2018年11月09日

元カレが選んだ別れ

これは俺の趣味関係の友人に起こった話である。



彼女の年齢は30代だが、ずっと働きながらバンド活動をしていた。



そして、実は同じバンド仲間と交際していたらしい。



とても優しい彼の事を彼女も本気で好きだったという。



しかし、恋愛というものはなかなか上手くいかないものなのかもしれない。



ある事がきっかけで思わぬ彼の一面を知ってしまった彼女は、それまでの



彼への思いが一気に冷めてしまう。



その一面というのは、他人にとっては大したことではないのかもしれないが、



当人にとっては死活問題になってしまうらしい。



それでも、時間を少し空けて、という事が出来れば良かったのだが、



元々、その彼氏と彼女は同じ会社で働き、そして同じバンドに



所属していた。



そうなってしまうと、もう修復は不可能だった。



二人は別れ、そしてバンドもそのまま解散してしまう。



まあ、此処までの話は良くある話でしかない。



しかし、その彼氏はある意味、真面目で一途だったのかもしれない。



自分でも気付かないうちにストーカーのように彼女に付きまとう



様になってしまい、彼女は警察に相談した事もあったらしい。



いつも、彼女がアパートに帰ると、彼の直筆の手紙がポストに



入れられていた。



それは謝罪の内容だったのか、は分からないが、それが彼女の



嫌悪感を一層強めてしまう。



彼女は、彼の姿を見るだけでも、気分が暗くなってしまう様になってしまった。



だから、彼を見る度に、酷い言葉を浴びせたのだという。



そうなると、もう彼に諦めてもらうしかないのだろうし、勿論、彼女も



そう思っていた。



しかし、一途な彼は別の方法を選んでしまう。



ある日、彼女が仕事から帰宅すると、部屋のドアの前に誰かがいた。



そして、それはまるでドアの前でしゃがみこんでいる様に見えたという。



また、あいつだ・・・。



その頃の彼女にはもう彼への嫌悪感しかなかったのだから、そう思うのも



仕方が無いのかもしれない。



そして、文句を言おうと、ドアに近づいた時、彼女は絶句した。



そこには、ドアの取っ手にロープをかけて自殺している彼の姿が



あった。



彼女は大きな悲鳴をあげた。



そして、その悲鳴を聞きつけた近隣の住民が急いで救急車を呼んだ。



救急車はすぐに到着し彼は病院へと運ばれたが、そのまま死亡が



確認された。



その後、警察が来て色々と調べていたが事件性は無く自殺と断定された。



そして、その後、警察が見つけたというメモを渡された。



そこには、



”これで、ずっと一緒にいられる”



そう書かれていた。



元彼に、そして自室の前で自殺された事で彼女はかなり情緒不安定に



なってしまい、病院へ行くと、うつ病と診断された。



元彼を自殺にまで追い詰めた自分を責めると同時に、元彼への



嫌悪感は一層強くなっていった。



医者からは自分の事だけを考えなさい、と言われたが、とても



そんな気持ちにはなれなかった。



そして、うつ病という病は恐ろしいものなのかもしれない。



自分が元彼を殺したという気持ちが、自分は生きている価値が無い、



という気持ちに変り、自分も早く死ななきゃ・・・・という



気持ちへと変っていく。



そんな風に考えながら生きていると、何をやってもうまくいく筈がない。



仕事はうまくいかず、ツキにも見放され、そして友達もどんどんと



離れていった。



そうして彼女は以前からは想像も出来ないくらいに変ってしまう。



誰とも話さず、電話にも出ない。



一日中、部屋に篭ってラジオだけを聴いていた。



嬉しいとか悲しいとか怒るとかの感情が全て欠落していく。



髪も伸び放題、爪も伸び放題、化粧もしない彼女は、仕事も辞め、



障害者年金で細々と暮らしを続けた。



食事もほとんど摂らなくなった彼女は、どんどんと痩せていき、



たまに外に出れば、すれ違う人は皆、彼女を振り返った。



しかし、彼女はそれでも良いと考えていたらしい。



どうせ自分には生きている資格など無いのだから・・・と。



それからは全てが自然に、そして静かに進行した。



手首を切って死のうとしたのが最初だった。



お酒を飲んで手首をカッターで切り、そのまま沸かした浴槽につけた。



それで死ねる筈だった・・・・。



しかし、死に至るほど深く切れるものではなく、彼女は数時間後に目を



覚ました。



次に睡眠薬を飲んで死のうと思った。



病院で処方されて、飲まずに保管していたものを一気に飲んだ。



普通ならそれで死ねる筈だった。



彼女は偶然訪ねてきた大家さんに発見されて病人へ搬送された。



胃の洗浄は苦しくて、もう睡眠薬は使わないでおこうと決めた。



次に有名な樹海に行って死のうと考えた。



しかし、夜になった樹海はとても恐ろしく、彼女は大声で助けを



求めていたところを偶然通りかかった住民に助けられる。



そして、思ったという。



自分はなんと言う情けない人間なのだと・・。



死ぬ事すら出来ない・・・。



これじゃ、死んでいった元彼の方が余程立派じゃないのか、と。



だから、彼女は考え方を変えた。



それまでは出来る限り周りに迷惑を掛けない方法で死のうと思っていたが、



とりあえず手っ取り早く死ねるのなら何でも良い、と。



そして、駅のホームへと向かった。



特急が通過する様な小さめの駅を選んだ。



一瞬の痛みの後は何も感じなくなるから大丈夫・・・。



そう自分に言い聞かせて・・・・。



特急がホームに入ってくる。



白線から下がるようにアナウンスが流れる中、彼女はスーッと前に出た。



目前に特急列車が迫る。



彼女はそれを見ない様にしてホームへと飛び降りようとした。



と、その時、体の側面に誰がぶつかってきて彼女は突き飛ばされた。



目を開けると彼女は線路の上ではなく、ホームに倒れていた。



彼女の動きを不審に思った男性会社員に彼女は助けられてしまう。



それから駅の事務所で厳しく叱責された後、彼女は警察に



引き渡された。



そこでは彼女に対して精神病院への入院を遠まわしに勧められたが



彼女は即答で拒否した。



そんな所に入ってしまったら自殺など出来なくなってしまうから。



そして、彼女はできるだけ高い建物を探してみた。



しかし、そういう高い建物というのは簡単には屋上には行けなくなっている。



それでも、何とか9階建てのマンションを見つけて屋上に上った。



屋上のビルの縁に立っていると、風がとても心地よく、彼女はどうして



最初から飛び降り自殺を選ばなかったのかと後悔した。



しかし、どうやら屋上の縁に彼女は長く居過ぎたようだ。



通行人から、飛び降りようとしている人がいる、と言われ警察が



駆けつけてきた。



そして、屋上の縁に立っている彼女に必死で説得を続けた。



そのまま飛び降りても良かったという。



しかし、見物人が大勢集まっており、そんな中では、とても飛び降りよう



という気持ちにはなれなかった。



そして、今度こそ彼女は強制的に精神病院へと隔離されてしまう。



全てが監視下にあり、とても自殺が出来るような環境ではない、と



思われたが、それでも、首吊りなら出来るかもしれない・・・。



彼女はそう思った。



実は元彼と同じ死に方ただけは、したくなかった。



しかし、こうなった以上、もう贅沢は言っていられなかった。



そんなある日、俺とAさんは彼女を見舞った。



実は彼女が自殺しようとしていた時、不可解な目撃情報があったからだ。



睡眠薬を飲んだ状態で大家さんに見つかった時も、樹海で見つかった時も、



列車に飛び込もうとした時も、ビルから飛び降りようとした時も、



いつも彼女の隣に、若い男性の姿が目撃されていた。



それは、きっと自殺した元彼なのだと俺達は考えていた。



何故なら、彼女の友達が彼女の家に行ったり、近くを通った時には、



彼女のすぐ隣で、元彼が、彼女にまとわりついているのを何人もの



友達が目撃していたのだから。



勿論、バンド関係でお互いの存在は知ってはいたが、知り合いである俺とは違い



Aさんは彼女とは喋ったことも無かった。



そして、面会室で、彼女の変わり果てた姿を目の当たりにして俺は愕然とした。



しかし、Aさんは違っていた。



淡々と冷静に話し始める。



貴女が自殺願望に駆られているのは、間違いなく元彼の影響なの。



わかる?



実は私は自殺なんてする奴は大嫌いなんだよね。



もっとも、私にはそんな度胸も無いけど・・・。



ただ、自殺したらそこで終わりではないの・・・。



ずっと自殺を繰り返さなくてはいけない。



そして、それでも永遠に許されることはない・・・。



本当に自殺って損なんだよね。



だから、単刀直入に聞かせて・・・。



もしも、元彼の存在が貴女の側から消えたとしても、やっぱり



自殺したい?



もしも、そうだとしたら、私はこのまま何もしないで帰るだけ。



でも、生きたいって考えているのなら、私は貴女の力になれるの。



どうする?



これは貴女自身が決めなくてはいけない事だから・・・。



そう言って、冷たい目で彼女を見ていた。



すると、彼女の口が少し開いて、



もしも、生きていても良いのなら、生きていたい・・・・。



そう聞こえた。



すると、Aさんは少し嬉しそうな顔をして、



生きてちゃいけない人間なんて、殆ど居ないよ・・・・。



それに、それを決めるのはあなたじゃなくて回りの人間だから。



だから、これからは、そう思われないように精一杯生きなきゃ・・・。



という事で、少しだけ目をつぶっててね!



今、貴女に憑いているモノを取ってしまうから・・・・。



そう言うと、彼女は部屋の中で姿を現わせてはいない元彼に向かって



自殺したのはあんた自身の問題だろ・・・。



他人を巻き込むな・・・。



そう言って、Aさんが手をかざすと、一瞬、男の叫び声が聞こえた後、



すぐに静かになった。



すると、彼女の顔はそれまでとは比べ物にならないくらいに生気に



満ちた顔になっていた。



その後、彼女はすぐに病院を退院出来た。



そして、今では新しく仕事を見つけ、休日にはボランティアで



汗を流している。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:26│Comments(0)
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