2018年11月10日

曰くつきの絵画

これは知人から聞いた話である。



彼は金沢市郊外に夫婦二人で住んでいる。



外に出るのが好きな彼とは対照的に、彼の奥さんは、家の中で



本を読んだり音楽を聴いたり、趣味の陶芸をしたりして過ごすのが



好きなのだという。



だから、休日ともなれば、彼は友人達とキャンプや釣りに出掛け、



奥さんは家から一歩も出ないというのが普通だった。



まあ、それでも、夫婦仲は良いそうなので、さして問題にはならない。



ただ、奥さんが唯一、喜んで出掛ける場所があった。



それが、美術館や絵画展などの美術鑑賞だった。



奥さんは自分では陶芸はするが、絵は描かない。



それでも、絵画をのんびりと眺めている時が、もっとも幸せな



時間なのだという。



そして、その日、彼の奥さんは、一風代わった美術展に出掛けた。



それは、美術館ではなく、百貨店の催しだったという。



変わった趣向の絵ばかりを集めて展示されているという話を聞いて



絵画なら何でも好きだという奥さんは、ワクワクしながら



その百貨店へと出掛けた。



百貨店の会場に到着すると、どうやら客はまばらな様だった。



人気が無いのかな?と思いつつも、これならゆっくりと絵画が見られる



と思い、奥さんはチケットを買って会場内に入った。



会場には、仕掛けがある絵画や、トリック系の絵画、そして、3D系の



絵画など、様々なものが並んでおり、奥さんはそれを楽しみながら



回ったという。



それにしても、客の数が少なすぎた。



これじゃ、赤字だろうな、と思いながら順番に絵画を見て回る奥さんの



足が、ある一角で止まった。



それを見た時、何か得体の知れない寒気を感じたという。



そして、そこには、



「人間の血で書かれた絵画」



とタイトルが付けられていた。



時代は江戸時代の製作らしく、赤黒い線で書かれたその絵には、長々と



説明文が付けられていた。



しかし、奥さんが興味を持ったのは、そこではなかった。



本当に人間の血で書いてあるのかな?



それが、奥さんの頭の中で、判断が付けられずにいた。



周りには他の客は誰一人いなかった・・・・。



奥さんは、あろうことか、その絵を指でなぞり、本物かどうかを



確認しようとした。



その絵自体は、侍風の男が、さらし首になっている様子を描写したもの



であり、さして怖いと感じる事もなかった。



ただ、書かれている紙がかなり古くザラザラした感触であり、そして、



血で書かれたという絵画の線も、少し盛り上がっているだけで



さして変わったところは無かったという



その時、奥さんの指に、鋭い痛みが走った。



そして、その瞬間、絵画の中の生首が動いたような気がした。



奥さんは、指が切れた痛みよりも、目の前の絵画の中の生首が



動いたという事実に固まり、その場で立ち尽くしてしまう。



そして、ハッと我に返り、血が滴る指を見た。



かなりの出血だった。



どこで切ったのかは分からなかったが、床に血が滴るほどの出血に



彼女は驚き、すぐにその会場を出て、トイレに向かった。



そして、傷口を水で洗い流し、止血の絆創膏を貼ると、すぐに



出血は止まった。



そして、奥さんは何事も無かったかのように、地下の食品売り場で



買い物をして自宅へと帰った。



それから、しばらくすると、夫も帰宅してきたので、その日は二人で



外食に出掛けた。



そして、家に戻り、テレビを観ていると、疲れているという夫が、



先に風呂に入り、そのまま寝室に向かった。



1人になった奥さんは、そのままテレビを観てから、午前0時を



回った頃に風呂に入った。



昼間に切ってしまった指は、少し痛んだが、我慢できる範囲だった。



湯船に浸かり、少しぼんやりとしてから浴槽から出た。



そして、シャワーを体を洗っていき、髪を洗おうと思った。



シャンプーを手に取り、髪になじませる。



何か、いつもと感触が違った。



それでも、指で頭皮をマッサージしながらシャンプーをあわ立てる。



そして、シャワーでシャンプーを洗い流している時、ふと目の前の



鏡を見て、彼女は、思わず固まった。



そこには、いつもとは違う自分が映っていた。



恐る恐る、視線を下のほうへと向けた。



そこには、長い髪の毛が束になって排水溝を塞いでいた。



嘘でしょ・・・・・。



彼女は、両手の指で自分の髪の毛を触った。



その瞬間、まるで何の抵抗も無いかのように、ベチャッと抜け落ちた



髪が浴室の床に落ちた。



そして、それだけではなかった。



鏡に映る彼女の顔は、両方の目が、バケモノのように腫れ上がっていた。



痛みはなかった。



しかし、そこに映っているのは、バケモノとしか形容出来なかった。



彼女は大声で悲鳴を上げ、そして泣き喚いた。



その声に、夫が眠そうに起きてきて、浴室にいた彼女に声を掛けてきた。



どうした?



何かあったのか?



しかし、浴室の中からは彼女のすすり泣くような声が聞こえてくるだけ。



夫は思い切って浴室のドアを開けた。



絶句した。



そこには、見たことも無い女が呆然と立っていた。



その声から、自分の妻だという事は理解出来たが、その容姿は



あまりにも不気味過ぎた。



夫は、彼女に声を掛ける事も出来ず、そのまま呆然と立ち尽くすしか



なかった。



そして、しばらくすると、奥さんは何も言わず浴室から出てきた。



それからリビングに移動し、二人で呆然としながらお互いが無言のまま



朝を迎えた。



そして、夫は会社を休み、奥さんを病院に連れて行った。



しかし、どこにも異常は見つからなかった。



彼女が思い当たる事といえば、昼間に手を切った事だけだったので、



その事も話したが、医師は、それは関係ないと答えるだけだった。



しかし、それから、奥さんの顔は、まるで酷い火傷を負ってしまった様に



ケロイド状になり、まるで、四谷怪談さながらだったという。



それから、何件かの病院を回ったが、結局、原因は分からず・・・。



そのうちに、顔だけでなく、体中にも酷く爛れた状態が広がっていった。



そして、その中でも一番酷かったのが、あの日、切ってしまい出血した



指だった。



そのまま、その指はどんどんと腐っていき、そして、まるで生首が



落ちるかのように、腐り落ちてしまった。



このまま、自分は死んでいくのだと奥さんは恐怖を感じた。



しかし、その指が腐り落ちてしまうと、体や顔はどんどんと治癒



していき、1ヶ月も経つと、元の姿に戻っていった。



髪のハリも戻り、抜け落ちる事も無くなった。



そして、それからはまったく異常は消えてしまった。



その時の症状が何に起因しているのかは、分からないが、もしかすると、



その時、触った絵の祟りだったのでは、と奥さんは考えているそうだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 00:25│Comments(0)
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