2018年11月09日

呪いの転売

これは俺自身も、あまり知人とは呼びたくない男性の話。



彼は働くことを放棄している。



能力は在ると思うのだが人間、一度楽を覚えてしまうと元には



戻れないらしい。



それなのに、それなりに良い暮らしをしている。



結婚こそしてはいないが、新しい家に住み、高級車にも乗っている。



勿論、彼の実家はいたって普通のサラリーマン家庭であり、



資産家とも違う。



では、何故働かなくても、そんな暮らしが出来るのか?



それには彼の趣味が関係している。



それは古物収集である。



しかも、曰くつきの物しか集めない。



それは、一家惨殺に使われた凶器だったり、自殺直前に書かれた



遺書だったり、心霊スポットといわれる場所にあった鏡



だったりと多種多様に渡る。



一体そんな不気味な物を何処から入手するのかと思ってしまうが



どうやらお金は一切掛からないのだという。



その曰くつきの品々は、それを持っている人にすれば一刻も



早く手放したいという思いに駆られている。



そこにつけこんで、無料で引取りを行うそうだ。



中には高級時計や車、宝石の類まで、無料で引き取る事が出来る



そうだ。



そして、引き取りに行くと、無料とはいえ、感謝される場合が多い。



それはそうだろう。



その人達にすれば、それは金銭とは別の次元に存在する曰くつき



の品々に違いないのだから。



まあ、ここまでなら、俺も否定はしない。



しかし、彼はそれを転売するのだ。



どうやら、世の中にはあえて高額な金銭を払って、そんな曰くつきの



品々を手にしたがる輩が存在するのだ。



しかも、そんな気持ちに付け込んで、途方も無い金額を、彼は



吹っかける。



しかし、そんなコレクター達の多くはかなりの金持ちが多いらしく、



それは競売にかけられたように、すぐに途方も無い金額になってしまう



のだそうだ。



そして、彼はその曰くつきの品物を、一切の供養もせずに、そのまま



転売している。



それでは、きっと元の持ち主への厄災が消える事はないのでは?



と思ってしまうが、どうやら、その品々は買う側からすると



危険だからこそ価値があり、霊障という実害が伴って初めて



その価値が発生するのだそうだ。



本当にお金持ちというのは何を考えているのか、と理解に苦しむが、



彼はそうして得た金銭で豪華な生活を送っている。



まあ、それが彼のライフスタイルであり、考え方なのかもしれないが、



どうしても俺には納得出来ないのである。



だから、俺は常に彼と距離を置くようにしている。



しかし、そこそこ霊感のある俺という存在は、彼にとっては



それなりに重宝するらしく、事あるごとに、俺は彼から



連絡を受けている。



たぶん、彼も俺に嫌われている事は自覚している筈なのだが・・・。



だから、そういう所も含めて、俺は彼を知人とは呼びたくない。



そして、俺はずっと以前から懸念していた事がある。



それは、その曰くつきの品物が彼の想定を超え、彼自身では



対処し切れなくなった時はどうするのか?



ということだった。



そして、ある日、そんな日がやってきた。



彼はとある場所から石を引き取ってきた。



その石というのは、10年以上前に、港から身を投げた女性が



重しとして、体に巻きつけていたという石だった。



何故、そんな石が、誰かの手に渡ったのかは分からない。



しかし、その石を所有した者は、例外なく全て自殺を遂げていた。



そして、死因は溺死か海への飛び込み自殺というもの・・・。



それを彼は楽観的に引き取ってしまう。



しかし、その石はその世界では有名過ぎる曰くつきの石。



当然、彼は予想外の高値で売れると思っていたらしいのだが、



さすがに確実に死ぬと分かっている石を買う馬鹿はいない。



だから、どんなルートで買い手を捜しても、その石を見に来る人は



いたが、その石から滲み出る怨念のようなものを感じ、



誰もが逃げるようにして帰っていった。



彼は途方に暮れてしまう。



そして、決断する。



この石を壊してしまおう、と。



しかし、どんな道具や工具を使っても石は全く壊れなかった。



専門の業者にも委託したが、その石はやはり壊すことが



出来なかったという。



だから、彼は今度はこう考えた。



その石を何処かへ捨ててしまおう、と。



それ自体があまりにも無責任過ぎる行為なのだが、事はそれほど



簡単なものではなかった。



その石を車に積んで出掛けようとすると、愛車のエンジンがかからない。



何とか、石を積んで車を走らせていると、事故に遭ってしまい、



走行不能になった。



それでも、何度目かの挑戦で、何とか石を捨てる事が出来たのだが、



自宅に戻ると、その石は、いつもの場所に置かれていた。



確実に石は捨ててきた筈なのに・・・・。



だから、彼は石を捨てるのを諦めて、業者に頼んで庭に深い穴を



掘ってもらい、その穴に石を入れて土で塞いだ。



それで、もう大丈夫だと思ったらしい。



しかし、それから毎晩、彼は見知らぬ女に悩まされる事になる。



彼が外出していても、そして家の中に居ても、その女は突然



彼の前に現れて恨めしそうに彼を見つめた。



さすがの彼も、その女が、体に石を巻きつけて自殺した女性だと



すぐに分かったという。



お祓いの類も頼んだそうだが全く効果は無かった。



だから、彼は仕方なく、一度埋めた石を掘り返し、再び家の中に



置いたという。



すると、それから、その女は現れなくなったのだが、その代わりに



彼が寝ていると家の中を蠢く様に這い回る音が聞こえてきた。



そして、彼はある夜、我慢しきれずにその姿を見てしまった。



それは、人間と判断するのも難しい程に腐乱し膨れ上がった



女の姿だった。



服という物は一切身に着けてはおらず、巨大に膨れ上がった真っ白な



肉隗が、廊下を這うように移動していた。



そして、彼はその姿を見た時、それは振り返るような動作をした。



恐怖におののく彼を見て、その肉隗は笑ったように見えたという。



それから、彼は毎夜毎晩、目が覚めると彼の上に肉隗の女が乗っており、



ブヨブヨした手で彼の首を絞めた。



吐き気を催す様な腐臭とともに、彼はその場で気を失った。



だが、彼が朝目覚めると、確実に彼の首には締めた痕がクッキリと



残り、それは日に日に濃くなっていく。



此処で、彼は命の危険を感じたのだろう・・・。



俺に助けを求めてきた。



お金に糸目は糸目はつけないから、何とか出来ないか、と。



俺は正直、自業自得だと思った。



だから、今回は彼を助ける気は無かった。



しかし、あまりにも彼がしつこかったのと、彼の両親から懇願



された事もあって、仕方なくAさんに相談した。



気が向かなかったら断ってくれて良い、という言葉を添えて・・・。



しかし、Aさんは、何故か快諾してくれる。



だって、お金に糸目はつけないんでしょう?



それがAさんの快諾の理由だった。



俺はAさんにしては珍しいな・・・・・と思ったが、元々依頼した



俺がそれを否定することも出来ず、次の日曜日に彼の自宅に



伺う事になった。



そして、当日、彼に会うと予想以上に疲弊している彼がいた。



まあ、自業自得だな・・・・。



これで懲りてくれれば良いけど・・・。



俺はそう思った。



そして、本題に入ると、Aさんは彼に途方も無い金額を要求した。



彼は一瞬戸惑ったが、余程の恐怖だったのだろう。



その金額を了承し、正式にAさんに石の処分を依頼した。



その時、Aさんは、こう言った。



貴方に石を引き取って貰った人達の気持ちが少しは分かりましたか?



この世の中には絶対に触れてはいけないものがあるんですよね。



そして、この石がまさにそれです。



命が助かっただけ感謝してくださいね・・・・。



Aさんの顔はとても厳しい顔つきであり、大金を手にした喜びは



微塵も感じられなかった。



そして、俺にその石を持たせると、彼の家をすぐに出た。



そして、ここからは具体的には書けないのだが、とある古びた寺に



その石を持ち込んだ。



その寺の住職は、Aさんと顔馴染みらしく、Aさんが、



いつもみたいに、これもお願いします・・・・。



と言うと、



ああ、いつもみたいにな・・・・。



とそれだけで会話が成立してしまった。



そして、Aさんは、彼から受け取った大金を全てその住職に



渡した。



そして、その帰り道、俺はAさんに尋ねた。



あの寺に、あの石を処分出来る力なんてあるの?と。



すると、Aさんは、いつもの様に面倒くさそうに、



え?ああ・・・あの寺はそういう存在の寺ですから・・・。



それに処分なんて出来ませんよ・・・・あの石は・・・・。



呪いを抑えるだけで精一杯って感じですかね・・・。



それでも、しばらくは、あの彼の所にもその女は現れますから。



しっかりと封印が出来るまでは・・・ね。



そう言われた俺は、



それにしても、あんなに大金を渡さなきゃいけないの?



と聞くと、



当たり前じゃないですか?



あの寺はそういう物を封印する為だけに存在する寺なんです。



当然、その住職にも霊障が及びます。



そして、あの石を封じる為には、かなりのお金をかけた入れ物が



必要になりますから・・・・。



そして、それに入れて封印して、毎日、何度もお経をあげる・・・。



そんな事を他の誰がしてくれますか?



それにあの金額でも少な過ぎる位です。



Kさんも見たでしょ?



あのお寺、ボロボロだったじゃないですか・・・。



だから、あの住職はきっとギリギリの生活なんですよ。



それくらいに大変な作業なんです・・・。



あの石を封印するのにはかなりの時間と費用が必要という事です。



私が無理やりあの石を破壊したとしても、きっと呪いだけが



この世に残ってしまう。



そして、それは最も危険な事ですから・・・。



それだけは避けなくてはいけませんから・・・。



残念ですけど・・・。



そう言われて、俺は初めて気が付いた。



本当はAさんは、いつもの様にあの石を一瞬で壊して終わりにすると



同時に、ストレス解消にしたかったのだという事を・・・。



しかし、それが危険だと判断し、あの寺に持ち込んで封印という



方法を選んだ。



それにしても、そう考えると、Aさんにそこまで慎重な対応を



させる、あの石はいったいどれ位の呪いが込められているのか?



そう考えると、背筋が寒くなった。



ちなみに、その彼は一度は真っ当に仕事に就いたのだが、結局



長続きせず、今では再び、コレクターへの転売で生計を立てている



そうだが、さすがに曰くつきの品物はもう一切扱ってはいない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:16│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count