2018年11月09日

カーナビが導く場所

これは知人から聞いた話。



彼は年齢は30代半ば。



市内のマンションで1人暮らしをしている。



実は彼はかなりのイケメンであり、性格も良いということで、



飲みに行っても、何処へ行っても、女性の視線を一身に集めてしまう。



一緒に飲みに行っても、必ず綺麗なホステスさんが真面目に彼に



一目惚れしてしまう様であり、彼がトイレなどで席を外した



際には、どのホステスさんも必死になって彼の連絡先を俺に



聞いてくる。



自分で聞けば?



と俺があしらうものだから、彼女達も仕方なく彼に連絡先の交換



をお願いするのだが、彼はそんな誘いも上手く誤魔化し笑いに



変えてしまう。



まあ、俺ならば、即答で連絡先を交換するのたが、何故か俺には誰も



聞いてこない(涙)



まあ、それは置いておくとして・・・・。



そんな彼には過去に結婚していた時期があった。



とても短い期間だけであり、当然、子供なども存在しない。



それでも、彼は再婚する気は毛頭無いのだという。



今回はその理由に関する話をしようと思う。



彼が結婚したのは33歳。



28歳の時、彼は転職し、その職場にいたのが結婚した奥さんだった。



その頃、仕事に関しても、そして自分の容姿に関しても彼は



かなり自信を持っていた。



それは過剰すぎるくらいに・・・。



確かに彼は仕事も出来たし、転職した職場でも、すぐに女性社員から



かなりのアプローチをされたという。



それは彼の自意識をより一層増長させていった。



しかし、そんな中でも全く違う態度で彼に接していたのが奥さん



だった。



奥さんは彼よりも年齢が3歳年上であり、職場では彼の上司だった。



そして、事ある毎に彼に冷たく接した。



そして、いつも、こう言っていたという。



貴方は自分の能力を過信し過ぎている。



もっと謙虚にならないと・・・。



今は運が良いだけなんだから、いつまでもそんな態度で仕事をしていると、



いつか痛い目に遭うから・・・・と。



しかし、その頃、完全に天狗になってしまっていた彼は、



偉そうに言いやがって・・・・。



負け惜しみ言ってるんじゃねぇよ・・・。



態度を改めなきゃいけないのはお前だろ!



といつも心の中で呟いていた。



そんなある日、彼は仕事でありえないほどの大きなミスをしてしまう。



彼の判断で、大の得意先である会社に甚大な被害を与えてしまった。



そして、それは当然、彼の会社自体にも、おおきな影響を



与えるほどだったという。



それを見て、周りの同僚や上司は一斉に彼から離れていった。



女性社員でさえ、彼とは一切口も利かなくなった。



そして、当然、上司である奥さんからも酷い叱責を浴びた。



ほら・・・言ったでしょ?



やっと自分の馬鹿さ加減に気付いた?



そう言われたという。



そして、彼は完全に会社内で居場所を失った。



会社を辞めようとも思ったが、その時の彼は完全に自信を



失っており、転職する気力すら無かった。



それどころか、今、仕事を辞めてしまったら、間違いなく生活苦



に陥ってしまう。



彼はそんな毎日の中で、会社からの辞職勧告に怯える生活を



送るようになる。



しかし、どれだけ月日が経っても、全く彼に辞職勧告は来なかった。



あれだけの損害を会社と顧客に与えたのに・・・・。



そして、その後、彼は、会社の部長から飲みに誘われて意外な



事実を知った。



最初、部長に飲みに誘われた時、彼はいよいよ遠まわしに自ら



退職を迫られるのだと思っていた。



しかし、話を聞いていると、どうやら真逆の内容だった。



どうやら、彼の上司である奥さんが、彼の擁護に回ったのだという。



奥さんは損害を出した会社に出向き何度も頭を下げた。



そして、その会社の被害が出来るだけ小さくなるように必死に動いた。



その結果、その会社の被害は当時想定されていた金額の半分ほどに



なった。



そして、結果的にその会社はそれ以後も、彼の勤める会社と取引を



続ける結論を出してくれた。



しかし、その時、彼の会社では既に彼への辞職勧告は決定事項に



なっていたのだという。



しかし、そんな中でも奥さんは必死に社内でも頭を下げて回った。



会社として既に決定事項になつていると判ったが、そんな事は



全く気にせず、役員会議でも必死に頭を下げて何度も懇願した。



そして、



どうしてそこまでして彼を庇うのか、と聞かれ、奥さんはこう言った。



彼には自分でも気付いていない高い能力があります。



それを引き出してあげられないとしたら、私は上司の資格がありませんし、



会社にとっても大きな損失になります。



彼にはまだ大きな未来があります。



失敗をして彼はそれまでの自分を悔いている筈です。



そして、此処にいらっしゃる役員の皆さんも、きっと過去には



大なり小なり失敗を経験して今の地位にあるのだと思います。



その失敗は全て会社の為に働いたうえでの失敗です。



そして、勿論、彼もそうなんです。



だから、今回の彼の一度だけのミスを許せず、彼を切り捨てる、と



言う結論しか導き出せない会社なのだとしたら、彼と一緒に



上司である私も責任を取って一緒に退社したいと思っております。



そう言ったのだという。



当時、奥さんは、会社内で、そして社長からも高く評価されていた



人材であった為、奥さんを失う事こそ、会社にとって大きな損失



になると考えた会社は、彼への辞職勧告を撤回した。



それは異例中の異例の決定変更だったという。



その話を聞いてから、彼はそれまでの態度を一変させ、真面目に丁寧に



働くようになった。



そして、上司である奥さんに対しても、忠実な部下として、素直に



指示に従うようになった。



そして、それからしばらくして彼は奥さんに告白した。



特に綺麗でもなく、彼の好みのタイプとは真逆な存在だったが、



それでも、彼の気持ちは揺らがなかった。



何度も断られたが、それでも彼は諦めなかった。



そして、とうとう根負けした奥さんは彼と付き合うことをOKした。



そして、それから数年後、彼は奥さんと結婚した。



そして、奥さんはそれを契機に会社を退職した。



彼の為に家のことをしっかりこなしたい・・・。



それが理由だった。



勿論、会社からは何度も慰留されたが、それでも、その頃には彼は



既に会社の中でも高い信用と評価を得ていたから、会社も



仕方なく、奥さんの退社を認めた。



付き合っている時から、そうだったが、彼と奥さんはまるで結婚する



為に生まれてきた様な存在だとお互いが感じていた。



お互いの足りない所を埋めあって、いつも幸せな時間が流れていた。



だから、彼と奥さんが結婚するのも誰もが必然だと感じていた。



本当にお似合いの夫婦だった。



しかし、別れは突然やって来てしまう。



その日の朝、正確には前日の夜だが、彼は奥さんと珍しく



口論になった。



彼が友達とかなり危ない場所へ登山に行くという話に奥さんが



反対した。



彼には山登りの経験など無く、そんな者が、登山家でも危険な山に



登るのはどうしても看過出来ない、と。



彼としてもせっかく親友が誘ってくれた登山であり、どうしても



その登山に参加してみたかった。



だから、彼はその日の朝も、



お前が何を言っても絶対に行くからな!



と捨て台詞を残して会社に出掛けた。



そして、彼の元に訃報が飛び込んできたのが、正午を回った頃だった。



奥さんは歩道に突っ込んできた車と壁の間に挟まれて即死だった。



彼が急いで病院へ駆けつけると、奥さんは安置所に横たわっていた。



とても綺麗な死に顔だった。



そして、その横には奥さんの所持品として、愛用のバッグと共に、



奥さんが彼の為に買ってきたであろう、登山用品が置かれていた。



それは、初心者が使う様な物ではなく、とても高価な一流品ばかりが



買い揃えられていた。



登山に行くと言った彼の事を奥さんがどれだけ心配し、そして反対は



しても、それでも出来るだけ危険が軽減されるようにと、必死になって



安全な用具を買い揃えてくれた気持ちに涙が流れた。



もう枯れてしまうのではないか、と思うくらいに涙が止まらなかった。



そして、同時に一番大切な物を失ったという現実に気付いた。



普通なら、もう二度と立ち上がれない程の悲しみだった。



しかし、彼は一週間ほど会社を休んだ後、しっかりと出社し、



以前にも増して仕事に没頭した。



それは、結婚する前に奥さんから教えられた仕事に対する姿勢と



仕事も含め全ての事は決して自分ひとりでやっている事ではなく、



周りに心配や迷惑を掛ける事は絶対に避けなくてはいけない、という



奥さんの信念に従ったものだった。



彼は出来るだけ早く出社しがむしゃらに働き、そして誰よりも



遅くまで仕事をするという日々を続けた。



仕事をしている時間だけはかろうじて奥さんの事を考えずに



済んだから・・・。



そんな生活が1年ほど続いた。



そして、その年の奥さんの命日はちょうど仕事が休みだった。



彼は朝から準備をして奥さんのお墓参りに出掛けようと車の



エンジンをかけた。



すると、何も設定していないのに、カーナビが目的地を表示していた。



それは、結婚前に奥さんと一緒に出掛けた海が見渡せる岬だった。



どうして?



それにしても、まだこんな履歴が残っていたんだな・・・・。



そう思った彼は、急遽、お墓参りを中止し、その岬に行ってみよう、



と決断した。



その岬には、何度も行ったことがあったし、何よりも仕事柄、



その岬への近道も当然知っていた。



だが、その時は何故かカーナビが指示する通りの道を使って



その岬へと向かおうと思ったという。



奥さんと最初にその岬に行った時のように・・・・。



そして、車を走らせ彼は彼は岬を目指した。



途中、



何で、此処を曲がらないの?



とか不思議に思う指示もあったが、それでも彼はカーナビが指示する



通りに車を走らせた。



そうしていると、まるで亡くなった奥さんが隣に座っていてくれる



様な気がしていた。



結局、彼がその岬に到着するのに1時間半かかってしまった。



普通に走れば、1時間くらいで着く距離だったが、彼はそんな事は



どうでも良かった。



自分でもよく分からなかったが、その行程はまるで隣に奥さんが座っている



感覚を常に感じながらの楽しいドライブだったから・・・。



彼は車を適当な場所に停め、車から降りた。



奥さんの命日だったが、何故かその時は、何度も一緒に来た



この岬で手を合わせてあげたかった。



彼は静かに目を閉じて手を合わせ黙祷した。



ごめん。



喧嘩したままで死なせちゃって・・・。



そんな言葉が自然と彼の口から出た。



すると、前方から、



本当にいつまでもメソメソして・・・・。



という声が聞こえた。



それは紛れもなく亡くなった奥さんの声だった。



彼は慌てて目を開けると、辺りを見回した。



すると、前方20メートルくらいの場所に誰かが立っている。



彼は突然、涙が止まらなくなった。



そこに立っていたのは、亡くなった奥さんの姿だった。



呆然としその場で立ったまま泣いている彼の方へと奥さんは



ゆっくりと近づいてきた。



本当にゆっくりと・・・。



そして、彼の目の前に来ると、奥さんはこう言った。



この場所、覚えててくれたんだ?



私の一番好きな場所・・・・。



すると、彼は泣き声でこう返した。



そんなの忘れるわけないじゃん・・・。



すると、奥さんはクスッと笑って岬の先端に向かって歩き出した。



彼は思ったという。



もしかした、奥さんは自分の事を恨んでいるのではないか、と。



喧嘩をしたまま死なせてしまった自分の事を・・・。



だから、このまま奥さんと一緒に連れて行かれても構わない、とさえ



思いながら、奥さんの後ろを歩いていった。



岬に向かって歩いている間、奥さんは一言も喋らなかった。



ただ、岬を走る風だけが大きく草を揺らす音だけが聞こえていた。



しかし、岬の先端に着くと、ゆっくりと喋りだした。



私、ここから見る景色が一番好きだった。



ごめんね。



1人にさせちゃって・・・・。



やっぱりびっくりした?



まあ、そりゃびっくりするよね・・・。



私、死んでるんだもんね・・・。



でも、死んでからもずっと一緒に居たんだよ・・・。



そして、頑張ってる姿を見てて安心してた。



ありがと。



もう大丈夫だよね。



だから、私の事はもういいから、早く新しい奥さんを見つけなさいね。



そうしないと、私も、ずっとあなたの側にいなくちゃいけないんだから。



そう言われた。



そして、彼が涙を流しながら、首を横に振っていると、



あのね・・・あなたには未来があるの・・・・。



いつまでも私なんかに拘ってちゃ駄目だよ・・・。



私はもう死んでるの・・・・。



それは曲げられない事実だから・・・。



あなたには何もしてあげられない・・・。



だから、あなたに伝えたくて出てきたの・・・。



早く新しい奥さんを貰いなさいって・・・・。



わかった?



約束だからね・・・。



そう言うと、奥さんは笑いながら涙を流し、



本当に今までありがとう・・・・。



本当に楽しい人生だった・・・。



あなたのお陰だよ・・・。



そう言って、深くお辞儀をした。



そして、お辞儀を終え、体を起こすと、そのままゆつくりと薄く



なっていき、そのまま消えていったという。



彼は困惑していた。



奥さんに会えた嬉しさと、変な約束をさせられた気持ちが入り混じって



自分でも気持ちの整理が出来なかった。



彼はそのまま岬の、奥さんが先ほどまで立っていた場所に跪くと、



思いっきり泣いた。



自分がこれほどまでに良く泣く人間だとは思っていなかった。



しかし、少しも恥ずかしいとは感じなかった。



そして、ひとしきり泣いた後で、彼は車に乗り、家路に着いた。



自宅に戻った時、もしかしたら奥さんが家の中で待っていてくれている



気がしたが、やはり家の中には誰もいなかった。



そして、彼は真剣に奥さんに言われたことを考えた。



自分にとって、そして、奥さんにとって、どれが一番幸せなのか、



ということを・・・・。



そして、彼は結論を出した。



結局、彼はその後も誰とも付き合わず、当然、結婚もしていない。



仕事が終わり、家に帰ってから、奥さんとの思い出が詰まった



写真を眺めては、思いを巡らすのが何よりの楽しみだという。



そして、それから毎年、彼は、奥さんの命日には、早朝にお墓参りを



済ませ、その足で、その岬に向かうのが恒例になった。



決して近道はせず、カーナビの指示に従って・・・・。



そして、その岬に行くと、毎年、奥さんに会ええるのだという。



最近は、愚痴やお叱りの言葉も聞かされるらしいのだが、それすらも



彼にとっては至福の時間なのだという。



今年もそろそろ、彼がその岬に向かう季節が近づいている。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:27│Comments(0)
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