2018年11月09日

夢枕

夢枕と聞いてどんな事を想像するだろうか?



亡くなった友人や親族が何かを伝えたくて、枕元に立つこと。



もしくは、親しい関係の人が、死ぬ間際に、自分の死を知らせる



為に、枕元に立つ事。



だいたいが、そんな感じではないだろうか・・・。



しかし、今回書くのは、俺の友人が体験した、少し変わった



夢枕の話だ。



彼女には、幼い頃、両親が離婚するという経験があった。



彼女が10歳の頃だったという。



どういう事情なのかは分からないのだが、その時、彼女は父親に



引き取られ育てられた。



それから、取り立てて不自由も無く彼女は成長していった。



中学、そして高校と大学。



彼女は片親というハンデを少しも感じる事無く、沢山の友人、



そして当たり前の幸せの中で暮らしてきた。



しかし、片時も、幼い頃に離婚し離れていった母親の事を忘れる



事は無かったという。



父親は、再婚もせず、真面目に働き、一人っ子の彼女が寂しい



思いをする事の無いように常てに努めてくれたし、何より大学



までの学費を1人で捻出してくれた事には、とても感謝していた。



ただ、やはり母親の事は頭から離れる事は無かった。



それは、きっと彼女が幼い頃から、常に病弱だった母親の姿を



見てきた事に起因しているのかもしれない。



彼女の母親は、彼女が物心をついてから離婚するまでの間に、



何度も病院に入院していた。



病名こそ知らなかったが、その中には集中治療室に入れられる



こともあったから、きっとかなり重い症状だったのは、容易に



想像出来た。



だから、彼女は大学を卒業し社会人になると、父親に内緒で母親の



所在を確認しようとした。



最悪でも、母親の安否だけはどうしても知りたかった。



だから、父親に隠れては、大学の授業が無い日などは、母親の知り合い



の所を回って、情報を仕入れようとした。



それでも、母親の所在は全くつかめず、いつしか彼女の中にも



諦めにも似た感情が芽生え始める。



そんなある日、彼女は高熱を出して寝込んでしまう。



何かの菌に感染した彼女は、診察を受けた後、そのまま病院に



入院する事になった。



しかし、色んな薬を処方されたが、彼女の熱はいっこうに下がらない。



そんな時、見舞いに来た親戚が、こう口を滑らせた。



あの子の母親と同じ症状だよね・・・。



その言葉を高熱の中で聞いた彼女は、何故か嬉しい気持ちになったという。



確かに高熱で頭が朦朧としていたが、彼女にとって、母親と同じ



病気になれた事は、少しだけ母親に近づけた様な気持ちになったのかも



しれない。



そして、母親が、今、自分が見舞われている症状だったのだと分かった



事だけでも彼女にとっては大きな収穫だった。



そうして、高熱にうなされていたある夜、彼女は誰かが自分の横に



立っているのを感じた。



ぼんやりした顔で見上げると、そこには、紛れもなく幼い頃に



離婚によって生き別れた母親の姿があった。



夢かと思ったという。



その姿は、彼女が10歳当事に憶えていたままの姿だった。



だから、彼女はこう思った。



きっと、お母さんはもう死んでいるんだ、と。



そして、自分を助ける為に、こうして姿を見せてくれたのだ、と。



彼女は、横に立つ母親に手を伸ばした。



すると、母親は、しっかりと両手で握り返してくれた。



とても冷たい手だった。



そして、まるで骨と皮しか感じられないほどのゴツゴツした手。



それでも、彼女には、何よりも心強いものだった。



高熱でぼんやりした頭だったから、尚更、その手が心地よくすら



感じたという。



お母さん・・・。



彼女は、母親にもたれ掛かる様に甘えてみた。



すると、その両手は、しっかりと痛いほど強く彼女を抱きしめてくれた。



そして、母親はそのまましっかりと彼女の体を抱きしめ続けていたが、



朝が近くなると、そのままゆっくりと立ち上がり病室から出て行った。



彼女は心の中で、



お母さんが来てくれたんだから、速く元気にならなくちゃ・・・。



そう思ったという。



しかし、それからも高熱は収まる事は無く、次第に悪化していった。



それでも、毎晩のように、母親は彼女の元を訪れた。



感情の全く無い無表情な顔だったが、彼女自身、幼い頃に母親が



笑ったのを、それほど見たことは無く、それが母親にとっては



当たり前の顔なのだと思っていた。



彼女の容態は既に呼吸する事も苦しい位に悪化していたが、それでも



毎晩やって来てくれる母親は彼女の心の支えになっていた。



そして、彼女は、集中治療室に運び込まれる事になった。



もう自力では呼吸も困難になってしまい、常に看護師の監視の下に



置かれてしまう。



しかし、それでも、母親は毎晩、彼女の横に立った。



深夜、しかも午前2時を回った頃になると、必ず母親はやって来た。



そして、どうやらその姿は、看護師達には見えていない様だった。



ただ、彼女が集中治療室に入ってから、少し母親の様子が変わった。



まるで、彼女が集中治療室に入ったのが嬉しいかのように、薄気味悪い



笑みを浮かべるようになっていた。



そして、いつしか彼女はこう考えるようになる。



このまま、死んでお母さんと一緒に行くのも悪く無いかな、と。



その頃になると、彼女は病室と集中治療室を行ったり来たり



する毎日になっていた。



そんな矢先、昼間、ベッドで寝ている彼女の耳に信じられない言葉が



聞こえてきた。



どうやら、見舞いに来た親戚の叔母が、彼女の母親と偶然出会った、



という話だった。



派手な服装に身を包み、かつての印象など微塵も残ってはいなかった、



ということだった。



最初、聞いた時は、



それって、人間違いだよ・・・・。



そう思った。



しかし、話を聞いてみると、その叔母は、確かに偶然母親と出会い、



立ち話までしているのだという。



そして、彼女の病気の事を聞いた母親は、少しだけ顔を曇らせると、



私にはもう何もしてあげられる事はありませんから・・・。



そう言って立ち去ったという。



その母親の言葉も彼女にはショックだったが、それ以上に彼女の気持ちを



動揺させた事がある。



それは、毎晩彼女の元にやって来ているものが、彼女の母親で



ないとすると、一体なにものなのか?



という事に他ならなかった。



そこで、彼女は初めて、父親や近しい親戚に、毎夜現れる母親の事を



話した。



最初は、疑心暗鬼な目で聞いていた父親だったが、どうやら彼女が



本気で話しているのが分かると、親戚の男性とともに、その日の夜から



病院に泊り込むことにした。



彼女のベッドの横に椅子を並べて、腕を組んで仮眠していると、急に



部屋の空気が冷たく変わるのを感じた父親は、ハッと目を覚ました。



そして、入り口のドアを見ると、何やら人影の様なモノが映っている



のが見えた。



父親は親戚のの男性を急いで起こすと、二人がかりでドアを押さえた。



すると、何か得たいの知れない強い力で、ドアが押された。



父親と親戚の男性は必死になってドアを押さえつづけたが、それでも



手に負えない程の強い力に、何度もドアが半分ほど開かれた。



その時、父親は見たという。



ドアの隙間から覗く不気味な顔を・・・・。



それは決して彼女の母親の顔ではなく、般若の様な顔だったという。



父親が大声で看護師達を呼ぶと、慌てて看護師達が、なだれ込んできて



その影はどこかに消えていったという。



もうこれは自分達の手には負えないと判断した父親は、知り合いの僧侶に頼み、



その僧侶に紹介される形でAさんが呼ばれた。



Aさんは、病院を見回った後、彼女に面会したが、すぐに死霊に



取り憑かれていると判断した。



また、彼女の高熱の原因も、その霊によるものだと断言した。



そして、このままでは彼女の命が危ないとも判断したAさんは、



一刻の猶予も無い、とその日の夜さっそく病室で、彼女の父親と



待機する事になった。



そして、その日の夜、Aさんが病室で待機していると、突然、病室の



ドアが少しだけ開けられた。



そして、ドアの隙間から、気味の悪い笑みを浮かべた女の顔が覗き込んだ。



そして、そのまま、その母親は彼女の所へ入ろうとしたらしいが、



当然、Aさんが、それを黙って見ている筈も無い。



椅子から立ち上がったAさんは、少し開かれたドアを片足で蹴り戻すと、



それじゃ、ちょっと行ってきます・・・・。



と言って病室を出て行った。



そして、そのまま、どこかに連れて行かれ、遂にはAさんに



消されてしまった。



そして、病室に戻ってきたAさんは、心配そうに見つめる父親に



向かって、



もう大丈夫です。



全部終わりましたから、安心してください・・・。



そして彼女の高熱も、あいつの霊障だった筈だから、すぐに



回復すると思いますよ。



そう言って、Aさんは病院から帰っていった。



すると、あそこまで酷い状態だった彼女の容態が、朝には完全に回復



しており、数日のリハビリの後、彼女は元気に退院していった。



ちなみに、その後、彼女には怪異は一切起こってはいないが、



高熱の中、自分を抱きしめていた冷たい手を思い出すと今でも



怖くなるという事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:45│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count