› 看板・サインスタッフブログ | 細田塗料株式会社 › 誰も近づかない桜の木

2018年11月09日

誰も近づかない桜の木

これはAさんから聞いた話である。



場所は、北陸とだけ書くことにする。



そこは隠れた桜の名所であり、花見の時期になると沢山の人が



昼夜押しかけては、かなりの賑わいになる。



勿論、俺はその場所へ花見に訪れた訳ではないが、Aさんとその場所へ



別件で訪れた際、教えてもらった話である。



そこにはとても大きな桜の木が在るのだ。



ソメイヨシノだと思うのだが、とにかく大きな木で花びらもとても



美しい。



まさにその辺りでは一番大きく綺麗な桜の木だ。



だが、まさに花見シーズン真っ盛りだというのに、その木の周りにだけ



人が居ないのである。



場所が確保できず、道路の歩道で飲んでいる人達もいるというのに・・・。



だから、俺はAさんに聞いてみた。



あの桜の木は曰くつきなの?と。



すると、Aさんは、



え?曰くですか?・・・まあそんな感じですけど、でも怖くないでしょ?



と言ってから、こんな話をしてくれた。



在る所に1人の女性が住んでいた。



元々はかなりの資産家の家柄だったが、ある時、貧乏な男性と知り合い



恋に落ちる。



しかも、その男性には妻子がいた。



しかし、彼女はそれを理由に恋を諦めることはしなかった。



たとえ結婚出来なくても、その男性と過ごす時間は彼女にとって幸せな



時間であり掛け替えのないものだった。



しかし、当然のごとく、彼女の両親は大反対した。



両親が彼女に求めていたのは、自分たちが決めた相手と結婚して



自分の幸せだけでなく、両親の幸せにも貢献する事だったのだろう。



確かに親ならば、子供がよりリスクが少ない相手と結婚する事を



望むのだろうが、両親の行く末まで背負わされてはたまったものではないのだが。



そして、彼女は両親の大反対の末、家から出て行くことになった。



ただ、彼女にとって両親の威光というものはとても強いものであり、



両親から縁を切られるということは、仕事や家、その全てを失うことに



なった。



それでも彼女は必死に頑張った。



それまでの仕事は両親が用意してくれた高給で簡易な仕事であり、彼女は



初めて体験する仕事の辛さに何度も挫けそうになった。



住む場所も、普通の人なら決して選ばないであろう、古く汚いアパートを



借りた。



風呂は無く、炊事場も共同という今では考えられないほどの劣悪な



環境だった。



それでも、彼女は幸せだった。



仕事や生活はかなり酷いものだったが、それまでのかごの鳥の様な



生活ではなく、自分で決めた生活・・・。



そして、つかの間、愛する彼と会える時間がある限り、彼女は自分の事を



不幸だと思ったことは無かった。



そんなある日、彼女は妊娠した。



勿論、彼との間に出来た子供だった。



とても可愛い女の子だった。



そして、その女の子が3歳になった時、彼は彼女の前から姿を消した。



彼の存在を疎ましく思っていた彼女の親族によって、半ば強引に



彼は遠くの地へ行く事になった。



しかし、彼女は騒ぐことも無く、その現実を受け入れていた。



何故なら、その女の子は彼にとても良く似ており、彼との間に出来た



子供と一緒に生活出来る事だけで彼女には十分に幸せだったのだから。



そして、それは現実として誰も傷つかない方法だと思った。



彼女が我慢さえすれば、彼女の親族にも傷がつかず、彼自身もそれなりの



金銭と地位を得られる。



だから、自然にその現実を受け入れられた。



本当は辛かったはずなのに・・・。



そして、それからは、彼女の愛情は一層、その女の子に注がれた。



そして、そんな愛情を一身に受けながら、女の子は元気に育っていった。



しかし、現実というものは、時として残酷なものである。



ずっと咳が止まらなかった彼女だが、経済的理由から病院には行かなかった。



いや、行けなかったのかもしれない。



そして、仕事中に吐血して倒れた彼女は救急車で病院に運ばれたが、



検査の結果、末期のガンだと判明した。



しかし、それを知っても彼女の親族や家族は誰一人見舞いには来なかったという。



それでも、仕方なく、彼女は子供を両親(祖父母)に託した。



彼女の両親(祖父母)も結婚には、その男性との関係にはずっと反対してきたが、



やはり孫は可愛かったのだろう・・。



二つ返事で孫を預かると、それからはその女の子に綺麗な服を買い与え、



裕福な生活を与えた。



しかし、既に小学4年生になっていた女の子は、1つだけどうしても



我慢出来なかったことがあった。



それは、祖父母から常に聞かされる、女の子の父親の悪口と、母親に



対する愚痴だった。



だから、女の子は、いつも祖父母の家を抜け出しては、母親の病院に通った。



女の子がお見舞いに来ると、母親は満面の笑みで迎え、いつも頭を



撫でてくれた。



母親は女の子がお見舞いに来ると気丈に振る舞い、その病室からも見える



桜の木の話をいつもしてあげた。



その木は彼女が生まれる前からその場所にあり、自分と一緒に育って



きたのだと・・・。



そして、辛いことや悲しいことがあると、いつも、その桜の木を眺めては



慰められていたという事を。



だから、お前も悲しいことや辛いことがあったら、あの桜の木に慰めて



貰えば良いよ・・・・と。



彼女にとって子供が全てだったのと同じように、やはり女の子にとっても



母親が全てであり、何とか回復するようにと、千羽鶴も折ったし、元気な



似顔絵も沢山描いた。



それを見るたびに、母親は、



早く良くならなくちゃね!



と言ってくれるのが女の子には何より嬉しいことだった。



しかし、そんな小さな幸せも、ついに終わりが近づいてしまう。



母親が集中治療室に入れられ、完全看護の状態になってしまい、女の子の



立ち入りも許可されなくなった。



女の子は母親に会えない辛さで日々暗くなっていった。



そんなある日、女の子は思い出した。



母親がいつも大好きな木だ、と言っていた桜の木がある事を。



お母さんが大好きな木なら、きっとお母さんと私のの願いも叶えてくれるはず。



そう考えた女の子は、それから毎日、学校が終わると、その桜の木に行き



その下に寝転んで、



早くお母さんが元気になりますように!



そう祈り続けた。



その願いが届いたのか、母親は集中治療室から出る事は出来なかったが、



それでも奇跡的に生命を維持していた。



そして、その間も一日も欠かす事無く、女の子は桜の木にお願いを



続けた。



祖父母は何とか止めさせようとしたらしいが、女の子の気持ちは揺らぐ



事無く、上手に家を抜け出しては、毎日、桜の木に行っては願いをかけ続けた。



しかし、やはり小学4年の女の子にとって、それは過酷な事だった



のかもしれない。



冬の日もその桜の木に行って、木にもたれかかってお願いをしていた



女の子は、疲れのためか、そのまま眠ってしまい、あろうことか、そのまま



凍死してしまう。



帰ってこない孫を心配して警察にも連絡して捜索したらしいが、結局、翌朝に



なって、冷たくなっている女の子が発見された。



しかし、発見された時、女の子は何故か嬉しそうに笑った顔のままだったという。



そして、それは当然のごとく、集中治療室にいた母親にも伝えられた。



体中に生命維持装置を付けられたままの母親に・・・。



しかし、取り乱すと思っていた回りの看護師達は、母親の落ち着いた態度に気が



変になってしまったのではないか、と思ったという。



そうですか・・・。



あの子は笑っていたんですね・・・・。



ありがとうございます・・・・。



それが最後の言葉だったという。



そして、その日の夜、母親はあっさりと息を引き取った。



娘と同じようにうっすらと笑った死に顔だったという。



まるで、死んでいくのが嬉しいかのように・・・。



それからである。



その大きな桜の木で、親子二人の楽しそうな姿を目撃する人が



続出した。



それは、間違いなく、彼女とその娘なのだろう。



そして、その姿を見た者は、何故か恐怖は感じず、微笑ましい感情に



包まれた。



そして、噂で事情を知った人達は、その親子の霊をそっと見守った。



それからは、その桜の木の下で花見をする者はいなくなった。



それは、幽霊が怖い、というものではなく、誰もがその桜の木は



母親と娘のかけがえのない場所だと認識していたから・・・。



だから、事情を知らない人がその木の下で花見をしようとすると、



必ず誰かが止めに入ったし、場合によっては自分達の場所を代わりに



提供したりもした。



だから、その木の下で花見をする者は今では誰も居ないのだそうだ。



その話を聞いて、俺が、



可愛そうな話だよね・・・と言うと、Aさんは、



まあ、現世では幸せだったかどうかは分かりませんけどね。



でも、幸せなんて人それぞれ違うものですから・・・・。



それに、これだけは断言出来ますから。



今はあの親子はずっと幸せに過ごしているって・・・。



だから、良いんじゃないですか・・・。



そういう幸せの形があっても・・・。



そう言っていた。



来年の春も、そして、それからもずっと、その花見の特等席は、その親子の



為に、ずっと空けられたままなのだろう。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:41│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count