それは、夜間、いや、真夜中に教授が暇になった時間を狙うか、



もしくは、



教授に僅かでも時間が空いた時を狙うしかない。



ただ、夜間に訪問という事になると、緊急用の通用口から



入ることになり、



まっくらな病院内を1人で歩いていくことになる。



しかも、その時間は下手をすると、午前0時を回って



しまうのだから、



出来ることなら避けたいのが実情だ。



そうなると、やはり、昼間に教授が僅かに手すきになった



時間を狙うしか無くなる。



そして、そういう時間も、決して楽なシチュエーション



ではないのだ。



俺が担当していた教授の場合には、時間が空いたから、



と呼ばれていくと



殆どの場合、学生相手の解剖の授業の前後が多かった。



コンプライアンスが煩く言われる現在では、きっとありえない事



だろうが、当時はそれが当たり前だった。



最初に伺って、その場が解剖室だった時は正直固まった。



しかも、打ち合わせをしているすぐ横には今解剖を終えた



献体が横たわっている。



正直、打ち合わせなど全く頭に入ってこなかったのを覚えている。



それからも、その教授は、わざとか?と思えるほど、献体の



解剖時にわざわざ



俺を読んでくれた。



正直、固まってる俺を見て面白がっているのかと、



思っていたが、



それでも人間というのは不思議なもので何度も解剖室



に呼ばれている



うちに、横に何が横たわっていようとまったく気にならなくなった。



そんな時に教授が話してくれたのが、こんな話だ。



解剖と言っても様々であり、亡くなられた方の遺族の承諾を得て、



医学生の



為に行われる解剖、身元確認の為に行われる解剖、そして、



死因の特定の



為に行われるものなどがあるらしいのだが、その中でもその教授が



生徒たちに



教えるのは、遺族の承諾を得て行う学術解剖。



だから解剖が行われる献体の死因は明らかである。



それは、ガン患者の場合もあれば、別の病気の場合もある。



決して他殺や事故でが死因ではないはずなのだが、



ごく稀に解剖し



臓器を取り出していると、死因とは全く関係のない心臓に



はっきりと



手形が残されている事があるらしい。



そして、それはとても大きな3本指の手で、心臓を



握りつぶされた



ようになっているという。



勿論、それで死因が変わることは無いのだが、これだけは



何年医学の



世界にいようとも決して説明が出来ない怪異なのだという。



そして、もうひとつ。



献体を解剖する場合、解剖を始める前と後には、しっかりと



手を合わせ



医学の進歩の為に献体してくれたことを感謝しお祈りする。



しかし、これもまた、ごく稀に献体に手を合わせなかったり、



解剖の授業で



ふざけた態度をとる医学生もいるらしいのだが、その誰もが、



その後



怪奇現象に見舞われてしまい、とても怖い思いをするそうだ。



そして、一度でもそんな怖い体験をした医学生は、



それ以後はしっかりと



手を合わせ、真摯な態度で解剖授業を受けるのだという。



それでは、一体どんな怪異に見舞われるのかと聞くと、



その教授は



黙り込んでしまった。



だから、俺は、



そんなの気のせいなんじゃないんですかね?



と聞くと、



馬鹿なことをいうもんじゃない。



死者への、医学の為に自分の体を提供してくれた人を



冒涜した時の



恐怖は、とても口では言えないものだよ・・・。



と、つぶやいた。



そして、こう続けた。



実際に、体験した私が言うんだから間違いないよ!と。



それを聞いてからは、俺も解剖室に入る時にはしっかりと



お辞儀をし、



しっかりと手を合わせるようになったのは言うまでもない。

  


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2018年11月09日

特殊清掃

世の中には、やりたくない仕事が沢山ある。



そして、その理由もまたそれぞれなのだろう。



しかし、いかに高給であっても、やりたくない仕事のひとつに特殊清掃



という仕事がある。



それは自殺かもしれないし、孤独死かもしれない。



事故死の場合もあるし、殺人の場合だってあるだろう。



そんな現場に一番先に入るのが大家さんか親族、もしくは警察だろう。



そして、そのご遺体を家から運び出すのは、警察なのか消防なのか、



それとも救急なのか、は分からないが、その家や部屋に染み付いた死臭や



体液、そして異物を取り除き出来る限り現状復帰させるのが、



特殊清掃という職業なのだろう。



実際、俺の昔のバイク仲間で現在、特殊清掃という仕事をしている



男がいる。



大学を卒業してから、確か公務員をしていたはずなのだが・・・・。



そして、そんな彼は以前、会う機会があり、その時に聞かせてもらったのが



これから書く話である。



元々彼は公務員をしていた。



役所で事務方として、それなりの地位にあったのだという。



しかし、ある時、彼の奥さんが精神を病んでしまい、行方不明に



なった。



警察に捜索願は出しのだが、やはり行方は分からず、結局、それから



半年ほど後に、アパートの1室で自殺体として発見された。



首吊りだったという。



季節はちょうど夏であり、異臭に気付いたアパートの住人が大家に



電話をし、警察立会いのもとで、部屋に入るとそこには首を吊っている



妻の遺体がぶら下がっていた。



死んでから4ヶ月ほど経っていたといい、腐乱した遺体は首から上が



ロープに引っかかったまま、体はフローリングの上に既に落下しており、



体液と大量のハエとともに、正視出来ないほどだったという。



結局、遺留品から彼の妻だと分かったらしいのだが、どうして



妻が1人でそんなアパートに住んでいたのか?



そして、対面させられたモノが、本当に自分の妻なのか、判断が



付かないほどだったという。



そして、それからの彼には妻を失った悲しみに浸る余裕など



与えてはもらえなかった。



警察からも、色々と話を聞かれ、まるで犯人のような扱いを受けた。



彼の勤務先である役所でも表面上は、励ましの言葉はかけてくれたが、



明らかにそれまでとは回りの対応が変わった。



そして、アパートの大家には、酷い言葉で罵られ皮肉も言われた。



そして、多額の賠償金を請求された。



本当に、頭を下げて謝り続ける毎日だった。



そんな時、大家が手配した特殊清掃の業者に出会ったという。



夫である彼でも、とても耐えられない程の悪臭とフローリングの



色まで変えてしまう程に染みこみ、腐らせている体液。



それを目の前にして、その清掃業者は、丁寧に手を合わせ、



彼にも、心配りと配慮をしてくれ、そして誰もが拒絶する



様な汚く辛い仕事を、まるで自分の肉親の自殺の様に



接して、部屋を元通りに回復させてくれた。



彼にはそれが、どれほどありがたい事だったのかは、



想像に難くない。



そして、彼は考えたらしい。



自分こそが、こういう仕事をしなければいけないのではないか、と。



そして、彼はすぐに公務員を辞めて、特殊清掃の会社に就職した。



当然、最初は見習いとして扱われた。



やはり、すぐに辞めていく者が殆どなのだという。



実際、彼も何度も辞めようと思ったという。



現場を見ては何度も吐き、食事も食べられなくなった。



それでも、彼はいつも、あの時の清掃業者の姿を思い出して



頑張った。



そうして、何度も死の現場に対峙していると、人間という者は



どんな環境にも慣れてくるものらしい。



今では部下を持つようになり、先頭に立って、特殊清掃の業務



に従事している。



不思議な体験は無いのか?と聞くとやはりあるそうだ。



遺品を家族に見せるために整理し、箱に詰めていると、先ほどまでは



絶対にそこには無かった写真が机の上に置かれていたり、作業をしていて、



薬品などを使い、暑さと薬品の臭いで息苦しくなっていると、気が



付いたら、開けたはずのない窓が開けられていたり・・・。



ただ、それらは全て怖いものではなく、逆に好意的に感じる



のだという。



そして、作業が終わり、部屋から出ていく時には、部屋の中で



誰かが深々とお辞儀をしている姿が見えることもあるそうだ。



しかし、彼らは決してそれを見て驚いたり声を出したりはしない。



いつも通り、両手を合わせお辞儀をしてから静かに部屋を出る。



そこに誰が居ても居なくてもやる事は変わらない。



そして、誰かが見えたとしても、あえて見えないフリをするのが



礼儀だと思っているのだという。



そんな彼だが、その仕事をしていると、やはり霊感というものが



開花してしまったようだ。



ある時、伺った部屋で、かなり長い期間、死体が発見されなかった



らしく、さすがの彼らも、何処から手を付けたらよいのか、と



お手上げになった時があった。



その時、遺体の体液が染みこみ変色している畳から、何かが



浮かび上がってきて、やがてそれは人の形になったのだという。



そして、深々と彼らにお辞儀をした後、そのまま消えていった。



確かに驚いたが、決して恐怖は感じなかったという。



どちらにしても、誰にでも出来る仕事ではない。



彼がこれからも、その仕事に向き合っていく姿を誇りに思いつつ



見守っていきたい。



  


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2018年11月09日

・・・・湖に纏わる怪異

これは知人が体験した話。



石川県の加賀地方に、ひとつの潟がある。



以前は加賀三湖として数えられた中のひとつである。



その中のひとつは完全に干拓され、もう1つの潟も半分以上が



干拓されてしまったが、その潟だけは手付かずのまま、



残されている。



カヌーの大きな大会が開かれることでも知られるその潟は、



朝夕はジョギングや散歩を楽しむ人で賑わう。



貸し自転車やドッグランなども在り、



日曜日ともなると、多くの来場者で賑わう。



とても明るく開放的な空間・・・・・。



しかし、深夜ともなると、その姿を一変させてしまう。



以前から、その潟ではある筋では、様々な怪奇現象が目撃されていた。



確かに暗闇の中に佇む潟というのは不気味というしかない。



そんな場所に以前、俺の知人が深夜に訪れたことがある。



その潟に到着したのは、午前2時を回ってから・・・。



そして、その時間ということになれば、目的はひとつ。



心霊スポットとしての潟の探索だった。



どうやら、彼はホームページで石川県内外の心霊スポットを



紹介しているらしい。



そして、それは実際に丑三つ時に現地を訪れて写真を撮影し、



その時起こった事や感想を書いていくのだそうだ。



しかも、彼は常に1人で行動する。



ある意味、怖いという感覚が欠如しているのかもしれない。



そして、その夜、訪れた、その潟はとても静かだったという。



雨上がりであり、カエルの鳴き声や虫の音が至る所から



聞こえていた。



彼は車を降りエンジンを切ると、公園の中を歩き出した。



潟から吹いてくる風はとても心地よく感じ、彼は至るところで



写真を撮った。



そして、遊歩道的な道を歩き、最後の写真を撮影すると、そのまま



もと来た道を車まで戻ろうとしていた。



やはり、この場所にでも怪異には遭遇出来ませんでした・・・。



そう書くつもりだったという。



そして、ちょうど半分くらいの道のりを戻ってきたとき、何かが



変わった。



あれだけ心地よく吹いていた風は止み、何故か空気が冷たくなる。



彼はとても寒く感じたので、急いで車に戻ろうとした。



すると、何処からか誰かの話し声が聞こえてきた。



ボソボソ・・・・ボソボソ・・・・。



そんな感じの話し声だった。



こんな時間に誰かいるのか?



確かにとても早い時間からボートの練習をしたり、ジョギングに



やって来る人がいるという話は聞いた事があるが、それなのか?



しかも、その声は少しずつだが確実に彼に近づいてきていた。



その時、彼はこう思ったという。



もしも、誰かがいるのなら、何かこの潟に関する怪異的な話でも



聞けないものか・・・・・と。



すると、どうやら、その声は陸地ではなく、潟の中から聞こえてきている



のが分かったという。



彼は思わず立ち止まり、じっと潟の方へと目を凝らした。



何も見えなかった。



暗闇の中に、じっとりと暗い潟が佇んでいるだけ・・・・。



空耳だったのか?



それに、幾らなんでもこんなに真っ暗な中を明かりも点けずに



ボートに乗る事など不可能だろうと危険すぎる・・・。



彼はそう思っていた。



しかし、次の瞬間、彼は何かが潟の中から近づいてくるのを感じた。



すると、暗闇の中から、突然、ボーッと何かが浮かび上がった。



それは、良く見ると、小さな船だった。



そして、その上に、2人の人が乗っている様に見えた。



さっきの話し声は、この人達だったのか・・・・。



彼はその時、そう思ったらしい。



しかし、その後、先ほどの船と同じように、何槽もの船が次々に



暗闇の中から浮かび上がってきた。



何なんだ・・・これは?



彼はそう思い、その船を凝視した。



すると、その船はボートといえる様な物ではなく、古い木造の



舟といった感じに見えた。



そして、その舟の上に立っている人影は、何故か罪人を乗せて



いるかのように、舟に体が縛り付けられているのが見えた。



そして、その体は舟のゆれとは関係ない動きで左右に大きく揺れていた。



彼は、それを見た瞬間、突然、その場から走り出したという。



今、自分が見たモノは、決して人間などではない・・・・。



そう確信していた。



そして、逃げなければ大変な事になる・・・。



何故か、そう思ったという。



そして、急いで車に戻り、エンジンを掛けようとしたが全くエンジンは



反応しなかったという。



彼は焦った。



もうすぐそこまで、さっき見たモノ達が近づいてきている気がして



生きた心地がしなかった。



すると、その時、突然、運転席の窓が叩かれた。



ハッとして彼は叩かれた窓の方を見た。



すると、そこには、穏やかそうなお爺さんが1人、ニコニコしながら



車の横に立っていたという。



彼はホッとして運転席の窓を開けた。



そして、どうしましたか?



と聞いた。



すると、そのお爺さんは、ポツリと一言だけ呟いた。



まだ、見つかりませんか?と。



その顔は笑っていたが、どこか気味の悪い顔だった。



そして、言葉の意味が判らなかった彼は、思わず、



すみません・・・わかりません・・・・。



と答えたという。



すると、そのお爺さんはとても寂しそうな顔をして、



そうですか・・・・・。



とだけ言うと、すぐに車から離れていったという。



すると、車のエンジンはすぐにかかり、彼はその場から無事に



戻ってくる事が出来たのだという。



その話を聞いた俺は、ある事を思い出した。



それは、以前、消防団員の方から聞いた話なのだが、その市では、



老人などが行方不明になると、必ず、その潟を一番最初に



捜索するのだと言う事を・・・・・・。



それを聞いた彼は凄く青ざめた顔をしていた。



そして、こう言った。



もしかすると、あの夜、会ったお爺さんは、まだ行方不明になって



発見されていない方なのかもしれない、と。



だって、そのお爺さん、雨はとっくに上がっているのに、服が



全部ビチャビチャに濡れていたから・・・・と。



やはり、その小松市の潟にも、実際に怪奇現象は存在しているようだ。

  


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2018年11月09日

サングラスを外さない理由

片町にあるスナック。



その店には何故か霊感が強い人ばかりが集まるのか、色々な



霊体験をしたお客さんがいる。



勿論、俺もそんな人達から貴重な話を聞けるというの事で



かなり助けられている部分がある。



そんなお客さんの中に、1人だけ店の中でもずっとサングラスを



かけたままでお酒を飲んでいる男性がいた。



年齢はちょうど60歳くらいか・・・。



紳士的な立ち振る舞いと容姿。



そして、カラオケなどは歌わずに一人で黙ってウイスキーを飲んでいる。



その飲みに対するスタイルというものは、かなり俺に近いので、



内心気になっていた。



そして、ちょうど去年の今頃、お店にその男性と二人だけ、という



シチュエーションになった事があった。



だから、俺は少し勇気を出して聞いてみた。



どうしていつも、お店の中でもサングラスを外さないのですか?と。



すると、その男性は少し黙った後、静かにサングラスを外してくれた。



その顔には、左目が欠如していた。



それを見た俺は、



あっ、すみません。失礼しました。



聞いちゃいけない事でしたかね?



と言ったのだが、その男性は少しだけ笑うとゆっくりと



こんな話をしてくれた。



彼の家は先祖代々、太平洋側にある某県の神社で宮司



を司っていた家系だった。



それこそ、かなり古い時代から、その神社はその場所に存在し、



村人の信仰を集めていた。



だが、彼自身、その先祖代々の神社に何が祀られているのか、



宮司になる直前まで知らされていなかった。



そして、父親が引退し、彼が後を継ぐという事が決まって初めて



彼はその神社について教えてもらったという。



そして、唖然としたという。



端的に言えば、その神社に祀られているのは神様などではなかった。



いや、一応、祀り上げる際に、神という名前は付けられていたが、



断じて神様ではなかった。



魔物・・・・・。



そう彼が宮司として務めるその神社には魔物が祀り上げられていた。



いや、封印と言った方が的確かもしれない。



その魔物というのは、大昔、その地域一体で人間を殺し食べまくった



大蛇の化身だった。



一時はその地域に人が居なくなってしまう程の凄まじさで人間が



犠牲になった。



しかし、その後、どういう理由からか、生贄として1年に1人、



人間が差し出されるようになった。



いわゆる人身御供というやつなのだが、それでもその地域の人達は



皆、ホッとしてその生贄の条件を受け入れた。



そして、その生贄の儀式を管理し遂行するのが彼ら一族の



仕事だった。



それでも、過去には、他の有名な神社で修行をし、その魔物を



滅しようとした先祖も居た様だったが、その魔物の力は凄まじく



犠牲者が1人増えただけだったという。



それでも、その地域の人達は、宮司に対して不平不満は一切



言わなかった。



それどころか、皆、彼ら一族を敬い感謝し、金銭や食べ物を



勝手に持ってきてくれていたのだという。



被害が緩和されたのは、この神社のお陰だと・・・・。



だから、魔物を滅しようなどとは思わず、このまま封印し続けて



くれれば良い・・・と。



確かにそうなのかもしれない。



それまでは人間が居なくなるほどの犠牲者が出ていた事を考えれば、



1年に1人の犠牲者など、無いに等しいのかもしれない。



だから、彼も先祖代々の教えに習い、その魔物を封印し、多大な



犠牲者が出ない事だけを最優先した。



それが正しい選択なのかは分からないが・・・・。



だが、どうやら彼の息子はその忌まわしい過去に同調するつもりは



無かったようだ。



小さな頃から、父親である彼から忌まわしき歴史を聞かされていた息子は



中学を卒業すると、すぐに霊験あらたかな神社で修行に入った。



そして、それからも幾多の神社で退魔というものに特化して力を



身に付けていったのだろう。



30歳の年齢なった時、息子はふらっとその神社に戻ってくると、



何やら準備を始めた。



彼が、



一体何の準備をしているのかと、尋ねても何も答えずただ、黙々と



何かを準備し続けた。



そして、その神社に戻ってきたから1週間が経った頃、息子は



ふらっと出掛けていったという。



後で思えば、きっとその時は最後に身を清めるために山の中の滝に



打たれていたのではないか、と彼は話してくれた。



そして、息子が何処かへ消えてからちょうど1週間後、再び、



息子はその神社に戻ってきた。



それは、父親である彼でさえ、手に負えないほどのオーラを



全身に纏って・・・・。



その時、彼は初めて、息子が何をしようとしているのかが判ったという。



だから、必死で止めた。



今の現状こそが、先祖代々、封印を護ってきた賜物なのだから、と。



しかし、息子はその魔物を滅する事しか頭に無かったのだろう。



父親の言葉には一切耳を貸さず、そのまま退魔の行を行ってしまう。



結果は判っていたという。



過去には、当時最強と認識されていた高い能力をも持った先祖が



いとも容易く、魔物の餌食になっていた。



術者がより高い能力を持っていた時代でも・・・である。



それが、現代のような平和の中で培われた能力など、当時の



術者に比べれば比較にもならない事は明白だったから。



しかし、父親の推測を凌駕する程に、息子の能力は高いものだった



のかもしれない。



結局、息子は3日間という長い闘いの末に敗れ去った。



あの魔物を相手にして3日間持っただけでも驚きに値した。



しかし、その代償は大き過ぎた。



結局、その魔物は怒り狂い封印から出てしまう。



神社は大きく破壊され、その後には、まるで意識が無いまま、生かされている



だけといった息子が倒れているのが見つかった。



そして、それを知ったその地域の人達は、皆、他の地域に移住せざるを



えなかった。



それでも、彼は必死に、もう一度、その魔物を封印しようと祈祷を



続けた。



すると、ある雨の夜に、何物かが彼の家にやって来た。



玄関の引き戸越しに話すソレは、すぐに封印していた魔物だと判ったという。



初めて対峙する魔物に、彼は体中に震えが止まらなかったという。



そして、こう言われたのだという。



お前達、一族には恨みは無い。



いや、むしろ感謝するべきなのだろう。



だから、息子はすぐには殺さなかった。



お前達に息子との別れの時間を与える為に・・・。



だから、今すぐに別れを告げろ・・・。



そして、愚かな事をした罪を後悔するがよい、と。



それを聞いた彼は、慌てて玄関の引き戸を開けた。



そこに居たのは、どうやら人間の姿に変化した蛇だった。



人間に似せてはいたが、その皮膚や目は明らかに蛇そのものであり、



彼は恐怖に震えた。



しかし、息子の命を思い、必死に懇願した。



どうか、許して欲しい・・・と。



しかし、その蛇神は、どうしても首を縦には振らなかった。



だから、彼はこう言ったという。



あなたが欲しいものを何でも差し上げますから、1週間だけ



息子の命を伸ばして貰えまいか、と。



すると、その蛇神は、嬉しそうな顔をすると、大きく頷き、一気に



彼に近づくと、彼の左目に指を突っ込むと、そのまま眼球を



引きちぎった。



不思議だった。



左目の視界は完全に失われたが、痛みと言うものは全く無く、血の一滴も



流れなかったという。



そして、その蛇神は、



一週間後にもう一度来る・・・。



その時はお前の右目も貰うことになる・・・。



そう言い残して、闇の中に滑る様に消えていったという。



それから、彼は夜が明けると、窓を目張りした車を用意して、息子を乗せ、



その神社を後にした。



左目を失ったことで、それまでのようには動けなくなった。



そして何処に行けば良いのか、全くわからなかったが、



それでも無我夢中で車を走らせたという。



出来る限り、離れた距離に行かなくてはいけなかった・・・。



蛇神が祀られていない地域・・・。



山を幾つも越えた場所が良い・・・・。



そして、太平洋側から、一気に反対側の日本海に近い方が良い・・・・。



その結果、たどり着いたのが、金沢の地だったという。



彼は、そこまで話すと、自分の目を俺に近づけ、引きちぎられたという



左目を間近で見せてくれた。



それ左目は、事故や病気という感じではなく、まさに引きちぎられた



ように、無造作に荒れたままの状態になっていた。



痛々しいくらいに・・・・。



そこまで聞いて、俺は正直、聞かなければ良かったと後悔していたが、



その男性が店を出て行く際、俺に向かってこう言った。



きっと、もうじきあいつは、やって来る。



無くなった左目がそれを教えてくれるんだ・・・。



だが、もう此処から逃げられる状態ではないんだ。



息子はもう体の殆どが蛇のようになってしまい、全く動かすことが



出来ないのだから・・・。



だから、もうじき、私はこの右目も無くなってしまうんだろう。



いや、逃げた私の事をあいつは、きっと許さないだろうな・・・。



そう言って、彼は店を出て行った。



そして、それから今までの間、その男性が再び、そのスナックに



訪れたという話は聞いていない。



やはり、蛇神の餌食になってしまったということなのか・・・。



そして、俺にはもう1つ、懸念に思っていることがある。



もしも、あの男性が言っていた事が本当だとするなら、それほど



危険な蛇神が、封印から解き放たれて、この平和ボケした



現代に蘇ってしまったのではないのか?



そして、その男性と息子を追ってきた蛇神が、そのままこの地に



居つくことは無いのか?



太古の昔、人間を襲い食べまくったという大蛇の邪神が・・・・。



やはり、早めにAさんや姫に相談してみる必要があるのかも



しれない。

  


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2018年11月09日

カーナビが導く場所

これは知人から聞いた話。



彼は年齢は30代半ば。



市内のマンションで1人暮らしをしている。



実は彼はかなりのイケメンであり、性格も良いということで、



飲みに行っても、何処へ行っても、女性の視線を一身に集めてしまう。



一緒に飲みに行っても、必ず綺麗なホステスさんが真面目に彼に



一目惚れしてしまう様であり、彼がトイレなどで席を外した



際には、どのホステスさんも必死になって彼の連絡先を俺に



聞いてくる。



自分で聞けば?



と俺があしらうものだから、彼女達も仕方なく彼に連絡先の交換



をお願いするのだが、彼はそんな誘いも上手く誤魔化し笑いに



変えてしまう。



まあ、俺ならば、即答で連絡先を交換するのたが、何故か俺には誰も



聞いてこない(涙)



まあ、それは置いておくとして・・・・。



そんな彼には過去に結婚していた時期があった。



とても短い期間だけであり、当然、子供なども存在しない。



それでも、彼は再婚する気は毛頭無いのだという。



今回はその理由に関する話をしようと思う。



彼が結婚したのは33歳。



28歳の時、彼は転職し、その職場にいたのが結婚した奥さんだった。



その頃、仕事に関しても、そして自分の容姿に関しても彼は



かなり自信を持っていた。



それは過剰すぎるくらいに・・・。



確かに彼は仕事も出来たし、転職した職場でも、すぐに女性社員から



かなりのアプローチをされたという。



それは彼の自意識をより一層増長させていった。



しかし、そんな中でも全く違う態度で彼に接していたのが奥さん



だった。



奥さんは彼よりも年齢が3歳年上であり、職場では彼の上司だった。



そして、事ある毎に彼に冷たく接した。



そして、いつも、こう言っていたという。



貴方は自分の能力を過信し過ぎている。



もっと謙虚にならないと・・・。



今は運が良いだけなんだから、いつまでもそんな態度で仕事をしていると、



いつか痛い目に遭うから・・・・と。



しかし、その頃、完全に天狗になってしまっていた彼は、



偉そうに言いやがって・・・・。



負け惜しみ言ってるんじゃねぇよ・・・。



態度を改めなきゃいけないのはお前だろ!



といつも心の中で呟いていた。



そんなある日、彼は仕事でありえないほどの大きなミスをしてしまう。



彼の判断で、大の得意先である会社に甚大な被害を与えてしまった。



そして、それは当然、彼の会社自体にも、おおきな影響を



与えるほどだったという。



それを見て、周りの同僚や上司は一斉に彼から離れていった。



女性社員でさえ、彼とは一切口も利かなくなった。



そして、当然、上司である奥さんからも酷い叱責を浴びた。



ほら・・・言ったでしょ?



やっと自分の馬鹿さ加減に気付いた?



そう言われたという。



そして、彼は完全に会社内で居場所を失った。



会社を辞めようとも思ったが、その時の彼は完全に自信を



失っており、転職する気力すら無かった。



それどころか、今、仕事を辞めてしまったら、間違いなく生活苦



に陥ってしまう。



彼はそんな毎日の中で、会社からの辞職勧告に怯える生活を



送るようになる。



しかし、どれだけ月日が経っても、全く彼に辞職勧告は来なかった。



あれだけの損害を会社と顧客に与えたのに・・・・。



そして、その後、彼は、会社の部長から飲みに誘われて意外な



事実を知った。



最初、部長に飲みに誘われた時、彼はいよいよ遠まわしに自ら



退職を迫られるのだと思っていた。



しかし、話を聞いていると、どうやら真逆の内容だった。



どうやら、彼の上司である奥さんが、彼の擁護に回ったのだという。



奥さんは損害を出した会社に出向き何度も頭を下げた。



そして、その会社の被害が出来るだけ小さくなるように必死に動いた。



その結果、その会社の被害は当時想定されていた金額の半分ほどに



なった。



そして、結果的にその会社はそれ以後も、彼の勤める会社と取引を



続ける結論を出してくれた。



しかし、その時、彼の会社では既に彼への辞職勧告は決定事項に



なっていたのだという。



しかし、そんな中でも奥さんは必死に社内でも頭を下げて回った。



会社として既に決定事項になつていると判ったが、そんな事は



全く気にせず、役員会議でも必死に頭を下げて何度も懇願した。



そして、



どうしてそこまでして彼を庇うのか、と聞かれ、奥さんはこう言った。



彼には自分でも気付いていない高い能力があります。



それを引き出してあげられないとしたら、私は上司の資格がありませんし、



会社にとっても大きな損失になります。



彼にはまだ大きな未来があります。



失敗をして彼はそれまでの自分を悔いている筈です。



そして、此処にいらっしゃる役員の皆さんも、きっと過去には



大なり小なり失敗を経験して今の地位にあるのだと思います。



その失敗は全て会社の為に働いたうえでの失敗です。



そして、勿論、彼もそうなんです。



だから、今回の彼の一度だけのミスを許せず、彼を切り捨てる、と



言う結論しか導き出せない会社なのだとしたら、彼と一緒に



上司である私も責任を取って一緒に退社したいと思っております。



そう言ったのだという。



当時、奥さんは、会社内で、そして社長からも高く評価されていた



人材であった為、奥さんを失う事こそ、会社にとって大きな損失



になると考えた会社は、彼への辞職勧告を撤回した。



それは異例中の異例の決定変更だったという。



その話を聞いてから、彼はそれまでの態度を一変させ、真面目に丁寧に



働くようになった。



そして、上司である奥さんに対しても、忠実な部下として、素直に



指示に従うようになった。



そして、それからしばらくして彼は奥さんに告白した。



特に綺麗でもなく、彼の好みのタイプとは真逆な存在だったが、



それでも、彼の気持ちは揺らがなかった。



何度も断られたが、それでも彼は諦めなかった。



そして、とうとう根負けした奥さんは彼と付き合うことをOKした。



そして、それから数年後、彼は奥さんと結婚した。



そして、奥さんはそれを契機に会社を退職した。



彼の為に家のことをしっかりこなしたい・・・。



それが理由だった。



勿論、会社からは何度も慰留されたが、それでも、その頃には彼は



既に会社の中でも高い信用と評価を得ていたから、会社も



仕方なく、奥さんの退社を認めた。



付き合っている時から、そうだったが、彼と奥さんはまるで結婚する



為に生まれてきた様な存在だとお互いが感じていた。



お互いの足りない所を埋めあって、いつも幸せな時間が流れていた。



だから、彼と奥さんが結婚するのも誰もが必然だと感じていた。



本当にお似合いの夫婦だった。



しかし、別れは突然やって来てしまう。



その日の朝、正確には前日の夜だが、彼は奥さんと珍しく



口論になった。



彼が友達とかなり危ない場所へ登山に行くという話に奥さんが



反対した。



彼には山登りの経験など無く、そんな者が、登山家でも危険な山に



登るのはどうしても看過出来ない、と。



彼としてもせっかく親友が誘ってくれた登山であり、どうしても



その登山に参加してみたかった。



だから、彼はその日の朝も、



お前が何を言っても絶対に行くからな!



と捨て台詞を残して会社に出掛けた。



そして、彼の元に訃報が飛び込んできたのが、正午を回った頃だった。



奥さんは歩道に突っ込んできた車と壁の間に挟まれて即死だった。



彼が急いで病院へ駆けつけると、奥さんは安置所に横たわっていた。



とても綺麗な死に顔だった。



そして、その横には奥さんの所持品として、愛用のバッグと共に、



奥さんが彼の為に買ってきたであろう、登山用品が置かれていた。



それは、初心者が使う様な物ではなく、とても高価な一流品ばかりが



買い揃えられていた。



登山に行くと言った彼の事を奥さんがどれだけ心配し、そして反対は



しても、それでも出来るだけ危険が軽減されるようにと、必死になって



安全な用具を買い揃えてくれた気持ちに涙が流れた。



もう枯れてしまうのではないか、と思うくらいに涙が止まらなかった。



そして、同時に一番大切な物を失ったという現実に気付いた。



普通なら、もう二度と立ち上がれない程の悲しみだった。



しかし、彼は一週間ほど会社を休んだ後、しっかりと出社し、



以前にも増して仕事に没頭した。



それは、結婚する前に奥さんから教えられた仕事に対する姿勢と



仕事も含め全ての事は決して自分ひとりでやっている事ではなく、



周りに心配や迷惑を掛ける事は絶対に避けなくてはいけない、という



奥さんの信念に従ったものだった。



彼は出来るだけ早く出社しがむしゃらに働き、そして誰よりも



遅くまで仕事をするという日々を続けた。



仕事をしている時間だけはかろうじて奥さんの事を考えずに



済んだから・・・。



そんな生活が1年ほど続いた。



そして、その年の奥さんの命日はちょうど仕事が休みだった。



彼は朝から準備をして奥さんのお墓参りに出掛けようと車の



エンジンをかけた。



すると、何も設定していないのに、カーナビが目的地を表示していた。



それは、結婚前に奥さんと一緒に出掛けた海が見渡せる岬だった。



どうして?



それにしても、まだこんな履歴が残っていたんだな・・・・。



そう思った彼は、急遽、お墓参りを中止し、その岬に行ってみよう、



と決断した。



その岬には、何度も行ったことがあったし、何よりも仕事柄、



その岬への近道も当然知っていた。



だが、その時は何故かカーナビが指示する通りの道を使って



その岬へと向かおうと思ったという。



奥さんと最初にその岬に行った時のように・・・・。



そして、車を走らせ彼は彼は岬を目指した。



途中、



何で、此処を曲がらないの?



とか不思議に思う指示もあったが、それでも彼はカーナビが指示する



通りに車を走らせた。



そうしていると、まるで亡くなった奥さんが隣に座っていてくれる



様な気がしていた。



結局、彼がその岬に到着するのに1時間半かかってしまった。



普通に走れば、1時間くらいで着く距離だったが、彼はそんな事は



どうでも良かった。



自分でもよく分からなかったが、その行程はまるで隣に奥さんが座っている



感覚を常に感じながらの楽しいドライブだったから・・・。



彼は車を適当な場所に停め、車から降りた。



奥さんの命日だったが、何故かその時は、何度も一緒に来た



この岬で手を合わせてあげたかった。



彼は静かに目を閉じて手を合わせ黙祷した。



ごめん。



喧嘩したままで死なせちゃって・・・。



そんな言葉が自然と彼の口から出た。



すると、前方から、



本当にいつまでもメソメソして・・・・。



という声が聞こえた。



それは紛れもなく亡くなった奥さんの声だった。



彼は慌てて目を開けると、辺りを見回した。



すると、前方20メートルくらいの場所に誰かが立っている。



彼は突然、涙が止まらなくなった。



そこに立っていたのは、亡くなった奥さんの姿だった。



呆然としその場で立ったまま泣いている彼の方へと奥さんは



ゆっくりと近づいてきた。



本当にゆっくりと・・・。



そして、彼の目の前に来ると、奥さんはこう言った。



この場所、覚えててくれたんだ?



私の一番好きな場所・・・・。



すると、彼は泣き声でこう返した。



そんなの忘れるわけないじゃん・・・。



すると、奥さんはクスッと笑って岬の先端に向かって歩き出した。



彼は思ったという。



もしかした、奥さんは自分の事を恨んでいるのではないか、と。



喧嘩をしたまま死なせてしまった自分の事を・・・。



だから、このまま奥さんと一緒に連れて行かれても構わない、とさえ



思いながら、奥さんの後ろを歩いていった。



岬に向かって歩いている間、奥さんは一言も喋らなかった。



ただ、岬を走る風だけが大きく草を揺らす音だけが聞こえていた。



しかし、岬の先端に着くと、ゆっくりと喋りだした。



私、ここから見る景色が一番好きだった。



ごめんね。



1人にさせちゃって・・・・。



やっぱりびっくりした?



まあ、そりゃびっくりするよね・・・。



私、死んでるんだもんね・・・。



でも、死んでからもずっと一緒に居たんだよ・・・。



そして、頑張ってる姿を見てて安心してた。



ありがと。



もう大丈夫だよね。



だから、私の事はもういいから、早く新しい奥さんを見つけなさいね。



そうしないと、私も、ずっとあなたの側にいなくちゃいけないんだから。



そう言われた。



そして、彼が涙を流しながら、首を横に振っていると、



あのね・・・あなたには未来があるの・・・・。



いつまでも私なんかに拘ってちゃ駄目だよ・・・。



私はもう死んでるの・・・・。



それは曲げられない事実だから・・・。



あなたには何もしてあげられない・・・。



だから、あなたに伝えたくて出てきたの・・・。



早く新しい奥さんを貰いなさいって・・・・。



わかった?



約束だからね・・・。



そう言うと、奥さんは笑いながら涙を流し、



本当に今までありがとう・・・・。



本当に楽しい人生だった・・・。



あなたのお陰だよ・・・。



そう言って、深くお辞儀をした。



そして、お辞儀を終え、体を起こすと、そのままゆつくりと薄く



なっていき、そのまま消えていったという。



彼は困惑していた。



奥さんに会えた嬉しさと、変な約束をさせられた気持ちが入り混じって



自分でも気持ちの整理が出来なかった。



彼はそのまま岬の、奥さんが先ほどまで立っていた場所に跪くと、



思いっきり泣いた。



自分がこれほどまでに良く泣く人間だとは思っていなかった。



しかし、少しも恥ずかしいとは感じなかった。



そして、ひとしきり泣いた後で、彼は車に乗り、家路に着いた。



自宅に戻った時、もしかしたら奥さんが家の中で待っていてくれている



気がしたが、やはり家の中には誰もいなかった。



そして、彼は真剣に奥さんに言われたことを考えた。



自分にとって、そして、奥さんにとって、どれが一番幸せなのか、



ということを・・・・。



そして、彼は結論を出した。



結局、彼はその後も誰とも付き合わず、当然、結婚もしていない。



仕事が終わり、家に帰ってから、奥さんとの思い出が詰まった



写真を眺めては、思いを巡らすのが何よりの楽しみだという。



そして、それから毎年、彼は、奥さんの命日には、早朝にお墓参りを



済ませ、その足で、その岬に向かうのが恒例になった。



決して近道はせず、カーナビの指示に従って・・・・。



そして、その岬に行くと、毎年、奥さんに会ええるのだという。



最近は、愚痴やお叱りの言葉も聞かされるらしいのだが、それすらも



彼にとっては至福の時間なのだという。



今年もそろそろ、彼がその岬に向かう季節が近づいている。
  


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2018年11月09日

元カレが選んだ別れ

これは俺の趣味関係の友人に起こった話である。



彼女の年齢は30代だが、ずっと働きながらバンド活動をしていた。



そして、実は同じバンド仲間と交際していたらしい。



とても優しい彼の事を彼女も本気で好きだったという。



しかし、恋愛というものはなかなか上手くいかないものなのかもしれない。



ある事がきっかけで思わぬ彼の一面を知ってしまった彼女は、それまでの



彼への思いが一気に冷めてしまう。



その一面というのは、他人にとっては大したことではないのかもしれないが、



当人にとっては死活問題になってしまうらしい。



それでも、時間を少し空けて、という事が出来れば良かったのだが、



元々、その彼氏と彼女は同じ会社で働き、そして同じバンドに



所属していた。



そうなってしまうと、もう修復は不可能だった。



二人は別れ、そしてバンドもそのまま解散してしまう。



まあ、此処までの話は良くある話でしかない。



しかし、その彼氏はある意味、真面目で一途だったのかもしれない。



自分でも気付かないうちにストーカーのように彼女に付きまとう



様になってしまい、彼女は警察に相談した事もあったらしい。



いつも、彼女がアパートに帰ると、彼の直筆の手紙がポストに



入れられていた。



それは謝罪の内容だったのか、は分からないが、それが彼女の



嫌悪感を一層強めてしまう。



彼女は、彼の姿を見るだけでも、気分が暗くなってしまう様になってしまった。



だから、彼を見る度に、酷い言葉を浴びせたのだという。



そうなると、もう彼に諦めてもらうしかないのだろうし、勿論、彼女も



そう思っていた。



しかし、一途な彼は別の方法を選んでしまう。



ある日、彼女が仕事から帰宅すると、部屋のドアの前に誰かがいた。



そして、それはまるでドアの前でしゃがみこんでいる様に見えたという。



また、あいつだ・・・。



その頃の彼女にはもう彼への嫌悪感しかなかったのだから、そう思うのも



仕方が無いのかもしれない。



そして、文句を言おうと、ドアに近づいた時、彼女は絶句した。



そこには、ドアの取っ手にロープをかけて自殺している彼の姿が



あった。



彼女は大きな悲鳴をあげた。



そして、その悲鳴を聞きつけた近隣の住民が急いで救急車を呼んだ。



救急車はすぐに到着し彼は病院へと運ばれたが、そのまま死亡が



確認された。



その後、警察が来て色々と調べていたが事件性は無く自殺と断定された。



そして、その後、警察が見つけたというメモを渡された。



そこには、



”これで、ずっと一緒にいられる”



そう書かれていた。



元彼に、そして自室の前で自殺された事で彼女はかなり情緒不安定に



なってしまい、病院へ行くと、うつ病と診断された。



元彼を自殺にまで追い詰めた自分を責めると同時に、元彼への



嫌悪感は一層強くなっていった。



医者からは自分の事だけを考えなさい、と言われたが、とても



そんな気持ちにはなれなかった。



そして、うつ病という病は恐ろしいものなのかもしれない。



自分が元彼を殺したという気持ちが、自分は生きている価値が無い、



という気持ちに変り、自分も早く死ななきゃ・・・・という



気持ちへと変っていく。



そんな風に考えながら生きていると、何をやってもうまくいく筈がない。



仕事はうまくいかず、ツキにも見放され、そして友達もどんどんと



離れていった。



そうして彼女は以前からは想像も出来ないくらいに変ってしまう。



誰とも話さず、電話にも出ない。



一日中、部屋に篭ってラジオだけを聴いていた。



嬉しいとか悲しいとか怒るとかの感情が全て欠落していく。



髪も伸び放題、爪も伸び放題、化粧もしない彼女は、仕事も辞め、



障害者年金で細々と暮らしを続けた。



食事もほとんど摂らなくなった彼女は、どんどんと痩せていき、



たまに外に出れば、すれ違う人は皆、彼女を振り返った。



しかし、彼女はそれでも良いと考えていたらしい。



どうせ自分には生きている資格など無いのだから・・・と。



それからは全てが自然に、そして静かに進行した。



手首を切って死のうとしたのが最初だった。



お酒を飲んで手首をカッターで切り、そのまま沸かした浴槽につけた。



それで死ねる筈だった・・・・。



しかし、死に至るほど深く切れるものではなく、彼女は数時間後に目を



覚ました。



次に睡眠薬を飲んで死のうと思った。



病院で処方されて、飲まずに保管していたものを一気に飲んだ。



普通ならそれで死ねる筈だった。



彼女は偶然訪ねてきた大家さんに発見されて病人へ搬送された。



胃の洗浄は苦しくて、もう睡眠薬は使わないでおこうと決めた。



次に有名な樹海に行って死のうと考えた。



しかし、夜になった樹海はとても恐ろしく、彼女は大声で助けを



求めていたところを偶然通りかかった住民に助けられる。



そして、思ったという。



自分はなんと言う情けない人間なのだと・・。



死ぬ事すら出来ない・・・。



これじゃ、死んでいった元彼の方が余程立派じゃないのか、と。



だから、彼女は考え方を変えた。



それまでは出来る限り周りに迷惑を掛けない方法で死のうと思っていたが、



とりあえず手っ取り早く死ねるのなら何でも良い、と。



そして、駅のホームへと向かった。



特急が通過する様な小さめの駅を選んだ。



一瞬の痛みの後は何も感じなくなるから大丈夫・・・。



そう自分に言い聞かせて・・・・。



特急がホームに入ってくる。



白線から下がるようにアナウンスが流れる中、彼女はスーッと前に出た。



目前に特急列車が迫る。



彼女はそれを見ない様にしてホームへと飛び降りようとした。



と、その時、体の側面に誰がぶつかってきて彼女は突き飛ばされた。



目を開けると彼女は線路の上ではなく、ホームに倒れていた。



彼女の動きを不審に思った男性会社員に彼女は助けられてしまう。



それから駅の事務所で厳しく叱責された後、彼女は警察に



引き渡された。



そこでは彼女に対して精神病院への入院を遠まわしに勧められたが



彼女は即答で拒否した。



そんな所に入ってしまったら自殺など出来なくなってしまうから。



そして、彼女はできるだけ高い建物を探してみた。



しかし、そういう高い建物というのは簡単には屋上には行けなくなっている。



それでも、何とか9階建てのマンションを見つけて屋上に上った。



屋上のビルの縁に立っていると、風がとても心地よく、彼女はどうして



最初から飛び降り自殺を選ばなかったのかと後悔した。



しかし、どうやら屋上の縁に彼女は長く居過ぎたようだ。



通行人から、飛び降りようとしている人がいる、と言われ警察が



駆けつけてきた。



そして、屋上の縁に立っている彼女に必死で説得を続けた。



そのまま飛び降りても良かったという。



しかし、見物人が大勢集まっており、そんな中では、とても飛び降りよう



という気持ちにはなれなかった。



そして、今度こそ彼女は強制的に精神病院へと隔離されてしまう。



全てが監視下にあり、とても自殺が出来るような環境ではない、と



思われたが、それでも、首吊りなら出来るかもしれない・・・。



彼女はそう思った。



実は元彼と同じ死に方ただけは、したくなかった。



しかし、こうなった以上、もう贅沢は言っていられなかった。



そんなある日、俺とAさんは彼女を見舞った。



実は彼女が自殺しようとしていた時、不可解な目撃情報があったからだ。



睡眠薬を飲んだ状態で大家さんに見つかった時も、樹海で見つかった時も、



列車に飛び込もうとした時も、ビルから飛び降りようとした時も、



いつも彼女の隣に、若い男性の姿が目撃されていた。



それは、きっと自殺した元彼なのだと俺達は考えていた。



何故なら、彼女の友達が彼女の家に行ったり、近くを通った時には、



彼女のすぐ隣で、元彼が、彼女にまとわりついているのを何人もの



友達が目撃していたのだから。



勿論、バンド関係でお互いの存在は知ってはいたが、知り合いである俺とは違い



Aさんは彼女とは喋ったことも無かった。



そして、面会室で、彼女の変わり果てた姿を目の当たりにして俺は愕然とした。



しかし、Aさんは違っていた。



淡々と冷静に話し始める。



貴女が自殺願望に駆られているのは、間違いなく元彼の影響なの。



わかる?



実は私は自殺なんてする奴は大嫌いなんだよね。



もっとも、私にはそんな度胸も無いけど・・・。



ただ、自殺したらそこで終わりではないの・・・。



ずっと自殺を繰り返さなくてはいけない。



そして、それでも永遠に許されることはない・・・。



本当に自殺って損なんだよね。



だから、単刀直入に聞かせて・・・。



もしも、元彼の存在が貴女の側から消えたとしても、やっぱり



自殺したい?



もしも、そうだとしたら、私はこのまま何もしないで帰るだけ。



でも、生きたいって考えているのなら、私は貴女の力になれるの。



どうする?



これは貴女自身が決めなくてはいけない事だから・・・。



そう言って、冷たい目で彼女を見ていた。



すると、彼女の口が少し開いて、



もしも、生きていても良いのなら、生きていたい・・・・。



そう聞こえた。



すると、Aさんは少し嬉しそうな顔をして、



生きてちゃいけない人間なんて、殆ど居ないよ・・・・。



それに、それを決めるのはあなたじゃなくて回りの人間だから。



だから、これからは、そう思われないように精一杯生きなきゃ・・・。



という事で、少しだけ目をつぶっててね!



今、貴女に憑いているモノを取ってしまうから・・・・。



そう言うと、彼女は部屋の中で姿を現わせてはいない元彼に向かって



自殺したのはあんた自身の問題だろ・・・。



他人を巻き込むな・・・。



そう言って、Aさんが手をかざすと、一瞬、男の叫び声が聞こえた後、



すぐに静かになった。



すると、彼女の顔はそれまでとは比べ物にならないくらいに生気に



満ちた顔になっていた。



その後、彼女はすぐに病院を退院出来た。



そして、今では新しく仕事を見つけ、休日にはボランティアで



汗を流している。
  


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2018年11月09日

曰くつきのベッド

これは以前、看護師をしていた母親から聞いた話。



母が勤務していたのは、かなり大きな総合病院だった。



病床数はかなり多かったらしいが、それでも毎日のように新たな



入院患者がやってきては入院する。



だから、ベッドか空いても、すぐにまた埋まってしまう・・・。



それは病気もあれば、怪我もあるのだろうが・・・。



そして、病院のベッドが埋まるのとは反対に、空く場合も当然



存在する。



それは、退院という場合もあるのだが、やはり病院である以上は



患者さんが亡くなってベッドが空く場合も相当数存在するらしい。



そんな中には、曰くつきといわれるベッドも存在するのだという。



では、どういう曰くなのかといえば、



亡くなった筈の空いた病室から、ナースコールが鳴る・・・。



そのベッドで寝ていると、夜中に誰かがすぐ側に立って見つめている、



など、よく聞く話が多いらしい。



そんな中でも最も恐れられ問題になっているのが、



そのベッドで入院した患者さんが



間違いなく亡くなってしまうベッドなののだという。



それは個室という訳でもなく、6人部屋の中の窓際のベッドだった。



何処にでもある普通のベッドである。



そして、霊が現れたりナースコールが鳴る事も無い。



ただ、そのベッドを割り当てられた患者さんは、例外なく皆、



死んでいった。



勿論、最初は、誰もそんな事は気にも留めていなかった。



忙しさに忙殺されてしまい、細かい思考が停止するほどの忙しさ。



だから、石も看護師も皆、思っていた。



ただの偶然だと・・・。



だから、その患者さんの希望や病状に合った病室やベッドを、何も気にせず



割り当てていた。



しかし、そうしてそのベッドを使用していると、不可解な事が連続した。



そのベッドに入院した患者さんが無事手術を終えて、数日後には



退院という段取りだったらしいが、ある朝、看護師が見回ったときには



既に亡くなっていたのだという。



また、こんなこともあった。



若い男性が部活動で足を骨折してしまい、そのまま入院した。



しかし、その男性は手術を受ける間もなく、入院日の翌日の朝、



死亡が確認されたという。



そのどれもかが死の危険など全く無い様な軽い状態の患者だったが、



原因が分からないまま死亡していた。



当然、死因は心不全とされるらしいが、肉親にとっては堪ったものでは



ないだろう。



そして、そのベッドが死の原因なのではないか?という噂は



医師や看護師よりも、患者さん達から広まっていった。



そして、その噂が耳に入った医師たちは、



そんな事はただの偶然に過ぎないから・・・。



と言って、聞く耳を持たなかったという。



それはそうだろう。



医学という最先端の技術に裏づけされて存在していた医師たちに



とって、そんな事を自ら信じることは、愚かとしか言えない。



だから、ある時、軽い病気になった医師の家族をそのベッドに



入院させた。



それは、変な噂を鎮めたいという願いもあったのだろう・・・。



しかし、それから間もなく、医師の家族は、夜普通に寝たまま、



朝には亡くなっていた。



やはり病名は心不全とされた。



そんなことがあってから、そのベッドには基本的には



誰も割り当てられなくなった



どうやら病院も重い腰をようやく上げたという感じだった。



しかし、病院としても経営も大切であるらしく、切に早期の入院を



希望されると、仕方なくそのベッドを使用させた事もあったらしい。



しかし、結果としてそのベッドを利用した患者は次々に死んでいった。



相変わらず、病院の怪異として語られる様な心霊現象も、その病室や



ベッドでは全く



起こってはいなかった。



そして、さすがに患者の心不全での死亡が立て続けに続いた為、



病院としても



一度、そのベッドを倉庫に片付けたことがあるらしい。



しかし、その間、偶然かもしれないが、同じ病室の



他のベッドでの患者の死亡が



多発するようになった。



しかも、到底、死に至る様な病状ではない患者ばかりが・・・・。



そして、結局、そのベッドは再び、病室に戻された。



そして、ベッドが戻された病室というのは、どうやら以前とは



別の病室だったらしい。



しかし、やはりそのベッドでの患者の死亡は止まらなかった。



そこで、その曰くというものが、病室ではなく、そのベッドに起因



しているものだと判断されたらしい。



そして、病院側も、超自然的な現象と捉え、過去にそのベッドで



忌まわしい過去が存在しているかも調べたらしいが、特に不自然な



ものは見つからなかったという。



ただ、その話が院長の耳に入った時、院長が、何かに怯えるような



顔で、



私は何も知らんよ・・・と言った後、必死に首を横に振っていたらしい。



結局、そのまま原因が特定されないまま、そのベッドは利用され続け、



暗黙の了解として、高齢の患者さんや末期の患者さんが割り当てられる



事になった。



死ぬはずの無い患者が死ぬくらいなら・・・。



悲しいことだが、それが病院側に出来る最善策だった。



そして、それから数年後、母がその病院を退職するまで、その



ベッドは利用され続けていたという。



沢山の命を飲み込みながら・・・・。



そして、母は最後にこう言っていた。



それから、いくつかの病院で働いたけど、どの病院にも大なり小なり



そのベッドと似たような物が存在しているのを知ったんだけど、



例えば、そのベッドに死神か悪魔が住み着いてるとしても、



今にして思えば、そういう曰くつきのベッドを公表も告知もせず、



そのまま



患者さんたちに割り当てていた病院、そして人間が一番恐ろしい



のかもしれないね・・・・と。
  


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