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2018年11月09日

彼女だけが生き残った

これは知人女性から聞いた話である。



彼女は石川県の伝統工芸である九谷焼に従事している。



心を無にして、土に向かっていると何も余計なことは考えずに済む。



それが、彼女がその仕事を選んだ理由だった。



誰よりも早く仕事場に入り、そして最後に残って1人で掃除をしてから



帰宅する。



そして、住んでいるのはとても立派とはいえない様な古い民家。



そこで、きちんと自炊をし、質素な生活を送っている。



確かに仕事に没頭し、質素な暮らしをしているというのも、彼女の性格や



給料の少なさという理由も多少はあるのかもしれないが、根本的な理由は



そうではない。



1人でいるのが怖いのだという。



それならば、早く結婚すれば良いのに、とつい考えてしまうが、彼女には



結婚をするつもりは無いのだという。



それでは、何が彼女にそう思わせるのか、と尋ねるとしばらく黙った後、



こんな返事か返ってきた。



私は幸せになってはいけないんです。



中学生の時、父親の運転する車で出掛けた際、山道でハンドルを切り損ねて



谷底に落ちたんです。



そして、救助されたのは、3日後。



最初は皆、生きていたんです。



その中でも一番軽症だったのは私。



でも、助けられなかった。



徐々に弱っていく家族の姿を見ていると怖くて手を差し伸べられなかった。



そして、傷が酷かった、弟、父親、そして母親の順に死んでいったんです。



きっと、家族は私を恨んで死んでいったんだと思います。



だから、私は絶対に幸せになってはいけないんです。



今は早く家族が迎えに来てくれるのを待つだけの毎日ですから・・・。



そう言われた。



そんな彼女に、気の利いた言葉もかけられなかったのを覚えている。



そして、いつしか、彼女のそんな思いは現実のものとなっていく。



毎夜、家族が揃って夢の中に出てきては、



早くおいで・・・・待ってるのに・・・・



と訴えるのだという。



そして、いつしか、それは昼間でも彼女の前に現れるようになる。



信号待ちをしていると、道路の向こう側から手招きしては、



飛び込んでしまいなさい・・・・痛くないから・・・。



と囁かれ、



駅のホームにいれば、



飛び込みなさい・・・早く・・・。



と促され、



エレベータに乗れば、



このまま屋上に行って一緒に飛び降りよう・・・。



と囁かれた。



しかし、そこは律儀な彼女のこと。



お世話になった方達に、最後のお別れだけはさせて欲しい、と



頼んだという。



そして、俺の所へも挨拶に来た彼女に、



ようやく迎えが来たので・・・。



とお別れを告げられたが、俺はどうしても納得がいかなかった。



家族が恨んでいるかどうかは、俺などには分からなかったが、その時の



彼女の顔は明らかに悪霊に憑りつかれた顔をしていたから。



そして、彼女は、ある日、駅のホームから特急列車に飛び込もうと



していた所を、近くにいた男性に助けられた。



それを聞いた俺は、



もう、呑気には構えていられないな!



と決意した。



だから、当然のごとく、Aさんに聞いてみた。



家族が恨んで彼女を連れて行こうとしてるんだけど?と。



すると、Aさんは、相変わらずの口調で、



本当に馬鹿ですよね。



表面しか見てないでしょ?



もっと内面を見られませんか?



自分の子供を恨んで死んでいった親がもしも本当にいたとしたら、



そいつはもう地獄に落ちてますから・・・。



どんな事があっても、親は親、そして子供は子供なんです。



どちらも、お互いに大切に思って、相手の為なら自分の命でも差し出す、



というのが、親子じゃないんですかね・・・。



というよりも、これは何か嫌なものが絡んでる気がしますね。



そう言ったので、俺は、



それじゃ、来週の週末にでも彼女の所へ行ってくれる?



と聞くと、



私、忙しいんですよね・・・。



と冷たく返される。



そして、俺が、



駄目なんだ・・・まあ、忙しいみたいだしね・・・。



と言うと、



誰が駄目って言いましたか?



忙しいから、今から行きますよ、つて言ったんですけどね?



と返された。



そして、俺とAさんは彼女の家に向かった。



家に着くと、すぐにAさんは、



あぁ・・・なるほどね・・・。



と呟いた。



車を彼女の家の前に停めると、急いで玄関のチャイムを押した。



しかし、壊れているのか、反応が無い。



すると、それを見ていたAさんが、



それじゃ、失礼しますね~



と家の中に入ろうとした。



俺は、



いや、勝手に入るのはまずいかなって・・・。



と言うと、



忙しいって言ったじゃないですか・・・。



それに嫌な予感がするので・・・。



そう言って、ズカズカと家の中に入っていく。



俺は、いつ彼女が現れるかとヒヤヒヤしていたが、Aさんは、次から次へと



勝手に部屋の中を覗いていく。



そして、何個目かの部屋の中を見た時、Aさんが叫んだ。



Kさん、救急車を呼んでください!



俺が部屋の中を覗くと、そこには彼女が倒れており、傍らには大量の



睡眠薬がこぼれていた。



俺は急いで救急車を呼んだが、その間もAさんは、キョロキョロと



家の中を見回っている。



こんな時に何してるの?



と俺が言うと、



こんな風に救急車の到着を待ってる時に、特にやる事も無いですしね。



それに、彼女は助かりますから。



発見が早かったから。



これも、私が勝手に家の中に入っていったお陰ですけどね・・。



と聞く耳を持たない。



そうしているうちに、救急車が到着した。



そして、彼女はそのまま病院に運ばれ、一命は取り留め、そのまま



入院した。



そして、病院のベッドに眠っている彼女の顔を見た俺は少しだけ



安心した。



そして、Aさんに、



それじゃ、そろそろ帰りますか?



と聞くと、



本当に何も見えていないんですね。



ある意味、天然記念物レベルですよね。



あのですね。これからが本番なんですけどね。



正確に言うと、今晩がヤマなんです。



そう言われてしまった。



だから、俺は、



でも、医者の話だともう彼女は大丈夫だって言ってなかった?



と返すと、



なんか、Kさんと話してると本当に疲れますよね。



ヤマだ、。って言ったのは彼女の健康の事ではなくて、もっと厄介な



モノの話ですけどね。



ようやく、彼女を殺せたと思っていた悪霊が、私とKさんに邪魔されて



彼女を殺しきれなかった。



だから、間違いなく、今夜、彼女を取り返しに来ますから・・・。



それが分かってて帰れる訳ないじゃないですか?



と言われた俺は、



え?やっばり彼女には悪霊が憑いてたの?



と返した。



すると、Aさんは、本当に面倒くさそうに、



はいはい。そうですよ。



あんなに沢山の悪霊の形跡があの家に残っていたのに、全く気付かないって



いうのも・・・。



まあ、もう慣れましたけどね・・・。



と呆れられてしまった。



そして、それから俺とAさんは、彼女の付き添いということで病院の許可を



もらい、彼女の病室で仮眠を取った。



それからどれだけの時間が経ったのか・・・。



突然、Aさんの、



来ましたよ!



と言う声に熟睡していた俺は一気に目が覚めた。



そして、おどおどしている俺にAさんは、冷たく、



よくこんな状況で熟睡出来ますよね?



そういうところだけは見習いたいもんですけどね



と言うと、スッと椅子から立ち上がり、



それじゃ、行って来ますから・・・。



途中、誰がドアをノックしても絶対に開けちゃ駄目ですから!



ドアを開けらければ大丈夫です。



あいつらは自分ではドアを開けられませんから・・・。



そう言い残して、部屋から出て行った。



病院の外でどんな事が起きていたのかは知る由も無いが、



途中、何度も病室のドアをノックされた。



医者を名乗ったり看護師を名乗ったりと様々だったが、俺は



決してドアを開けなかった。



そして、じっと彼女の顔を見つめていた俺は、ある時、スッと彼女の



顔から死相が消えていくのを感じた。



そして、それからしばらくすると、Aさんが缶コーヒーを飲みながら



病室に戻ってきた。



そして、もう大丈夫ですよ!



と言ってくれたのだが、どうやら、そのまま帰ろうとはしなかった。



だから、俺が、



まだ、帰らないの?



と聞くと、



ええ・・・ちょっと伝言を頼まれたので・・・。



と1人で缶コーヒーを飲んでいる。



そうしていいるうちに、彼女が目を覚ました。



そして、それを見たAさんは、彼女に優しく語りだした。



大丈夫ですか?



もう、悪霊は全て退治しましたから安心してくださいね。



そして、ここからは伝言です。



貴方の家族を事故で殺したのも貴方に罪悪感を植え付けたのも



全て悪霊達の仕業です。



そして、貴女が今まで生きてこられたのは亡くなられた家族のお陰。



ずっと、悪霊達は貴女が家族を亡くした時から、弄ぶようにして



貴女に死を選択させようとしていました。



そして、それを防ごうと、貴女の家族は必死で貴女を護ってきた。



つまり、亡くなられたご家族は貴女の事を恨んでなんかいないんです。



いつも貴女が幸せになれるように祈っていました。



でも、貴女のご家族は貴女を護るためにずっと現世に留まっていました。



それは、とても辛く痛みを伴うのに・・・。



だから、私はつい、今しがた、ご家族を冥界に送りました。



もう、大丈夫ですから・・と。



きっと、貴女はこれからは1人で幸せの中で生きていけますからって。



だから、もう成仏してください、と。



貴女にはもう悪霊は付きまとってはいません。



だから、これからの人生は貴女次第なんですよね。



で、私はご家族と約束しちゃったんですよね。



もう、貴女は1人でも大丈夫だと・・・。



私は嘘つきには、なりたくありませんので・・・・。



だから、貴女は約束できますか?



これからは自分の幸せの為に前だけを向いて


歩いていけるって。



Aさんが、そう言い終ると、彼女は大粒の涙を流しながら、



首を縦に降り、



はい。勿論!



と言ってくれた。



そんな彼女はそれからすぐに彼氏が出来て、


今年の暮れには結婚を



予定している。



Posted by 細田塗料株式会社 at 23:14│Comments(0)
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