2019年05月01日

生きるという事

これは知人女性から聞いた話。

彼女は元々の生まれは四国のとある県なのだという。

大学進学で石川県にやって来て、そのまま金沢市の会社に就職した。

俺とは直接のつながりは無かったが飲み友達の紹介で知り合ったという関係。

何事にも流されてしまう彼女の生き方はよく言えば今風なのかもしれないし、

悪く言えば、自分に自信が無いのかもしれない。

そんな彼女がある時、四国の実家から呼び出された。

かなり疎遠になっていたから彼女としても久しぶりに両親や親戚の顔でも

見よう、という軽い気持ちで帰省したそうだ。

ところが、実家に戻ってみると、そのまま本家の在る隣の町まですぐに連れて

行かれたという。

どうやら、彼女の家系はかなりの資産家として地元でも有名らしく何をするにも

仕来たりだとか本家の意向というものが最優先された。

そして、彼女自身もそんな古い風潮が嫌で、わざわざ大学進学の際、遠く離れた

石川県を選んだ様なのだが・・・・。

本家に連れて行かれた彼女は突然驚くべき事実を告げられた。

それは、どうやら彼女の寿命に関する話だったらしく、唐突に残された寿命が

残り1年しかないと聞かされた。

確かに、彼女の家系では数十年に一度くらいの割合で若くして亡くなってしまう

者がおり、それがその家系の根源に関わる罰のようなものなのだと聞いた

事はあった。

しかし、まさか、その生贄が自分に回って来るとは思ってもいなかった。

両親たちの顔を見ると、申し訳なさそうにしているだけで特に何も言ってくれない。

結局、彼女はその事実だけを告げられると、そのまま半ば強制的に本家から

追い出された。

そして、自分の家族や親戚を巻き込みたくなければ、このまま静かに誰とも

会わずに帰りなさい・・・・。

そう言われたそうだ。

まさに青天の霹靂といった彼女としては、当然そのまま帰るわけにも行かず

何とか親戚や従兄弟に会って相談させて貰おうとしたらしいが、どの家でも

まるで門前払いの様に追い返された。

そして結局彼女はそのまま地元を離れて石川県に帰るしかなかった。

ただ、彼女が自分のアパートに戻り悶々とした日々を送っていると、突然

母親から電話があったそうだ。

電話の向こうからは母親の泣き声ばかり聞こえ、ごめんね・・・・ごめんね・・・

と呟く声だけが記憶に残ったという。

ただ、その電話の際、彼女はある事実を聞かされたのだという。

詳しくは分からなかったが、どうやらその呪いの様なものは犬神様に関係が

在るらしく、本家の当主が生まれてから死ぬまでの間に生贄となる者を1人選び

差し出さなければ、その家系の本家が呪いに満たされ廃れてしまうという事

だった。

だから、本家の人間が一族の中から生贄になるべき人間を選び、分家筋の者は

その決定に従わなければいけない。

本家の決定は絶対であり、逆らう事は許されないことであり、何より本家の衰退は

一族全員の根絶を意味しているそうであり、だから誰もその決定に反対できる

者はいない。

そういう話だった。

彼女は母親の電話の後、しばらくは茫然として部屋から出なかったが、本当に

この現代において、そのような呪術的な呪いが実在するのか?と疑問を感じると

急いで色んな占いや霊能者の元を訪ね回った。

しかし、どの占い師も、そして霊能者も彼女の顔を見るなり、

口籠って何も言えなくなるか、もしくは、はっきりと

貴女には死相が出ています。間違いなく1年以内に命を落とします!

と告げられるだけだった。

彼女が初めて感じる絶望は彼女の生活をどんどん暗く生気の無いものにしていく。

そして、偶然、街中で彼女と出会った俺は、彼女の容姿の変わり様に唖然とし

これはただ事ではないと感じたのは言うまでもない。

そして、彼女と喫茶店に入り彼女から話を聞いた俺は、いつものようにAさんに

助けを求めた。

どうやら寝起きだったAさんはとにかく機嫌が悪かった。

それでも何とか頼み込んで待ち合わせのファミレスに来てもらった。

彼女を見ても、Aさんは、

あっ、ども・・・・・。

と言うばかりで気乗りしないのが伝わってくる。

俺は何とかメニューから好きなものを頼んで良いから・・・という条件をつけて

ようやく彼女の話を聞いてもらう事が出来た。

彼女の話を聞き終えたAさんは、

う~ん。これはかなり厄介な話ですね・・・・・。

確かに死相もはっきりと出てますし・・・・。

もう手遅れというか・・・・・。

それに他の占い師や霊能者からも、その呪いみたいなもので貴女の寿命は

あと残り1年くらいだって言われてるんですよね?

だとしたら、そういう事なんじゃないですか?

それが現時点での貴女の運命という事です。

そう言われて、彼女は明らかにがっくりと肩を落としている。

俺はAさんに、

あのさ・・・・もしも、そうだと下も、もう少しソフトな言い方って出来ないの?

と声をかけるとAさんはこう続けた。

だって、これが現時点でのこの人の運命なんですから遠まわしに言ったって結論は

同じじゃないですか!

それと、貴女に質問したいんですけどいいですか?

そう言われた彼女はハッとして顔を上げた。

すると、Aさんはかなり強い口調でこう言った。

それにしても、どうして貴女はそんなに暗くどんよりとしてるんですか?

まるで生きた屍の様にしか見えませんけど?

そんな顔してると1年生きれるのが1か月になってしまうかもしれませんよ?

残りの人生が1年と言われて長く感じる人もいるかもしれないし、短いと感じる

人も勿論いるんでしょうね?

でも、今の貴女の状態でたとえ1年の寿命が10年に伸びたとしてもしょうがない

のかもしれませんよね?

生きたくても病気で長くは生きられない人もいて、逆に自殺という形で

自分の人生を短く終わらせようとする人もいる。

勿論、自殺は論外ですが、結局、人生なんて大切なのは長さじゃなくて中身だと

私は思ってます。

生まれてから十数年しか生きられない人の中にも充実した幸せな生き方をした方も

いる筈ですし・・・・。

だから、もしも私が貴女の立場ならこう考えますけどね・・・・。

呪いか何か知らないけど絶対にそんなものに振り回されないぞ、って。

自分の為でも良いし他人の為でも良いからとにかく何かをこの世に残す為に

精一杯生きますね・・・・。

1分1秒も無駄にしない様に・・・・。

そうしたら、もっと違うものが視えてくるかもしれませんからね・・・・。

とにかく呪いなんかに振り回されないで残された人生に悔いが残らない様に

生きてみたらどうですか?と。

そこまで聞き終えた彼女はしばらく黙っていたが、突然立ち上がると、

そうですね・・・・そうなのかもしれません・・・・。

そう言ってお辞儀をして急いでファミレスを出ていった。

そして、その場に残されたのは頭を抱えてぐったりする俺と、大量の料理に

目移りしながら凄い勢いで食べる事に没頭するAさんだけだった。

気まずい空気が流れつつその場はそのままお開きになった。

そして、俺は翌日、彼女にお詫びの電話をかけた。

電話に出た彼女は、

あっ、Kさん、昨日はありがとうございました。

それと、今忙しいので、後から電話して貰っても良いですか?

と元気な声で言われ、急いで電話を切った。

そして、元気な声を聞けた俺はその後彼女に電話をかける事はしなかった。

ただ、周りからは彼女に関して色々な噂が耳に入って来た。

ボランティア活動に精を出している・・・・。

仕事をとても頑張っている・・・・。

幾つかのサークルに参加して余暇を楽しんでいる・・・・。

婚活に邁進している・・・・。

犬を飼い始めた・・・・。

それらはとても以前の彼女からは想像も出来ないことであり、そうしている事で

彼女は以前とは違い、とても輝いて視える、と聞かされた。

そんな話を聞いてから、もう既に1年半以上が経過している。

そして、彼女が死んだかといえばNOである。

今でも一層充実した日々を過ごしているようだ。

そして、Aさんに会う機会があった俺はこう聞いてみた。

あのさ・・・あんな冷たい態度とってたけど、本当はその呪いみたいなものを

断ち切ってあげたんでしょ?と。

すると、Aさんは一瞬、ポカンとした顔をしたから大笑いしてこう言った。

Kさんって、本当におめでたいというか幸せな人ですよね?(笑)

そんな簡単に呪いなんか断ち切れるわけないじゃないですか・・・と。

そう言われた俺は、

それじゃ、やっぱり寿命が1年しかないっていう呪いは単なるデマだったの?

と返した。

すると、Aさんは、

いえ、きっとその地方に昔から伝わっているものですから、きっと本物の

呪いだと思いますよ・・・。

だから、あのままだったら、彼女もきっと1年と持たなかったのかもしれませんね。

でもね…私はこう言ったんですよ。

「現時点での運命」だと・・・・。

運命なんてその人次第でいくらでも変えられるんです・・・・。

人が純粋に人生を楽しもうとする力は、呪いにも勝るということです・・・。

呪いか何か知りませんけど、そんなものに人生を決められたたまるかって

事ですよ!

だから彼女がまだ生きているのだとしたら彼女は呪いに勝ったんですよ!

知らないうちに自分の力で・・・・。

人間にはそれだけの力がしっかり宿ってますから・・・。

皆が気付かないだけで・・・・・。

だから、もう大丈夫ですよ!

彼女は間違いなく長生き出来ますから!

そう言われ、俺は思わず納得してしまった。

しかし、その後すぐに疑問が浮かんだ。

これだけ立派な事を言ってのけるAさんなのだが、Aさんこそ、もっと真剣に

一生懸命に生きるべきではないのか?と。

まあ、Aさんには、どんな聖人のありがたい言葉もきっと届かないとは

思うのだが・・・・・。
  


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:40Comments(24)