2019年05月26日

古いアパート

それは知人女性からの突然の依頼だった。

相談に乗って欲しいと頼まれた俺は、次の日曜日に彼女に会う事にした。

待ち合わせの喫茶店に少し早く着いてしまった俺だったが、驚いた事に既に

彼女がその店に座ってぼんやりと窓の外を見つめているのを見つけた。

声をかけると、彼女は少しだけ微笑むと小さくお辞儀をした。

疲れているからなのか、まだ30代の彼女はやけに老けて見えた。

どうしたの?・・・・突然・・・。

そう切り出すと彼女は深いため息をついてから、こう話し出した。

実は、半年ほど前に祖父が亡くなったんです。

それなりの資産家で、遺産の整理の際には、とても荒れてしまって・・・。

でも、何故か祖父の遺言で私が祖父が所有していたアパートを相続する事に

なったんです。

そのアパート自体は、古い建物で、資産価値も残っていない様な物なんですけど、

一応、部屋は満室で・・・・。

でも、家賃も安いから、アパートの修繕なんかを計算に入れると、利益なんて

殆ど出ないんです。

だから、最初の頃は、なんか凄いお荷物を相続しちゃったな、って感じで。

でも、違ったんです。

なんか、そのアパートの十院の方達はとても素敵な人ばかりで、毎日顔を

会わせているうちに、凄く仲良くなってしまって・・・。

その時、初めて気付いたんですよね。

祖父が私に何を託したかったのか?

だから、そのアパートは今ではもう私の生き甲斐にさえなってしまって。、

そこまで聞いた俺は、

それなら、全然問題無いんじゃないの?

なのに、どうして、そんなに暗い顔をしてるの?

と聞き返した。

すると、彼女は、更に深いため息をついて、俺の顔をまじまじと見つめながら

こう続けた。

実は・・・・出るようになってしまったんです・・・・幽霊が・・・。

ちょうど近くに在った廃ビルが取り壊された時から始まったんですけど。

最初は声が聞こえたり、物音が聞こえる程度だったんです。

でも、段々とエスカレートしてきて・・・・。

夜になると、住人の方達が幽霊を見るようになってしまって。

階段に男の人が立っていてスーッと消えたり、廊下にも女の人が立って

手招きした後に消えたり・・・・。

でも、住人の方達も、やっぱりそのアパートが大好きなので、怖いけど

何とか我慢していたんです。

でも、それからもどんどん酷くなっていって・・・。

寝ている時に首を絞められたり、階段から突き落とされたり・・・・。

そんな感じで実害が伴ってしまうと、さすがに住人さん達も堪らなくなって・・・。

1人、また一人という感じでアパートから出ていってしまって・・。

残ってるのはもう数人だけ・・・。

アパートに住んでいらっしゃった方達は、皆さん経済的に余裕がなくて、そして

何処にも身の拠り所が無い方達ばかりなのに・・・・。

だから、私は一刻も早く、あのアパートを以前と同じように明るくて平和な

アパートに戻して、そして出ていった住人さん達を呼び戻してあげないと・・・。

そこで、以前、霊的な事を相談した事があったKさんを思い出して・・・。

Kさんなら何とかしてくれるんじゃないかな・・・・って。

やっぱり無理ですか?

そこまで、聞いて俺は、

まあ、俺一人じゃ無理だけどね・・・。

で、その幽霊っていうのは、貴女も視たの?

首絞められたり階段から突き落とされたり、もした?

と尋ねた。

すると、彼女は首を横に振って、

私に実害はありませんでした。

でも、私もはっきりと視たんです。

1人とか2人という感じではなくてもっと沢山の霊があのアパートに何故か

集まって来てるみたいで・・・・。

そこまで、聞いた俺は、

あのさ・・・・解決する為にある程度のお金って用意出来る?

と聞くと、彼女は、

相場っていうのが分からないんですけど30万・・いえ50万位なら・・・・。

と返してきた。

そして、

あの・・・・前金の方が良いんですかね?

と聞いてくるので、俺は、

いや、そんな大金必要無いし、現金も必要無いから・・・・。

現物支給が良いみたいだよ・・・・。

あっ、それといつもなら高価でちょっと手が出ないくらいの美味しいスイーツの店

って知ってたりする?

と返した。

彼女は意味が分からないという顔をしていたので、俺はすぐに携帯を取り出して

Aさんに電話をかけた。

はい?もしもし・・・・。

相変わらずの面倒くさそうな返答。

だから、俺はいつものように手際良く用件を伝えた。

すると、Aさんは、

まあ、分かりましたけど・・・。

でも、今、本当に忙しくて手が離せないんですよね!

Kさんみたいに暇なら良かったんですけど・・・。

それに話を聞いた感じだと、そんなに悪質なモノではない気がします。

急がないと誰かが死ぬ・・・・とか。

だから、今回はKさんが1人で対応してください。

そう言われた俺は、

俺が1人でやれる訳ないでしょ?

と返すと、

ちゃんと方法は教えますから、大丈夫ですよ!

それに基本的にKさんは何も危険な目に遭わなくても良いんですから。

いいですか。

良く聞いてくださいね。

まず、そのアパートの住人には、一時的に部屋を出てもらいます。

それから、ここが重要なんですけど・・・。

霊感がゼロの知り合いを集めてください。

そのアパートの部屋の数だけ・・・。

出来れば、Kさんみたいに、ぼーっとしている人が、よりベターです!

そして、その人達にバイト代を支払ってアパートのそれぞれの部屋に一時的に

住んでもらいます。

それだけで、大丈夫ですよ!

そう言われた。

だから、俺は、

あのさ・・・もつと霊感の強い奴とか守護霊が強い人とか、そういう人が居た方が

良いんじゃないの?

それに、Aさんが忙しいんなら、代わりに保険として姫にもその部屋に住んでもらう

とかした方が良いんじゃないの?

と返した。

するとAさんは、深くため息をついて、

本当に予想を裏切らないボケっぷりですよね?

ちゃんと、起きてますか?

あのですね。

私の意図する真意というものを全く理解していないみたいですけど・・・。

今回のやり方だと、霊感がある人間が居てはいけないんです!

しかも、姫ちゃんも忙しいだろうし、それに姫ちゃんに協力させたりしたら

霊も綺麗に浄化出来る代わりに、そのアパートも木っ端みじんになるかもしれません。

あの娘、まだ力のセーブが上手くないですから・・・・。

大丈夫てすよ。

きっとうまくいきますから・・・・。

そう言って電話は切れた。

だから、俺は仕方なくAさんの言われたとおりに、出来るだけ霊感がゼロの知人を

集めてそのアパートに送り込んだ。

事情を話すと、それぞれが格安のバイト料で協力してくれた。

そして、結論として、1週間も経たずに、そのアパートで怪異が起こる事が

無くなった。

彼女はすぐに元の住人達を呼び戻し、今では以前と変わらない穏やかな生活を

送っているそうだ。

そして、後日、Aさんと会う機会があり、その時の事を聞いてみた。

すると、Aさんは面倒臭そうに説明してくれた。

あのですね・・・・あの時電話で事情を聞いた時、思ったんですよ。

なんか人間の地上げ屋と似てるな・・・って。

そんな霊障の事例って良くあるんですけど、要はそれまで住処にしていた

場所が無くなった事で霊達が新しい住処を探していたんだと思います。

そして、その古いアパートが目に止まった。

なんか、住みやすそうだな・・・って。

そうなったら、霊達も死活問題ですから、何としてでも其処に居る人間を

追い出そうとしますから・・・。

大怪我させたり殺したりするつもりはないけど、少し痛い目に合わせて、そして

怖がらせて・・・。

確かに普通の人間だとキツイかもしれませんけど、霊感が限りなくゼロに近い人間

にとっては、全く何も感じないんですよ。

どんなに嫌がらせをしても全く気付いてさえもらえないとしたら、霊達だって根負けして

そのアパートを諦めるのが普通ですからね。

だから、あの時は霊感がある人はNGだって言ったんです!

理解できましたか?と。

確かに、Aさんが言ったとおり、そのやり方であのアパートから霊達を

排除する事は出来た。

だから、俺はこう言った。

それじゃ、これからはもっと霊感がゼロの人間といっぱい知り合うようにしなきゃ、と。

すると、Aさんは、冷たい眼で俺を見ながら、

本当にいつもおめでたい人ですよね・・・・。

そういうパターンはごく稀なケースですから・・・。

その殆どが、その土地とか其処に住んでいる誰かに恨みがあって霊障を起こします。

霊感ゼロの強みが活かされるのはせいぜい低級霊です。

悪霊とか怨霊になったら、もうそういうのは関係ありませんからね!

って、こう言う話、以前にもしませんでしたか?

一度聞いた事はしっかりと頭に叩き込んでくださいね!

そんな事だから、いつまで経っても雑用係りのままなんですよ!

と、怒られてしまった。

その後、彼女からそれなりの金額の謝礼が届けられたが、スイーツ代だけを

差し引いて、そのまま返却したのは言うまでもない。

  


Posted by 細田塗料株式会社 at 19:46Comments(27)

2019年05月23日

Aさんと霊との距離感

Aさんと知り合ってかなりの年月になる。

1人の人間としてみれば、容姿はともかくとしてかなり癖のある偏屈者

なのかもしれない。

そのせいか、本当に仲の良い友人というのは俺の知る限りかなり限定される。

その点は、もう一人の霊能者である姫とは全く正反対だと感じる。

本当におっとりして誰も嫌わず、そして恨まず、誰とでも自分から仲良く

なろうと努力している姫。

そんな姫の側には本当に沢山の友人や仲間がいる。

ただ、それはあくまで円滑に大学生活が送れる様にする為のものであり、

本当に心を開けるのはほんの数人であり、最も信頼しているのがAさん

なのだという。

そんな事を聞いてしまうと、親友なんて1人か2人いれば十分なんです!

と言い切るAさんとは根本的に同じなのかもしれない。

ただ、敵を作らず社会の中に溶け込む、という意味では圧倒的に姫に軍配が

あがると思うのは俺だけなのか・・・。

そんなAさんには、人間の友人は少ないが、霊の友人はかなり多く存在している

のを俺は知っている。

もしかして、いざという時に味方に付いてもらったりする為なの?

と俺が聞くと冷たい眼で、

私はそんな打算的な事は大嫌いなので・・・・。

と言われてしまう。

つまり、Aさんとしては、人間同士、損得勘定の中で付き合うよりも、そういう

損得勘定が存在しない霊達との交流の方が心を開けるのではないか?と俺は

最近思い始めた。

それはAさんがいつも言っている、

人間も霊も同じですよ・・・・。

霊だって、元々は人間だったわけですから・・・・・。

という言葉からも容易に想像できる。

そう言えば、Aさんから以前、こんな話を聞いた。

現世に残っている霊というのは、その殆どがこの世に未練を残した悲しい霊なんです。

特に悪い事をする事もなく、ただ現世に生きる誰かを護ったり見守ったりする為に

現世に残っているんです。

現世に残るだけで、それなりの苦痛を伴うというのに・・・・。

だから、そんな霊には悪い奴なんて1人もいませんよ。

それこそ、人間を助けてくれたりもしますから・・・・。

そしてね・・・・そんな霊達と話してみるとなんか私の気持ちも軽くなるんですよね。

この世の中にの嫌なこととか、一気に吹っ飛んでしまいますから!と。

そう聞いて俺が、

それじゃAさんは霊達といったいどんな話をしてるの?

と聞くと、

まあ・・・いろいろですかね・・・・。

その霊の過去の話を聞いてあげたり、ただぼんやりと一緒に景色を眺めてる事が

多いですかね!

と答えるので俺が、

それじゃAさんは、その霊達にどんな話をしてるの?

と聞くと、

ええ・・・まあ、愚痴が多いかもしれませんね・・・・。

私の仲間がこんな失敗をした・・・とか、

私の仲間がどれだけ使いものにならないか・・・・とか。

そう言われて、俺が、

あの・・・もしかして、それって俺の事言ってる?

結構、頑張ってると自分では思ってるんだけど?

と返すと、

まあ、いいじゃないですか!

そんな話をすると、霊達も嬉しそうに笑ってくれるんですから!

と言われ、何も言えなくなる。

そんなAさんだが、現世に居る所謂、悪霊というものに関しては一切容赦がない。

まさに、鬼畜というか冷酷な態度で一切容赦がない。

いいんですよ。

この世に誰かに害をなす為に残った霊なんかに慈悲なんか必要ありません。

誰かを呪ったりとり憑いたりして命まで奪おうとする・・・・。

それって、猟奇殺人犯と何も変わりませんからね・・・・。

そう言ってAさんは、いつも自分を正当化するが・・・・・。

俺は今まで本当に沢山の場面に遭遇してきた。

勿論、AさんのドSっぷりを目の当たりにした現場。

Aさんは、たとえ相手が悪霊であっても相手がかなり格下だと分かるとかなり

大胆な行動に出る。

例えば、霊の侵入口の扉を少しだけ開けておき霊が指をかけた途端にその扉を

勢いよく閉める。

不思議と霊が手を挟むという事もないのだが、そんな時、俺は霊がびっくりしたような

茫然としている様な顔を何度となく見てきた。

また、別の時には、毎夜、霊が枕元に出て、じっと顔を近づけてくるという

友人の代わりにその蒲団に寝て、現れた霊に、

何見てんの!

と、Aさんの方からその霊に顔を近づけていく。

その時の霊の方が怖がっている顔に、その友人は霊の方が可哀想になったそうだ。

更に別の時には毎夜、カーテンの外から

窓を開けて~

出ておいで~

、と聞こえてきて眠れなくなっていた友人と一緒にその部屋で待ち伏せし、

その声がきこえた途端、窓を急いで開けて、霊の目の前に行き、

窓開けましたけど?

出てきましたけど?

で、これで、あんた、何かしてくれるの?

人を呼び出しといて手ぶらで帰らせないでよね?

と霊を恫喝する。

その時の霊の泣きそうな顔を見て、心が痛んだ、とその友人も言っていた。

また、池に霊が現れると聞けば、ずっとその場で待機して、霊が現れた

瞬間、池の中の霊に向かって小石を投げ入れる。

そして、その霊は虚しそうな顔で、そのまま池の中へと消えていったそうだ。

確かに、それ以後、その友人達の前に霊が現れる事が無くなったそうだから、

結果としては問題無いのかもしれない。

そして、普通の人間なら絶叫するような場面でもAさんは全く動じない。

以前、霊が出るという家の探索をしている時、クローゼットを開けると

そこには恐ろしい形相の男が睨んでいる時があった。

俺に頼まれて嫌々出向いた心霊スポットで、Aさんが振り返ると、そこには

Aさんの目の前に立つ細く背の高い女が怖い顔でAさんを睨んでいた。

普通なら、ビクッとしたり悲鳴を上げるのが当たり前だと思う。

実際、その場に居た俺や姫はビクッとなり小さな悲鳴をあげた。

しかし、Aさんはといえば、

あっ、ちょっと邪魔なんだけど!とか

何か用?

用が無いなら出てくんじゃないよ!

そう言って、まるでゴミでも掃うかのように片手でふり払う。

心霊スポットといわれる場所に入る時も、Aさんは、その場所が

あたかも自分の所有物であるかのように、土足のまま、ズカズカと

何も言わずに入っていく。

明らかに霊というものに全く恐怖を感じていないのが良く分かる。

しかし、俺に言わせれば変な言い方かもしれないが、霊に対する敬意を

欠いているとしか思えない。

その点、姫は霊というものを恐れているように見える。

おっかなびっくりで、どうしようもなくなった時にだけ、

いや~、来ないで・・・・ごめんなさい・・・・とあたふたとしながら、

気が付けば目の前の悪霊も含め、全てが消え去っている。

そして、心霊スポットに入る時も、姫はまるで挨拶まわりでもしているかのように、

ごめんください・・・。

失礼致します・・・・。

どなたか、いらっしゃいませんか?

と意味不明なほどの丁寧さで挨拶し、そのうえ、自分の靴までも脱ごうとする。

まあ、それはそれでやり過ぎな気もしないでもないが・・・・。

だから、俺は一度、Aさんに意見した事があるのだが当のAさんはと言えば、

緊迫した状況の空気を和らげようと思った、とか、ついつい遊び心で・・・・とか

言い訳をしてくる。

まあ、Aさんにとってみれば、対して悪い事もしていない人を怖がらせているだけの

霊に対しては、そんなに怖がるものでもないんだよ!という事を教えようと

しているのかもしれないが・・・・・。

まあ、ある種のAさんなりの愛情表現なのかもしれない。

そう思うのは、やはりAさんには霊の友人というのがとても多いから・・・・。

もはや、人間だからとか霊だからという区別はAさんには存在しないのかもしれない。

そういえば、悪霊というものに対するAさんも、その対応は人間に対するものと

同じなのかもしれない。

人間でも霊でも、Aさんは自分の中のルールから逸脱したような許せない

相手には、たとえ相手が誰であろうと、決して自分を曲げず、

一切容赦はしないのだから。

その点で言えば、姫という存在はその真逆の位置にいるのかもしれない。

誰とでも出来るだけ仲良くしいつも笑顔を絶やさない。

ふんわりした雰囲気があるので姫を嫌うものは異常に少ない。

それでも、どうしても許せない相手には、にっこりと笑いながら、一撃で

とどめを刺す。

まあ、そう考えるとやっている事はAさんとさほど変わらないのかもしれないが。

その辺の話もいずれ、この場所でお話できれば、と思っている。
  


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:18Comments(20)

2019年05月22日

令和元年5月場所?

営業のKです。

皆さん、おはようございます!

コメント欄がかなり増えてきましたので、

こちらに新しく交流広場を設けさせて頂きます!

体調を崩されている方や大雨の被害に遭われた

方もいらっしゃるようですが、

お互いに頑張りましょう!

それでは、ご自由にお使いください!
  


Posted by 細田塗料株式会社 at 05:01Comments(39)

2019年05月15日

呪われた結婚式

これは知人女性から聞いた話である。

彼女にはとても仲の良い友達がいた。

会社に同期として入社して以来、その女性とはいつも休みの日になると

一緒に何処かへ出かけていたそうだ。

だが、何年か経つうちに、彼女の方から誘ってもなかなか会ってくれなくなる。

そんな感じで疎遠になった頃、その友達から結婚の招待状が届いた。

慌ててその女性へ電話をかけお祝いの言葉をかけると、照れ臭そうに

ありがとう!と言ってくれた。

彼女にとってもこれ以上無いほどに嬉しい知らせであり驚きだったという。

それから、結婚相手である彼氏を紹介もされたし、これからもずっと

親友で居てね!とも言われた。

二人はまさにお似合いのカップルであり、彼女にはまだ彼氏もいなかったが

そんな事はどうでも良かった。

後は、二人の幸せな結婚式を待つばかり・・・・。

彼女はそう思っていた。

しかし、ある日、彼女の元に訃報が届いた。

それは妻となるその女性が運転中の事故でそのまま即死したというものだった。

信じられなかった。

結婚式まで、あと2週間あまりだった。

彼女は酷く落ち込んでしまったが、夫になる男性の悲しみを思えと

胸が苦しくなった。

彼女の葬儀は、しめやかに執り行われ、彼女も当然、参列した。

結局、棺のふたが開けられる事はなく、最後の対面も叶わなかったが、

葬儀に参列した者達は、その事故が相当無残な死に方だったのでは?と

噂していた。

そして、そんな中、気丈に振る舞う彼氏の姿が可哀想で見るに堪えなかったという。

そして、葬儀から1週間あまり経った頃、彼女の元に意外な物が届いた。

それは、二人の結婚式を予定通り行うとの知らせであり、当然ご祝儀は必要ないが、

是非、亡くなった新婦の為にも出席して欲しい、との旨が書かれていたという。

彼女自身、とても驚いたが、それでも新婦になる筈だった娘の無念さを少しでも

慰めてあげたいという親の気持ちと、彼氏の気持ちを考えると、どうしても

欠席するわけにはいかなくなったのだという。

そして、執り行うのは披露宴だけであり、結婚式自体は行わないのだと聞いて

彼女は亡き友達の為にも出席を決めたのだという。

当日は、朝から生暖かい雨が降り続いていた。

予定通り、元々着ていくはずだったスーツに身を包んだ彼女は急いでタクシーに乗り

式場であるホテルへと急いだ。

ホテルに到着すると、本当に華やかに彩られた装飾に彼女は目を見張った。

そこには、まさに本物の結婚式と同じような豪華さがあった。

受付をする際に渡された挨拶文には、

今日は精一杯楽しんでいってください・・・・・。

そして、涙はお控えください・・・・。

そう書かれており、彼女はその文面を見て少しホッとした気分になったという。

彼女は指定された座席表野テーブルに着席した。

丸テーブルが幾つも並び、一段高い所に新郎・新婦の席が設けられていた。

空いている席は無く、きっとその誰もが、自分と同じ気持ちでその披露宴に

出席しているのだと少し感傷的になったという。

そして、いよいよ披露宴がスタートすると、その進行といい、運ばれてくる

料理といい、まさに本物の披露宴そのものの豪華さだった。

挨拶文の通り、涙する者は一人もおらず、披露宴は終始和やかな雰囲気で

進行していった。

しかし、突然、1人の出席者から悲鳴があがる。

新婦の姿を見た!

そう言って恐れおののく姿は、とても演技には見えなかった。

そして、1人また一人と気分を悪くして披露宴会場から退席していく。

更に、途中から照明が明滅したり、マイクの音が聞こえなくなったりしてしまい、

その度に会場は大きな悲鳴に包まれていった。

そして、いよいよ新郎の挨拶の段になり、決定的な瞬間が訪れてしまう。

スポットライトの中、マイクを持った新郎が出席者達への挨拶を話しだそうとした瞬間、

突然、ライトが消えた。

そして、数秒後に再びライトが点いた時、新郎の横には無残な姿をしたまま

純白のウエディングドレスを着た新婦が立っているのがはっきりと見えた。

とても、余興として行われているジョークだとは誰も思わなかった。

その姿は、血にまみれ崩れた顔でにっこりと笑う新婦の顔が不気味という言葉

以外には表現出来ない程、おぞましい姿として、其処に存在した。

固まって動けなくなる者・・・・。

その場て悲鳴を上げる者・・・・・。

泣き崩れる者・・・・・。

反応はそれぞれだったが、次の瞬間、けたたましいばかりのマイクのハウリング音

が会場に響き、その瞬間、新婦の姿はその場から煙の様に消えてしまった。

友達である新婦の変わり果てた姿に彼女はその場て嗚咽したという。

そんな事があって、披露宴はすぐに中止され、お開きとなった。

彼女もすぐに自宅へと戻ったが、しばらくは新婦の姿が目に焼き付いてしまい

夜も寝られなかったという。

そして、その披露宴以来、ずっと何か不吉な物を感じていたのだという。

そして、それから数日後、彼女の耳に知りたくない事実が届いた。

披露宴の後、新郎の姿が忽然と消えてしまったのだという。

披露宴の後、ガタガタと震えていたという新郎は、披露宴会場から帰宅する際、

そのまま何処かへ消えてしまった。

何処をどう捜索しても新郎の姿を発見する事は出来なかった。

だから、披露宴に出席した者は、

きっと、新婦が新郎を連れて新婚旅行に行ってしまったのだはないか?

と噂していたという。

そして、新郎が消えてからちょうど7日後、新郎が山の中で発見された。

無残な遺体となって・・・・。

その遺体は披露宴で来ていたタキシード姿のままであり、全身はまるで

車に乗ったまま大事故に巻き込まれたかのようにグチャグチャに潰されていた。

まさに、あの披露宴で見た新婦と釣り合いが取れるかのように・・・・・。
  


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:41Comments(33)

2019年05月06日

最恐の悪霊と最強の除霊師

これは、以前、Aさんの旅行友達から聞いた話。

Aさんは、かなり旅行が好きらしい。

しかも、思い立ったらすぐに行動する性格のせいで、その女友達もかなり

振り回されているのだという。

しかも、基本的に全てが突然だから宿も決めずに出発する。

だから、旅行をする際には、お金に余裕を持ち、現地に着くと先ずその日の

宿泊先を探す事から始めなくてはならないそうだ。

そして、その時も彼女の元に突然Aさんから電話が入ったという。

あのさ・・・・今、テレビ視てたら、なんか凄く美味しそうな物が映ってた

んだけど・・・・。

明日って、暇?

そういう電話だったらしい。

独身であり、自営業の彼女は、特に翌日の予定も無かったので、即答で、

うん…大丈夫だと思うけど・・・・・。

そう返事をしたらしい。

すると、Aさんから、

それじゃ、明日の朝8時頃に迎えに行くから、ちゃんと旅行の用意しておいてね!

そう言って電話は切れたという。

彼女としても、Aさんの行動パターンには困らせられる事もあったが、

それ以上に、Aさんと一緒居ると、何か自分まで幸せな気分になれるらしく、

言われたとおりに旅行の用意をして、翌朝に備えて寝たそうだ。

翌朝は、ピッタリ朝8時にAさんの車が迎えにきた。

車の運転が好きなAさんがいつも運転手役らしく、道中、相変わらず

食べ物の話で盛り上がっていたそうだ。

その時、向かったのは関西方面のとある温泉地。

そして、旅館案内所でその日の宿を抑えようとしたらしいが週末ということもあり、

どこの宿も満室だと告げられた。

仕方なく彼女達は大きめの宿を一軒一軒しらみつぶしに当たってみる事にした。

しかし、案内所で言われた通り、どこの宿も一杯だったという。

彼女がAさんに、

どうする?

どこの宿も空いていないんじゃ日帰りにする?

と言うとAさんはしばらく考え込んだ後、

まあ、仕方ないか・・・こんな状況だし・・・・。

それじゃ私に着いてきてね!

そう言って、車に乗り込むと温泉街の中をゆっくりと車を進める。

彼女はてっきり日帰りに変更して帰るのか、と思っていたそうだが、

どうも様子がおかしい。

それで、Aさんにこう聞いたという。

日帰りにするんじゃないの?

無理だって見つかりっこないと思うよ?

すると、Aさんは、

こういう温泉宿っていう所には絶対に開かずの部屋になってしまつている部屋

が在る筈だから・・・・。

今、その霊気みたいなものを探ってるから、少しだけ静かにしててね!

そう言われたそうだ。

確かに彼女もAさんの霊力というものを知っていたし、その時は奇跡が起きるのを

待つ気分でAさんの言うとおり、喋らない様にしていた。

その間、Aさんは、

あっ、ここは弱いから大した部屋じゃないな・・・・・とか、

此処は大して迷惑になっていないな・・・・とか言いながら運転を続けていた。

そして、一際大きな旅館の前に車を停めたAさんは、

うん!・・・此処なら、きっと宿の人達も困りきってるはず!

そう言いながら勝手に車を駐車場へと停めて荷物を持って玄関へと向かう。

ちょっと!

まだ泊めて貰えるって決まってもいないのに・・・・。

と彼女が言うとAさんは、

たぶん、大丈夫だと思うから!

と意気揚々と玄関のドアを入っていく。

いらっしゃいませ!

ご予約のお客様ですか?

そう言われてAさんは、いいえ、と首を横に振る。

すると、従業員さんは、

あの…申し訳ありませんが、当館は本日は満室でございまして・・・・。

と告げたが、Aさんはニコニコと笑いながら、

あの…女将さんを呼んでい頂けませんか?

とても重要なお話があるものですから!

と元気に返したという。

しばらくするとその宿の女将さんらしい50代位の女性がやって来た。

女将さんはAさんの前にやって来るとすぐに頭を下げて、

本日は大変申し訳ございません。

あいにく全てのお部屋が埋まっておりまして。

と丁寧に謝罪してくれたが、Aさんが、

あの・・・・この旅館って曰くつきの部屋がありますよね?

そのせいで、ずっとお客さんを泊める事も掃除する事も出来ない部屋が!

そう言うと女将さんの顔は、一気に曇り、Aさんの方を怪訝そうな

眼で睨むようにして見たという。

そして、女将さんはこう言った。

誰も知らない筈なんですが・・・・。

誰からそんな話を聞かれたんですか?と。

すると、Aさんは、

別に誰から聞いたという訳じゃないんですけど・・・・。

お困りなのかな?って思いまして・・・・。

すると、女将さんは、

貴女は除霊とかそういう事に長けている方なんですか?

そんな華奢な体格なのに・・・・。

すると、Aさんは、

華奢に見えますか?

ちゃんと出るところは出てますし、引っこんでるべき所も引っこんでますけど!

それに、霊を祓うのに体格は関係ありませんから(笑)

そう言うと、女将さんは、

それじゃ、貴女が化け物を退治してくれるというのですね?

でも、まさか、ボランティアではないでしょうし・・・・。

お幾らぐらいご希望ですか?

そう返してきた。

すると、Aさんは、

あっ、私はお金は貰わない主義なので!

その代わりと言ってはなんですけど、除霊に成功してもしなくても、今晩、

その部屋に泊まらせて欲しいんです!

それと、除霊するとお腹が空くので料理は3人分でお願いします!

と元気に答えた。

女将さんはしばらく考え込んだ後、

わかりました!

でも、死んでも知りませんよ?

何十年間も続いている開かずの間ですから。

除霊しようとした方達は全てもうこの世にはおりません!

1年に1度だけ何とか掃除だけはしていますが、もう何人もの霊能者やお坊様が

除霊の為にその部屋へ入られましたが、誰ひとり生きて帰る事はなかった。

見たところ、とても霊能者には見えませんけど?

そう言われるとAさんは、大きな声で、

ええ、私、霊能者じゃないんで・・・・(笑)

と明るく笑って返した。

女将さんは、建物の奥へ奥へと進んでいく。

そして、鎖で閉じられた鉄製の扉を開けると、長い廊下の手前で立ち止まり、

この廊下を進んだ処にある、あの離れの部屋が、開かずの間です。

中には着物を着た化け物の様な不気味な女がいる、と伝え聞いております。

どうしますか?

本当に除霊する勇気はありますか?

本物ですからね?

と、どうやら、Aさんに思い留まらせようとしているように感じたという。

すると、長い廊下の手前で立ち止まっている女将さんと彼女の目の前で

Aさんは、すたすたと軽快に廊下を進んでいったという。

女将さんは、目を点にして信じられないといった顔をしている。

空気が異様に冷たくなり、それが廊下の手前まで伝わってくる。

そして、地響きの様な音がして辺りが暗くなる。

酷い耳鳴りがして、彼女は知らぬ間に体中に鳥肌が立っている事に気付く。

彼女自身、いつもAさんと旅行している事ですっかり霊感が強くなって

いたから、その離れの中に居るという霊の恐ろしさだけは分かったという。

何かあったら、どんな事をしてもAさんだけは助け出さなければ・・・・。

そう思っていた。

すると、女将さんがこう尋ねてきた。

あの・・・・あの方っていうのは、そんなに凄い霊能者なんですか?

今まで何事もなく離れに近づいていった者は1人もおりません・・・。

なのに・・・あの方は・・・・・。

そう聞くと、彼女もAさんの凄さを思い出して、

相手がどんなに凄い最強の悪霊でも、彼女だけは別格ですから!

最強の除霊者・・・・いいえ、ある意味、彼女を怒らせる事が一番危険

かもしれませんね!

そう返したという。

そうしていると、風も強くなって来て辺りに苔むした様な匂いが充満していく。

離れの部屋の引き戸や窓がガタガタと音を鳴らす。

部屋の中からは唸るような苦しそうな声がどんどん大きくなっていく。

彼女と女将さんは、目を閉じてその場にうずくまる様に動けなかった。

その時、Aさんののんびりした声が聞こえてきたという。

すみませ~ん・・・・・。

ごめんくださ~い・・・・。

ちよっといいですかね~?

その声に、え?と思って顔を上げると、Aさんは片手をポケットに突っこんだまま

もう片方の手で離れの引き戸を開け、吸い込まれる様にして部屋の中へと

入っていった。

しばらくの沈黙の後、

いや、そう言わずに・・・・。

私にも女将さんにああ言った手前、立場というものが・・・・。

ほんと、強情な人ですね・・・・いや、人じゃないか・・・・・。

ほんと、嫌われますよ・・・・・あっ、もう嫌われてましたね・・・・。

と1人でボケとツッコミを繰り返した後、離れの部屋の中から眩しい光が

彼女達がいる廊下まで届いて来て、思わず目を閉じたという。

そして、その後、再び、離れの引き戸が開いて、そこからAさんが出て来ると、

すみませ~ん・・・・除霊は終わったので、お掃除をお願いします!

それと2人分の寝具と3人分のお料理も!

私は疲れたので、このままお風呂に行ってきますから!

女将さん、約束は守ってくださいね!

そう言って嬉しそうに本館の方へと歩いていった。

結局、その夜は豪勢な料理が食べきれない程出され、夜寝た時も何も怪異は

起こらなかったそうだ。

そして、翌日の朝、帰り際には女将さんからそれなりの金額のお礼を渡されたが

Aさんはすぐにそれを返したらしいが、結局、宿の宿泊費は全てタダにして

貰えたそうだ。

そして、その帰り道、彼女はAさんに尋ねたそうだ。

その凄い悪霊っていうのはしっかりと退治出来たの?と。

すると、Aさんは、

うん…でも、話してみると人間の方にも問題があるし、何よりそんなに危険な

奴ではなかったから・・・・。

だから、浄化はしてないげと、もうあの宿には入っては来られないし、人に悪さも

出来なくしたから・・・・・。

そう言っていたそうだ。


  


Posted by 細田塗料株式会社 at 21:08Comments(45)

2019年05月01日

生きるという事

これは知人女性から聞いた話。

彼女は元々の生まれは四国のとある県なのだという。

大学進学で石川県にやって来て、そのまま金沢市の会社に就職した。

俺とは直接のつながりは無かったが飲み友達の紹介で知り合ったという関係。

何事にも流されてしまう彼女の生き方はよく言えば今風なのかもしれないし、

悪く言えば、自分に自信が無いのかもしれない。

そんな彼女がある時、四国の実家から呼び出された。

かなり疎遠になっていたから彼女としても久しぶりに両親や親戚の顔でも

見よう、という軽い気持ちで帰省したそうだ。

ところが、実家に戻ってみると、そのまま本家の在る隣の町まですぐに連れて

行かれたという。

どうやら、彼女の家系はかなりの資産家として地元でも有名らしく何をするにも

仕来たりだとか本家の意向というものが最優先された。

そして、彼女自身もそんな古い風潮が嫌で、わざわざ大学進学の際、遠く離れた

石川県を選んだ様なのだが・・・・。

本家に連れて行かれた彼女は突然驚くべき事実を告げられた。

それは、どうやら彼女の寿命に関する話だったらしく、唐突に残された寿命が

残り1年しかないと聞かされた。

確かに、彼女の家系では数十年に一度くらいの割合で若くして亡くなってしまう

者がおり、それがその家系の根源に関わる罰のようなものなのだと聞いた

事はあった。

しかし、まさか、その生贄が自分に回って来るとは思ってもいなかった。

両親たちの顔を見ると、申し訳なさそうにしているだけで特に何も言ってくれない。

結局、彼女はその事実だけを告げられると、そのまま半ば強制的に本家から

追い出された。

そして、自分の家族や親戚を巻き込みたくなければ、このまま静かに誰とも

会わずに帰りなさい・・・・。

そう言われたそうだ。

まさに青天の霹靂といった彼女としては、当然そのまま帰るわけにも行かず

何とか親戚や従兄弟に会って相談させて貰おうとしたらしいが、どの家でも

まるで門前払いの様に追い返された。

そして結局彼女はそのまま地元を離れて石川県に帰るしかなかった。

ただ、彼女が自分のアパートに戻り悶々とした日々を送っていると、突然

母親から電話があったそうだ。

電話の向こうからは母親の泣き声ばかり聞こえ、ごめんね・・・・ごめんね・・・

と呟く声だけが記憶に残ったという。

ただ、その電話の際、彼女はある事実を聞かされたのだという。

詳しくは分からなかったが、どうやらその呪いの様なものは犬神様に関係が

在るらしく、本家の当主が生まれてから死ぬまでの間に生贄となる者を1人選び

差し出さなければ、その家系の本家が呪いに満たされ廃れてしまうという事

だった。

だから、本家の人間が一族の中から生贄になるべき人間を選び、分家筋の者は

その決定に従わなければいけない。

本家の決定は絶対であり、逆らう事は許されないことであり、何より本家の衰退は

一族全員の根絶を意味しているそうであり、だから誰もその決定に反対できる

者はいない。

そういう話だった。

彼女は母親の電話の後、しばらくは茫然として部屋から出なかったが、本当に

この現代において、そのような呪術的な呪いが実在するのか?と疑問を感じると

急いで色んな占いや霊能者の元を訪ね回った。

しかし、どの占い師も、そして霊能者も彼女の顔を見るなり、

口籠って何も言えなくなるか、もしくは、はっきりと

貴女には死相が出ています。間違いなく1年以内に命を落とします!

と告げられるだけだった。

彼女が初めて感じる絶望は彼女の生活をどんどん暗く生気の無いものにしていく。

そして、偶然、街中で彼女と出会った俺は、彼女の容姿の変わり様に唖然とし

これはただ事ではないと感じたのは言うまでもない。

そして、彼女と喫茶店に入り彼女から話を聞いた俺は、いつものようにAさんに

助けを求めた。

どうやら寝起きだったAさんはとにかく機嫌が悪かった。

それでも何とか頼み込んで待ち合わせのファミレスに来てもらった。

彼女を見ても、Aさんは、

あっ、ども・・・・・。

と言うばかりで気乗りしないのが伝わってくる。

俺は何とかメニューから好きなものを頼んで良いから・・・という条件をつけて

ようやく彼女の話を聞いてもらう事が出来た。

彼女の話を聞き終えたAさんは、

う~ん。これはかなり厄介な話ですね・・・・・。

確かに死相もはっきりと出てますし・・・・。

もう手遅れというか・・・・・。

それに他の占い師や霊能者からも、その呪いみたいなもので貴女の寿命は

あと残り1年くらいだって言われてるんですよね?

だとしたら、そういう事なんじゃないですか?

それが現時点での貴女の運命という事です。

そう言われて、彼女は明らかにがっくりと肩を落としている。

俺はAさんに、

あのさ・・・・もしも、そうだと下も、もう少しソフトな言い方って出来ないの?

と声をかけるとAさんはこう続けた。

だって、これが現時点でのこの人の運命なんですから遠まわしに言ったって結論は

同じじゃないですか!

それと、貴女に質問したいんですけどいいですか?

そう言われた彼女はハッとして顔を上げた。

すると、Aさんはかなり強い口調でこう言った。

それにしても、どうして貴女はそんなに暗くどんよりとしてるんですか?

まるで生きた屍の様にしか見えませんけど?

そんな顔してると1年生きれるのが1か月になってしまうかもしれませんよ?

残りの人生が1年と言われて長く感じる人もいるかもしれないし、短いと感じる

人も勿論いるんでしょうね?

でも、今の貴女の状態でたとえ1年の寿命が10年に伸びたとしてもしょうがない

のかもしれませんよね?

生きたくても病気で長くは生きられない人もいて、逆に自殺という形で

自分の人生を短く終わらせようとする人もいる。

勿論、自殺は論外ですが、結局、人生なんて大切なのは長さじゃなくて中身だと

私は思ってます。

生まれてから十数年しか生きられない人の中にも充実した幸せな生き方をした方も

いる筈ですし・・・・。

だから、もしも私が貴女の立場ならこう考えますけどね・・・・。

呪いか何か知らないけど絶対にそんなものに振り回されないぞ、って。

自分の為でも良いし他人の為でも良いからとにかく何かをこの世に残す為に

精一杯生きますね・・・・。

1分1秒も無駄にしない様に・・・・。

そうしたら、もっと違うものが視えてくるかもしれませんからね・・・・。

とにかく呪いなんかに振り回されないで残された人生に悔いが残らない様に

生きてみたらどうですか?と。

そこまで聞き終えた彼女はしばらく黙っていたが、突然立ち上がると、

そうですね・・・・そうなのかもしれません・・・・。

そう言ってお辞儀をして急いでファミレスを出ていった。

そして、その場に残されたのは頭を抱えてぐったりする俺と、大量の料理に

目移りしながら凄い勢いで食べる事に没頭するAさんだけだった。

気まずい空気が流れつつその場はそのままお開きになった。

そして、俺は翌日、彼女にお詫びの電話をかけた。

電話に出た彼女は、

あっ、Kさん、昨日はありがとうございました。

それと、今忙しいので、後から電話して貰っても良いですか?

と元気な声で言われ、急いで電話を切った。

そして、元気な声を聞けた俺はその後彼女に電話をかける事はしなかった。

ただ、周りからは彼女に関して色々な噂が耳に入って来た。

ボランティア活動に精を出している・・・・。

仕事をとても頑張っている・・・・。

幾つかのサークルに参加して余暇を楽しんでいる・・・・。

婚活に邁進している・・・・。

犬を飼い始めた・・・・。

それらはとても以前の彼女からは想像も出来ないことであり、そうしている事で

彼女は以前とは違い、とても輝いて視える、と聞かされた。

そんな話を聞いてから、もう既に1年半以上が経過している。

そして、彼女が死んだかといえばNOである。

今でも一層充実した日々を過ごしているようだ。

そして、Aさんに会う機会があった俺はこう聞いてみた。

あのさ・・・あんな冷たい態度とってたけど、本当はその呪いみたいなものを

断ち切ってあげたんでしょ?と。

すると、Aさんは一瞬、ポカンとした顔をしたから大笑いしてこう言った。

Kさんって、本当におめでたいというか幸せな人ですよね?(笑)

そんな簡単に呪いなんか断ち切れるわけないじゃないですか・・・と。

そう言われた俺は、

それじゃ、やっぱり寿命が1年しかないっていう呪いは単なるデマだったの?

と返した。

すると、Aさんは、

いえ、きっとその地方に昔から伝わっているものですから、きっと本物の

呪いだと思いますよ・・・。

だから、あのままだったら、彼女もきっと1年と持たなかったのかもしれませんね。

でもね…私はこう言ったんですよ。

「現時点での運命」だと・・・・。

運命なんてその人次第でいくらでも変えられるんです・・・・。

人が純粋に人生を楽しもうとする力は、呪いにも勝るということです・・・。

呪いか何か知りませんけど、そんなものに人生を決められたたまるかって

事ですよ!

だから彼女がまだ生きているのだとしたら彼女は呪いに勝ったんですよ!

知らないうちに自分の力で・・・・。

人間にはそれだけの力がしっかり宿ってますから・・・。

皆が気付かないだけで・・・・・。

だから、もう大丈夫ですよ!

彼女は間違いなく長生き出来ますから!

そう言われ、俺は思わず納得してしまった。

しかし、その後すぐに疑問が浮かんだ。

これだけ立派な事を言ってのけるAさんなのだが、Aさんこそ、もっと真剣に

一生懸命に生きるべきではないのか?と。

まあ、Aさんには、どんな聖人のありがたい言葉もきっと届かないとは

思うのだが・・・・・。
  


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:40Comments(24)