2018年11月09日

事故

その日、友人は残業で遅くなってしまい、帰りに所用もあった為、



帰路に着いたのは午前1時を回っていた。



彼は霊感は無く、それまでに怪異に遭遇したことなど無かったから、



その時ものんびりとカーステレオを聞きながら愛車を走らせていた。



彼の車は、最近購入したばかりのスポーツタイプの車だった。



元々、彼とは車で夜の峠を走り回っていた頃に知り合ったのだが、



最近では愛車こそ、ついついスポーツタイプの車を選んでしまうが、



運転自体はとても安全運転になっている。



そうして運転しているといつしか雨が降り出したという。



彼の家は金沢市内の郊外にあった。



だから、そんな時間帯になると、殆ど車とはすれ違わない。



そして、対向車が前方から走ってくるのが見えた。



おっ・・・こんな時間に・・・・珍しいな・・・。



彼はそう思ってヘッドライトを下向きに切り替えた。



どうやら対向車はかなりのスピードで走っているらしく、一気に



彼の車に近づいてくる。



若い奴なのかな・・・どんな車なんだろ?



そう思いながら車を走らせ、ちょうど、対向車とすれ違うという



瞬間に彼はありえない光景を目にした。



それは、前方の歩道から1人の女性が対向車のヘッドライトめがけて



走っていく姿だった。



彼は思わずブレーキを踏んだという。



そして、それは一瞬の出来事だった。



対向車のヘッドライトの中にその女性が吸い込まれていく。



そして、何かが弾ける様に飛んだ、と思った瞬間、彼の車に何かがぶつかる



音が聞こえた。



そして、運悪くブレーキを踏んでいた彼の車に巻き込まれるように



ぶつかったという。



鈍く気持ちの悪い音がして、車が何かを巻き込んだのが分かったという。



彼はその女性を撥ねたであろう対向車をミラーで確認しようとした。



しかし、ミラーには何も映ってはいなかった・・・。



何処にいった?



彼は恐る恐る車のドアを開け車外に出た。



そして、目視で走り去っていく対向車を確認しようとしたらしい。



しかし、そこには車の姿など1台も無く、ただ気持ち悪い位の静寂が



あった。



彼は呆然としていた。



初めて人を轢いてしまった事に対して、恐怖で体が震えていた。



しかし、ハッと我に返る。



もしかしたら、まだ助かるかも・・・・・。



そう思った彼は車の下に巻き込まれているであろう女性の姿を確認



するべく雨の中、車の下を覗いた。



え?



そこには誰もいなかった。



何度見直しても、人など巻き込まれてはいなかった。



確かに対向車が撥ねた女性がこちらに飛んできて、自分の車にぶつかった



のを見た。



そして、ぶつかった衝撃もあったし、嫌な音もした。



しかし、現実として、そこには被害者の姿は無かった。



どうなってるんだ?



彼はホッとした気持ちと、得体の知れない不気味さに頭が混乱していた。



視線を自分の車に移した。



やはり人がぶつかった形跡も傷もそこには存在していなかった。



疲れてるのかな・・・・・。



彼は自分の頭をポンポンと叩き、再び運転席に乗り込んだ。



これは何かの知らせかもしれないから、安全運転をしなきゃ・・・。



そう考えて車を発進させた。



先ほどまで聞いていたCDは既に全曲を終えて再び、最初から再生を



始めていた。



彼は安全運転の為にCDの音量を下げた。



運転しながらも、先ほどの出来事にまだ心臓の鼓動が速くなっている。



それにしても、さっきのは何だったんだ?



そう考えていた時、CDの音楽に混じって誰かの声が聞こえてきた。



女性の声だった。



おいおい・・・冗談じゃないぞ・・・・。



彼はCDの再生を止めて、声を確認しようとした。



お前だ・・・・・お前に違いない・・・・。



そう聞こえたという。



そして、その声は明らかに彼の背後から聞こえていた。



彼は恐る恐るルームミラーで後部座席を確認した。



声が出なかった・・・・。



そこには、彼の顔の横に張り付くようにして、血まみれの女がこちらを



睨んでいるのが見えた。



顔は崩れているというよりも、頭部の半分が無く、他の部分も



欠損していた。



その目は真っ赤に澱み、顔からは血が滴り落ちていた。



しかし、それまで霊体験など無かった彼は、それが幽霊だとは



思わなかったようだ。



こんな状態でも生きていられるのか?



それにしても、いつの間にこの車に乗り込んだんだ?



そんな事を考えていたという。



そして、こともあろうか、その女に対して、



大丈夫ですか?



気をしっかり持ってくださいね・・・。



すぐに病院に向かいますから!



そう言い切ったという。



そして、何故かその女は何も答えなかったという。



だから、しばらく沈黙が続いた。



だが、突然、何かがハンドルに巻きついてきた。



その女の手・・・・だった。



彼の耳元に顔をつけたまま、信じられないほどの長い手で、両手を



ハンドルに絡めてくる。



それが、凄まじい力であり、運転には自信のあった彼もさすがに動揺した。



だから、



あの・・・落ち着いてください!



大丈夫ですから・・・。



その女性の姿を見た上で、大丈夫という言葉をかける自分がどうかとも



思ったが、その時はそれほど動揺していたということらしい。



しかし、その女の手がハンドルから離れることは無く、彼は必死に



ブレーキを踏んだ。



しかし、何故かブレーキが利かない。



そして、次の瞬間、耳元から



許さない・・・・。



という言葉が聞こえると同時にハンドルが大きく回され、彼の車は電柱に



ノーブレーキのまま激突した。



エアバックのお陰で命は助かったが、それでも彼はかなりの大怪我を



負ってしまう。



その後、警察から聴取された時、彼は、あの時起こった事をありのまま、



警察官に話したという。



すると、警察官は、彼の話をまるで想定でもしていたかのように、



まあ・・・あの道ではそういう事もあり得ますから・・・。



と言って、結局、事故原因は「運転操作不適」にされてしまったということだ。


つまり、彼が単独で運転操作を誤った・・・ということ。


ちなみに、彼はその事故以来、その道は一度も使っていない。



そして、彼は言っていた。



もしかして、あの女の人はいまだに探しているのかもしれない。


自分をひき殺した相手を。


勿論、真犯人が既に捕まっているのは分からないが・・・と。



そんな彼は今では、しっかりと霊の存在を信じるようになってしまった。



そして、俺は思うのだ。



よく事故のニュースで、



”ハンドル操作を誤って・・・・”という言葉を耳にするが、その中の



幾つかは、もしかすると、この手の事故なのではないか、と。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:01│Comments(0)
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