2018年11月10日

隔離された積み荷

母方の叔父は以前、大型貨物船の乗組員をしていた。



確か、外国籍のとても大きな貨物船だったと記憶している。



俺が名古屋に住んでいた頃には、名古屋港に立ち寄った叔父と



落ち合って一緒に食事をし、大きなお土産を貰った記憶がある。



その貨物船には日本人は殆ど乗船していなかったが、それでも叔父は



かなり長い間、その外国籍の貨物船で働いていたのだと思う。



そして、叔父は、その船で世界中を回っているようであり、色んな



国の話を聞かせてくれた。



~で楽しかった話。



~で死にそうになった話。



~で不思議な体験をした話。



そのどれもが、俺の心を鷲づかみにして離さなかった。



どんなに苦しい話でも、面白おかしく話してくれる叔父が大好きだったし



俺たち、親戚の子供の間では叔父はある意味、ヒーローだった。



そんな叔父が、一時期だけ、まるで自殺でもし兼ねないほど暗い顔をして



黙り込んでいる時があった。



その時は、親から、そっとしておきなさい、と言われ、なかなか



叔父には近づけなかった。



しかし、それから、また半年後位に叔父に会った時はは、すっかり



いつもの明るい叔父に戻っていてホッとした記憶がある。



ただ、その時には、その事には触れないようにした。



また、叔父が暗くなってしまいそうで怖かったからだ。



それから数年後に叔父はその貨物船の仕事を辞めた。



そして、俺も成長し、大人になって、叔父と一緒に酒を飲む機会があり、



その時に、思い切って聞いてみた。



あの頃、どうして酷く暗い顔をしていたのか?と。



すると、叔父は一瞬、少し戸惑うような表情を見せたが、その後、真顔になり



俺にこんな話を聞かせてくれた。



その時、叔父が乗った船はいつものように欧州のいくつかの国を回り、それを



アジアの港に運ぶ航路に就いていた。



いつも通りなれた航路だった。



しかし、その航路の途中、叔父の乗った貨物船は、今まで行ったことの無い



寂れた港に寄港した。



その港に行く為には、丸二日掛けて遠回りしなくてはいけなかったのに。



他の船員に聞いてみたが、誰も詳しい事は知らなかった。



ただ、船長以下、ほんの数名のみが知らされていたようで、それが



本社からの急な予定変更に拠るものだというのは、かなり後で



分かった事だという。



そして、その船は、寂れた港で、大きな鉄製の箱を積み込んだ。



真っ黒に塗られたとても古い鉄の箱だったという。



通常、大掛かりに積み込みになるはずの大きな荷物は、必要最低限の



人数だけが立ち会って、荷物用の貨物室に入れられた。



それまで、そこに入れられていた荷物は全て他の貨物室に移された。



そして、船員全員に、その荷物に関しての緘口令が敷かれた。



それから、船の中では不思議な噂が立った。



その荷物を収納した貨物室から、ドンドンという大きな音が聞こえてくる、



というものだった。



なにぶん、船の長旅というものは退屈なものであるらしく、船員たちは



皆、その隔離されるように貨物室に入れられている箱のことが



気になって仕方なくなってくる。



そして、ある日、とある港に寄港し、船長たちが留守の間に、残った者全員が



代わる代わる、その貨物室を覗きに行った。



勿論、叔父もその中の1人だった。



船の一番奥にある貨物室に入れられたその黒い箱は、貨物室の中で



ポツンと1つだけが大きな貨物室の端っこに置かれていた。



大きな貨物室にどうして、その箱1つだけが収納されているのか、



皆、不思議に思ったという。



しかし、その箱を見に行った事は、船員たちの間では、完全な秘密にされる。



そして、それから、更に怪異が頻発するようになる。



まず、最初に、その貨物室の前で、黒い箱の番をしていた船員が、貨物室の中から



まるで、子供達が走り回るような足音と笑い声を聞いたという。



そして、程なくして、その船員が行方不明になる。



船の中をしらみつぶしに探したが、結局、その船員の姿は見つからず、最後には



船からの転落事故という事で決着した。



そして、それからというもの、船のいたるところで、中世の姿の女の霊や、



子供の姿が目撃されるようになる。



それは、本当に日常茶飯時のように、いつでも当たり前の様に目にする



事が出来たという。



そして、夜になると、船内中に響き渡るような大きな女の声で、聞いた事も無い



歌が聞こえるようになる。



更に、その歌声に混じって、各船員の部屋のドアがドンドンと大きく



ノックされた。



それから船員の中には、更に行方不明者が数人出てしまい、夜間は、



各自が自分の部屋から出る事が一切禁止された。



そんな時、叔父はどうしてもやらなくてはいけない仕事をやり残したのを



思い出して、一度だけ部屋から出た事があるのだという。



まるで、無人の船のように静かな船内を叔父はゆっくりと進む。



すると、通路の向こうから、半分透けた様な姿の女が恐ろしい顔で



こちらに向かって飛んでくるのが見えた。



叔父は、急いで逃げたが、狭い船内にそれほど逃げ場などあるものではない。



仕方なく、叔父は甲板に出て、身を隠した。



そして、そこで叔父は見てしまった。



巨大な鬼のようなモノが、甲板の上を闊歩しているのを・・・。



一気に血の気が引くのを感じたという。



そして、必死に身を隠す叔父の方を見て、その鬼の様なモノは



不気味に笑ったという。



その瞬間、叔父は体の力が一気に抜けて、そのまま甲板で気を失った。



そして、朝になり、他の船員に助け起こされたのだという。



その時の、鬼の様なモノのおぞましい顔が脳裏に焼きついて離れなかった。



それからも怪異は止む事は無く、その積荷の箱をとある東南アジアの港



で降ろすまで、続いたという。



ただ、積荷の箱を下ろして怪異は収まったが、それでも叔父は、その鬼が



あのまま箱と一緒に船を下りたとは思っていないのだという。



その証拠に、それ以後も船員が行方不明になる事故が続いた。



そして、その鬼の顔を見てしまった自分もいつか、間違いなく、その鬼によって



行方不明にされてしまう・・・。


そう覚悟していた。



その想いが、叔父を暗くさせていたのだと話してくれた。



そして、叔父はこう言っていた。



世界の海を回っていると、陸地というものが本当に僅かしかない、という事が



よく分かる。



そして、地球の大部分を占める海の中には、話したとしても決して信用



して貰えないような出来事がよく起こる。


そして、あの箱もきっとそういう類のものなんだろう・・・。



だから、その鬼の様なモノも、決して見間違いではなく、


本当に実在しており、それは、今は日本から近いアジアに


いるのだという事を常に心に



と留めておかなくてはいけない・・・・。



そう言って、一瞬、暗い顔をした。


Posted by 細田塗料株式会社 at 00:24│Comments(0)
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