2018年11月09日

昏睡

これは知人男性の話。



その時、彼はバイクで日帰りツーリングをしていたという。



彼は元々スピード狂だったから



仲間内でも、いつか大事故に遭うのでは・・・と危惧していた。



そして、彼の乗るバイクもスズキの大排気量スポーツバイク。



そんな彼が1人でツーリングする時は、かなりのスピードで走り、



何度も危険な目に遭っていた。



しかし、彼はいつもそんな危険な瞬間を間一髪で回避していた。



それは、いつしか、自分の運転技術を過信し、自分だけは



事故らないという根拠の無い確信へと変っていたのかもしれない。



彼はその時、何処かの森の中で仰向けに寝転んでいる状態で



目を覚ました。



広くまっすぐな道を時速200キロを遥かに越えた速度で



走っていたのは覚えていた。



そして、脇道から猫が飛び出してきたのも、覚えていた。



そして、フルブレーキをかけたまま、タイヤがロックし



バイクはそのまま滑るように斜めに進んだ。



そして、対向車線からは確かに大型トラックが走ってきていた。



そこまではしっかりと記憶に残っていた。



グングン迫ってくるトラックと運転手の必死の形相・・・。



そして、自分の乗るバイクとそのトラックがどんどん近づいていく。



そこまでは覚えていた。



しかし、その後が全く思い出せなかった。



そして、何故、自分はいま、こんな森の中で1人で寝ているのだろう・・。



彼はぼんやりした頭で考えていた。



自分はぶつかったのか?



あのトラックと?



いや、あの速度でぶつかったとしたら、もう体は原型を留めていないはず。



しかし、自分の体はどこも欠損していないし、血すら流してはいない。



だとしたら、寸でのところで回避できたのか?



そして、俺のバイクは何処にあるのか?



いくら考えても何も思い出せないし、結論も出なかった。



彼は仰向けのまま力が入らない体を確認する。



両手の腕は動いた。



そして、両足も・・・。



それならば、骨は折れてはいないという事になる。



彼は渾身の力で上半身を起こすと、自分の目で体を確認した。



何処にも異常は見つからなかった。



やはり、衝突は避けられたのか・・・・・。



そう思い、彼はゆっくりと辺りを見回した。



見たことも無い原生林の様な森。



何故か白夜を思わせるような空が森の木々の上から垣間見れた。



その時、彼は、思わずハッと息を呑んだ。



そこには、列を成した沢山の人たちが立ち止まってこちらを見ていた。



大人の男女もいれば、小さな子供の姿もあった。



それに、お年寄りの姿も・・・・。



皆、バラバラの服装であり一貫性は感じなかった。



そして、その誰もが、皆、ぼんやりとした生気の無い顔をしていた。



彼は思わず、



こんにちは・・・・ここは何処なんでしょうか?



と声を掛けた。



しかし、全く反応が無かった。



もしかしたら、質問が悪かったのかな、と思った彼は、今度は



皆さんはこちらで何をされていらっしゃるんですか?



と声をかけた。



しかし、それも、全く反応が無かった。



彼は黙りこんでしまう。



そして、心の中で、



こいつらは、いったい何なんだ・・・・。



挨拶してるんだから、挨拶を返すのが普通だろ・・・。



そんな事を考えていた。



しかし、相変わらず、その人達は生気の無い顔で彼を見ていた。



そして、その時、彼は思ったという。



もしかしたら、この森はかなり深くて分かり難い森であり、



森から出るのも困難な場所なのかもしれない。



だから、森の外まで連れて行ってやるから・・・・と俺の事を



待っていてくれてるのかも・・・・と。



しかし、彼は先程、上半身を起こすのにも一苦労だった。



とても立ち上がり、列に着いていくなんて無理だろ・・・。



そう思い、体に力を入れると、体は妙に軽かった。



どうしてだ・・・・。



ついさっきは、体に力も入らなかったのに・・・・。



そう思いながら彼はその場に立ち上がった。



そして、いそいそと、その列に近づくと、最後尾に並んだ。



すると、その列は急に動き出した。



まるで、彼が列に加わるのを待っていたかのように・・・・。



だから、彼は思った。



やっぱり、この人達は自分の事を心配して待っていてくれたんだな、と。



そして、改めて、その列に並んでみると、更に違和感が増した。



並んでいる者達は、老若男女バラバラだったが、その中には



いかにも家族らしい者達もいた。



しかし、その列に並んでいる者で、話をしている者は1人もいなかった。



皆、誰もが黙り込んだまま前を向いて歩いている。



それに、どうやら、その列にはリーダー的な存在のものはいない様だった。



この列はいったい何の集まりなんだ・・・・。



もしかしたら、目的地に着くまでは一切会話してはいけないという



決まりでもあるのだろうか・・・。



だとしたら、もしかしたら・・・新興宗教の類なのか・・・・。



彼の頭の中は迷走していた。



しかし、どうやら、その列が進んでいる森はどんどんと暗くそして



深くなっており、こんな所でもしもはぐれでもしたら、それこそ



命に係わる事態になってしまう。



だから、彼は違和感を感じながらもその列の最後尾に並んで着いて行く。



それから、どれくらい歩き続けただろうか・・・・。



1誌時間や2時間どころではなかった。



それにしても、体はまったく疲れてはいなかった。



日頃は運動不足で少し歩いただけでも息が切れてしまっていた筈なのに、



何故かその時はどれだけ歩いても呼吸は一切乱れなかった。



そうして歩き続けていると、突然、前方に明るい光が見えたという。



そして、その列の最前列の者から順番にその光の中入って行くのが



見えた。



彼は、



やっと森から出られる!



と歓喜すると同時に異なる気持ちも感じていた。



それは、



本当にこのまま、あの光の中に入って良いのか?



というものだった。



彼はその時、列に参加して初めて列から遅れ始め、そしてそのまま立ち止まった。



何故か、その光の中に入ってはいけない気持ちがどんどんと



大きくなっていたのだ。



すると、それまで何事も無くスムーズに動いていた列が突然停止した。



え?



そう思って顔を上げると、そこには列に並んでいる者達が全員彼の方を



見ていた。



それは先ほどまでの生気の無い穏やかな顔ではなかった。



恨めしそうな顔もあれば、憎悪に満ちた顔すらあった。



彼はその顔が急に恐ろしいものに感じ、そのまま身を翻して



その場から逃げた。



何故か、その列から離れていくとどんどん体が重くなっていき、



呼吸もかなり苦しかったが、彼は全力で走り続けた。



根拠はなかったが、きっとあいつらは追いかけてきている・・・。



そんな確信があったという。



しかし、彼には不安もあった。



それは、先ほどから歩いてきた、まるで原生林の様な深い森の中を



しっかりと道を見極めて抜け出すことが出来るのだろうか?



というものだった。



と、その時、突然、女性の声が聞こえてきた。



お父さん、こっち、こっち・・・・・。



あなた・・・・・あなた・・・・・。



それは、紛れもない彼の娘と妻の声だった。



彼はその声を頼りに走り続けた。



何故か、背後にはもう、あいつらが迫ってきている・・・。



そんな気がしていた。



そして、走り続けていた彼は、突然、きの根っこに足をすくわれた。



あっ・・・・。



そう思った瞬間、彼はその場に倒れこんだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



そして、次に目が覚めた時、彼は病院のベッドの上に寝かされていた。



彼が目覚めたことに気付いた看護師の言葉に、その場が一気に活気づいたのが



分かった。



そして、ぼんやりと下目で彼が周りを目で追うと、どうやら其処は



病院のICUだということが判った。



その後、彼の妻と娘が駆けつけてきて彼の姿を見て、



良かった!本当に良かった!



と涙を流した。



それから彼はしばらくしてICUから、通常の病室に移された。



そこで、医師や家族から、彼の身に何かあったのかを説明された。



彼は時速100キロ以上のスピードで、やはり対向車のトラックと



正面衝突したのだという。



しかし、その運転手の咄嗟の判断のお陰か、彼はトラックの右側に



ぶつかったらしい。



奇跡だといわれた。



そして、トラックの運転手の咄嗟の回避が無ければ、間違いなく



体が原型を留めない様な死に方をしていた・・・と。



結局、彼は両手、両足に複数の複雑骨折を負い、脊髄も損傷し、



内臓も損傷した。



通常の生活は困難かもしれないと言われたが、必死にリハビリを



頑張った彼は、3年後に仕事にも復帰出来るようになった。



たまに、手足が麻痺したり、痺れる事もあるらしいが、それでも



生かされているだけでも感謝しなきゃ・・・。



そう言っていた。



元気になった彼は、先ず最初に、ぶつかったトラックの運転手さんの



所へお礼と謝罪に伺った。



そして、その人から、



とにかく、ここまで回復出来たことが嬉しい・・・。



これからは、もっと家族を大切にしてください・・・。



そう言われ、涙が止まらなかったという。



その後、彼は二度とバイクには乗っていない。



医者から禁止されていることもあるのだが、やはり自分の様な自己抑制の



出来ない人間はバイクには乗る出来ではないと悟ったという。



今のバイクは簡単にアクセルを捻るだけで、誰にでも時速300キロ



近いスピードが出せる。


昔のバイクからは想像も出来ないことだ・・・。


しかし、人間の技量は、はたして昔よりも遥かに進歩しているのか?


答えはNOである。


バイクは危険だからこそ楽しい、と良く聞く。



しかし、それはあくまで自己満足であり、その自己満足の為に、



第三者や家族を悲しませる事だけは絶対にしてはいけないんだ。



そんなバイクを作っているメーカーにも責任があるが、やはり



その危険を完全に理解している者しか、そんなバイクには乗るべき



ではないんだ!



彼は最後にそう力強く言った。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:10│Comments(0)
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