› 看板・サインスタッフブログ | 細田塗料株式会社 › 依代(よりしろ)というもの

2018年11月09日

依代(よりしろ)というもの

依代(よりしろ)というものがある。



元々は神の意思を伝えるために、物や動物に憑依させること



をいうらしいのだが、



現代では、神の言葉を聞く、というよりも、亡くなった故人を霊界より



呼び戻し、話をさせてもらうという使い方が一般的のようだ。



それは、恐山のイタコが特に有名だが、実は古来より日本各地で



行われている降霊術のひとつに他ならない。



だから、そのやり方も地方によってかなり違っていたりする。



確かに、亡くなった大切な人に、もう一度どんな形であろうと話が



出来るとなれば、それはやはり魅力的な事なのだろう。



そして、実はAさんの知り合いにも降霊術を生業としている女性がいた。



元々は彼女とAさんは同じ中学の出身らしく、お互いにその存在は



当時から知っていたらしい。



もっとも、霊力があるのを常に隠していたAさんに対して、彼女は



それを人気取りに利用していた。



放課後にクラスに人を集めて降霊術を披露しては、皆の注目を集め、



悦に浸っていたらしい。



だからといって、Aさんは元々は彼女の事はなんとも思っていなかった



らしいのだが、逆に彼女は事あるごとにAさんを引き合いに出しては



自分の優位を自慢していたらしい。



そんな彼女に対して、Aさんは何も言い返す事は無かったらしいのだが、



それでも、一度だけ、



降霊術は危険だから辞めた方が良いと思うよ・・・。



と忠告したらしいのだが、当然彼女は聞く耳を持たず、その降霊術自体も



どんどんとエスカレートしていった。



俺はかつてAさんに、こんな質問をした事がある。



ねぇ、Aさんって、恐山のイタコみたいに、死んだ人を呼び戻して話させて



くれるっていう事も出来るの?と。



すると、いつもの冷たい目で薄ら笑いを浮かべながら、



本当に懲りない人ですよね。



過去にKさんは降霊術をやって恐ろしい目に遭ってるでしょ?



それと同じなんですよ。イタコがやってる依代(よりしろ)っていうものは。



確かに亡くなった大切な人と会えるのは生きている者にとっては嬉しい事



なのかもしれないです。



でもね。亡くなった方が現世に呼び戻されるのは酷い苦痛を伴うんですよ。



それに、死んだ人とはもあ会えないという決まりがあるから、死は尊いんです。



死んでも頻繁に会えるのだとしたら、そこには、もう死というものの概念は



存在しなくなります。



それに・・・・。



とそこまで言ってAさんは口を閉ざした。



だから、俺が、



それに・・・・どうしたの?



と聞くと、



まあ、ここから先はKさんに言っても仕方のない事ですから・・・。



と上手くかわされてしまった。



しかし、それに・・・・の先を俺はその後知る事になった。



中学を卒業後、Aさんと彼女は別々の道を歩む事になったのだが、



社会人になり、同じ市内に住むようになる。



Aさんは教師、そして彼女は依代として・・・・。



そして、彼女の名声はその頃かなりのもになっており、連日、彼女を



頼って沢山の人が訪れるようになっていた。



そして、訪れた人からはかなり高額な金額を寄付という名目で



徴収していたらしい。



もっとも、その頃のAさんは、もう既に霊能力者としてその道の者なら



知らぬ者は居ないと言われる程の実力を持っていたのだが、当然



金は一切貰うのを拒んだ。



それはAさんが、元々金持ちの家柄という事もあったのだろうが、やはり



自分は決して特別な霊能者ではない、という考えと、お金は心を錆びつかせる、



という持論からだったのだろう。



しかし、裕福な生活をし、高級車を乗り回す彼女にとって、Aさんという



存在は、やはりいつまで経っても目障りな存在だったのかもしれない。



しかも、ただの教師をしている筈のAさんが、常に真っ赤な外車を乗り回して



いた事も彼女の怒りに拍車をかけたのかもしれない。



ある日、Aさんは彼女から連絡を受けた。



1度、彼女が聖域と呼ぶ、自分の仕事場に遊びに来ないかという連絡だった。



その頃、噂では彼女には、かなりの人数の弟子がおり、しかも、最近では



ただの依代というものを超えて、魔道に傾倒していっているという。



さすがに不安になった俺は、



ボディガード、してあげようか?



と打診した。



すると、



ボディガードですか?



自分より弱い者に護ってもらうって言うのもちょっと・・・・。



でも、良いです。良い機会かもしれませんから。



どうして、依代が危険な降霊術なのかを身を以て知るのも



良いかもしれないですから。



でも、自分の身だけは、しっかり守ってくださいね。



というか、足手まといにはならないように・・・・。



そんな悲しい言葉で俺の打診は受理された。



当日の日曜日、俺はAさんと連れ立って彼女の聖域



とやらへ向かった。



Aさんの真っ赤な外車は彼女を刺激してしまうのでは?



という事で、



俺の車で現地に向かう。



緊張で息苦しい程の俺とは対照的にAさんは、いつもと変わらない。



やっぱり国産車は華が無いですね~、とか



もう少しスムーズに運転出来ないんですか?とか



挙句の果てには、



あっ、あそこのケーキ屋でシュークリーム買っていきましょう!



と言い出す始末。



俺は、これじゃ、彼女に敵意を持たれるのも仕方ないのかも・・・と



思いながらハンドルを握っていたが、当のAさんは、楽しそうに



お土産だと言って買った筈のシュークリームを一人で食べ散らかしている。



そして、現地に到着した時も、まるでヤル気が無さそうに



あくびばかりしている。



そして、Aさんは大事そうにシュークリームを食べながら歩いていく。



前方には、彼女の弟子と思われる修行僧の様ないでたちの男が10名ほど



通路の両脇に立って俺とAさんを待ち構えている。



ようこそ・・・こちらです!



そう言われ、俺とAさんはお堂の様な建物に案内された。



敷地内に入ってから、鈍感な俺でもその違和感、重圧感に圧倒されてしまう。



しかし、Aさんは、相変わらず、まるで寺社見学にでも来たかのように、



キョロキョロしながら、



あの石像幾らくらいするんですかね?



と下世話な話題で1人で盛り上がっている。



そして、いよいよお堂の様な建物の入り口に立つ俺達。



中に入るよう促され、俺とAさんは中へと入る。



Aさんに続いて俺が中へと入ると、そこは異様な空間だった。



大きな多角形の建物は全て畳が敷かれており、周りには窓1つ無い。



そして、その中央に、ポツンと囲炉裏のようなものと、それを挟むようにして



座布団が2枚置かれている。



そして、彼女は、その座布団に座り背中を向けたまま何かを一心不乱に



唱えている。



その空間は、得体の知れない呪文のような言葉と相まってとても不気味で



息苦しささえ感じるほどだった。



すると、突然、背後の引き戸が閉まった。



慌てて、ドアを開こうとしたがビクともしない。



そして、俺がAさんの顔を覗き込むと、



凄いですね。自動引き戸なんですかね?



と訳の分からない事を言っている。



そして、Aさんが、



こんにちは。お久しぶりだよね。



と言うと、彼女は無言で背中を向けたまま手招きする。



それに呼応するように俺が彼女に近寄ろうとすると、突然Aさんが、



馬鹿ですか?死にますよ。



Kさんは、此処で成り行きを見守っていればいいんです!



そう厳しく言われてしまう。



そして、Aさんは、彼女の方へ歩いていくと、無用心に座布団に座る。



きっと彼女はずっと目をつぶっていたのだろう。



Aさんが座ると、その目を開けたようで、ゆっくりと喋り出す。



よく来たな。待っていた。



いつお前が身の程をわきまえるかと待っていたが・・・。



もう此処からは逃げる事は出来ないよ。



私がこの女に力を貸すのだから・・・。



だが、悪いのはお前だ。



だから、死んでもらう事に決めた。



最後に何か言う事はあるか?



その声は、とてもAさんと同じ年の女性の声ではなかった。



いや、明らかに男性の低い声だった。



そして、そう言われ、Aさんは、静かにシュークリームの箱を降ろすと、



あのね・・・意味分からないよ。



つまりもうあなたは貴女じゃなくて他の何かが憑依してるって事だよね?



でもね。弱い人間が憑依して力を得ようとするのと同じで、人に憑依する



奴には、ろくな奴がいないんだよね。



井の中の蛙・・・って奴・・・・知ってる?



つまり、雑魚って事。



人に憑依してる暇があったら、もっと精進しなさい!



それじゃ、私は帰りますから!



そう言って立ち上がるAさん。



しかも、1度立ち上がってから、持ち忘れたシュークリームの箱を拾うAさん。



スタスタと畳の上を歩き、俺の方へ近づいて来る。



そして、引き戸を開こうとした時、背後から、



もう開かないよ。



逃げられない、と言っただろうが!



その声に、Aさんが引き戸を引くと、何事も無くスムーズに引き戸は開いた。



そして、挑発するかのように、呟くAさん。



あれ・・・・開かないんじゃなかったのかな?



すると、背後から何かが立ち上がった。



それはもう明らかに人の姿はしていなかった。



だが、Aさんは少しも動じることなく、いつもの冷たい視線のまま



振り返る。



そして、俺に背中を向けたまま、



ほらね。あれが自分の体に憑依させていた者の末路です。



正確には依代という枠を超えて、危険なものを召喚した者の



末路ですけどね。



ああなったら、もう救いようが無いんです。



だから、よく見ておいてくださいね。



同じ過ちを繰り返さないように・・・・。



そう言い終えると、両手で印を結んだ。



すると、目の前の異形は、



コロス・・・・・コロス・・・コロス、と大きな声で



繰り返す。



すると、Aさんは、



魔を召喚して、自分が取り込まれてちゃしょうがないでしょ。



私は別に貴女の事は嫌いでもなかったけどね。



まあ、眼中にも無かったけど・・・・。



そして、私は忠告したよね?



依代は、危険だと・・・・。



だから自業自得かもね。



いいよ。



一瞬で終わらせてあげるから・・・。



掛かって来れば?



すると、凄まじい雄たけびと共に、目の前の異形は



Aさんへと突進してきた。



少しだけため息をついたAさんは、印をほどき、



両手を前方へとかざした。



眩しい光が部屋中に広がっていく。



そして、光が消えたとき、そこには老婆のようになった



ひとりの女性が倒れていた。



Aさんは、



さっ、帰りましょうか!



もう済みましたから・・・・。



そう言って立ち上がると、さっさと外へ出て行く。



外では先程の男達が、待ち構えていたが、Aさんが



そのまま進むと、怯えるように後ずさった。



Aさんは、そのまま何事も無かったかのように、



眼前に開けた道を進み、さっさと車に乗り込んだ。



俺も慌ててそれに続いた。



そして、車を走らせていると、Aさんが突然、



あっ、シュークリーム忘れた!



と大きな声を出す。



まるで駄々っ子のように、連呼するので、俺は仕方なく



ケーキ屋に寄ったのだが、俺の奢りという事で、更に



大量のケーキを買い漁られた。



その後、車の助手席でご満悦のAさんに、俺は聞いてみた。



あれが依代になった者の末路なの?と。



すると、Aさんは、少しだけ真面目な顔をして、



別に全ての人がああなってしまうという事ではないですよ。



ただ、依代をやっている人は、常に身体を他の魂に貸している



訳ですから、それは一時的とは言え、憑依されたのと同じなんです。



しかも、憑依というのは1度されてしまうと、ある意味、簡単に



憑依されるようになってしまうんです。



ただ、世の中に居るのは、良い霊ばかりではありませんからね。



そして、更に最悪なのは、彼女のように、自分が憑依されて



得た力をまるで自分の能力のように思い込んでしまう。



そうなったら、もう・・・。



更に強い力を持った霊を憑依させようと、どんどん



エスカレートしてしまいます。



そして、当然、自分では制御すら出来なくなる。



そういう事です。



だから、人間、身の程を知るっていうのも大切なんですよ。



そう言っていた。



ある意味、説得力のある話だと一瞬思ったが、それならば、



お金も無いのに、常に高価な洋菓子ばかり欲しがるAさんは



他人の事が言えるのだろうか・・・・。



そう思った。



勿論、口になど出せる筈も無かったが・・・・。



Posted by 細田塗料株式会社 at 21:48│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count