2018年11月09日

窓ふきの男

これは仕事関係の知人から聞いた話。



知人と言っても彼は俺よりもかなり若く、通常ならあまり親しくなる事も



ないのだが、趣味が同じ音楽ということで、たまに酒を飲みにいく



間柄だ。



見た目はかなり派手な印象を受ける彼だが、実は真面目で努力家で、



控えめな性格だ。



バンドではベースを担当し、派手なアクションとともに、ステージ



を所狭しと駆け回る。



しかし、それはどうやら恥ずかしさを打ち消すための彼のスタイルであり、



ステージを降りた後とでは、凄いギャップがあり面白い。



そんな彼の会社は市内の大きなビルの8階に事務所を構えている。



築年数はかなり古いが、当時としては珍しい全面ガラス張りの



インテリジェントビルだ。



その会社へ彼が入社した頃、早く仕事に慣れないと、と思い昼休みの時間も



オフィスに残って事務作業をしていたらしい。



すると、窓の方で何かが動いたのが見えた。



そこで、顔を窓に向けると、清掃用のツナギを来た男性がゴンドラに乗り



窓を拭いているのが見えた。



初めて見るゴンドラを使った窓拭きに、彼はしばらく仕事の手を止めて



見入ってしまう。



すると、ゴンドラで作業をしていた男性も彼の視線に気が付いたらしく、



彼に会釈してきた。



そして、彼も思わず、会釈を返した。



最初はただそれだけだった。



しかし、彼がそれから昼休みを仕事で費やしていると、必ずそのゴンドラに



乗った窓拭きの男性が現れるようになった。



最初、彼は、



こんなに毎日、窓拭きをしなきゃいけないものなのか?とか



あんな高いところで窓を外から拭くなんて凄いよなぁ・・・



と思ってみていたらしいのだが、それからも毎日、その男性の姿を



目にするようになると、次第に親近感を抱くようになった。



自分も昼の休み時間に仕事をしているけど、あの人もいつも昼の時間に



仕事をしているんだよなぁ・・・と。



そう思うと、とても親近感が沸いてきて、。つい話しかけてみたくなった。



そして、彼はゆっくりと窓の近くまで歩いていくと、



こんにちは。



毎日、大変ですね。



それに、そんな高いところで作業なんて、凄いですよね!



と話しかけた。



すると、しばらく不思議そうな顔で見ていた男性も、すぐににっこりと



笑って、



いえ、もう慣れてますから・・・。



それにしても貴方も毎日、お昼休みにお仕事を続けてるなんて



大変ですね。



だから、いつも窓の外から眺めては、感心していたんですよ!



そう返してくれた。



その反応がとても温和で丁寧だったから、彼はすぐにその男性と仲良くなった。



そして、昼休みになると、必ずオフィスに残ってその男性との会話を



楽しむ様になった。



外回りをしていても、昼休みの時間には、わざわざ会社に戻って来ては



窓拭きの男性が現れるのを待った。



彼に兄はいなかったが、きっと兄がいたら、こんな感じなのかな、と



思い、日毎に、昼休みにその男性と話すのがとても楽しみになった。



そのうち、彼は日常的な会話だけではなく、色々な悩みまで相談



するようになった。



仕事で辛いことや苦しいことがあっても、その男性と話せると思うと



我慢できたし、何より、その男性に悩みを相談すると、とても気持ちが



軽くなり、ハッピーな気分になれた。



そんなある日、彼の会社で飲み会があり、彼は先輩にその窓拭きの



男性の話をしてみた。



すると、そんな窓拭きの男性は知らないという。



それどころか、以前はゴンドラを使った窓拭きが行われていた時期も



あったらしいのだが、ある時期から、全く行われなくなったという事だった。



更に、こう指摘された。



高層ビルの窓はかなり厚く、窓の外と中で会話をする事など不可能だ、



というものだった。



しかし、彼は実際に窓拭きの男性と毎日会って会話をしているのだ、と



どれだけ言っても、きっと寝ぼけていたんだろ、と笑われてしまった。



そんなことがあってからも、毎日、彼が昼休みに仕事をしていると、



必ずその男性は窓の外に現れた。



そして、以前と同じように会話を楽しんだが、どうしても先輩から言われた



事が頭から離れなかった。



そんなある日、古くからそのビルの守衛をしている男性と話す機会があり、



彼は思い切って、その男性の話をしてみた。



すると、思いがけない話を聞かされた。



ずっと以前、このビルにはゴンドラを使って窓拭きをする業者が確かに作業を



していたのだという。



だが、ある日、ゴンドラから事故で作業員が落下して死亡し、それからは



ゴンドラでの窓拭きは行われなくなったのだという。



そして、その亡くなられた男性というのが、彼が言う男性の特徴と酷似



していた。



とても明るく、守衛さんたちにも、きちんと挨拶してくれる礼儀正しい



男性だったという。



そして、それを聞いてから、彼は思い切って屋上に登ってみた。



今もゴンドラを使った窓拭きが行われているのなら、きっと、その為の



装置らしきものがある筈だ、と。



すると、ゴンドラを固定するための機械は確かに在ったのだが、もう、



既に錆びて朽ち果ててしまっていた。



どういうことなんだ?



.彼は頭の中が混乱していた。



そして、それと同時に得体の知れない不気味さも感じていた。



そんなある日、彼が外回りをしていると、突然、頭上から



危ない!止まれ!



という大声が聞こえ、彼が立ち止まると、彼の目の前に大きな看板が



落下してきた。



寸でのところで彼は無傷だったが、思わず゛ゾッとしてしまう。



それと同時に謎が解けたように、その男性に対する恐怖心が消えていくのを



感じた。



そして、もうひとつ。



どうやら、その男性は彼が1人でオフィスに居る時にだけ現れることに



気付いた。



先輩や女子社員がいる時には、絶対に現れることはなかったのだ。



そして、彼は思ったという。



確かにその男性は生きている人間ではないのかもしれない。



それに、先日、頭上から看板が落ちてきた時も、確かにあの男性の声が



聞こえた。



もしてして、いや間違いなく、あの人は自分の事を護ってくれたのだろう。



そう考えると、彼はもう恐怖心の欠片も感じなくなった。



そして、それからも、彼はわざと1人で昼休みには会社で留守番する



様になり、相変わらず、その男性との会話を楽しんでいたのだという。



相手が幽霊でも関係ない・・・・。



そんな気持ちだったという。



そして、いつ頃かは覚えていないが、その男性が真面目な顔で立っていた。。



勿論、窓越しに・・・・。



そして、神妙な顔でこう言ったという。



やっと上の世界にいけるようになったんだ。



だから、もう行かなきゃいけない。



でも、本当は嬉しいはずなのに、少し寂しい気持ちなんだ。



もう会えなくなるからなのかもしれない・・・・。



今まで本当にありがとう・・・。



上の世界に行けるのも貴方のお陰かもしれないから。



とお辞儀をされたのだという。



きっと彼も同じ気持ちだったのだろう。



その言葉を聞いたとき、大切な家族を失うような気持ちがして自然に



涙がこぼれたという。



そして、その日以来、そり男性の姿は見なくなってしまったが、最後の



晴れやかな顔を見る限り、きっと天国へ行って幸せに過ごしている



のだと思います。



と嬉しそうに話してくれたのがとても印象に残っている。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:35│Comments(0)
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