2018年11月09日

終わらない悪夢

彼女はある日、引越しをした。



それまでの新しく綺麗なワンルームマンションから、古い造りの



アパートへと引っ越したのだ。



理由は、そのアパートの方が会社に近いという理由だった。



彼女は春の移動で会社での部署が変わり、それまでの事務系から



現場での仕事に配置転換された。



その部署は、確かに給与は良かったが、朝はかなり早い時間に



出社しなければいけなかったからだ。



しかし、もともと部屋には何も家具を置かないほどの質素な生活を



していた彼女は、会社により近く、そして家賃も安いそのアパートに



即決した。



アパートは一応フローリングになっており、窓も大きめのものが



二つ付いている。



造りは大き目のリビングにキッチンと浴室とトイレが在るだけ



だったが、彼女には必要十分な広さだった。



だから、部屋には小さな冷蔵庫とテレビだけを置いて、夜寝る



時には、フローリングの上に直接、布団を敷いて寝ることにした。



そして、実際にそのアパートから会社に通いだすとそれまでの



通勤の大変さは微塵もなく、それだけでも引越しをした価値は十分に



あると感じていた。



そんな彼女が平和に過ごせたのもほんの二週間ほどだった。



ある晩、彼女は夢を見た。



とてもリアルな夢。



彼女自身が、見知らぬ女に馬乗りになり一心不乱に首を絞めている。



ハッとして首に回した手を外そうとするのだが、彼女の気持ちとは



関係なく彼女の両手はしっかりと女の首に食い込み力任せに



首を絞め続ける。



やめて~・・・・殺したくない~



そう叫びながら涙を流し続ける彼女。



そうしているうちに、女の首から全く反応が無くなり、柔らかくなる。



その瞬間、バキッと嫌な音がして首が折れる。



そこで、初めて彼女は夢から醒める。



夢とはいえ、体には汗がびっしょりとかいており、涙も流れ、



そして、何より、異様に腕が痺れている。



まるで、現実に今まで誰かの首を絞めていたかのように。



そして、目覚めてからは一睡も出来ず、明かりを点けたまま



朝を迎える。



そんな夜がずっと続くようになる。



そして、彼女はある疑念を抱く。



あんなにリアルに人を絞め殺した感覚や腕の痺れがあるというのに、



あれは単なる夢なのか?



本当に私は何もやっていないのか?と。



しかし、夢の中に出てくる女に見覚えはなかったし、何よりも



自分には、人を殺したいと思ったこともなければ、それほどまでに



他人を憎んだ事もなかった。



ただ、その夢を見始めてからというもの、一日も欠かさず同じ夢を



見ていることも紛れも無い事実だった。



そして、その状態は彼女の生活だけでなく仕事、そして精神にまで



かなりのストレスになってしまっている。



だから、それを確かめる為には、とある夜彼女は一睡もせずに



夜を過ごす事に決めた。



もしも、それで何も起こらなかったとしたら、それは夢である、と



自分自身が納得出来る・・・・。



そう考えたのだ。



かくして、それは翌日が仕事が休みという日を選んで実行された。



何かあったときの為に、手元にはスマホを置いて、いつでも友人に



助けを求められるようにした。



いつも晩御飯を食べると、すぐに睡魔に襲われてしまうので、その夜は



何も食べずに過ごした。



それでも、徹夜などした事が無い彼女にとって、夜はやはり眠くなってしまう



らしく、そんな時には、少しだけ外へ出て体を軽く動かして眠気を



追い払った。



濃いコーヒーを飲みながらテレビを観ていると、時刻は午前2時半を



回っていた。



こんな時間まで起きていた事は無いかも・・・・・。



彼女は、そんな時間まで全く眠たくなっていない自分に驚いていた。



民法放送が終わると、朝まで番組をやっている国営放送に切り替えた。



ふーん・・・こんな時間にもちゃんとテレビ放送ってやってるんだ・・・。



そんな事を思っていた時、突然、彼女の部屋のドアが開いた。



すると、誰かが部屋の中に立っている。



夢の中の女だった。



その時、彼女は声も出せず、ただ呆然とその様子を見守っていた。



何故か怖いという感覚は無かったという。



それよりも、部屋の住人が帰ってきた、という後ろめたさにも似た



感覚が頭の中で渦巻いていた。



すると、その女がこう言った。



殺して・・・・・。



すると、自分の体が勝手に反応した。



彼女自身、何をしようとしているのか、全く分からなかったが、彼女の



体は、その女の言葉に反応し動き始めていた。



そして、横になる女。



そして、馬乗りになり、ゆっくりと両手をかける彼女。



それはいつも夢で見ている光景だった。



それから、彼女が両手に力を入れていくと、その女は声にならない



苦しそうな呻き声を漏らし、足をバタバタとさせた。



しかし、彼女の意思とは別に、彼女の両手には更に力が入るのが



分かった。



彼女は、いつもの夢の中と同じように涙をボロボロと流し、



いや~・・・やめて~・・・・。



と叫び続けていた。



すると、いつものように、ボキッと嫌な音が聞こえ、女の首が



グラグラになった。



そうなって、ようやく彼女の体はその女の体から離れた。



そこには、目を開けたまま大きく口を開けて死んでいる女が



横たわっていた。



やっぱり夢じゃなかったんだ・・・・・。



だとしたら・・・・。



彼女は、今にも気が狂いそうになっていた。



自分は今、間違いなく1人の人間を殺したのだ・・・。



どうすれば良い・・・・け・・警察にいかなきゃ・・・。



そう思った時、突然、その女が



アーアーアー・・・・・と大きな声を上げた。



ハッとして女のほうへ視線を向けると、



死んでいる筈の女が、むっくりと起き上がり、そして彼女の前に立った。



何が起こっているのかわからなかったが、彼女の前に立つ女は



完全に首が折れているのか、首がダラリと折れて垂れ下がっており、



それを見た彼女は初めて恐怖を感じた。



すると、その女は垂れ下がった顔で、薄ら笑いを浮かべると、



指で床を指差した。



すると、彼女の体は何かに操られたかのように、立ち上がると、



そのまま床に仰向けに寝転ぶ。



すると、その女が、今度は彼女に馬乗りになった。



もう、そこからは彼女にも簡単に想像出来た。



首の折れたままの女は、彼女の首に両手を回して、



こんなに苦しいの・・・・わかる・・・・苦しいの・・・・。



と繰り返しながら、彼女の首をものすごい力で締めつけてきた。



彼女は、涙と嗚咽を繰り返していたが、突然、ゴキッと鈍い音がして



意識が飛んでしまった。



それから彼女が目覚めたのは、もう正午近かった。



ハッとして起き上がった彼女は、自分の首が折れていない事を



確認しホッとしたが、すぐに鏡の前に行き、自分の顔を映してみた。



すると、そこには、くっきりと青いあざがついた首が痛々しく映っている。



彼女はそれからアパートの管理会社へと出向き、ずっと続いている



悪夢のことを話し、そして首のアザを見せた。



すると、管理会社の人間は、



告知義務はありません・・・。



ただ貴女が疑っている様な事は、一切起きていませんけど・・・。



とだけ冷たく言った。



しかし、引越し費用が工面出来なかった彼女は、それからすぐに引越しは出来ず、



塩をまいたり、お札を貼ったりしたらしいが、悪夢が消えることは無く、



それよりも、ある夜以来、夢の中で今度は彼女が首を絞められて殺される



というパターンが定着してしまい、彼女の首のあざはどんどん濃くなっていく。



そして、さすがに命の危険を感じた彼女は、両親に頼み込んでお金を借り



無事に引越しをした。



ちなみに、引越し後、彼女は二度と悪夢を見なくなったという。



Posted by 細田塗料株式会社 at 22:24│Comments(0)
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