2018年11月09日

冬の夜に

これは俺の体験談である。



ちょうど、小学4年生の冬だったと思う。



実は俺の父親というのはかなり厳しい人で、特に勉学の成績に関しては



一切妥協をしてくれない父親だった。



常に勉強を強要され、成績の向上を約束させられていたが、



やはり遊びたい盛りだったのか、俺は全く勉強には興味が持てなかった。



厳しい父親に叱責されても、その場限りで謝り頑張ると嘘をついていた。



それが父親には許せなかったのだろう。



その年の12月頃だったと思うが、学期末の試験でとんでもない



点数と、通知表をもらって来た俺に父親が完全に切れてしまった。



もうお前などうちの子供ではない、と。



だから、早く出て行け!



そう言われた。



最初は、冗談かと思っていたが、どうやらそうではないと気付いた。



だから、俺は必死で父親に許しを請うた。



しかし、もう俺の言葉には、もう父親を納得させるだけの本気が



無かったのだろう。



父親は、力ずくで俺を玄関まで連れて行き、外に連れ出そうとする。



そして、我が家は父親に反対出来る者など1人もいなかった。



母親でさえも・・・。



そして、俺は、そのまま外に出されて玄関の鍵を掛けられてしまう。



外は生憎の雪模様だった。



俺は台所がある場所の小屋根が付いた所にしゃがみこんだ。



寒かったが、雪のおかげで辺りがぼんやりと明るかったのだけが、



小学生の俺にとっては救いだった。



それでも、時間が経つにつれて寒さが身に染みてきた



その時、それなりに暖かい服を着ていたのだが、外の寒さに耐えられる



ものではなかった。



しかし、俺はこう思っていた。



きっと父親は、俺を懲らしめるために外に出したのだと・・・。



だから、大人しくして反省していればきっとすぐに家の中に



入れてくれるはずだ、と。



しかし、その時の父の怒りというものは俺の想像を超えていたらしい。



1時間が経ち、そして2時間が経った。



回りの家々の明かりもどんどんと消えていき、とうとう俺の家の明かりも



消えてしまった。



相変わらずユキは降り続いており、俺の頭や服にはかなりの雪が



積もっていた。



家の中は完全に真っ暗になっており、この時点で俺は生まれて初めて



”死”というものを身近に感じた。



不思議と泣き叫ぼうとか、玄関をドンドンと叩こうとは思わなかった。



全て自分のしてきた事の結果だ、と。



だから、もしも、このまま凍死するのだとしたら、少しでも家族の



近くでこのままうずくまって死のう・・・。



そんな事をぼんやりと考えていた。



確かに近所には友達の家もあったし、俺がしゃがみこんでいる



すぐ近くを何人かの大人たちが通っていったが、そこに助けを



求める気分にはなれなかった。



それは恥ずかしさでもなければ、絶望というものでもなかった。



上手くは言えないが、これはあくまでうちの家族の問題であり、



他人を巻き込むのは違う・・・・。



そんな風に思っていたのかもしれない。



体はどんどんと寒くなっていったが、ある時期を越えると



何故か、それほど寒さを感じなくなった。



俺は出来るだけ小さくなってうずくまり、あわよくば朝まで



生き延びられれば・・・。



そう思っていたのかもしれない。



そして、雪はどんどんと強くなっていく。



すると、不思議なもので、すぐ近くを通る国道の車の音も一切



聞こえなくなり、無音状態になった。



自分が家から外に出されてから、どれ位の時間が経っているのか、



まったく分からなくなっていたが、それでもかなりの遅い時刻に



なっていたのは、子供の俺にも分かった。



思い出すのは、家族旅行の思い出や、レストランに行った時の事



など家族に関する事ばかりだった。



だから、俺は子供ながらに感じていた。



人間は死ぬ前に走馬燈の様に思い出を回想するというが、もしかしたら



これがそうなのか、と。



だとしたら、きっと自分はもうすぐ死ぬのだろう、と。



そう思いながら、ふと空を見上げた。



空からは大きな雪がどんどんと降り落ちてきていた。



俺は思った。



このままでは、朝になる頃には、俺はすっかり雪に埋もれてしまい、



誰にも見つからないかもしれない、と。



だから、俺は一旦立ち上がり、もう少し雪が積もらない場所に



移動しようとした。



そして、立ち上がったとき、それは俺の目の前に居た。



女の人だった。



痩せてはいたが、普通の女性に見えた。



ただ、白い着物を着ていたその女性が俺にはとても奇妙に感じた。



そして、こう思った。



この女の人は、こんな時刻に此処で何をしているのだろう、と。



怖いという感覚は無かった。



むしろ、こんな夜中に誰かが側にいてくれる、という事のほうが



嬉しく感じていた。



自分の事を気付いてくれる人がいた、という事実が心強かった。



相変わらず、その女性は黙ったままで俺を覗き込んでいる。



俺は、一旦視線を逸らして深呼吸し、挨拶しようとした。



すると、



何してるの?



そんな声がすぐ近くから聞こえた。



ハッとして俺が顔を上げると、俺の目の前に、その女性の顔があった。



とても嬉しそうに笑っていた。



俺は思わず、うわっという声を出してしまった。



そして、それと同時に先ほどまでは全く感じていなかった恐怖という



ものに頭が完全に支配されてしまう。



こいつ、なんなんだ?



人さらい?



いや、それ以前に人間なのか?



そう考えていると、どんどん恐怖が増幅していく。



俺は、黙ってその女性の顔を見ているしかなかった。



年齢は、俺の母親と同じくらいだったと思う。



しかも、不思議な事に、その女性の頭にも服にも、雪というものが



一切積もってはいなかった。



良い所に連れて行ってあげようか?



そう聞こえた。



俺は完全に固まってしまい、その言葉に対して首を横に振る



事しか出来なかった。



すると、突然、何かが俺の腕を掴んだ。



ハッとして顔を上げるとそこには先ほどの女がニターッと笑ったまま



俺の腕を掴んでいるのが分かった。



その腕は、冷え切った俺の腕にすら、冷たく感じた。



まるで、何か別世界の、そして気が遠くなる様な冷たさ。



俺は大きな声を上げようとした。



しかし、何故かまったく声は出なかった。



喉の奥までは声は出ているのに、それが全く外へは出てこない。



俺は必死に首を横に振って、自分の意思表示を行った。



しかし、次の瞬間、俺の体はいとも簡単にそこから引きずり出されてしまう。



とにかく、凄まじい力だった。



そして、俺の体は、そのまま強引に引き摺られながら雪の上を



滑っていく。



どれだけ両足で必死に踏ん張っても、何の抵抗にもならなかった。



しかも、その時、回りの景色はいつもとは違っていた。



俺の住んでいる地域は古い町並みが立ち並び、どこまでいっても



そんな風景が続いているはずだった。



しかし、その時、俺がその女に引き摺られていった先には、何故か



ただ、真っ暗な闇が広がっていたのだ。



そこには、町並みは無く、ただ、木々の間に深い闇がどこまでも



続いているように見えた。



それでも、俺は諦めなかった。



声にならない声で必死に両親に助けを求め続けた。



そんな時、その女がこう言った。



もうすぐ・・・・もうすぐだから・・・・。



どうせ、お前は要らない子なんだから・・・・・。



そう聞こえた。



女に摑まれている腕は酷く痛み、感覚がどんどん無くなっていった。



それでも、最後の力を振り絞って俺は必死に両足で踏ん張り続けていた。



そんな時、突然、俺の家の明かりが点いたのが見えた。



そして、そこから飛び出すようにして出てくる父親と母親。



そして、俺の姿を見つけると、



こら!何してる!



と父の大きな怒鳴り声が聞こえた。



すると、その女は、ふっと掴んだ腕の力を抜いて、



また・・・来るからね・・・・。



そう言って、そのまま滑るように闇の中に消えていった。



そして、その場で倒れている俺を必死に抱き起こしてくれる母。



俺はそのまま安堵の為か、意識を失った。



そして、目が覚めると両親と兄が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。



俺が、



どうしたの?みんなで・・・。



昨日の夜の人は?



そう言うと、父親が、



あれは夢だ。



だから早く忘れてしまいなさい・・・。



そう言った。



その後、母親に聞いた話なのだが、あの夜、両親は少ししたら家の中に



俺を入れなければ、と思い、そのまま電気を消して寝たフリをして



居間で待機していたそうだ。



しかし、突然、強烈な眠気に襲われてしまい、そのまま両親は



居間で寝入ってしまったそうだ。



だが、突然、耳元で、



お母さん・・・助けて!



お父さん・・・助けて!



そんな切羽詰った声が聞こえたという。



そこで、慌てて外に出てみると、俺が見知らぬ女に連れて行かれそうに



なっていたのだという。



でも、助かって良かったよ!



母はそう言ってくれた。



そして、俺はこう聞いてみた。



俺って、お母さんやお父さんにとって、要らない子なのかな?と。



すると、母は笑いながら、



自分の子供が可愛くない親なんて居ないよ!



兄いちゃんも、そしてあんたも、私やお父さんにとって、宝物なんだから。



そう言ってくれたのが、とても嬉しかった。



ちなみに、その件があってから、俺は真面目に勉学に取り組む



ようになった。



そして、あれから、あの女は二度と現れてはいない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:58│Comments(0)
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