2018年11月10日

アパートの住人

これは知人から聞いた話。



その頃の彼はかなり貧窮した生活を送っていた。



それまで勤めていた会社を辞めてから、再就職はなかなか決まらず



安い時給のガソリンスタントで働くのが精一杯だったようだ。



いつも朝7時にガソリンスタンドへ向かい、酷い時には夜の11時まで



働いた。



勿論、完全な休みの日もあったが、その頃の彼には特にやりたい事も、



そして、お金も無かったのでアパートの部屋でボーっとしている



のが殆どだった。



そんな彼が住んでいたアパート。



家賃は毎月1万円未満。



駐車場付き。



部屋に水洗トイレ付。



そんな条件で探したのが、その時住んでいたアパートだった。



駅からも近くスーパーマーケットも近くにあった。



だから、利便性は良かった。



ただ、建物は古く、2階建ての木造アパートで部屋数は20部屋



以上あったが、実際に住んでいるのは、彼ともう一人だけ。



そのもう一人の住人には会った事は無かったが・・・・。



台所は共同タイプだったが、料理などしない彼にとっては、さほど



問題にはならなかった。



朝早くからバイトに行って、午後11時半にアパートに帰って来る。



食事は全てコンビニでパンや弁当を買って済ませた。



2日に一度、近くの銭湯に行ってのんびりと風呂に浸かるのだけが、



楽しみの様な生活。



そして、先頭から帰ると、帰りに買ってきた缶ビールを1缶だけ飲んで



すぐに寝た。



部屋には小さなテレビはあったが、あまり観る気はしなかったという。



そして、ある日、彼は異変に気付く。



彼の住んでいるアパートには彼ともう一人の住人しかいない。



それなのに、何故か、その夜、トイレに起きると廊下からざわざわとした



大勢のヒソヒソ声が聞こえてきたという。



まるで、小声で誰かの噂話でもしているかのように・・・・。



彼は少し気になってしまい、部屋のドアの近くで息を殺して聞き耳を



たてた。



すると、その声の中に、間違いなく彼の名字を話している声が聞こえた。



勿論、彼の名字はそれほど変わったものだはなかったが、それでも



自分の名字に対して、ヒソヒソと話されるのは気分が良くない。



気持ち悪くなった彼は、



わざと分かるように部屋の明かりを点けたという。



すると、その瞬間、その声は全く聞こえなくなり、完全に静まり返る。



不思議に思った彼は、少しだけドアを開いて廊下の様子を確認した。



すると、其処には、大勢の人の姿は無く、廊下の左から2番目の部屋の前に



1人の女性が立っているだけだった。



実は、それまで生活サイクルの違いからか、同じアパートに住む住人の姿を



見た事が無かった彼は、



ああ・・・・あれが、もう一人の住人さんなのかな・・・・。



そう思い、軽く会釈した後、部屋のドアを閉めたという。



そして、その晩はそのままトイレに行き、再び眠りに就いた。



しかし、それから彼はバイト中も、その夜に初めて見た同居人の事を



ずっと考えていた。



勿論、その頃はお金も無く、彼女もいなかったから、もしも同じアパートに



住む女性と仲良くなれたら・・・・。



そして、あの夜見た女性は歳も自分と同じか少し若い位に見えたから、



彼にとっては予想もしなかった若い女性との遭遇だったのかもしれない。



そして、それから数日経った頃、彼がバイトから帰った午後12時近く。



誰かが共同の台所で何かをしているのが見えた。



それは、あの夜見た、もう一人の住人である女性だった。



彼は思わず、声をかけた。



こんばんは・・・・夜食でも作ってるんですか?と。



しかし、その女性は全く反応せず、台所で何かを洗っている様だった。



だから、彼は、



あっ、すみません・・・・同じアパートに住んでいる○○という者です。



と再び声をかけたという。



すると、その女性の動きが止まり、ゆっくりとこちらを振り返る。



彼は思わず固まった。



その顔は細い顔で美人ではあったが、なんとも言えない気持ち悪い顔で



笑っていた。



目の焦点は合っておらず、口もだらしなく開いたままになっていた。



しかし、彼が固まったのはそれだけではなかった。



その女性が洗っていたのは間違いなく何かの小動物の死骸だった。



彼は、それを見て、ハッと我に返ったように、



あっ、すみません・・・・・おやすみなさい・・・・。



そう言って、自分の部屋へと逃げ込んでしまった。



彼はその時見たものがショックで、すぐに布団をかぶって寝てしまおうとしたが、



そのうちに、得体のしれない恐怖を感じ、部屋の明かりを点けると



しばらくはなかなか寝付けずにいたが、それでも、バイトで疲れて



いたのか、知らないうちに寝てしまったという。



そして、真夜中、彼はドアをノックする音で目が覚めた。



またしても廊下からはヒソヒソと囁くような声が聞こえていた。



彼は、さのノックの音が恐ろしくて、そのまま息を殺して聞き耳をたてた。



すると、ノックの音に混じって誰かの声が聞こえた。



すみません・・・・・すみません・・・。



それは、先程、台所で見かけた女性である事は容易に想像できた。



だから、彼はそのまま、じっと息を殺して固まっていたという。



すると、約1時間ほどノックの音が聞こえた後、ようやく静かになり、



彼はそのまま疲れたように寝入ってしまう。



そして、朝になり、バイトに出かける為にドアを開けると、そこには



小さな鍋が置かれていたという。



彼は、怖いもの見たさで思わずその鍋の蓋を開けてしまう。



すると、そこには、何か得体のしれない臓物を煮込んだようなものが



入っており、なんとも言えない異臭を放っていた。



彼はそれを見て、再び部屋の中に戻ると、トイレに駆け込み、何度も



吐いたという。



そして、しばらくして気持ちが落ち着くと、そのままその鍋を



左から2番目の部屋の前に置いたという。



そして、そのままバイトに出かけ、帰ったのは夜の12時近く。



運良く、その女性の姿は台所には無かったから、彼は急いで自分の部屋に



向かった。



すると、その瞬間、左から2番目の部屋のドアが少しだけ開いた。



真っ暗な部屋の中から誰かがこちらを覗いていた。



それは紛れもなく、あの女性だった。



彼は思わず、一気に走りだし、自分の部屋に駆け込むとすぐに



ドアの鍵を閉めた。



そして、その夜はテレビと部屋の明かりを全て点けたまま寝たという。



異変に気づいたのはそれからしばらくしての事だった。



ウトウトしていた彼は、部屋の明かりとテレビか消えている事に気付いて



ハッとして目を開けた。



すると、その瞬間、ドアをノックする音が聞こえてくる。



彼は急いで部屋の明かりを点けようとしたが、どうしても点かなかった。



仕方なく蒲団にくるまってガタガタと震えていたが、突然、ドアをノックする



音が消えた。



そして、それと同時に、別の何かを軽く叩くような音が聞こえてきた。



え?



彼は思わず、蒲団から体を出して周りを確認した。



すると、何かが部屋の窓に張り付くようにして窓ガラスを指の爪で叩いていた。



コツコツ・・・・コツコツ・・・・コツコツ・・・・コツコツ・・・。



その音は小さい音の筈なのに、まるで彼の耳元で聞こえているように大きな



音として聞こえてきた。



彼は思わず飛び起きると、ドアの方へと走り、一気にドアを開けた。



そして、1階へと降りる階段の方へと走り出そうとした時・・・・。



何かが階段を上がってくる音が勝聞こえてきた。



固い靴・・・まるでハイヒールでも履いている様な音だった。



彼はまるで金縛りにでもあったかのように、その音が聞こえてくる階段



を茫然と見つめていた。



すると、その姿が見えてくる。



それは、紛れもなく、先ほど窓ガラスを叩いていた女の姿だった。



彼は、弾かれた様に再び部屋のドアを開けると、一気に鍵を閉めた。



部屋は何故かいつもより暗く感じた。



そして、震えてしまうほど寒かったという。



彼は眼を凝らして部屋の中を見回した。



すると、閉め切っていたはずの窓ガラスが少しだけ開いていた。



彼は戦慄した。



そして、その直後、彼は部屋の隅に正座しているあの女の姿を



見つけた。



その姿を見つけたが、彼は全く動く事が出来なかったという。



金縛りではなかったという。



もう何処にも逃げ場が無いという絶望感にも似た感情だった。



彼は、そのまま立ち尽くしていた。



すると、その女はゆっくりと立ち上がって、彼の方へと近づいてきた。



歩いているという感じではなかった。



まるで動く歩道にでも乗っている様な移動の仕方。



そこで、彼は初めて、その女が人間ではない事を確信したという。



その女は、彼の顔の近くまで来ると、ゆっくりと彼に抱きつくようにして、



もう逃がさないから・・・・。



そう呟いたという。



その瞬間、彼は意識を失った。



その女の体の冷たさと、そのしわがれた声に彼の意識は限界を迎えた。



そして、次に彼が目覚めたのは、暗闇の中だった。



目覚まし時計のカチカチという音が、そこが彼のいつもの部屋だと



いう事を彼に教えていた。



彼は、まるで長い眠りから目覚めたかのように頭がぼーっとしていた。



そして、それまてに起こった事が全て夢だったのかもしれない、と



思ったという。



そう、確かに夢ならば良かったのだろう。



しかし、次の瞬間、彼は再び、悪夢の中に叩き落とされる。



彼の部屋には、たくさんの人らしきものが正座していた。



それらは、ヒソヒソと囁き合っている。



そして、それらの先頭にあの女の姿があった。



彼はそのまま布団の中に顔を沈めて、そのまま朝まで一睡も出来ないまま



過ごした。



そして、朝になり、部屋からあの女の姿が居なくなっている事を確認



すると、そのままアパートの大家の元に駆け込んだ。



勿論、アパートを即刻、解約する為に・・・・。



そして、大家は一切、慰留する事も無く、即座に解約に応じたという。



そして、彼は、そのさい、大家に聞いてみたという。



2階の部屋に住んでいる住人というのは何者なのか?と。



すると、大家は、どうせ出ていくのだからと、快く教えてくれたという。



その話を聞いて、彼は驚愕の事実を知った。



あのアパートに住んでいたのは、彼一人だったという事を。



確かに、ほんの1年前までは、2階の部屋に女性が住んでいたらしいが、



左から2番目の部屋等ではなく、1階の部屋だっという事だった。



しもか、その女性は、そのアパートの自室で自殺を図っており、結局



自殺未遂に終わったが、後遺症は酷いもので、現在も病院に入院して



生命維持装置に繋がれているだろうという事だった。



それでは、あの女は一体誰なのか・・・。



自殺未遂をした女なのか、それても全く別の女なのか・・・・。



それは、今となっては分からないという事だ。



ちなみに、その後もそのアパートは解体されることなく残っているが、



完全に心霊スポットと化しており、そこに住む者は誰もいないと



いうことである。


Posted by 細田塗料株式会社 at 00:34│Comments(0)
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