2018年11月10日

天井のしみ

これは娘から聞いた話である。



娘の先輩は高校を卒業すると東京の大学に進学した。



その先輩も娘と同様、コスプレにハマっていたからコスプレのメッカ



である東京への進学を決めたのは当然の事なのだろう。



しかし、大学が決まり、事前に母親と、これからの新生活の起点



となる住まいを探しに行ったらしいが、そこはやはり東京。



家賃が半端無く高かった。



駅から遠く、築年数も長く、お世辞にも綺麗とは言えない



様な物件が、金沢市なら繁華街や駅周辺のそれなりのマンションを



借りられる程の賃貸料だった。



そして、それは何軒かの不動産会社を回っても同じだったという。



これでは希望価格で借りられる様な物件を探そうと思ったら、通学に



かなりの時間を要する所まで離れて生活しなければいけない。



彼女と母親は、ため息しか出なかったという。



そんな時、とある不動産業者に駄目もとで立ち寄った際、目玉物件が



在るという話を聞かされた。



話によれば、前の住人が出ていったばかりの部屋で、ロフトも付いている



という。



他の部屋よりも少しだけ狭いが、今、即決して貰えるなら、ということで



提示してきた金額は、まさに彼女たちの予算内に収まっていた。



しかも、その部屋は最寄りの駅からも徒歩10分ほどであり、これなら



通学にも便利だった。



一応、部屋を見せて貰えるという事で、彼女たちは不動産屋の車でその部屋へと



案内された。



そして、見てみると、とても綺麗な建物であり、何よりロフト付きの部屋というのは



彼女の憧れでもあったから、彼女の気持ちは完全に舞い上がってしまう。



しかし、同行した母親が、念の為に、



こんなに安い部屋って、まさか事故物件とかではないですよね?



と聞くと、不動産屋の担当は、



誰も死んでませんし事件も起こっていませんからご安心ください!



と即答してくれたという。



だから、彼女たちは、その場で契約書にサインし、彼女の住む部屋が無事



決定した。



そして、無事、引っ越しを終えた彼女は、東京での学生生活を



スタートさせた。



さすがに、金沢での、のんびりした生活とは違い、通学も、そして



大学生活も慌ただしいものだったが、それでも1か月もすると



段々と慣れてきて、彼女は東京での生活を満喫していた。



親からの仕送りはあったが、それだけでは当然足りなかったので、



早速、バイトも見つけた。



そして、大学やバイトで遅くなった時などは、利便性の良い場所に



住んでいるというメリットを実感する事が多かったという。



そんなある日、彼女がバイトが遅くなり、部屋に転がり込むと、



そのままシャワーも浴びずに寝る事にした。



とても疲れていた。



すぐに眠りに就けると思っていた。



しかし、何処からか誰かの視線の様なものを感じ、なかなか寝付けない。



と、その時、彼女は天井にシミがある事を発見した。



こんなシミあったかな?



そんな事を思いながら、じーっとそのシミを見ていると、彼女には



そのシミが女性の顔に見えてきた。



苦しそうに口を開け苦悶の表情を浮かべる女性の横顔・・・・。



そのシミは、まるで誰かが水彩画で描いたかのように、はっきりと、



そして細かい部分まで分かるシミだった。



人の顔に見える・・・というレベルではなく、人の顔にしか見えない。



そもそも、その部屋の天井は、クロスもしっかりと張り替えられており、



他の部分にはシミらしきものは無かった。



もしかしたら、雨漏りしてるのかなぁ・・・・。



そんな風に、彼女は出来るだけそのシミを女性の横顔だは認めない



様に努めた。



そして、その日は、そのまま無理やり天井から視線を逸らして横を向いていると



知らないうちに寝る事が出来たという。



そして、朝になり、彼女は何事も無かったかのように目覚めたが、自分の



部屋の中を見渡した時、思わず固まってしまった。



彼女は、二日前の休日に部屋を掃除し整理整頓もした。



そして、昨夜は帰宅してすぐに寝た。



それなのに、部屋の中はまるで泥棒にでも入られたかのように乱れていた。



衣服は散らばり、部屋に置いてあったぬいぐるみも小物も全てが



部屋中に散乱していた。



彼女は怖くなり警察に電話した。



しばらくすると、2人の警官が部屋にやって来て部屋の状況を確認しながら



彼女からいろいろと事情を聞いた。



そして、金品の類が一切取られていなかった事もあり、たぶん



女性の部屋を狙った空き巣か、怨恨ではないか、と言われ、



交友関係には気を付けてくださいね、と言われた後、



夜間、この辺をしっかりとパトロールするようにしますから、と



言い残し、警官はその部屋を後にした。



そして、警官が去った後、彼女はひとりで散らかった部屋を掃除



していたのだが、その時、あっと声を出し、動きが停まってしまう。



彼女の視線の先には、部屋の壁に浮かび上がったシミがあった。



それは、偶然というにはあまりにもはっきりとした人間の形を



形成していた。



しかも、そんなシミが合計3か所。



彼女の部屋を取り囲むように浮かび上がっていた。



彼女は、契約した不動産屋に電話して、その状態を伝えたらしいが、



まあ、シミはあくまでシミですから・・・。



気にしなくて大丈夫ですから・・・・。



そう言われてしまい、部屋に確認しにくる事も無かったという。



実家の母親にも相談したらしいが、母親は心配はしてくれたが、



でも、他の物件は高いからねぇ・・・・。



と言って、暗にその部屋に住み続ける事を勧めてきたという。



彼女は本当は、母親から、すぐにその部屋から引っ越ししなさい、と



言って欲しかったらしいが、現実問題としてそんなお金が無い事も



十分承知していた。



だから、彼女は出来るだけ恐怖感を忘れられる様に、それから毎日、代わる代わる



友達を呼んで、自分の部屋に泊めた。



そして、友達と一緒にいると、部屋が荒らされることも無く、シミも



次第に気にならなくなっていった。



しかし、いつも友達が泊まりに来てくれるとは限らなかった。



ある日、誘った友達が全て都合が悪く、彼女は仕方なく友達を部屋に泊まらせる



事は断念した。



しかし、やはり、怖かったので、バイトの帰りに漫画喫茶で時間をつぶし、



その後、悪いとは思ったが、コンビニで小さな缶ビールを買って、



部屋に帰った。



そして、部屋に戻り明かりとテレビを点けた。



そして、人生初めてのビールを飲むと、すぐに酔いが回ってきた。



そうなると、もう恐怖心というものより、お酒って、こんな感じなんだ!



という感動の方が強くなってくれて、すっかり部屋のシミの事は



気にならなくなった。



そして、翌日の大学の授業に備えて、シャワーを浴び、すぐにベットに



入った。



酔いのせいもあってか、すぐに深い眠りに就く事が出来た。



彼女はずっとロフトで寝るという生活をしていたが、その時は何故か



真夜中に目が覚めてしまった。



部屋の中から物音が聞こえてきたのだ。



ズルッ・・・・ガサガサ・・・・・ベチャ・・・・・ドン・・・。



色んな音が彼女の耳に入って来た。



もしかして、また?



彼女は固まりながら、ロフトから部屋を見下ろした。



すると、そこには、黒い人の形をしたモノが3体、部屋の中を



何かを探しまわるようにゆっくりと動いていた。



彼女は恐怖で固まった。



あれは何なの?



どうして、私の部屋にいるの?



そう考えるが、何も分かるはずも無かった。



ベッド横向きになったまま、蒲団に包まり震えるしかなかった。



すると、突然、彼女の耳に



ギシッ・・・・・・・ギシッ・・・・・・・・。



という音が聞こえてきた。



その音は彼女にも聞き覚えがある音だった。



それはロフトにのぼる梯子をのぼる時の音に他ならなかった。



上がって来てるの?



私は見つかってしまうの?



彼女は恐怖で叫びだしたかったが、そんな事をすれば身も蓋も無かった。



ガチガチと震える歯の音を必死に力を入れて堪えた。



彼女は、そのままロフトの梯子の方を向いて寝ているのが怖かった。



だから、せめて、間近で、その黒い人の様なモノを見なくてよい様にと



静かに反対側に寝がえりを打とうと思った。



ゆっくりと布団の中で体の向きを変えようとした。



そして、ちょうど上を向いた時、彼女は、その場で絶叫していた。



そこには、天井からぶら下がるように、彼女の体と平行に浮いた



状態の女が彼女の顔を覗き込んでいた。



彼女の顔とは50センチも離れていなかったという。



そこで、彼女は運良く意識を失った。



きっと、そのまま意識を保っていたら、精神が崩壊していたかもしれない。



そして、朝になって目覚めた彼女は、生きている事を喜ぶ暇も無く、



そのまま急いで不動産屋に駆け込んだ。



そして、その彼女の顔を見て、不動産屋も驚いた顔をしていた。



指摘されて、自分の顔を見てみると、そこには、黒い墨汁で書かれた



様に、彼女の顔には沢山の手形が付いていたのだという。



彼女はまくしたてる様に、昨晩体験した事を説明し、本当にあの部屋には



過去に何も無かったのか、と再度、確認した。



すると、前の住人の方にはきちんと説明させて貰いましたが、貴女には



説明する義務はありませんので・・・・。



そう言われたという。



結局、彼女はその日のうちに、部屋を出た。



家具や電化製品もそのまま部屋に置いてきたという。



もしも、持って来て、また同じ事が起こったら・・・。



そう考えると、そうするしか思い浮かばなかったという。



結局、現在、彼女は大学から1時間半以上かかる場所で生活



しているが、怪異は全く無く、快適だという。



ちなみに、その後、人づてに聞いた話では、彼女が住んでいた辺りに



以前、一人暮らしの女性会社員が侵入してきた3人の強盗に殺された、



という事件があったそうだが、それが彼女が住んでいた部屋かどうかは



定かではないという事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 08:48│Comments(0)
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