2018年11月10日

置き去り

これは知人女性が体験した話である。



俺が大学生の時、よく六甲山にドライブデートに出掛けて、



そのまま相手の女性を山の中に置き去りにしてくるという話を



聞いた。



山の上で、喧嘩をしてしまい、勢いで相手の女性を無理やり車から



降ろしてしまったということなのだろう。



勿論、貧乏大学生だった俺には、そんな経験は無いが、それにしても



よくやるもんだ、と驚いた記憶がある。



そのまま、その女性が無事に帰ってこなかったら、それこそ



大変な事件になってしまう。



殆どの場合は、通りかかった車に乗せてもらったりして、ちゃんと無事に



帰ってくるらしいのだが、中には、遭難しかけた女性もいたという



話を聞いた事がある。



そして、知人女性も、それと似たような経験をした事がある



のだという。



しかも、すこぶる恐ろしい体験つきで・・・・。



その時、彼女は彼氏の車で、石川県と富山県の県境にある、夜景の



綺麗な山へ出かけたのだという。



その山は、綺麗に街の明かりが見渡せる場所があり、当然、週末の



夜ともなればカップルの車が何処からともなく集まってくる。



そして、綺麗な夜景が見渡せる場所に、それぞれの車を停めて



ロマンチックな時間を過ごす。



その頃、彼女は大学生であり、社会人の彼氏と付き合っていた。



彼氏の給料が良かったのか、いつもデートの時には彼氏の愛車である、



アゥディで色んな所に出かけたのだという。



少し濃いシルバーのアウディは彼女もお気に入りだった。



そして、その日、彼のアウディで夜景を見に行った彼女たちだったが、



しばらく夜景を見ていると、すぐ近くにBMWが駐車した。



黒いBMWは確かに高級車っぽく見える。



だから、彼女は本心ではなく、あくまで彼氏をからかうつもりで、こう言った



のだという。



やっぱり、BMWの方が格好良いね。



私もあんな車に乗せて欲しいな、と。



彼女にとってはアウディもBMWもメルセデスも、同じ外車という知識



しかなかった。



勿論、俺も、もしも乗せて貰えるならどれでも大歓迎なのだが・・。



しかし、彼氏はその言葉に過剰に反応してしまう。



そして、



そんなにあの車が好きなら、乗せて貰えばいいだろ!



と言って、彼女を車から引きずり出した。



彼女は何が起こったのか、分からなかった。



きっと、彼氏はふざけているんだろう・・・。



そう思っていた。



しかし、彼氏は、彼女を車から降ろすと、そのまま無言でその場から



走り去っていった。



最初は冗談だと思った。



すぐに戻って来てくれると思っていた。



しかし、彼氏の車は、そのままどんどん遠ざかっていき完全に見えなくなった。



彼女はそれを見て頭がパニックになってしまったという。



車でも、そこまで昇って来るのにかなりの時間がかかっていた。



だから、いったいどうやって此処から変えれば良いのか、と途方に暮れてしまう。



周りを見ると、相変わらずアベックの車が何台か停まっていたが、



その時の彼女は、自分自身がとても惨めな存在に感じてしまい、



とても声を掛ける気にはなれなかったという。



時刻はすでに午後11時を回っていた。



彼女は何も考える事が出来ないまま、無意識にその場所から



歩き出した。



のぼって来る途中、道が何度か分岐していた事を思い出し、自分は



本当に帰れるのか?、と不安でいっぱいになる。



彼女は、歩き出してからしばらくは、余計な事は考えずに、ただ



黙々と歩き続けた。



しかし、ある程度歩いて、次第にヒールの足が痛くなってくると、あまりの



惨めさと不安感の為に、ぼろぼろと涙がこぼれてきた。



それでも、歩き続けるしかなかった。



季節は夏だったから、凍死の心配はなかった。



しかし、夏ゆえに、彼女の嫌いな虫の音が不安感をいっそう強くさせていた。



ただ、そんな事も言ってられなかった・・・。



彼女はヒールを抜いて裸足で歩きだす。



すると、先ほどまであれほど痛かった足が、それほど痛くなくなった。



彼女は両手にヒールとバッグを持ってベタベタと歩いていく。



たまに、小石があって、足の裏が痛い時もあったが、それでも裸足で



歩いていると、何故かこのまま麓まで降りられる様な気がしてきた。



ただ、ひとつ不安があった。



あれ程、たくさんの車が停まっていたにも拘らず、彼女が歩き出してから



彼女の横を通り過ぎていった車は1台も無かった。



時刻は既に午前1時に近くなっていた。



なかには、もうそろそろ帰る車があってもおかしくはなかった。



だから、彼女の頭の中では、



もしかして、道を間違えてるのかも・・・。



という不安がつきまとっていた。



そんな時、周りには何故かうっすらと霧が出てきた。



ちょっ・・・ちょっと勘弁してよね・・・。



そう思いながら歩く足を速めた彼女だったが、そのうちにも、どんどんと



霧が濃くなっていく。



そして、夏だというのに、蒸し暑い空気に混じって冷たい風が吹いてきた。



彼女は、もう体裁は気にせず、1台でも車が来たら無理やりにでも



車を止めて乗せて貰おうと決心した。



しかし、車は相変わらず1台もやって来ない。



彼女は、何度も後ろを振り返るようにして歩き続けた。



その時、確かに彼女の耳に、誰かが歩いてくる様な足音が聞こえてくる。



それも、靴の音など手はなく、彼女と同じように裸足で歩いている



様な、ペタペタという音だった。



彼女は歩くのを更に速くして歩きだした。



しかし、全神経は後方から近づいてくる足音に集中させていた。



すると、その音は、



ペタッ・・・・・ペタッ・・・・・。



と決して速い足音ではなかったが、それでも何故か先ほどよりも



彼女に近づいているのが分かった。



そして、彼女が逃げれば逃げるほど、その足音はどんどんと多くなり、



まるで何人もの人間が彼女の後を追いかけてくる様に聞こえる。



そして、彼女か振り返った時、霧の合間に、何かの姿を見つけた。



それは明らかに人間のシルエットをしており、ユラユラと



やじろべいの様に揺れながらこちらに向かって歩いていた。



それを見た時、彼女は我慢の限界を超えてしまった。



一気にその場から走りだした彼女は、前方にあった高圧線の鉄塔を



目指した。



そして、そこまで来ると、ヒールとバッグをその場に放り出して、



がむしゃらに鉄塔にしがみつき登りだす。



ヒールを履いていたら間違いなく登れなかったのだろうが、決して



運動神経が良い訳ではない彼女も、火事場の馬鹿力なのか、その鉄塔



をなんとか上ることが出来た。



そして、地上から5メートルほど高い2段目の足場まで上ると、



恐る恐る眼下を見渡した。



すると、そこには、どんどんと人間の形をしたモノ達が集まって来ていた。



シルエットは間違いなく人間だった。



しかし、服を着ているものは誰もおらず、完全な裸。



そして、その体は異常といえるほど、真っ白だったという。



そんなモノ達が、彼女がしがみついている鉄塔の下までどんどんと



集まってくる。



それぞれが誰とも喋る事もなく、ただ黙々と、そしてゆっくりと



揺れるように歩いてくる。



そして、鉄塔の下までやって来たそれらは、ただ黙って彼女がいる



鉄塔を見上げていた。



ただ、黙って見上げているだけ・・・。



そこからのぼって来ようとするモノは一人もいなかった。



ただ、恐ろしかった。



彼女を見上げるそれらの顔は、明らかに憎悪に満ちていた。



あのまま、歩き続けて、この鉄塔に登らなかったら・・・・。



そう考えると、彼女は一気に恐怖に襲われてしまう。



霧と白さと、それらの体の白さがまるでシンクロしているかのようで、



とても異様だった。



その頃は形態など無かった時代だったから、彼女はその場で固まっている



しかなかった。



それらの姿を見ているのはとても勇気が要った。



しかし、目を逸らしたら、すぐに此処までのぼって来られる様な気がして



彼女はそれらの姿から一瞬も目を離せなかった。



もう時計を見る余裕も無かったからその時が何時だったかも分からない。



しかし、思った以上に時間は早く進んでくれたようだった。



それらから目を離さないようにしてから、しばらくすると、遠くの山から



朝日が昇ってくるのが分かった。



すると、それらは、ゆっくりと身を翻して元来た道を戻っていき始める。



そして、完全に朝日が昇り切るまでには、それらの姿は跡形もなく



何処かへ消えてしまった。



そして、彼女は通りかかった農家の車に助けられた。



鉄塔によじ登っていた彼女を見つけた時、農家の男性はとても



驚いていたという。



しかし、彼女がその夜に見たモノについて話し出すと、農家の男性は



急に口を閉ざし話さなくなったという。



そして、彼女は何とか無事に麓まで降りてきた。



ちなみに、その彼氏とはその後すぐに別れたという。



そして、これは後日談なのだが・・・・。



後日、彼女がその山について友達から聞いた話によれば、その山は



一部の人達の間では心霊スポットとして有名なのだという。



そして、彼女が下山していた時、1台も車が通りかからなかったのは、



彼女が一人で歩いていた道こそ、最も恐れられている



道であり、夜中にその道を通るものは誰も居なかったからだと



いう事が分かったという。



彼女はいまだに、その時見た白い体のモノ達の姿が頭に焼きついており



決して忘れる事が出来ないと話していた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 00:28│Comments(0)
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