2018年11月09日

人形

これは某県に住む知人から聞いた話である。



以下、彼から話を聞いたままに書き進めていきたいと思う。



その市松人形を最初に見たのは、多分小学生の頃だったと思う。



叔母の家の玄関に置かれていたその人形を見て、子供ながらに



素直に怖いと感じ泣いてしまった。



それはごく普通の市松人形だったのだが、その顔は



何故か怒りに満ちていたから。



市松人形って、こんな顔だっけ?



そんな質問に周りの誰もが答えてはくれなかった。



それまで、笑っていた叔母の顔も、急に真顔になったのが分かった。



そして、両親も、驚いた顔をして、すぐ、その人形から目を



背ける様にしているのがわかった。



だから、それもきっと怖さに拍車をかけたのだと思う。



ただ、こんな人形を平気で置いておける大人というものが純粋に



凄いと感じた。



それと同時に子どもながらに得体の知れない怖さを感じ、結局、



家の中には入らず、外で両親が出てくるのを待った。



しかし、それからは、何故かその叔母とは疎遠になってしまった。



私が叔母の家に行きたがらなかったのが理由ではなく、両親が



叔母の家に行くのを避けていた様に思う。



だから、やはり両親も、あの人形を見たくないのだと感じた。



そんな、ある日、叔母の家が火事で全焼したのを聞いた。



死者こそ出なかったが叔父と従兄弟が全身に大火傷を負った。



しかし、その時私はは不謹慎にもホッとした気持ちになった。



それは家が全焼したのだから、もうあの人形も居なくなったに



違いないという



安堵感からくるものだった。



それにも増して奇妙だと感じたのは、私の両親も、その話には



極力触れないようにしながら、ホッとした顔をしていた事だ。



親戚の家が全焼し、大火傷を負った者までいたのに・・・である。



まるで、誰か知らない人の話をする様であり、心配する素振りも



見せなかった。



もしかすると、両親も自分と同じくその人形を内心怖がっており、



焼けてしまったであろう事が嬉しかったのかもしれない。



だから、俺は思った。



もう、二度とあの人形を見なくて済むのだと・・・。



しかし、その想いはすぐに裏切られることになった。



今度は近くに住む叔父の家の床の間でその人形と再会する事になった。



火事に遭ったというのに、何故か人形には焼け焦げた痕も無かった



それたけでも不気味なのに、何故か、



その人形は以前にも増して憎悪に満ちた顔になっていた。



まるで、誰も近づかせない程の威圧感と不気味さ。



その時はもう中学生になっていたというのに、その人形を見た途端、



やはり、その家から逃げ出すように外へ出てしまった。



そして、誰かがその人形を焼け跡から拾ったのだとしたら、余計な



事をする人もいるもんだ・・・。



そう思った。



そして、それからは、何故か叔父とも疎遠になってしまった。



理由は叔母の時と同じだった。



同じ市内にいるというのに、必要な用事は全て手紙で済ませていた。



それから1年と経たないうちに叔父の家が地震で倒壊した。



叔父が家屋の下敷きになって亡くなった。



ただの偶然だとは思ったが、それでも今度こそは人形が埋もれたまま



発見されなければ良いのに・・・・そう思った。



それから数年後、今度は本家の客間でその人形と再会した。



亡くなった叔父の家とは、かなり離れた県にある本家に、



まさか、その人形が置いてあるとは夢にも思ってはいなかった。



だから、思わず、うわっという声を上げてしまった。



人形はケースに入れられる事もなく、無造作に客間の窓際に置かれていた。



もうその頃になると、その人形は髪も伸び表情も歪んでおり明らかに



以前の人形とは別のモノになっていた。



いや、それはもう人形と言うよりも命を持った別の何か・・・としか



思えなかった。



どんな災害に遭っても必ず生き残る・・・・。



それは、誰も望んではないい筈なのに・・・。



そう思って、人形を再び凝視した。



すると、その人形がじっと睨んでいる様に感じ、また、



その場から逃げ出した。



心の中を見透かされた?



そう感じると怖くて仕方なかった。



結果として、今度は本家とも疎遠になった。



そして、それは我が家だけではないらしく、本家に行く親戚は全く



居なくなったようだった。



その翌年から・・・・だろうか・・・。



本家で自殺が連鎖するようになったのは・・・・。



祖父が自殺し、その後を追う様にして祖母も自殺した。



それから従兄弟が自殺したまでは覚えているがその後、その人形の所在は



不明になった。



本家の殆どの人間を自殺に追いやった後で・・・・。



その頃、既に大学生になっていた私は家族や親戚が集まった際に、



あの人形は呪われている・・・。



早く処分しないともっと大変な事になる。



火事でも地震でも駄目なら、バラバラに壊すとか直接、ガソリンを



かけて火をつけるとか!



そう言った事があった。



その時、その場に居た全員が顔色を変えて一斉に私の口を塞いだ。



突然の出来事に俺は何が起こったのか、全く理解出来なかったが、



親や親戚達の鬼気迫る表情に圧倒された。



そして、こう言われた。



あの人形は起源が分からないほど昔から、この一族にあるものだ。



どんな因縁があるのかは分からないが、その間、ずっと



怪異を引き起こしてきた。



当然、親族の中には、そんな人形は燃やしてしまえ、と言う者も



居たらしいが、その者達には例外なく死か想定外の不幸に見舞われた。



そして、実際に何をしてもあの人形は必ず戻ってきた。



だから、黙って我慢するしか仕方がないのだ・・・・と。



親族の中で持ち回りでこの厄災に満ちた人形を保管し続けるしか



『根絶やし』から逃れる方法は無いのだ、と聞かされた。



普通ならそんな話を聞かされて納得する者などいないのかもしれない。



ただ、私はそれまでに、あの人形が起してきた厄災をこの目で見てきた。



その時、初めてこの世の中には常識では説明がつかない呪いが



本当に実在するのだと思い知った。



それと同時に、叔母も叔父も本家も、全て覚悟したうえで、持ち回りとしての



人形を預かり、怯えながら過ごしていたのだと知った。



そして、それから十数年・・・。



数多の災いをもたらしてきた人形は、現在、我が家にある。



ついに順番が回ってきたんだ。



当然の事ながら、もうその人形は人の体を成しては居ない。



髪を振り乱し皮膚はひび割れ変色し、その顔は直視すら出来ない程。



鬼女というのが、存在するとしたら、きっとこんな姿なのだろう。



そして、人形は現在、我が家の玄関に置かれている。



それを見た親戚の子供達が怖がって逃げてくれるようにするのが、



せめてもの抵抗だ。



そして、最近は、その人形は少し笑ったような顔になってきている。



どうやら、それが、その家に厄災をもたらす前兆なのだという。



そして、その人形は今日も玄関に立っている。



私にようやく会えたという満足感さえ感じる邪悪な笑みを湛えながら。



だから、私はせめてもの思いでこう願うしかない。



我が家に起こる厄災が、せめて過去の惨事以上にならないように・・・と。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:19│Comments(0)
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