2018年11月09日

裁くもの

これは刑務官をしている友人から聞いた話である。



彼が勤務しているのは普通の刑務所なのだが、やはり重罪の場合や



量刑の程度、そして交通刑務所に収監しきれない場合には



たとえ交通事故であっても、通常の刑務所に収監される事も



あるらしい。



そんな事故の加害者というのは、悲惨な場合も多いらしく、通常、



殺人やその他の犯罪で収監される者が、かなり普通ではない人間が



多いのに対して、やはり交通事故で収監される者は、いたって普通の



人間が多く、収監されている間もずっと、自らが犯した罪の重さに



苦しめ続けられている者が多いのだという。



しかし、今回書く内容はそれとはかなり異質だ。



その事故の加害者を彼と呼ぶことにする。



彼は、飲酒の状態で車を運転し、横断歩道を渡っていた男性を



ノーブレーキで跳ね飛ばし死亡させた。



言語道断である。



しかも、彼は一度も停車する事無く、その場から逃走した。



場所が田舎だったこともあり、彼がその場所とは全く無縁な



地域に住んでいた事も、あったのかもしれない。



彼はそのまま1年以上、捕まることは無かった



車は友人の整備工場で直し、そのまま乗り続けた。



廃車にしてしまうと、そこから警察に特定されてしまうから・・・。



現場には事故による遺留品はあったが、タイヤ痕も付いておらず、



目撃者もいなかった事から、彼の元に警察が来る事は無かった。



安心した彼は、その事故の事を早く忘れてしまおうとさえ



思っていた。



彼は事故を起こす前と寸分変らない生活を送り続ける。



しかし、酒を飲み車を運転し、人身事故を起こして一度も停止せず、



そのまま逃げ切った彼を許さない者がいた。



それは警察でもなく遺族でもなかった。



確かに、一日も早く犯人を捕まえたいと思っていた気持ちは強かったと



思うが、狡猾な彼にその思いは届かなかった。



しかし、ある日、彼がいつもの様に酒を飲んでそのまま寝ていると



夢の中に死亡させた男性が出てきたという。



それは毎晩続き、事故の被害者男性が血まみれの顔と体でじっと



彼の方を恨めしそうに睨んでいた。



そして、それはいつしか夢から現実に変っていく。



彼が起きている間、常に被害者男性が間近から彼の顔を見つめていた。



仕事をしている時も、そして遊んでいる時も、酒を飲んでいる時も。



夜、仕事から帰ると、彼のアパートが、まるで泥棒でも入ったかのように



荒らされていた。



そして、夜、寝ている時にはいつもの夢を見させられ続けた。



そして、彼は警察に出頭したという。



しかし、その理由とは、事故に対する責任を痛感して・・・というものではなく、



幽霊が出てきて謝ったが許してくれないから・・という



極めて自己中心的な理由だった。



そして、警察の取調べに対して、彼はこうも言ったという。



刑務所で刑期を終えれば、もう罪は消える筈だから・・・。



それに、恩赦で刑期が短くなるかもしれないし・・・・。



更に、



事故を起こして止まらなかったのは、もうどうせ死んでると思ったから。



働かなくて飯が食えるんだから刑務所も悪くないかも、と思って・・・。



そんな呆れるような言葉を残した。



警察はいっそのこと、死刑にでもなれば良いと思っただろう。



そして、勿論、遺族も・・・。



しかし、彼に下された判決は、



危険運転致死傷罪・・・・。



刑期は十数年というものだった。



そして、彼はそのまま刑務所に収監された。



恩赦により刑期が短くなる事を祈りながら・・・。



しかし、法律ではそれが限界だとしても、それを許さない世界が



確実に存在する。



刑務所では、至って普通に扱われた。



例え、実際には刑務官達もはらわたが煮えくり返っていたとしても、仕事で



ある以上、彼という存在は、1人の囚人。



それ以上でも以下でもないのだから・・・。



しかし、彼にとっては誤算だった。



刑務所に収監されれば、もう被害者男性は彼の前に現れないだろう、と



勝手に思い込んでいた。



しかし、被害者男性は、それからも毎日現れ続けた。



それは、収監前よりも不気味で恨みに満ちた顔で・・・。



それが我慢出来なかったのだろう。



彼は他の受刑者と喧嘩の末、怪我を負わせ、そのまま独房に



入れられてしまう。



逃げ場の無い独房へ・・・。



最初に気付いたのは、深夜、見回りをした刑務官だった。



うなされている彼の部屋を覗くと、そこには男性が立ったまま彼を



恨めしそうに睨んでいた。



しかし、記録には残さなかった。



確かに、そんな幽霊を見たという内容を、どの様に報告すれば良いかも



分からなかったが、その刑務官は、それが彼に与えられた罰なのだと



考えた。



そして、それは全刑務官の間でも暗黙の了解となる。



夜は勿論のこと、昼間でも彼の独房は、一切チェックしなくなった。



どんなにうなされていても、どんなに恐怖の声を上げても・・・。



その頃、彼は刑務官達にこう言って助けを求めていた。



昼間でも夜でも関係なく、被害者男性が現れては彼の首を絞めるのだという。



そして、何度も自分は意識を失ったのだと。



だから、坊さんを呼んでくれ!と。



しかし、刑務官達は、彼の言葉には耳を貸さなかった。



もうその時には既に、彼の部屋には霊が現れるというのは刑務官なら



誰でも知っていたが、彼に対しては



夢でも見ただけだろ・・・・。



被害者の気持ちになって、それくらい我慢しろ、と。



そして、ある日の朝、食事を運んだ受刑者が、彼が呼びかけに全く



反応しない事に気付いた。



そして、それを報告すると、刑務官と医師が彼の部屋に入り、



死亡が確認された。



彼の顔は、恐怖におののいた顔で絶命していたという。



そして、彼の遺体はそのまま家族からも引取りを拒否され、



無縁仏として刑務所内に埋葬された。



そして、それからはもう、その独房で霊の姿を見る者は



居なくなったということだ。



Posted by 細田塗料株式会社 at 23:13│Comments(0)
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