2018年11月09日

コインランドリー

彼女は俺の仕事関係の友達。



金沢市内のアパートで1人暮らしをしている。



元々は結婚しており、お子さんも居たらしいが離婚時に元夫が



親権を持つ事になり、それ以来ずっと1人暮らしだそうだ。



1人暮らしと聞けば、俺などは気楽で羨ましいと思ってしまうが、



やはりそれなりに大変なことも多いらしい。



仕事を終えて帰宅してから、ちゃんと食事を作って、というのが



理想らしいが、現実には1人分の食事を作るよりも、コンビに



弁当で済ませたほうが安くつくらしく、最近では食事は閉店間際の



スーパーの半額弁当か外食をして済ませる事が多いのだという。



そうやってお金を切り詰めての生活を続けていても、お金は溜まる



どころか減っていく一方だった。



だから、彼女は夜のバイトに出たらしい。



当然、会社には内緒で始めたバイトだったから、人目につかない



工場のバイトだった。



最初は体も酷かったらしいが、それなりに楽しく



それまで彼女が経験したことの無い職種だったこともあり、



次第に体が慣れてくると、彼女はそのバイトを続ける事が出来た。



ただ、問題があった。



それは、ただでさえ時間が無かったのが、夜のバイトを入れた事で



完全に家事に費やせる時間が無くなってしまった事。



だから、風呂はシャワーで済ませ、掃除は日曜日にまとめて終わらせる



事にした。



そして、洗濯は、近くのコインランドリーを使ってさっさと終わらせることにした。



実は彼女はコインランドリーをそれまで利用したことは無かった。



やはり他人と同じ洗濯機で自分の衣服を洗うのはどうしても抵抗が



あったらしいのだが、実際に使ってみると、そんなことは気にならなくなり



それよりも、短時間で衣服の洗濯だけでなく乾燥まで出来てしまう事に



彼女はとても便利なものだと感じたという。



彼女は最初の頃、コインランドリーに到着し、乾燥を含めた全ての工程が



終わるまでずっとコインランドリー内で待っていた。



しかし、他の客たちが、洗濯機を回すと、さっさと何処かへ行ってしまい



終わった頃に取りに来るのだということに気付いた。



確かに、そうすれば時間を有効活用出来る。



早速、彼女も同じように洗濯機を回すとさっさとその場を離れ、食事に



行ったり買い物をしたりと色々と用事を済ませてからコインランドリー



に戻ってみると、しっかりと乾燥まで終わっていた。



なるほど!これは便利かも・・・。



そう思い、それ以来、彼女はコインランドリーで長い時間を費やす



事は止めた。



そうやって、次第に色んな事を学びながら彼女の1人暮らしは



少しずつ快適なものになっていった。



しかし、ある時、おかしなことに気付いた。



彼女が洗濯機に入れた洗濯物の下着が無くなっている事があったのだ。



最初は気のせいかもしれない、と思ったが、それからは毎回下着が



消えてしまう。



当然、犯人が分かるはずも無く、彼女は別のコインランドリーに行く



事にした。



しかし、それでも、しばらくの間は大丈夫なのだが、すぐにまた下着が



消えていくようになる。



何とも言えない気持ち悪さを感じた彼女は、それからはコインランドリー



を転々としていくようになる。



彼女がコインランドリーでずっと待っていると、下着は消えたりしない



のだが、そうでなければ確実に下着が消えるようになる。



ストーカーなの?



確かに彼女は綺麗な女性であったから、過去にストーカー的な被害に



遭った事もあった。



だから、彼女は、今度は出来るだけ自宅アパートから離れた場所にある



古臭く客の少なそうなコインランドリーに行く事にした。



狭かったり、洗濯機自体が古かったりと少し心配になったがそれでも



洗濯自体は完璧にこなしてくれる。



ここなら安心だろう・・・。



そう思って彼女がコインランドリーから出ようとした時突然、



ねぇ?



と声を掛けられた。



自分ひとりしか居ないと思い込んでいた彼女は、思わず体がビクっと



反応してしまう。



そして、声のする方を見ると、そこにはコインランドリーの端の床に



膝を抱えて座っている見知らぬ女性の姿があった。



どこか生気の無い顔をしていたから、彼女は思わず、



大丈夫ですか?



顔色が悪いみたいですけど・・・・。



と返した。



すると、その女性は少しだけニコっと笑うと、



ありがと。



大丈夫だよ。



ところで、ライター持ってませんか?



と聞いてきた。



離婚してからタバコを吸うようになっていた彼女は、すぐに



ライターを取り出してその女性に渡した。



すると、その女性は、ポケットからタバコを取り出すと、そのライターで



火を点けてから思いっきり吸い込む。



そして、白い煙を吐き出し終えると、またニッコリ笑って



ありがと。助かった!



と言ってライターを返してくれた。



そんな事があってから、彼女がそのコインランドリーに行くと、



必ずその女性がねいつもと同じ場所に座り込んでいた。



そして、彼女を見ると、



こんばんは・・・・



と言って、ニッコリと笑ってくれる。



だから、彼女もいつもニッコリと笑い返して、



こんばんは。今日は寒いですね・・・。



等と、挨拶を交わすようになった。



そして、いつも、必ずライターを貸して欲しいと頼まれた。



勿論、最初はライターを貸すだけだったが、そのうちに、彼女は、



その女性と一緒にタバコを吸い終えてから店を出るようになった。



それからは、彼女もそのコインランドリーに行くのがとても楽しみになる。



そして、そんなある日、そのコインランドリーの店内に、張り紙が張られた。



「最近、下着が紛失する事件が多発しております。



ご自身の衣類の盗難に関しましてはご自身の責任の下、管理を



お願い致します」



という内容だった。



そこで、彼女は不思議に思った。



他の場所ではいつも下着泥棒に遭遇していたけど、この店に来てからは



一度も盗難に遭っていないのに、どうして?と。



そして、それからしばらくして、変な噂を聞いた。



どうやら、このコインランドリーには幽霊が出るらしいとの噂だった。



え?私、そんなもの、見た事無いけど・・・・。



そう思ったとき、彼女はハッと思ったという。



確かに今のコインランドリーになってから下着が消えることは無くなった。



だけど、他のお客さんには下着泥棒が頻発している。



だとしたら、誰かが私の洗濯物を監視して守ってくれているのかも・・・。



そう考えた時、それをしてくれるとしたら、いつも見かけるあの女性の



姿しか思い浮かばなかった。



そして、次の日の夜、バイトが終わってからいつものコインランドリーに



行くと、相変わらずその女性はいつもの場所に座ってニッコリと



彼女を出迎えてくれた。



そして、いつものように、一緒にたばこを吸いながら色んな世間話を



したらしいが、彼女が幽霊の正体なのかは聞く事は無かった。



例え、他の客には恐ろしい存在でも、彼女にとってその女性は



少しも怖くなく、それどころか大切な友達だった。



だから、その女性が幽霊であろうと、そんな事は彼女にはどうでも



良いことだったらしい。



そして、それからも、彼女とその女性との友情は続いているようだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:05│Comments(0)
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