2018年11月10日

彼は戻っていった。

俺には不思議な友人がいた。



いつから知り合ったのかも思い出せない。



何の繋がりの友達なのかも思い出せない。



そして、何処に住んでいて何歳なのかも知らないのだ。



しかし、彼はいつでも俺の近くにいた。



俺がバーベキューに行ったり海に行ったり、そして飲みに行ったりすると、



必ず俺の近くに彼は間違いなく存在していた。



よく喋るだけでもなく、いつもニコニコと笑っているだけ。



それでも、仲間内では、誰からも好かれていたのだと思う。



余計な事は喋らず、必要な時に的確にアドバイスをしてくれる。



そして、俺が困っている時には、いつも何処からか現われては



助け船を出してくれる。



きっと、俺にとっては理想の友人だったに違いない。



ただ、一つだけ不思議な事があった。



彼とは二人きりでも、そして沢山の仲間たちとも、色んな所に



行って、楽しい時間を過ごした。



それは、海だったり遊園地だったり繁華街だったりしたが、



何故か彼は山へ出かけるという時には、いつも参加しなかった。



まあ、それでも良い奴には変わりなかったから、



きっと、山が嫌いなんだろうな・・・。



くらいにしか思ってはいなかった。



そして、それはある年の秋の事だった。



友人の1人に彼女が出来た。



それまでは、女性と付き合ったことなど一度も無かった男だったから、



皆で、その友人を応援した。



だから、その友人も何か仲間内でイベントがあると、必ずその彼女を



連れてくるようになった。



その彼女とは、彼が山へ林道ツーリングに出かけた際、偶然出会った



という事だった。



しかし、その時、彼だけはその彼女の姿を見て、嫌な顔をした。



決して、友人の彼女に対してそんな顔をする人間ではなかったから、



皆が不思議がった。



しかし、彼は、嫌うというよりも、まるで、その女性を常に避けている



様な感じだった。



その友人は、さして気にしてはいない様だったが、それからしばらくして



その友人は俺達の前に一切現れなくなった。



皆が心配して彼に連絡を取ろうとしたが、何故か電話も繋がらない。



そんな時、俺はその友人と偶然、街中でバッタリと出会った。



久しぶりに見る友人は、何故かとてもやつれて見えた。



だから、俺は、



最近、顔を見せないけど何かあったのか?



何か困った事があるんなら、ちゃんと相談してくれよ?



すると、その友人は力なく笑いながら、



全然、何も変わってないから心配しなくていいよ・・・・。



ただ、彼女と会うのが忙しいだけだから・・・・。



と返してきた。



それを聞いて俺はとても嫌な予感がした。



その友人のやつれ方は尋常ではなく、目がくぼみ、大きなクマが出来



目が虚ろだった。



それは、俺が過去に見てきた、最悪のパターンに酷似していた。



だから、俺は他の友人達に連絡して彼の現状を伝えた。



そして、



もしかしたら、悪いものにとり憑かれているのかもしれない、と



告げた。



すると、友人たちは、



それなら、それを確かめに行こう!



そう言ってくれた。



しかし、その時も、彼だけは、申し訳なさそうに断ってきた。



僕には関係ない事だから・・・・本当にごめん、と。



勿論、その返事に俺たちが驚く事はなかった。



それほど以前から彼は、友人の彼女に関わるのを避けてきたのだから、



きっと、何か理由があるのだろう、と推察していたから。



そして、俺達は、休日の昼間、彼の家の周りで待機していた。



昼過ぎになると、その友人は家から出てきて車での移動を開始した。



俺たちは2台の車に分乗して、彼の車の後を尾行した。



すると、彼の車は、市街地を逸れて、どんどん田舎に向かっていく。



そして、その先にある山の方へと上がっていく。



俺たちは、車で尾行していたから、彼の車からある程度の距離を



置かなければいけなかった。



しかし、山道がどんどん細く険しくなっていくと、そんな事を気にしている



余裕は無くなった。



だが、その友人は全く気付く様子もなく、フラフラと車を走らせている。



そのうち、しばらく走ったところで、友人の車が停まった。



俺たちは、



もしかしたら、見つかってしまったか?



と焦ったが、友人は、車を降りて、こちらを振り向かず、フラフラと



歩き出し車から離れていく。



俺達は、急いで車を停めて、その友人の後を追った。



しかし、フラフラと歩いて行ったにも拘わらず、その友人の姿が



消えてしまう。



俺達は全員で手分けして友人を探した。



大声で友人の名前を呼ぶわけにもいかず、かなり時間が掛ったが、



友人の一人が、その姿を見つけたと携帯に連絡してきたので



一同は、誘導されながら大きな杉の木の下に集まった。



しかし、その友人の姿は見えなかった。



本当に見つけたのか?



と聞くと、少し困ったような顔をして、



見つけたのは確かなんだけど、かなり変なんだ・・・。



やっぱり何か悪いモノが憑いているのかもしれない・・・。



とりあえず、追いてきて・・・。



そう言われ、俺達は、その後を追いていく。



すると、その杉の木から10メートルほど離れた草むらから



声が聞こえてくる。



その声は間違いなく、その友人の声だった。



楽しそうに誰かと話しているが、声は、その友人の声しか聞こえない。



俺達は恐る恐る、その声の方へと近づいていく。



そして、ちょうど草むらが開けている場所に出た。



俺達は絶句した。



その場所で俺達が見たのは、ひりとぼっちで何かに向かって楽しそうに



話しかける友人の姿だった。



その光景はあまりにも異様だった。



そして、その友人が俺達にも会わず、こんな場所に一人でやって来ていた、



と思うと、怖さより怒りの方が大きくなっていく。



俺は、急いで草むらから飛び出すと、その友人の方へと走り寄った。



そして、他の友人たちも、それに続いてくれた。



え?なんでお前たち、此処にいるの?



そんな言葉を発している友人の手を掴むと急いで車の方へと



走り出した。



車に着くと、その友人の車を俺が運転し、他の2台と共に



急いで山を降りる事にした。



その間、その友人は、



せっかくのデートだったのに・・・・・。



彼女や彼女の友達たちも、びっくりしていたじゃないか!



と意味不明の言葉を繰り返していたが、なんとか無事に彼の



アパートへ到着した。



そして、その友人の話を聞くと、どうやら、その彼女というのは、



あの場所で会うだけではなく、その友人のアパートにもやって来ている



という事だった。



だから、俺達は、一日交替で、それぞれの家に、その友人を泊める



事にした。



そして、先ずは、その友人アパートから一番遠い場所にある友人の



マンションにその友人を泊める事に決まった。



初日という事で、俺を含めた友人たち全員で、その部屋に泊まる



事に決まった。



一応、念のために、全員で部屋の窓全てに目張りをした。



近くの店で大量の塩を買って来て、そのマンションの周りに撒いた。



霊験あらたかと云われている神社の護符も、部屋中に貼った。



そして、夜になった。



その友人の部屋はマンションの4階にあった。



しかし、午後12時を回った頃、玄関のチャイムが鳴らされた。



一応、モニターで確認したが、モニターには何も映ってはいなかった。



しかし、相変わらず、玄関のチャイムが鳴らし続けられていた。



俺達は部屋の明かりを消して、リビングで固まっていた。



すると、今度は、窓ガラスがコツコツと叩かれる。



まるで、爪の長い指先で叩かれている様な音だった。



そして、その音はどんどんと増えていき、全ての窓から同じ音が



聞こえてきた。



すると、その友人は、



彼女だけじゃなく、友達も来てくれたみたいだ・・・・。



と嬉しそうに話しだした。



全員が自分の耳を塞いだ。



気が変になりそうだったから・・・。



すると、まるで耳の中に直接響いてくる様に、



あけろ・・・・・あけろ・・・・・。



という低い声が響いてくる。



俺達は、必死に知っているお経のようなものを唱え続けた。



それでも、全く効果が無いどころか、更にベランダの大きな窓が



叩かれる音まで聞こえてくる。



俺達は全員が必死で、その友人を護ろうと、声を荒げてお経を



唱え続けた。



そして、知らない間に寝ていのただろう・・・。



朝になって目を覚ますと、そこには、一人きりで嬉しそうに笑っている



その友人の姿があった。



そして、



会えて嬉しかった・・・・・。



誰も二人の邪魔は出来ないんだから・・・・。



そう言って、ニヤニヤと笑っていた。



俺達は、急いで部屋の中を点検した。



玄関が開けられた様子も窓が開けられた様子も無かった。



しかし、目張りした窓が、ところどころ破れており、部屋中に貼った



護符も、真っ黒に変色していた。



そして、その部屋から出る際、マンションの周りを見ると、あれだけ



大量に撒いたはずの塩が跡形もなく消え去っていた。



そして、俺達は、いつも落ち合っているファミレスで対策を考えていた。



このままじゃ、駄目だ・・・・。



他に良い方法は無いのか?と。



しかし、何も思い浮かばず俺達は途方に暮れていた。



そんな時、呼んでもいなかった彼が、その場所にやって来た。



その彼女には絶対に関わりたくなかった彼が・・・・。



そして、真剣な顔で、俺にこう言った。



少しだけ、二人だけで話せるかな?と。



その顔はとても深刻そうなものだったから、俺は頷くと、そのまま彼の



後について店の外に出た。



彼は、真剣な、そして少し悲しそうな顔をしていた。



そして、こう言った。



本当は今のままでいたかったんだ。



楽しかったから・・・。



だから、関わり合いにもなりたくなかった。



でも、そういう訳にはいかなくなったんだ。



このままじゃ、お前もそして、あいつらも、全員おかしくなって



連れて行かれてしまう・・・。



あの女は、幽霊とは違うんだ・・・。



もっと、恐ろしいもの・・・。



太古から生き続けているモノ達だから、護符もお経も通じないよ。



だから、僕は決心したんだ。



もう会えなくなるのは、本当に辛いけど・・・。



でも、お前たちを失うよりはマシだから・・・・。



だから、僕は山に帰ることにした・・・。



あいつらは僕が抑え込むから・・・。



だから、もう安心して大丈夫だから・・・・。



そう言われて、俺は長年心の中にあった疑問がようやく分かった



気がした。



だから、



お前って本当は・・・・。



でも、そんな事をしたらお前の身が危険になるんじゃないのか?



そう聞いた。



すると、彼は笑いながら、



大丈夫!



何も危険な事にはならないから・・・。



元々居た場所に帰るだけだから・・・・



元々居た、山にね!



そう言うと、俺の肩をポンっと叩くと、そのまま、どこかへ歩いて行く。



俺は、何も言えず、そのまま彼の後姿を見送るしか出来なかった。



そして、店の中に戻ると、友人たちに言った。



もう大丈夫みたいだから・・・・。



彼が全て上手くやってくれるそうだ・・・。



そう言いながら俺は気が付かないうちに涙を流していた。



そして、俺の言葉の意味を察したのか、友人たちもファミレスの中で



大声で泣き出してしまった。



そして、その晩から、その友人の元を訪れる怪異は、あっさりと消えてしまい、



その友人も元に戻った。



不思議と、山に行っていた事や、彼女が出来た事も全て、覚えてはいなかった。



その件はそれで全て解決した。



しかし、俺はもう一度だけでも、彼に会いたくて仕方ない。



もしかしたら、この話を読んでいる皆さんの近くにも、山からやってきた



友達が、ひっそりと存在しているのかもしれない・・・・。



素晴らしい親友として・・・。







Posted by 細田塗料株式会社 at 00:30│Comments(0)
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