2018年11月09日

蔵のある旧家

これは俺の友人が体験した話。



友人は今でこそ都会でマンション暮らしをしているが、元々は



東北の田舎の出身だという。



祖父母がまだその家に住んでいる為、以前は休みになると頻繁に



祖父の家を訪れていたという。



しかし、ある時を境にして、その家には一切立ち寄らなくなってしまった。



そして、それにはそれなりの理由がある。



今回はその理由について書いてみたいと思う。



それは社会人になって数年が過ぎた頃だったという。



オークションというもので、不用品が売れるという事を知った



彼は、色々と不用品を売りに出した。



そして、確かに売れたのだが、金額的にはかなの寂しいものであり、



彼はもっと高く売れる物は無いか、と考えた。



そこで、知り合いから聞いたのが、田舎の蔵に眠っている様な



期や臼、そして昭和を感じさせる物が、案外高く売れるという



事だった。



ちょうどその頃は映画の影響なのか、確かに昭和時代の品物を



取り扱うアンティークショップも沢山出来ていた。



そして、彼の生家には、まだ古い蔵が在った事を思い出し、週末の



休みを利用して、祖父母が暮らす田舎に帰ったという。



ところが、祖父母の家に着いてみると、ちょうど蔵を壊して、



家を増築しているところだった。



彼は慌てて、蔵の中のあった物はどうしたのか?と聞いたらしいが、



既に廃棄したとの答えが返ってきた。



途方に暮れてしまった彼は、無理を承知で祖父母に聞いてみたという。



この辺りには古い民家ばかりが建っているのだからも、どこか、もう



人が住んでいない様な蔵付きの家は無いか?と。



すると、



在ることはあるが・・・。



と歯切れの悪い答えが返ってくる。



しかし、思わぬ脈有りの反応に彼は躍起になってその家の場所を聞いた。



やっぱりあの場所だけは駄目だ!



と言う祖父母に対して彼は、



それなら、もう俺、この家に二度と帰ってこないから・・・。



と駄々っ子のような事を言って、食い下がった。



そして、余りにも彼がしつこかったのだろう。



ついに祖父母は根負けして彼にその場所を教えてくれた。



しかし、その場所を聞いて彼は一瞬固まった。



その場所とは、彼が幼い頃から誰も近づかない場所。



噂ではその家に住む家族が、気が狂った息子に皆殺しにされたという



事であり、嘘か真か、学校からもその家には決して近づいてはいけない



という注意が何度もあったという曰くつきの場所だった。



しかし、その時の彼は余程お金に目が眩んでいたのだろう。



そんなに長い間、誰も近づかない家なら、きっと、当時の古い物が、



手付かずで残っている筈だ。



そんな風に考えたという。



ずっと誰も住む者もおらず、完全な廃墟と化しているその家は、



今でも鍵もかけられないまま、放置されており、既に登記からも



外されていた。



だから、確かに誰がその家に入ったとしても咎める者はいない。



彼は喜び勇んで、その家に行く準備を始めた。



大きな懐中電灯をはじめ、工具類も一式持った。



そして、いよいよ車で出発しようとした際に、祖父から、声をかけられた。



本当に行くんだな?



もう何も残ってはいないと思うがな・・・。



でも、行くのならこれだけは約束してくれ!



蔵はともかくとして、絶対に家の中には入っちゃいかん!



特に2階へは絶対に言ってはならんぞ!



それと、これを持っていきなさい。



何かあった時には、きっとそれがお前を護ってくれるから・・・。



そう言って、見るからに汚い眼鏡を渡してくれた。



そして、



何か起こったら、すぐにその眼鏡をかけるんだぞ!



約束だからな!



そう言われた。



彼は、こんな眼鏡がどうしたというのか?と少し笑えてきたが、それでも



ありがとう。わかったよ。



と言うと、その眼鏡を上着のポケットに入れた。



彼はそれからすぐに家を出発して、その家に向かった。



実は子供の頃に友達とその家の側を通ったことがあった。



怖くて家の敷地には入らなかったが、それでも道のりはだいたい



頭の中に入っていた。



そして、迷う事無くその家の前に到着した。



その家は、他の集落からはかなり離れてポツンと一軒だけが、森の中に



建っていた。



そして、車を降りて、彼は少し驚いた。



彼は雑草や蔦が生い茂り、入るのも困難な状態を想像していた。



しかし、彼の目の前に立っている家は、確かに古い建物ではあるが、



雑草も無く、蔦も巻き込んではいなかった。



彼は思ったという。



もしかしたら、今では誰かがこの家に出入りしているのかもしれない、と。



しかし、彼のお金に対する執着心はそんな事で挫折するものではなかった。



だから、



すみませ~ん・・・・失礼しま~す!



と言いながら敷地の中に入った。



外から見ると、辺りには日が差し込み、とても明るい印象を受けた。



まあ、心霊スポットなんて、そんなもんだな・・・。



彼は、そう思いながら敷地内にある蔵の方へと向かった。



蔵まではそれなりに雑草も生えていたが、それも彼の心を高揚させた。



まるで、これから発見したピラミッドに入ってお宝を見つける気分。



彼はそんな風に言っていた。



土壁の土蔵である蔵は、重たそうな鉄と木で出来た扉がついていた。



そして、予想通り、鍵は掛かってはいない。



彼はそそくさとその扉に近づくと、力いっぱい、その扉を開けた。



当然、蔵の中は真っ暗だったが、それよりも何か線香の様な



匂いが鼻についた。



しかし、そんな事など少しも気にせず、彼は蔵の中に入る。



蔵はとても広かった。



しかし、そこには何もなくガランとしていた。



その中で唯一、奥の方に箪笥らしき物を発見し、彼は急いで駆け寄った。



その箪笥自体は桐で作られた古い物らしかったが、中には何も入っていなかった。



やっぱり蔵の中に物を残してはいかないよな・・・・。



そう思いながら彼はふと視線を上げると、一瞬、箪笥の向こう側に



誰かが立っているのが見えた。



うわっ・・・



彼はかなり驚いてしまったが、もう一度見直すと、もうそこには誰もいなかった。



蔵の格子窓からは明るい日差しが差し込んでいた。



気のせい・・・だな。



彼はそう思うと、急いで蔵を出た。



そう、その時彼は、そのままその家から出るべきだった。



しかし、彼は祖父との約束を破って、蔵から家へと移動した。



蔵に物が無くても、家の中には何か残っているだろう・・。



彼はそう考えた。



家のほうへと歩いていくと、玄関の引き戸が開いたままになっていた。



なんだ、これじゃ、入ってくれって言ってるみたいじゃん・・・。



そう言いながら、彼は土足のまま家の中へ入った。



家の中はいたるところかせ明るい日差しが差し込み、とても開放的だった。



廃墟という感じは微塵も無く、つい、今しがたまで、誰かがこの家に



居た様な気さえしてしまう。



その時は、彼はもう、先程、蔵の中で一瞬見えたモノの事など



すっかり忘れていた。



家の中には年代物の古いテレビや冷蔵庫がそのまま置かれていた。



まるで、突然、この家の時間が停止してしまったかのように、その時の



日常がそのまま停止して残されている・・・・。



そんな気がした。



しかし、家具などはしっかり残されていたが、高値で売れそうな物は



何一つ見つけられなかった。



そこで、彼はまたしても、祖父との約束を破り、2階へと続く階段の前



に来ると、ゆっくりと階段を上り始めた。



2回へと続く階段から上を見ると、1階とは完全に違い、かなり暗い。



彼は早速、持参した懐中電灯を点けて上方を照らしながら階段を上った。



階段は路、ギシッ・・・・ギシッ・・・・



と嫌な音を立てたが、その時の彼は完全に鐘に目が眩んでいたから



全く気にならなかった。



階段を上ると、そこには左右に廊下が続いていた。



さすがに暗すぎると思った彼は急いで廊下にある窓の障子を開けた。



しかし、何故か1階とは違い、陽の光が殆ど差し込んでは来なかった。



ちぇっ・・・まあ、いいか・・・。



彼は急いで各部屋を探索しようと、一番左の部屋から見て回ることにした。



一番左の部屋には、1階と同じように家具がそのまま残されていた。



しかし、やはり高値で売れそうな物は1つも見つからない。



そして、次から次へと部屋を移動するのだが、やはり、結果は同じだった。



そして、いよいよ最後の部屋。



一番右にある部屋へと入る。



その部屋だけは他の部屋とは違っていた。



まず、部屋に入ると、何か錆びたような匂いが鼻を突いた。



そして、懐中電灯で部屋の中を照らした時、彼は思わず固まってしまう。



そこは、明らかに普通ではなかった。



部屋の畳の上に絨毯が引いてあるのだが、その上には大きな黒い染みが



出来ていた。



その染みは黒く、そして不気味な染みだった。



まるで、血がその場所に溜まって出来た様な染み・・・。



彼はその時、思い出した。



その家で、過去に、一家惨殺されたという噂があった事を・・・。



急に恐ろしくなった彼は急いで立ち上がると部屋の出口へと



体の向きを変えた。



パシーン!



その時、大きな音が聞こえた。



それは、まるで誰かが先ほどまで彼が探索していた部屋の襖を



勢い良く開けた



様な音に聞こえた。



彼は恐る恐る部屋から顔を出して廊下を見た。



廊下は更に暗く感じた。



そして、その暗い廊下へ何かが這い出して来るのが見えた。



彼は思わず固まってしまったが、視線は釘付けになっていた。



全ての襖が開き、そこからモゾモゾと這い出してきたモノは、



全部で3体・・・。



そして、それらはゆっくりと起き上がる。



それはもう既に人の原型を留めてはいなかったが、2本足で立っている



事だけが、元は人間である事を主張していた。



と、その時、彼が居る部屋の中から何かが動いた。



それは、暗い部屋の中でも十分ディテールが分かるほどに不気味で



禍々しく、そして鼻を突く様な異臭を放っていた。



彼は、それから逃げるように廊下へと出た。



しかし、廊下には既に先程、他の部屋から出てきたモノ達が、彼の方へと



ゆっくりと近づいてきていた。



彼は次第に息苦しくなり、死さえ覚悟したという。



そして、後悔していた。



こんな所へ来るんじゃなかった・・・・・。



祖父の言うことを護れば良かった・・・・と。



しかし、もう既に遅かった。



彼は完全にそのモノ達に取り囲まれるように逃げ場を失った。



どうすれば良い?



彼は必死に考えた。



そして、祖父が言っていた言葉を思い出した。



だから、急いでポケットから眼鏡を取り出すと、それをしっかりと



顔にかけた。



完全に度数があっていないというか、その眼鏡をかけただけで



眩暈がした。



しかし、その眼鏡をかけた事で、彼はその恐ろしい姿をしたモノ達の姿が



完全にぼやけてしまい、見ずに済んだ。



相変わらず、眩暈が酷く、彼は思わず下を向いて堪えていたが、



それでも、それらの足音はキシッ・・・ギシッ・・・としっかり



聞こえていた。



彼はその場でうずくまり、震えていたという。



そして、もしも殺さされるのなら、せめて恐ろしい姿だけは見ないで



おこうと思っていた。



しかし、それからどれだけ経っても、それらの異形は、いっこうに



彼に近づいては来なかった。



足音は聞こえるのだが、どうやら彼を探している様であり、



その所在が掴めない気がしたという。



彼は恐怖心を必死に堪えて、息を止めて声を殺し、そのままゆっくりと



廊下を這って歩いた。



彼のすぐ横を足音が通るのだが、それでも彼には何もしてこなかった。



彼は手探りで廊下を進み、階段まで来ると、一気に階段を駆け下りた。



そして、そのまま急いで車に飛び乗ると、一気に走り出し、祖父母の



家へと帰ったという。



その時、家の中の暗さとは対照的に、外は完全な晴天だったという。



家に戻り、祖父母にその話をすると、しっかりと怒られたが、それでも



無事に戻って来れたことを涙を流して喜んでくれた。



そして、こう言われたという。



お前は今すぐにこの場所から離れなければいけない・・・・。



きっと、今夜、そいつらがお前を探しに来るたろうから・・・。



そして、出来る事ならもう此処には来ない方が良い。



ワシらも寂しいが、あいつらは執念深いから・・・と。



そして、彼はそれから急いで、自宅に帰ったという。



その晩、突然、高熱にうなされたが、熱は一晩で下がった。



そして、さすがに心配になった彼は祖父母に翌日電話した。



やっぱり、あいつらは来たのか?と。



すると、祖父は少し間隔を置いてから、



まあ、来たが、何とかなった・・・。



そして、これからもしばらくは、毎晩のように現れるはずだ・・。



だから、お前は絶対に此処にはもう来てはいかんぞ!



そう言われたという。



そして、この話を聞いた俺はAさんに聞いてみた。



どうして、そいつらは彼を襲わなかったのか?と。



すると、少し笑いながら、



ド近眼の眼鏡ですか・・・。



いや、年の功というか、凄い発想ですね。



それは、襲わなかったんじゃなくて、襲えなかったんですよ!



霊はかなりの確率で、相手が自分を見えている時だけ、相手を見えるんです。



つまり、相手が自分の姿を見えなくなれば、霊も相手の姿が



見えなくなる・・・。



これは、全ての霊に当てはまることではないんですけど、でも、その発想は



面白いですね。



きっと、そいつらは悔しくてしょうがなかったと思いますよ。



でも、全てにその法則が当てはまる訳ではありませんから、Kさんは



真似しないように・・・。



と釘を刺されてしまった。



ちなみに、それが彼が祖父母の家を訪れなくなった理由である。



そして、結局、それらのモノ達は、7日間、毎晩、祖父母の家に



やって来たらしいのだが、それからパッタリと現れなくなったという。



そして、実はその祖父が亡くなった時、さすがに祖父の葬儀に



参列する為に、その地を再び訪れようとしたらしいのだが、その



道すがら、忘れもしないあのモノ達が道路脇に立っているのを見てしまい、



慌てて引き返したということだ。



あいつらは、本当に執念深いんだ・・・。



きっと俺が死ぬまでは俺の事を許さないんだろうな・・・。



ただ、俺は許せないんだ・・・。



祖父は心不全で亡くなった事になっているが、祖父が死んでいるのを



発見された時、そのすぐ側には、踏みつけられたように壊れている



あの眼鏡が落ちていたという事だから・・・。



そう悔しそうに言っていたのがとても印象に残っている。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:05│Comments(0)
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