2018年11月09日

火葬された携帯

これは知人から聞いた話である。



知人の親戚に、、母親と息子1人で生活している家族がいた。



父親は、息子が生まれた後、しばらくして急逝した。



それからは母親は息子を溺愛した。



何をするにも何処に行くにもいつも息子に付いて回った。



そんな感じだったから、息子には彼女はおろか友達も



いなかったという。



息子は孤独だった。



しかし、母親の前ではいつも明るく振舞っていたという。



母親を心配させないように・・・・。



孤独ではあったが。それでも息子にとって母親はかけがえの無い



ものであったし、それは母親も同様だった。



それでも、やはり息子は、過度のストレスを感じていたのだろう。



それは本当に死ぬつもりはなかったのではないか・・・。



事故だったのではないか、と警察に指摘されたという。



つまり、彼は自殺の真似事をしてしまい、そのまま運悪く本当に



死んでしまった。



大量の市販薬を飲んだ息子は、苦しくて吐き出そうとしたところを



同時に強烈な睡魔に襲われてしまい、そのまま喉を詰まらせて



死んでしまった。



本気の自殺ではなかった。



たから、当然、遺書もあるはずも無い。



母親は半ば半狂乱になってしまい、息子の死を受け入れようとは



しなかった。



だから、葬式の準備も一切行わず、ただ時間だけが過ぎていった。



そして、それを見かねた親戚から、諭され、ようやく葬儀の準備を行った。



それでも、



きっと息子は生き返るはず・・・・。



そう言い続けて、葬儀の日取りを出来るだけ遅くしたりもした。



しかし、息子は生き返ることも無く、そのまま葬儀の日を迎えた。



それでも、母親は息子が愛用していた携帯電話を解約せず、葬儀の



間もずっと息子の手にしっかりと握らせていたという。



通夜が終わり、葬儀も終わった。



息子の生前の交友関係の少なさを象徴するかのように、参列者は



どちらも、とても少ないものであった。



そして、いよいよ斎場に向かうバスに乗り込むことになった。



嫌がる母親を、親戚はなかば力ずくで霊柩車の助手席へと



座らせた。



そして、火葬する段になると、母親は激しく泣き叫び、気が狂ったように



息子の棺にすがりついた。



親戚達も、とても辛い光景に思わず、誰もが正視出来ず、俯いたまま、



時間が経つのを待っていた。



そして、ひとしきり泣き明かした母親は、急に元気を取り戻し、



そうだ・・・この携帯があれば、いつだって○○と話せるんだよ。



そう言って、棺の中に携帯を入れようとした。



しかし、親戚と係りの人に止められてしまう。



それでも、母親は決して引き下がらず、頑として携帯を棺の中に



入れるんだ!と主張し続けた。



しばらくの押し問答の後、根負けした親戚と係員は、仕方なく



棺の中に携帯を入れることを黙認した。



そして、いよいよ、棺が火葬された。



完全に火葬できるまで、しばらくの時間がかかると言われた



親戚達は、いったん待合室で待つ事になったが、母親だけは、



きっと、息子からの電話があるはずだから・・・・。



と言って、その場から離れようとはしなかった。



そこで、知人と数人の男性達も、その場に残る事にした。



これ以上、係員に迷惑は掛けられないと判断したから・・・。



嬉しそうな顔で、携帯を見つめる母親の顔は、まるで気が変になって



しまったのではないか、と思えるほど不気味なものだった。



そして、見えてはいないが、今、すぐそこで、息子の遺体が



燃やされている場所にいる事自体が、とても苦痛に感じていた。



すると、突然、母親の携帯電話が鳴った。



あっ、きっと○○だわ・・・・。



そう言って、急いで電話に出る母親。



そして、どこから掛かってきた電話なのかは分からなかったが、それでも



母親は、とても嬉しそうに話し込んでいる。



すると、その場で、一緒に待機していた、母親の兄にあたる叔父が



母親から電話を取り上げた。



いい加減にしなさい!



そう言って、電話に出た叔父は固まったまま、どんどん蒼ざめた顔に



なっていく。



そして、呆然とした表情で、携帯が知人に渡された。



知人が電話に出ると、ゴーッという音とともに、何かが弾ける



ような音が聞こえてきた。



その音が、今まさに火葬されている電磁釜の中の音だと気付くのに、



それほど時間はかからなかった。



知人も、血の気が引いていくのを感じていた。



そして、その様子を、まるで楽しいゲームでもしているかのように



嬉しそうな顔で見つめている母親の顔がとても恐ろしかったという。



それから、知人は呆然としたまま、携帯を母親に手渡した。



すると、それから、ずっと母親は何かを話していた。



火葬されている息子と・・・・。



しかし、そんな事があったものの、火葬は無事に終わり、骨を拾う段



になったが、母親は、骨など拾おうとはしなかった。



それどころか、



息子は死んでいない・・・。



そう繰り返すばかりだった。



それから、どれだけの月日が流れたのだろうか・・。



とある親戚の集まりがあった際、その母親もその集まりに参加



してきた。



そして、相変わらず元気そうな顔で、



昨日は息子とこんな事を話した・・・とか、



息子が、今日もこの場所に遅れて来る・・・という話を親戚達に



話して回っていた。



そして、また電話が鳴った。



急いで電話に出た母親は、



もう、皆さん、集まってるんだから、出来るだけ速く来てね!



等と訳の分からない事を話していた。



そして、またしても、叔父が母親の携帯を取り上げて、自分の耳に当てると、



電話の向こうからは、プープーという連続音だけが聞こえていた。



叔父や知人は思ったという



やはり、ショックで頭がおかしくなってしまったのかも・・・と。



すると、突然、玄関のチャイムが鳴った。



叔父は走るようにして玄関に向かうと、外に向かってこう言った。



もう、お前は死んでるんだ・・・。



そうやって優しくする事が、かえってお前のお母さんを苦しめてる。



それに気付いてくれ!



そう言ったという。



すると、玄関のチャイムが鳴り止んで、玄関の向こうで誰かが



お辞儀をする姿が見えたという。



それからは、もう母親の携帯に、息子からの電話がかかってくる



事は無くなったそうだ。



辛く、そして悲しい話である。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:47│Comments(0)
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