2018年11月09日

予約席

これは知人から聞いた話。



彼はその時、とある地方に出張に出かけた。



客先での打ち合わせが終了した時にはもうかなり遅い時間になっていた。



彼は疲れていた事もあり、その日は一泊して帰ろうと思ったらしいのだが、



翌日は、別の仕事で立て込んでいた。



彼は仕方なく駅まで向かうと、駅員に尋ねた。



まだ、金沢行きの電車はありますか?と。



すると、駅員はニッコリと笑って、



はい。大丈夫ですよ。



何故か今夜は乗客の数も少なくて・・・。



だから、最終電車にお乗り頂けますよ!



と言われ、急いで乗車券と指定席券を買った。



駅員に聞いたとおり、問題なく切符は買えたのだが、少し気になったことが



あった。



それは、切符を買う際に、



お客様は、あちらの柱に寄りかかっている女性が見えますか?



と聞かれたという。



勿論、その女性の姿が見えて彼は、



ええ、勿論、それがどうかしましたか?



と聞き返すと、



もしかしたら、お客様は、明日の電車で帰られたほうが良いのかもしれません。



今夜の電車は特別ですので・・・・。



そう言われた。



そして、少し考えた後、



まあ、お疲れのようですから眠っていかれれば問題無いですよ。



と言われ、切符を渡されたという。



彼にはその意味がわからず、それでも慌てて電車のホームへと向かう。



その途中、先程、切符売り場の駅員が言っていた柱の側を通ったのだが、



その時にはもう女性の姿は消えていたという。



そして、彼が乗る電車のホームにたどり着くと、待っている乗客は誰もいなかった。



普通、最終電車ともなれば、出張帰りのサラリーマンが並んでいるのが



常だったから、彼は少し不思議な気持ちになった。



しかも、そのホームには乗客だけでなく、駅員の姿も無かった。



まるで無人駅のように・・・・。



他のホームには沢山の乗客がいるのに、彼がいるホームには彼1人だけ。



まるで、これから自分が乗る電車は、得体の知れない所まで運ぶ電車



なのではないか、という気持ちにさえなってしまう。



そんな風に考えていると、とに利のホームからたまにチラチラとこちらに



視線を向けるサラリーマンの顔が、



ああ・・・かわいそうに・・・・。



と思っている顔に見えてきてしまう。



本当に大丈夫なのか?と不安になっていると予定通り電車がホームへと



入ってきた。



いつも見慣れた電車の車体に彼は少しホッとしたという。



彼が電車に乗り指定座席を探して移動していると、車内が乗客でいっぱい



であることに気付いた。



家族連れ、そして女性、老人、出張帰りのサラリーマンといつも通りの



車内の風景に彼はホッとして席についた。



車内は乗客で満席状態だったのだが、何故か彼の隣の席には誰も



居なかった。



きっと疲れている彼の様子を見た駅員が気を利かせてくれたのだと



彼は感謝した。



座席に座りしばらく窓からの景色を眺めていたが、夜の為、窓から見える



のは真っ暗な風景であり、そのうち、彼は眠たくなってしまい、目をつぶった。



電車のゆれが心地よく、彼はすぐに深い眠りに落ちそうになる。



しかし、何かが彼に危険信号を鳴らした。



そして目をつぶったまま考えた。



すると、明らかに不自然な点が思い浮かんでくる。



この電車は彼が乗った駅が始発の筈だった。



そして、駅のホームには彼1人しかいなかった。



それならば、この電車内を埋め尽くす乗客は一体何処から乗ってきた



というのか?



そして、駅員が言っていた、寝ていれ大丈夫!というのは、いったい



どういう意味なのか?



そんな事を考えながら彼は目を閉じていた。



そして、彼は新たな疑問を感じてしまう。



それは、今、目を閉じている彼の周りには沢山の乗客が居るはずだった。



しかし、彼が目を覚ましてから聞こえてくるる野は線路を走る電車の音だけ。



乗客の声などは一言も聞こえてこなかった。



深夜ということで、誰もが回りに気を遣ってしゃべらないようにしているのか?



それとも、誰もが皆、寝てしまったとでもいうのか?



いや、そんなことは考えられなかった。



彼がこの車両に乗ってきた時、車両を埋め尽くした乗客たちは、



皆、賑やかに喋っていた。



煩いくらいに・・・・。



だとしたら、今のこの状態をどう説明すれば良いのか?



彼は冷たい汗が滲んでくるのを感じた。



そして、ゆっくりと目を開けてみる。



うわぁっ!



彼は思わず叫んでしまった。



そこには、彼の顔を覗き込んでいる沢山の顔があった。



まるで、珍しいものでも見るかのように・・・・。



彼は思わず目を閉じてしまう。



沢山の顔に囲まれた状態ではそうするしかなかったという。



しかし、彼の頭の中はもう既にパニックになっていた。



こいつらは一体何なんだ?



何故、俺の顔を覗き込む必要があるんだ・・・・。



しかし、どれだけ考えても答えは見つからない。



いや、1つだけ確信めいたのがあった。



それは、今、自分と同じ車両に乗っている者達は、もしかしたら



この世の者ではないのかもしれない、ということ。



確かにそれならば、全ての説明がつく。



しかし、彼はどうしてもそれを認めたくはなかったようだ。



そのまま深呼吸をして必死に心を落ち着かせる。



すると、先程まで聞こえてこなかった車内の話し声が聞こえてきた。



ザワザワ・・・・ザワザワ・・・・。



それは、本当に何処にでもある賑やかさだった。



彼はもしかしたら自分が寝ぼけて変なものを見てしまったのかもしれない、と



思い始める。



そして、今度は一気に目を開けてみた。



え?



彼は状況が理解出来なかった。



何故なら、彼が乗る車両は電気も消えており真っ暗になっていた。



ちょっと待ってくれ・・・・どういう事だ?



彼はそう思いながらゆっくりとシートから体を起こした。



そして、立ち上がって周りを見た。



そこには、誰も居なかった。



真っ暗な車両の中に、彼だけがポツンと立っていた。



夢なら覚めてくれ!



そう思った時、彼はあることに気付いた。



確かに周りを見渡した時、車内には誰も居なかった。



しかし、彼が座っていた座席の近くから明らかに誰かの息遣いが



聞こえていた。



とても苦しそうな重い呼吸音だった。



彼はゆっくりと自分が座っていた隣の席を見下ろした。



声が出なかった。



そこには、黒い洋服を着た女が座っており、顔を彼の方へと向けていた。



その顔は血にまみれており、頭部がバックリと大きく割れていた。



その顔はまるで生気の無い顔であり、ぼんやりと彼を見上げている。



そして、その女の手が彼の手を掴んだ時、彼はその場で意識を失った。



それから、どれだけの時間が過ぎたのだろうか・・・。



彼がハッと目覚めると、車掌さんが困った顔で彼を見つめていた。



大丈夫ですか?



と心配そうな顔をされた彼は、



あの・・・すみません・・・今、どり辺りですか?



と聞いた。



すると、もう小松駅を通過したという。



彼は慌てて荷物を持つと、そのまま席を立って出口付近へと駆け出した。



そして、金沢駅に到着し、ドアが開くと電車の中からは沢山の乗客たちが



出てきたという。



しかし、彼が乗っていた車両には誰も乗っておらず、当然、降りたのは彼1人



だったという。



その後、彼に怪異は起こっていないが、その1件以来、最終電車には



決して乗らなくなったということだ。



Posted by 細田塗料株式会社 at 22:08│Comments(0)
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