2018年11月09日

・・・・・鬼

これは片町のとある店で一緒になった方と意気投合し、



飲み明かした際、ポツリポツリと話してくれたものである。



彼は静岡県で自営業をしている40代。



元々はサラリーマンだったらしいが、堅苦しい生活が嫌になり、



突然、会社を辞めて今は気ままな便利屋の様な仕事をしている。



そんな性格の彼の趣味は一人旅。



そして、その一人旅のモットーが、いかに安価に抑えるか、という事と、



いかに冒険出来るか、という事だ。



だから、旅はいつも愛用の大型のオフロードバイクで出掛けるらしい。



そして、色々な場所に出掛け、色んな人達と知り合いになる。



そうやっていると、最悪でも、野宿に最適な場所を教えてくれたり、



運がよければ、その方の家に泊めてくれたりするらしい。



更に、彼は国道などの大きな道は出来るだけ使わない。



可能ならば、出来るだけ細く誰も利用しない様な道をあてもなく



走るのが最高らしく、たまに地図にも載っていない様な道に出くわす



事がある。



そんな道を見つけても彼は嬉々として前へと進む。



どうせバイクなんだから、行き止まりでも引き返せば良いだけ。



そんな事より、そんな道を走っていると、ごく稀に、綺麗な池を



見つけたり、開けた手付かずの綺麗な花の絨毯に出会える事も



あったらしい。



更に、本当にごく稀な話だが、道の奥に、人が住む集落が存在する



事もあったらしい。



地図なんて、人が都合よく書いたものに過ぎないんだから・・・。



それが彼の口癖である。



そして、その日、彼はいつもの愛用のバイクでとある場所を走っていた。



この手の話では、よく山陰地方や東北が登場してしまうのだが、私は



決して山陰も東北も嫌いではない。



というより、むしろ大好きである。



という前置きをしてから書くのだが、今回の話の舞台は山陰地方の



とある県である。



日本全国津々浦々まで回った彼がその時、行きたかったのが、山陰地方の



とある温泉。



他の地域の温泉と違い、人が多すぎる事もなく、どこか懐かしい雰囲気が



あって、彼は大好きなのだという。



そして、その時も、地図を片手に気ままなバイク旅をしていた彼の前に



地図に載っていない道が現れた。



その道は、どう考えても、どこかへ繋がっている道には見えなかった。



たまに、そんな道を走っていると、思いがけず、ショートカットして



時間短縮になることもあったらしいが、その時は、そんな感じはしなかった。



しかし、何か冒険があるかもしれないと、彼は嬉しそうにその細い道を



進んでいった。



細い道は更に細くなり、そして、その道は森の中へと続いていた。



昼とはいえ、ヘッドライトを点けなくては走れない程の暗く細い道を



通り過ぎると、今度は目の前にトンネルがあった。



しかも、手で掘ったかのような雑な造りのトンネルであり、それが



彼の冒険心を掻き立てる。



彼はお構いなしにそのトンネルに入る。



トンネルはそれほど長いものではなかったが、そのせいか、トンネル内



には灯りが1つも無かったという。



そして、トンネルを抜けた時、彼は思わずバイクを停止させた。



そこで、彼の目の前に広がっていたのは、まるで新興住宅地の様に



綺麗に整備された町並みだった。



そして、地図に載っていない町となれば、どうしても閉鎖的な空間



を連想してしまうのかもしれないが、その場所には、そういった



閉鎖的な雰囲気は微塵も無かった。



明るい太陽の下で子供たちが走り回っており、にぎやかな笑い声も



聞こえてくる。



自動車もそれなりに走っており、型も決して古くはなかった。



何なんだ・・・此処は・・・・。



彼はそう思い、普通なら遠巻きに見ているのが普通だったそれまでの



経験とは違い、思い切って誰かに声を掛けてみることにした。



すると、近くの畑で農作業をしている50代らしき男性を見つける。



こんにちは!



緊張で少し声が震えていた。



しかし、声をかけらたれその男性は、ニッコリと笑いながら、



おお、かっこいいバイクだな~



どっから来たんだ~?



と明るく声を掛けてくれる。



彼は、それまでは万が一に備えてバイクのエンジンを掛けたままに



していたが、その声を聞いて、すぐにバイクのエンジンを止めて



その男性に近づいていった。



それからは、その男性と話が盛り上がってしまい、長々と



話し込んだ。



そして、あろうことか、彼からではなくその男性の方から



今夜泊まっていったらどうだね?



と言われ、彼は二つ返事で、



それじゃ、お言葉に甘えて・・・。



とすぐに話は決まった。



どうやらその男性は、1人暮らしをしているようであり、畑の近くに



一戸建ての家があるのだという。



それから、彼はそのまま男性について家まで案内された。



家はそれほど大きなものではなかったが、それでも1人で暮らすには



広すぎる程の家であり、他の家と同様に、とても綺麗な造りの



家だったという。



ただ、どうやら、その町にある家々には表札というものが存在しなかった。



だが、確かに田舎へ行くと、全員が同じ苗字という集落がある事も



承知していたから、彼は特に気にも留めなかった。



そして、夕方には晩酌を始め、色んな事をお互いに話した。



どうやら、その男性も過去に静岡に住んでいたこともあるらしく、



それが彼の警戒心を和らげていた。



そして、そのまま二人は酔いつぶれ、リビングで朝まで寝てしまう。



翌日、その男性が農作業に行くというので、彼も手伝いに行った。



夕方まで一緒に汗を流し、男性と一緒に家に帰ると、彼はすぐに



服を着替えさせられた。



そこから、徒歩で5分ほど歩くと、無料の広大な温泉があり、二人は



温泉で疲れを癒した。



そして、家へと帰る途中には、これまた美味しい料理をご馳走になった。



そして、家に帰ると、二人はまた晩酌を始めた。



不思議なことに、その男性と話していると、とても楽しく時間があっという間に



過ぎていく。



そして、また酔いつぶれた二人は、リビングで朝を迎えることになった。



そして、彼は翌朝の朝食の時、その男性にあるお願いをした。



それは、このままもう少し此処で暮らさせて欲しいという事だった。



その土地は、彼にとっては夢のように幸せで充実した時間を過ごせる



場所になってしまっおり、彼は、



農作業でも何でもしますから・・・。



と頭を下げると、その男性は、



この土地を気に入ってくれたのなら、こんなに嬉しいことはない。



どうぞ、気の済むまで此処にいればいい。



そう優しく彼の願いを承諾してくれた。



それから、どれ位の日数が経過したのか。



ある日、いつものように一緒に晩酌を始めた男は突然、真顔で



彼に言ったという。



あんたが此処に来てから、もう明日で14日になる。



だから、あんたは、もう決めなくちゃいけないんだ。



此処に居るかどうかを・・・。



そう言われた彼は、



此処にずっと居ても良いなら、勿論そうしますよ!



この土地に知り合いもいっぱい出来ましたからね。



と笑いながら返した。



すると、その男性は、こう続けた。



そうじゃないんだ。



どちらかに決めたらもう引き返せないんだよ。



だからと言って、事情も聞いてないのに判断も出来んよな・・。



たけど、これから話すことは、絶対に他言無用にしてくれ!



実は、この土地は大昔、落人の里だったんだ。



そして、落人っていうのは、とても繋がりが深いそうだ。



そして、この土地の落人は、その繋がりを更に高める為に



ある行為を行った。



それは、お互いの血を飲むという事だ。



血の繋がりというのは、とてもつなく深いものらしい。



だから、この土地はずっと此処で生きながらえてきた。



だが、血の繋がりを重視するあまり、この土地では近親間での結婚が



決まりごとになってしまった。



そこで、彼は口を挟んだ。



近親間での結婚って・・・。



そんな事をしていたら血が濃くなり過ぎて、奇形や障害の原因に



なってしまうんじゃ・・・。



そう返すと、その男性は、少し怖い顔をしてこう続けた。



奇形とか障害とか、そんなことはどうでも良かったんだろうな。



その決まりごとは現在でも続いているんだから・・・。



勿論、血を飲むといっても、相手が自分で傷をつけて流れ出した



血を器に移し、それをみんなが回し飲むんだけどな。



ある意味、ただの儀式かもしれない。



近親間の結婚にしても、当然今も続いている。



この土地の家に表札が無いのはそういうことなんだ。



皆、同じ苗字だから表札は意味を成さないからな。



そして、此処からが本題だ。



此処にはたまにあんたのように、ふらふらとこの土地に迷い込むものがいる。



当然、ワシ等は、そんな者達でも、決して拒みはしない。



もしかしたら、仲間になるかもしれないんだからな。



そして、此処に残って一生暮らしていくか、それとも、この土地を



離れるのか、



今夜決めなくちゃいけないんだ。



さっき、あんたは、奇形とか障害という言葉を使ったが、その通りなんだよ。



この土地には、大昔から奇形の者や障害のある者が生まれることが多かったんだ。



そして、そんな姿で生まれたものは、すべて隔離され、山の奥にある



藁と草とかないような寂しく枯れ果てた土地で、家畜のように扱われた。



そして、そこに居る者達の間で、当然のことく生き残りをかけた



戦いが行われた。



少ない食料を奪い合うんだから、当然、命をかけた戦いになる。



そして、もし戦って勝ち残っても、少ない食料では生きてはいけない。



そりゃ、当然なんだ。



だって、そいつらの存在自体が邪魔になつていたんだから。



しかし、そいつらは生き残った。



相手の死肉を食らい、血をすすりながら・・・。



そのうち、体は他の食料を受け付けなくなり、死肉と地だけがあいつらの



食料になってしまった。



そして、その姿かたちも・・・。



それに、大昔の落人のころから行き続けているモノもいるという話だ。



もうそうなったら完全に吸血鬼としか考えられない。



そして、そのうち、誰もその場所には行かなくなってしまった。



だが、あいつらは俺たち、土地の者は絶対に襲わない。



もしかしたら、まだ仲間だという記憶が残ってるのかもしれないが。



ただし、この土地以外の者には容赦はしない。



生きたまま襲いかかり、血を吸い、殺してから死肉を食べ尽くす。



骨まで砕いて食べ、何も残らないそうだ。



そして、あいつらが、この土地の者かどうかを判断するのが、ちょうど



14日なんだ。



勿論、その理由は分からない。



ただ、14日目までにこの土地で一生生きていくと決心した者は



公衆の前で、大きな器に入った皆の血を飲み干さなきゃならない。



死ぬ気になれば飲めると思うかもしれないが最初に飲む時には



誰もが吐きそうになってしまう。



とても飲めたものじゃないんだ。



そして、この土地に住むと強く心に決めた者でも、その血を飲み干せなかった者は



知らない間に姿が見えなくなる。



きっと、あいつらに仲間だと認めて貰えなかったんだろうな。



ワシの妻と子供達のように・・・。



ワシも元々は家族で逃げるようにこの土地にやって来たよそ者なんだよ。



そして、行くあての無いワシら家族は全員でこの土地に永住しようと決めた。



しかし、妻と子供達はどうしても、血を飲めなかった。



そして、その翌日、忽然と姿が消えたんだ。



つまり、そういうことだから。



あんたは、今夜、どちらにするのか決めなくてはいけない。



だから、今夜はもう酒を飲むのは止めておくことだな。



あいつらから逃げられるとしたら、それは限られた時間だけだ。



夜が開け始めて、朝日が昇りきるまで・・・。



その間に、あいつらが追って来れない所まで逃げられなければ、血を吸われ



死肉を食べられてしまうしかない。



いいか、もう一度言う。



夜が明け始めてから、朝日が昇りきるまでだからな。



どちにするかは、あんたが決めることだが、もしかしたらあのバイクなら



逃げきれるかもしれない。



その為にも、今夜は早く寝ておくんだな。



そういい残して、その男性はその部屋を出て行った。



彼は1人でその部屋で考え抜いた末、明け方、この土地を離れることに決めた。



そして、寝ようと思ったが、先ほど聞いた恐怖でまったく眠ることが



出来なかったらしい。



明け方、家の中から様子を覗っていた彼は、陽が昇り始めるとすぐに



バイクにまたがりエンジンをかけた。



倍のガソリンの残量が不安だったが、不思議なことにガソリンは



満タンになっていた。



彼は、家の中で寝ているであろう男性に無言でお辞儀をした。



そして、エンジンを掛けると、一気にバイクを発進させた。



最初、快調にバイクを走らせていたが、森の中を抜ける時、枯れのバイクを



追いかけるようにして森の中を移動してくる、まさに偉業のモノ達の姿に



彼は恐怖した。



もしも、追いつかれたら・・・。



そう思うと恐怖で体が硬直した。



かなり近い距離まで詰められることもあったが、森を抜けてしばらく走ると



それらの気配は突然消えたという。



そして、彼は無事にその土地を離れることが出来た。



しかし、1つだけ気掛かりなことがある。



それは、この話を俺にしてくれた彼と別れてから、ある日突然



まったく連絡が取れなくなってしまった事である。



単なる機種変更であれば良いのだが、もしかして、俺に他言無用の



話をしてしまったから・・・。



そう考えると、とても辛く感じてしまう。


Posted by 細田塗料株式会社 at 21:57│Comments(0)
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