2018年11月09日

霧の向こう側

これは友人が体験した話である。



彼は名古屋に住んでいるのだが、昔は金沢で単身赴任生活をしており、



その際に飲み仲間として知り合った。



それなりの大企業のそれなりのお堅い役職の方なのだが、何故か



俺とは気が合ってしまい、今でも年に数回は金沢に来ては俺と



酒を飲むのを楽しみにしてくれている。



たまには、俺が名古屋に行こうか?



と言うのだが、



いや、金沢の地酒が飲みたいから、俺がそっちに行くよ!



と一緒に飲むのはいつも片町である。



そんな彼は趣味として写真撮影も楽しんでいる。



撮影するのはあくまで風景写真であり、いつも車で良い場所を求めて



山の中や川、そして海などを彷徨っている。



そんな彼が一度だけ体験したという怪異がこれから話す内容だ。



その日、朝から快晴だった彼は早起きして軽四に荷物を積み込み



山を目指した。



実は彼はかなり高級な車を所有し、いつもはそちらを使用している。



しかし、その大柄な車だと山での取り回しに苦労するらしい。



だから、写真撮影の時に使用する為にだけ、軽四も所有している



というのだから、羨ましい話だ。



彼がその日向かった山は岐阜県にある。



岐阜県というと山が多いという印象なのだが、確かに昔から手付かずの



山がいたるところに残されているらしい。



彼はその日、山の中の清流を被写体にするべく、下調べしてあった



山の中をトコトコと車を走らせていた。



すると、舗装こそされていないが、かなり広くまっすぐな道が



目の前に現れた。



こんな山の中に、こんなに広い道があるんだな・・・・。



そう思いながら彼は車を走らせていた。



すると、前方に霧が発生しているのが見えた。



特に雨が降っているわけでもなく、気温が低いわけでもなかったので、



彼は不思議に思ったそうだが、霧はそれほど濃いものでもなく、彼は



そのまま車で霧の中に入った。



入る前はそれほど濃くは感じなかった霧だが、中に入ってしまうと突然



霧が濃くなったかのように、視界が確保できず完全に真っ白になった。



凄いな・・・こんな霧は初めてだ・・。



そんな風に思いながら彼は慎重にゆっくりと車を進める。



それにしても長い時間だった。



いくらゆっくり走っているとはいえ、霧の中に入ってから既に1分近く



経っている。



更に視界がほとんど無い状態では、事故の危険もあった。



だから、彼はもう少し霧が薄くなったら引き返そうと思っていた。



すると、突然、霧が晴れた。



バックミラーで確認すると、たった今自分が通ってきた霧が真っ白な壁に



なって背後を塞いでいた。



彼はその時迷っていた。



Uターンして、引き返すとしたらもう一度、あの霧の中を通らなければ



いけない。



だが、先ほどの様な心細い思いはもうしたくはなかった。



では、前に進んで別のルートを探すか・・・。



しかし、その場所は明らかに普通ではなかった。



道は相変わらず広かったが、その道の両脇には沢山の家が立ち並んでいた。



そして、その家というのも、木と藁だけで作った様な、まるで江戸時代



以前の農家のような造りをしていた。



こんな所に民家が存在しているのか・・・。



それにしても、まるで時代劇のセットの様な家ばかりじゃないか・・・。



そんな事を考えながら、彼はきょろきょろと辺りを見回しながら



ゆっくりと車を走らせた。



それにしても、辺りには人の姿は皆無だった。



この集落はきっともう誰も住んではいないのかもしれない・・・・。



そう考えた時、彼は思わず車を停めた。



その場所で何枚か写真を写そうと思ったのだ。



彼は車のエンジンを止め車を降りた。



あまりにも静かだった。



鳥の鳴き声も虫の音も全く聞こえない。



これだけ静かだと逆に不気味に感じる。



そして、彼はカメラを持つ手ゆっくりと砂利道を歩き始めた。



と、その時である。



そのふるい家並みの方から、バキッと何かを踏み折った様な音が



聞こえてきた。



彼はハッとして顔をそちらに向けた。



誰かが家の陰から彼の方を見ていた。



彼は、こんにちは!と声を掛けようとして咄嗟に声を殺した。



人がいる・・・。



それも異様に沢山の人が・・・・。



そして、それらが全て家の陰から彼の方を睨んでいた。



それはとても友好的なまなざしには見えなかったし、何より彼には



それらが人間には見えなかったという。



家の陰から彼の方を見ている人の姿は大人も子供も、そして



男も女もいた。



しかし、そのどれもが藁のようなものを体に巻き、そして、異様に首だけが



長かった。



彼は、そのまま、何気ないフリで後ずさり、静かに車に乗り込んだ。



ドアをロックし、車のエンジンをかけた。



車をすぐに発進させると、アクセルをベタ踏みした。



早くその場所から逃げなければいけないと感じていた。



しかし、彼はすぐに車のブレーキを踏まなければいけなくなる。



またしても、彼の車の眼前には、先ほどの霧よりも更に濃く、



壁のように立ちはだかる霧が発生していた。



彼は考えた。



このまま進んで良いものか・・・と。



さっきは、霧の中に入って、そして抜けた所がこの場所だった。



だとしたら、目の前にある霧を抜けたら、もしかしたら、もっと



訳の分からない場所に出てしまうのではないのか?



そんな事を考えて彼は前にも後ろには進めなくなってしまう。



と、その時、突然、車が大きく揺れた。



何かが車に貼りついたような音が聞こえた。



恐る恐る彼は視線を横に移すと、そこには先程まで家の陰から



彼を覗いていたモノ達の姿があった。



大勢のモノが、彼の車に貼りつき、そして車内を覗き込んでいた。



そして、その時、彼は気付いた。



そのどれも目が無いのだ。



先ほどは気付かなかったが、今、こうして間近で見ると、目の部分には



真っ黒なくぼみしか無く、目というものが存在していない。



そして、とても人間とは思えない程の長い舌で、車の窓を舐めていた。



その時、彼は無意識に体が動いたという。



車のギアをリバースに入れると、そのまま一気に車を後進させた。



車の外からは何かうめき声の様な声も聞こえたが、彼は必死に



バックモニターだけを見続けた。



そのうち、車の周りが真っ白になったのを感じ、霧の中へ戻れたのだと



確信した。



それでも、車のボディには、それらのモノが相変わらず張り付いているようで、



嫌なうめき声と車のボディをバンバンと叩く音が聞こえていた。



彼は更にアクセルを踏み込んで後進し続けた。



とても長い時間に感じたという。



突然、車が何かに乗り上げるような感覚が彼を襲い、気付いた時には



車は上下が反転していた。



彼は必死に車から這い出た。



すると、そこは、先程通った道であり、山の壁に乗り上げた車が



そのまま横転し、ひっくり返ったのだと分かった。



そんな状態でも彼はとてもホッとした気分だった。



もう、そこにはいつもの時間が流れており、異界から脱出出来た



事を実感出来たのだから・・・・。



その後、彼はJAFを呼び、車を牽引してもらい、彼はそのまま



JAFの車に乗せてもらい下山したという。



その際、JAFの方に、



この辺は訳の分からない土地なんですか?



と聞いたらしいが、



春には山菜取りでにぎわう普通の山ですよ!



と言われ、更に謎が深まってしまった。



ちなみに、彼の車にはその時、沢山の手形が付いていたらしいのだが、



その後、怪異は発生しておらず、相変わらず、その車に



乗り続けているということだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:00│Comments(0)
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