2018年11月10日

花火

これは友人夫婦に起こった話。



彼ら夫婦は高校生の頃から付き合い始め、そして彼が社会人



5年目の年に結婚した。



付き合い始めたのは高校2年の時。



彼が彼女に告白して、それを彼女も即答でOKした。



既に両思い同士だったらしく、それからも一度も喧嘩別れなど



せずに、順調に結婚までこぎつけた。



そして、それは結婚してからも変わらず、彼ら夫婦は本当に仲の良い



夫婦だった。



そして、夫婦は共働きで一生懸命に働き、車も2台買うことが出来たし、



建売りだったが、新築の家も買うことが出来た。



まさに、他人が羨むほどの順風満帆の人生だったのだが、ただ1つ



子供が出来ないというのが、最大の悩みだった。



彼ら自身が悩んでいた事もあるが、事ある毎に親戚や両親から



子供はまだか?



と聞かれるのは、苦痛以外の何物でもなかった。



だから、彼らはかなり高額な不妊治療を続け、それは2年間ほど



続いた。



その頃になると、不妊治療に費やした金額も、きっと1千万円に



届くくらいになっていたのだろう。



彼の提案で、とりあえず一旦、不妊治療は止めてみよう、という事になり



奥さんもそれに従った。



その時は、彼らの心の中では、きっとこんな考えがあったのかもしれない。



子供が出来なくても幸せな人生は送れるのかもしれない・・・・。



だから、これからは、夫婦二人がずっと幸せでいられる様に精一杯



お互いの事を大切にしていこう、と。



そして、親戚や両親の言葉など気にしないでおこう、と。



しかし、人生は不思議なもので、そうやって気負いを捨てて生活していると、



不妊治療を止めてから、1年半後に奥さんが妊娠した。



風邪の症状があった為、病院に行った奥さんが、医師から告げられたのは、



予想外にも、



妊娠していらっしゃいますね!



おめでとうございます!



という言葉だった。



彼女は驚きとともにうれし涙を流しながら、夫に電話すると、夫も



電話の向こうで泣いているのが聞こえてきた。



それからは、奥さんは仕事で産休をとり、出産に備えた。



そして、彼は奥さんだけでなく、生まれてくる新しい家族の為にも



必死で働いた。



そして、予定日よりも早く元気な女の子が生まれた。



それからの二人の生活は、完全に子供中心になった。



親戚や両親も心からお祝いをしてくれたし、彼らの家庭は以前にも



増して明るく楽しいものになっていった。



最初の誕生日がやってきて、そして2回目の誕生日も無事に過ごす



事が出来た。



その頃には結婚する前から彼らが大好きだった夏の花火大会にも



連れて行くようになっていた。



彼らの血を引いてか、娘さんも花火が大好きなようで、大声を出して



楽しそうに笑っていた。



幸せを実感できる大切な時間になった。



そして、それからは毎年、夏になると花火大会に連れて行くのが



恒例になっていた。



そして、保育園に入った娘さんは、彼らにとって更にかけがえのない



ものになっていく。



その頃には奥さんも再び働き始め、仕事の帰りに娘さんを保育園まで



迎えに行くのを楽しみに奥さんは仕事を頑張った。



娘さんは、とてもよく喋る性格であり、いつも父親であり母親である



彼らに対して、



おかあさん、だいすき!



おとうさん、だいすき!



というのが、口癖のようになっていたという。



しかし、その幸せにも突然、終止符が打たれてしまう。



娘さんが5歳の時だった。



突然、保育園から電話が掛かってきた。



娘さんの様子がおかしい・・・と。



そして、彼女が迎えに行くと、其処には既にぐったりとしている娘の



姿があった。



おでこを触ると凄い高熱だったという。



彼女は慌てて娘を病院に連れて行った。



病院に着くと、すぐに娘さんは集中治療室に入れられた。



彼女は必死に娘さんに対して、



頑張って!頑張ろうね!



と呼びかけると、娘さんは苦しそうな声で



おかあさん、おかえり!



だいすきだよ!



そう言ってくれたという。



そして、急いで連絡した夫が到着すると、今度は夫に向かって、



おとうさん、おかえり!



だいすきだよ!



と弱弱しい声で答えてくれた。



そして、まるで、両親が揃うのを待ってくれていたかのように、娘さんは



そのまま静かに息を引き取った。



必死の思いで握っていた娘の腕から、何も伝わらなくなった時、奥さんは



人目もはばからずに大声で泣いた。



そして、彼もまた、声を殺して唸るように泣いたという。



それからは、娘さんの遺体は一旦家へと戻ってきた。



家の中はまるで火が消えたように静かになっていた。



そして、そこで初めて彼らは喧嘩をした。



このまま家の中で娘と一緒に暮らそうと言い出した奥さんに、彼が



反対したのだ。



奥さんとしても、自分が言っている事が法に触れることであるのは



よく分かっていたし、自分がまともな思考を出来なくなっている



事は十分に理解していた。



しかし、その時だけは、嘘でも彼に同意して欲しかったらしい。



そして、それからは、通常通り、通夜と葬儀を行い、斎場に行った。



それまでは、葬儀の準備で忙殺されていた感情が、火葬する段になり、



堤防が決壊するかのように溢れ出てきた。



奥さんは狂ったように娘さんの棺を護ろうとした。



火葬など絶対にさせない、と。



しかし、奥さんの気持ちは彼に十分分かっていたが、それでも彼は自分の



気持ちを押し殺して、奥さんを棺から引き離すと、棺は予定通り



荼毘にふされた。



そして、奥さんはまるで言葉を失ったかのように何も喋らなくなった。



骨だけになった娘の骨を拾う時も、彼女は無言のまま黙々と作業を



続けた。



まるで、全ての感情が閉ざされてしまったかのように・・・。



そして、娘さんの骨は、新しく買った小さなお墓に入れられた。



奥さんは、仕事を辞めてしまい、毎日、一日中、娘の墓の前で



呆然と過ごすようになった。



それを見た彼は、何とか奥さんの心を溶かすことが出来ないものか、と



思案した。



しかし、娘を亡くした悲しみは彼も同じであり、彼自身も、仕事を



続けるだけで精一杯だった。



そして、彼ら夫婦の間には完全な溝が出来てしまう。



奥さんは一切の家事を行わず、どんどんと痩せていった。



そして、彼もそんな生活が続くうちに、会社の帰りに、何処かで



晩御飯を済ませてくるという生活になってしまう。



だから、そんな結末になるのは当然のことなのかもしれない。



彼ら夫婦は、離婚という道を選択した。



お互いの事を嫌いになったわけではなかったが、それでも会話など



全てのコミュニケーションを失ってしまった彼らにとっては、



夫婦でいること自体が、常に娘を思い出してしまうという悲しみの



連鎖を繰り返してしまう事なっていたのだから、彼らの離婚を



止める者など誰もいなかった。



しかし、離婚を目前にしたある日、彼の方から奥さんを誘った。



その日は、結婚する前から、二人が、そして娘も大好きだった花火大会



の日だったから・・・・。



奥さんも、それが二人で出掛ける最後になるのだから、と渋々



OKした。



そして、花火大会の当日になった。



彼はいつも家族で花火を見ていた場所をあえて選んだ。



花火大会はいつもの様に大勢の人で賑わっていたが、何故か、その場所



だけがぽっかりと空いていたから・・・・。



そして、彼は密かに持ってきた小さな折りたたみ椅子を取り出して



二人の間に置いた。



それは、花火を見るときにはいつも娘さんが座っていた椅子だった。



奥さんは、激高して彼に文句を言った。



しかし、彼が寂しそうに、



これが俺にとって一番幸せだった時の思い出だから・・・。



だから、最後の我侭を聞いて欲しい・・・。



そう言われて、仕方なく頷くしかなかった。



花火が始まると、あちらこちらから大きな歓声が起こった。



そして、その中には小さな子供を連れた家族連れの姿もあった。



それを見た時、奥さんは、彼に言った。



やっぱり、来るんじゃなかった。



こんなの私を苦しめる拷問と同じだから・・・・。



そう言って、彼を責めた。



しかし、彼には言い返す気持ちは無かった。



彼自身、そこで家族連れの姿を見るのは、かなり辛く感じていたから。



もう帰ろうか?



彼がそう言った時、花火の音に混じって小さな声が聞こえた。



彼ら二人にはそれが亡くなった娘の声だとすぐに分かったという。



ハッとして小さな椅子の方を見ると、其処には死んだはずの娘が



花火を見ながら笑っていた。



すっごいねぇ~



あっ、今のは私の好きなやつだ~



其処には、生前と全く変わらない娘が屈託の無い笑顔で笑っていた。



そして、呆然と見つめる彼らの顔をきょろきょろと見回して、



おとうさんとおかあさんが仲良くしてないと私、悲しくなるよ・・・。



私、おとうさんもおかあさんも大好きなんだから・・・。



おとうさんとおかあさんも、わたしのこと、すき?



そう言われて、彼らは言葉もなく頷くしかなかった。



すると、



よかった・・・。



わたしのこと、すきでいてくれて・・・・。



彼らは、思わず娘に抱きつこうと思った。



しかし、そうすれば、娘は消えてしまう・・・。



そんな気がして、ただ呆然と娘の喜ぶ姿を見ているしかなかった。



そして、それからも花火は続いた。



相変わらず、娘には声を掛けることは出来なかったが、それでも、その時間は



彼らに幸せだった時間を思い出させるには十分だったのかもしれない。



そして、最後にひと際大きな花火が打ち上げられ、彼らは思わずそれに



見入ってしまう。



すると、また、小さな声が聞こえた。



ばいばい・・・・またね・・・・。



そう聞こえたという。



そして、先ほどまで娘が座っていた小さな椅子を見ると、もう其処には



娘の姿は無くなっていた。



しかし、彼らは何かを思い出したのかもしれない。



その場で抱き合って大声で泣いたという。



そして、お互いに、



今、絶対にいたよな?



うん・・・絶対にあの娘だったよ!



そんな言葉を交わしながら、人目もはばからずに大声で泣いた。



しかし、それは、悲しい涙ではなく、久しぶりに感じる事が出来た



喜びの涙だった。



そして、帰りの車の中で彼らはこんな話をした。



きっと、あの子は私達の事を心配して出てきてくれたのかも



しれないね・・・・。



そうだね。きっと。だから、あの子が悲しまないように仲良くしないと



いけないのかもな!



それに、あの子、確かに、またね!って言ったのよ・・・。



だから、私達、離婚するべきじゃないのかもしれない・・・。



そう言われ、彼も、



うん。そうだな。



俺たちが分かれちゃったら、娘が出てきてくれる所が無くなっちゃうもんな?



そう返したという。



それから、彼らの離婚は中止になった。



最初はぎこちなかった彼ら夫婦だったが、いつも娘が側で見ていると



思うと次第に、お互いを思いやり自然に接することが出来る様になった。



そして、いつしか、彼らは結婚前の様に仲の良い夫婦に戻った。



そして、最近、彼らは新しい命を授かった。



無くなった娘さんにとても良く似た女の子だという。



だから、親戚や両親は、その女の子の事を、無くなった娘さんの生まれ変わり



だと言って喜んだ。



しかし、その度に彼らはそれを否定した。



あの子の生まれ変わりなどではない、と。



親戚や両親は、どうしてそんなに頑なに否定するのか、分からなかったが、



彼らにとってはちゃんとした理由があった。



それは、毎年、花火大会に出掛けるのが、決まりになっていた彼らの前に



必ず、亡くなった娘が現れるのだという。



そして、いつも、こう聞いてくる。



おとうさんとおかあさん、ちゃんとなかよくしてる?と。



そして、最近では、花火大会に出掛ける時には、小さな折りたたみ椅子を



二つ持っていくのだという。



そして、花火が始まると、1つだけ空いていた椅子が埋まるのだという。



そして、その椅子に座った娘さんは自分の妹にあたる女の子をとても



嬉しそうに眺めているそうだ。



彼らの幸せがずっと続く事を願わずにはいられない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 00:09│Comments(0)
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