2018年11月09日

手向けられる花

それは俺と彼女との約束だった。



彼女は俺よりもかなり若かったが、数年前に夫と離婚していた。



そして、彼女にはまだ小さな男の子がいた。



元々、彼女はとある会社で事務員をしていた。



しかし、それだけではとても生活していけない為、夜のお店でバイト



を始めるようになっていた。



俺と彼女が出会ったのはそんな頃だった。



1人で夜の片町で飲み歩き、新たな店を新規開拓していた時に



偶然そのスナックに入った。



とてもじゃないが、夜の店には不釣合いな雰囲気。



それでいて、必死になって仕事を覚えようとしている姿にとても



好感を持った。



そして、もう1つ、俺が彼女と仲良くなったのは別の理由があった。



それは霊感がかなり強いという事。



最初に会った時も、俺と会話しながら、チラッと何度も俺の背後を



見ていた。



だから、俺が、



もしかして守護霊とか見えるの?と聞くと



普通は見えないんですけど、お客さんのはある意味、凄く自己主張してて。



そう返された。



どうやら彼女は幼い頃から霊的なものが見えるらしく、最初は怖く感じたが、



最近では、そういうものなのだと感じ怖くなくなったという。



しかし、見えるだけで、それ以上の事は何も出来ない、と言っていた。



そして、どうやら彼女の小さな息子さんにも、その能力は



受け継がれているとの事だった。



そんなことがあってから、俺は足繁くそのスナックに通う様になった。



お酒は一切飲まなかった。



仕事が終わってから、小さな子供を預けている両親の所まで車で



迎えに行かなきゃいけないから・・。



そう言われてしまうと、彼女に酒を勧める者はいなかった。



それでも、彼女の努力もあり、次第にお客さんに馴染んでいった。



相変わらず、接客は素人そのものだったが、それがかえって



彼女の個性になっていた。



そして、俺が彼女と出会って1年が過ぎた頃、彼女から信じられない



話を聞いた。



ガンで余命3ヶ月だと言われたのだという。



すい臓ガンの末期であり、体中に既にガンが転移しているのだと。



しかし、彼女は少しも悲しい顔はしていなかった。



これもきっと運命なのだろうから仕方がない・・・・・と。



ただ、やはり小さな子供を残していく事だけは、やはり辛くそして



心配で仕方がないのだとも。



そして、俺は彼女から頼まれ事をした。



彼女が死んでお墓に入ったら、毎月命日に、墓に花を手向けて欲しい、と。



彼女が大好きなカーネーションの花を1輪だけ・・・・。



俺が即答でOKるすと、彼女は、花の代金と謝礼だといって、かなりの



金額を渡そうとしたが、俺はそのお金は受け取れなかった。



彼女と出会ってからの1年間は、とても楽しいものだったし、何より



これからは幾らお金があっても足りない様な生活になる彼女から



金銭を受け取るなど考えられなかった。



そして、それからすぐ彼女はお店を辞めた。



お店の常連さん達も、彼女の為に、お金を出しあってカンパして、



彼女の治療代として使ってもらおうとしたが、その甲斐もなく、



彼女は余命宣告の3ヶ月を待たずに、他界してしまう。



小さな男の子は祖父母に預けられたと聞いた。



そして、彼女は祖父母が入るはずのお墓に、祖父母よりも早く



入ってしまった。



そして、彼女は小学2年生として学校に通う息子にこう言っていた。



毎月、お母さんがいなくなった日にお墓にお参りしてね・・・。



そうすれば、きっと寂しくなくるなから・・・。



その言葉の意味が息子には理解出来なかったが、やはり母親を失った



悲しみはとても大きく、母親が言っていた通りにすれば、またお母さんが



戻ってきてくれる様な気がして、毎月のお墓参りを欠かさなくなった。



そして、俺は、といえば、毎朝、仕事に行く前に知り合いの花屋に頼んで



一輪のカーネーションを用意してもらい、出社前にお墓に寄って



お墓に手向け続けた。



いつ、息子さんがお墓参りに着ても大丈夫なように・・・。



そして、お墓に花を手向け続けて1ヶ月半が過ぎた頃。



ある意味、奇跡が起こった。



ある時、その墓地に幽霊が出るという噂を耳にした。



それは以外にもAさんから・・・。



その頃、忙しいこともあり、Aさんや姫とも疎遠になっていたから、



俺は、



え?それがどうかしたの?



と返したのだが、その時、Aさんは



いや、別に・・・・。



ただ、知ってるかな~と思っただけですよ。



と少し含み笑いをしながら答えたのを覚えている。



それから、俺は花を手向けるのと同時に、彼女の月命日には



何度も彼女のお墓に寄って、その墓地に出るという幽霊を確認



しようとした。



そして、何度目かの月、俺は見た。



亡くなった彼女がお墓の前で、息子さんの頭を撫でながら何か



話しているのを・・・。



その様子は、怖いという感覚ではなく、微笑ましいという感覚



しか感じなかった。



勿論、俺はその場に加わるという無粋なことはしなかった。



それは、月に一度だけ息子さんが彼女と出会える大切な時間



なのだから。



しかし、幽霊が出るという噂は、想定外の者達をも動かしてしまう。



それは霊能力者・・・。



俺がいつものように彼女の墓に花を手向けようとした時、その男女は



現れた。



かなり古参の霊能者だが、異端的な存在であり、謝礼優先であり、



誰とも交流を拒まれて



いる二人・・・だった。



そして、



もしかして、Kさんですよね?



Aさんのお荷物の・・・・。



最近、この辺りに悪霊が出るという噂があるんだけど、もしかして



Kさんの仕業ですか?



そう言われ、俺は



いや、それは知らないけど・・・・。



でも、ここで何をしようと言うの?



その霊って、悪霊なの?



何か悪さでもしたの?



それで、墓地の管理者から依頼されたとか?



そう言うと、



悪さをする前に、祓うのが霊能者の仕事だよ・・・。



そして、あんたが持ってきた花からは、その悪霊と同じ匂いがする。



悪霊に花を手向けて何か悪さでもさせるつもり?



だいたい、大した能力も無い癖に、いつもAと・・・・。



霊能者にでもなったつもり?(笑)



そう言われてしまう。



そして、俺が、



まあ、確かに俺に霊能力なんて無いけどさ・・・・。



でも、良い霊と悪い霊の判別くらいは出来るよ・・・。



この墓地に出るのは間違いなく良い霊だ・・・。



それが本当に分からないのだとしたら、あんたたちは霊能者なんて



名乗るべきじゃないと思うよ?



俺がそう言うと、二人はかりな頭に血がのぼったのか、



それじゃ、どっちが正しいか、ここで勝負してみる?



まあ、勝負にすら、ならないだろうけど?



そう言われた瞬間、背後から声がした。



あっ、たぶん、ここだよ・・・。



あっ、姫ちゃん、あんた、おっちょこちょいだから転ばないでね・・・。



そう聞こえ、俺は振り返った。



そこには、大きな花束を持ったAさんと姫の姿があった。



そして、呆然と見つめる俺の横を通り越して、彼女のお墓にその



大きな花束を手向けた。



そして、しばらくの間、手を合わせていたが、おもむろに振り返ると



こう言った。



確か、○○さんと△△さんでしたよね?



ご高名な霊能力者の・・・・。



ひとつ、言っておきますけど、Kさんは確かにお荷物ですけど・・・。



霊力も何も無いし、危ないことにばかり首を突っ込んで仕事を増やして



くれるし・・・・。



雑用もまともに出来ないし・・・・。



でもね。



それでも私達は仲間なんだよね。



あなた達みたいにお金を貰わず、出来る限りの事をしようとしてる仲間なの。



このお墓の事も、1円にもならないのに、必死に毎月花を買って・・・。



あなたたちには、くだらない事でしょうけどね。



何の得にもならないのに、誰かの為に動く。



本当に呆れるくらいの馬鹿だと思う・・・・。



でもね、私達は、そんなKさんを誇りに思ってるの・・・。



そして、その大切な仲間を侮辱されて黙っていられるほど、私も姫ちゃんも



人間が出来ていないので・・・。



さっきは、Kさんに喧嘩を売ってたみたいだけど・・・・・。



勘違いしてるみたいだから、はっきりと教えといてあげる・・・・。



あんた達、二人が束になっても、Kさんには勝てっこないよ・・・。



私や姫ちゃんでさえ、手を出せない程の守護霊がKさんには憑いてる



って、もしかして分からなかったとか?



でも、安心して!



そこまでの力は無いかもしれないけど、私達が相手してあげるから・・・。



怒りがマックスだから、手加減は出来ないけど!



そう言って、その二人を睨みつける。



そして、姫が、それに追い討ちをかける。



Aさん、ここは私に任せてください!



きっちり仕事しますから・・・。



要は、このお二人を何の形跡も残らないように消してしまえば



良いんですよね?



そんなの簡単過ぎますから~



そう言ってニコニコ笑っている。



結局、その二人は、一言も返せず、そのまま


逃げるようにその場から立ち去る事になった。



そして、Aさんと姫は俺に向き直り、



Aさんが、


今言ったのは、その場の勢いですから、好い気にならないように・・・・。



まあ、お荷物というのは、かなり核心をついてましたけどね!



と言った。



俺は、その言葉を無視して、姫に向かって



姫ちゃん、本当に人間に向かってそんな事しちゃ駄目だからね?



と言うと、



はい。勿論です。



でも、私、本当にKさんの事、ある意味、尊敬してますから・・・。



そう言ってくれた。



結局、その後も俺は彼女の墓に花を手向け続けたが、その話はどこから



漏れてしまったのか、その噂を聞いた近隣の住民も、彼女のお墓に毎日



花を手向けるようになった。



彼女のお墓は毎日、沢山の花で溢れかえるようになった。



そして、当然のごとく、彼女と息子さんの月に一度のスキンシップは



今も続いているのだが、その姿を見ても、恐怖する者は1人も



いないという事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:12│Comments(0)
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