2018年11月09日

写真を辞めた理由

彼は俺の兄と同い年。



年齢で言えば、2歳年上になる。



ただ、趣味が車ということで共通の話題も多く、そして何より



カメラ屋の跡継ぎだった彼とは何かと親しくさせて頂いていた。



そんな彼は、大学を卒業後は、別の会社に就職していた。



まあ、それは決してカメラ屋を継がないという意思表示ではなく、



父親が年老いて、世代交代の時期が来るまでは好きにして良い、



という事だったらしい。



まあ、それには、カメラ屋という職業では、親子二人が普通に



暮らしていけるだけの収入が得られないという事も関係している



らしいのだが・・・・。



そんな彼は、自分が思っていたよりも早く、そのカメラ屋を継ぐ



事になった。



父親が、急病で他界したのだ。



それを契機にして、俺も彼の店に足繁く通う様になった。



カメラ屋というのは、カメラを販売するだけではなく、写真の現像から



プリントまでを行ったり、行事があると、そこに出かけて行き、集合



写真をとったりと色々と忙しい。



中には自分の撮影スタジオを持っているカメラ屋さんもいるらしいが、



彼の所ではそんな余裕は無かったようだ。



そんな彼なのたが、カメラ屋を継いでから、1年が過ぎた頃、急に



カメラ屋を廃業して、他の仕事に転職してしまった。



勿論、彼の写真撮影の腕はかなりのものだったし、もしも転職するとしても、



きっとカメラの知識が生かせる仕事なのだろうと思っていた。



しかし、もう二度とカメラで撮影はしたくないと言った。



その時に話してくれたのが、これから書く話である。



それは父親から引き継いだカメラ屋が軌道に乗り始めた頃だった。



ある時、電話がかかってきて、出張での撮影依頼が入った。



場所は能登のとある岬。



彼は、何故、地元の写真屋に頼まずに、わざわざ、うちに依頼の電話



をくれたのか、と一応聞いてみた。



すると、ちょうど、数年前に前の店主である父親に依頼したから。



そう言われた。



彼としては特に断る理由も無く、また謝礼の金額も大きかったので



二つ返事で快諾したという。



そして、いよいよ当日になった。



彼は、車で早めに出発し、能登の岬を目指した。



そして、ちょうど約束の時刻の1時間前には、その岬に到着した。



しかし、天気は雨に変わっていた。



どしゃ降りというのではなく、しとしとと降っている感じだったので、



彼は撮影機材を持って、指定された岬の方へと歩いていく。



しかし、そこは彼が数年前に訪れた時とは完全に様変わりしていた。



おみやげを売っていた店も、軽食を販売していた店も既に潰れており、



以前の観光地としての認識とは、程遠いものになっていた。



駐車場から岬へと続く道も、草木が張り出して、道を覆っていた。



だから、内心、心配していたという。



本当に撮影を依頼した人達は来るのだろうか?と。



まさか、騙されたのではないのだろうか、と。



しかし、確かに代金は前払いできちんと支払われていた。



振込みではなく、現金書留で、送られてきた代金は、古く汚れた



紙幣だけが入れられていた。



普通なら、銀行振り込みだろうけどな・・・。



そんな事を思いながら、現場に向かうと、何やらガヤガヤと騒がしい。



彼は重たい機材を持って、長い石の階段を降りると、そこには



沢山の人が立っていた。



そして、彼を見つけると、



おーい・・・ここだよ!



と声を掛けてくれた。



しかし、彼はその時、何か違和感を感じていた。



というのも、そこに集まっていたのは、老若男女さまざまな人達であり、



その人達が、まさに写真を撮る為だけに集まったかのように、岬の先端を



背にして、綺麗に並んで立っていたのだから・・・。



彼は、それでも、仕事だと割り切り、急いで機材を取り出して撮影の



準備を始めた。



しかし、不思議だった。



先ほどまであれほどガヤガヤと騒がしかったはずが、今まさに写真撮影の



準備をしていると、全く声が聞こえてこない。



いや、声どころか、何の音も聞こえず、ただ、波の音だけが聞こえていた。



彼は思わず、顔を上げて、彼らの方を見た。



そこには、まるで無表情で生気の無い顔が20個以上並んでいた。



そして、それらの顔は、全て彼の方をじっと見つめているのだ。



彼は心の中で思った。



まさか、自殺する前の記念撮影じゃないだろうな、と。



そして、何度か、笑ってくれるようにと頼んだところ、全員が



笑ってくれたらしいのだが、その笑顔というのが、言葉に表せない



くらいに不気味な笑顔だったという。



しかし、それから後は、何事も無く無事に撮影は終了し、彼らはぞろぞろと



歩いて石段を登っていった。



彼はそれを見て、



ああ・・・やっぱり思い過ごしだったか・・・。



まあ、自殺する前に記念写真を撮る物好きなやつなんかいないよな。



そう思いながら、機材を片付け、彼も急いで車へと戻った。



そして、その時、彼は気が付いた。



その岬の駐車場には、歩いて来るなど絶対に不可能な場所だった。



しかし、先ほどの団体客が乗ってきたであろうバスも車も、一台も



見てはいなかった。



彼は背中に寒いものを感じながら、急いで車を走らせ、店へと戻った。



そして、急いで写真のネガを現像している時に異変は起こった。



彼が撮影したカメラのフィルム。



そこには、誰一人として写ってはいなかった。



写っているのは、岬と、その先に見える海だけだった。



ピンボケとか露出の問題ではなかった。



実際、風景はきちんと写りこんでいるのだから・・・。



それでは、20人以上の人が一体何処に消えたのいうのか・・・。



確かに、そういう仕事をしていると、妙な写真が撮れてしまう事は



よくあるらしい。



手足が消えていたり、変な顔や手が写りこんでいたり・・・。



しかし、撮影した全員が消えた写真など彼は見た事が無かったという。



しかも、万が一の為に、同じ写真を数枚撮っていたが、やはり



どの写真にも誰一人写ってはいなかった。



彼は思わず蒼ざめてしまう。



そして、そんな顔をしている彼を見て、母親が聞いてきた。



何があったのか、と。



そして、彼はそれまでの経過を葉親に話すと、母親の顔はどんどん



蒼ざめていき、恐怖で顔が引きつっていたという。



そして、慌てて何処かへ行くと、すぐに彼の元に戻ってきてこう言った。



これはお父さんが書いていた日記帳・・・。



そこには、今、あんたに聞いた事と同じ事が書かれてるの・・・。



そして、それからしばらくしてお父さんは、死んでしまった。



ああ・・・どうして話してくれなかったの?



知っていれば絶対に止めたのに・・・・。



そう言って泣き崩れたという。



彼は一瞬、父親の日記帳に書かれていることを読もうと思ったが、



すぐに止めた。



そして、そんな恐怖心を払拭しようと、依頼主のところへ電話を



かけた。



写真撮影の失敗を詫びる為に・・・・。



しかし、その番号にかけると、その番号は使われていない旨の



音声が聞こえてきた。



それからである。



彼が撮影した写真には、必ず、関係の無い誰かが写りこむようになった。



それは、顔みたいなものではなく、明らかにはっきりとした顔だった。



その都度、写りこむ顔は違ったが、どの顔も、得体の知れない不気味な



笑みを浮かべていた。



そう、ある日、撮影した人達の顔のように・・・。



そして、そんな日が1ヶ月ほど続いた時、彼は突然、カメラ屋を



廃業した。



そして、そのカメラ屋の建物自体を売りに出し、新しい場所に



移り住んだ。



そして、彼は言っていた。



廃業したのは、もう限界だったから。



たぶん、もう一度でも写真を撮ってしまったら、きっと俺は



死ぬ事になるから・・・。



そう言っていた。



そして、実は俺はその時の写真を一枚もらっていた。



彼は止めた方が良いと助言してくれたのだが、俺にはどうしても



その写真の謎を解明してみたかった。



その写真には、彼が言ったとおり、確かに、岬の先端と、その先の海だけが



写っていた。



どこをどう見ても人の姿は何処にもなかった。



その時には・・・・。



それから、俺はその写真の事をすっかり忘れていた。



そして、何かのきっかけで、その写真の事を思い出し、再びその写真を



取り出してみた。



すると、そこには、岬の先端に、手の様なモノが写っていた。



まるで、何かが崖の下から這い上がってきている様に見えた。



だから、俺はその写真をAさんに見て貰った。



すると、Aさんは、



ああ・・・これは駄目な奴ですね。



持っていては危険すぎます!



この写真は、簡単に人の命くらい奪ってしまいますよ・・・・。



そう言われてしまった。



そして、今、その写真は富山の住職の所に保管されている。



絶対に誰も開けられない様な厳重な鍵を掛けられた状態で・・・。



そして、俺は思っている。



彼の父親が死んでしまったのは、もしかしたら、その写真に



写りこんだ、這い上がってくるモノを見てしまったから、



なのではないか、と。



この世には、確かに触れてはいけない危険すぎるものが



存在しているようだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:57│Comments(0)
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