2018年11月10日

廃墟からの脱出

これは友人が体験した話である。



友人は、廃墟探索を趣味としていた。



そして、常に一人で行動していた。



ただ、彼の場合、心霊体験を求めての廃墟探索ではなく、今は誰も



居なくなった廃墟に出向き、そこで前にどんな人達が此処で過ごして



いたのか、という事に思いを馳せるのが好きなのだという。



そこで、1人で止まった時間の中を過ごしていると、とても



ノスタルジックな気分に浸れるのだという。



しかし、廃墟というのは、その殆どが心霊スポットになっている。



勿論、単なる噂が独り歩きをしている場合が殆どなのだろうが、



中には本当に危険な場所も確かに存在するのだと思っている。



そんな場所に彼はたった一人で出向き、写真やビデオを撮りながら



廃墟探索を進める。



勿論、夜に廃墟に行く事はしないのだが、廃墟の殆どは昼でも



暗く建物も老朽化しているから、危険なのは間違いない。



そして、これから書くのは、彼が数年前に廃墟探索に出かけ、



そこで体験した話になる。



その日、彼はいつもの様に、たった一人で隣県にある廃墟に出掛けた。



いつも、そうなのだが、廃墟探索に出掛ける時には、家族に嘘をついて



家を出る。



だからその日も、家族には釣りにでも行って来る、と言って家を出た。



ご丁寧に釣り道具一式と奥さんに作って貰ったお弁当を持って。



少し後ろめたい気持ちもあったが、廃墟探索に行く、等といえば、



間違いなく反対されるのだから仕方なかった。



彼は、実はその廃墟に行くのは2回目だった。



前回、訪問した時には友人と一緒だった。



しかし、どうしても入口が見つからず断念したという経緯があった。



確かに玄関はあったが、厳重に鎖で封鎖されており、他の入り口も



探してはみたのだが、どうしても見つからず断念せざるを得なかった。



しかし、とある廃墟マニアの友人から、その廃墟への入り方を聞いた。



その友人は、その廃墟に入ったわけでは無かったが、それでも、彼に



とっては願ってもない情報だった。



車で廃墟に向かっていた彼は、いつものように手前の公園で奥さん



お手製のお弁当を食べた。



彼はいつも廃墟に行く前に腹ごしらえを済ませる。



お弁当には、彼が大好きな卵焼きと赤ウインナーが入っていた。



彼はいっきに弁当を平らげると、近くの自動販売機で缶コーヒーを



買って、一気にに飲み干した。



そして、これから向かう廃墟に胸を躍らせていた。



廃墟に着くと、教えられたとおりに大きな木に登った。



木自体が傾いており、登るのはそれ程難しくはなかった。



そして、その木から伸びている太い枝を伝って廃墟の2階の窓に近づいていく。



すると、友人が言っていた通り、2階の窓は鍵がかかっておらず、手で



簡単に開ける事が出来た。



彼は、結局、前回訪れた時の雪辱を果たし無事に難なくその廃墟に



潜入する事が出来た。



しかし、彼はその時、もっとよく考えてみた方が良かったのかもしれない。



どうして、玄関が厳重に封鎖されていたのかという事を・・・。



その廃墟といわれる建物は以前は簡易宿泊施設だったらしい。



鉄筋の4階建ての建物であり、かなりの広さだった。



そして、昼だというのにやたらと内部は暗かった。



そのままでは前に進むのも困難な程に・・・・。



だから、彼は持参した強力なライトを点けた。



そのライトは通常は、業務用として地下での作業などで使用される



ものらしく、その明るさはとても頼もしいものだった。



彼は、先ず、先に上の階から見て回ることにした。



建物の中は簡易宿泊所らしく、廊下の左右に幾つもの部屋が並んでいる。



彼は、その建物を隅々まで見て歩いた。



さして、珍しいものも無かったが、それでも、やっと念願かなって侵入



する事が出来た事に、とても満足していた。



そして、4階を見て回っていた時、そこに梯子があるのを見つけた。



どうやら、それは屋上へと繋がっているらしく、彼は思わずほくそ笑んだ。



廃墟に侵入して、その建物の屋上から眺める景色が彼は一番好きだったのだから。



たとえ、どんなに苦労して侵入しても、屋上から景色を眺める事が



出来れば全ての苦労は一気に喜びへと変わるのだという。



屋上へ上がる扉は少し錆びついているのか、開けるのに苦労したという。



しかし、なんとか、扉を開ける事に成功し、彼はようやく屋上へと



のぼった。



そこで、彼は思わず声を出してしまう。



それは、景色が素晴らしいとかいうのではなく、そこに真っ黒な猫が



いたから・・・。



やせ細った猫ではあったが、元気はあるらしく、屋上に上がって来た彼を



見て、その猫は彼に近づいてきた。



人間に慣れてるって事は、飼い猫なのかな?



それしても、どうやってここまで入って来たのだろう?



彼はそう思いながら、そこに腰かけて猫に向かって手招きした。



すると、猫は彼のすぐ近くまでやって来て体を摺り寄せてくる。



彼は、持参したリュックからお菓子を取り出すと、その猫にあげた。



猫を飼った事が無かった彼は、猫がそんなお菓子を食べるかどうかは



不安だったが、どうやら、その猫もかなりお腹が空いていたらしく、



彼が手渡したお菓子を一気に平らげてしまった。



嬉しくなった彼は、お弁当のおかずを残した事を思い出して、それも



猫に差し出した。



すると、今度もその猫は嬉しそうに食べている。



彼は何か嬉しくなってしまい、その光景をしばらく眺めていたという。



しかし、どうやら空の雲行きが怪しくなってきたのを見て、さっさと



廃墟を回ってしまおうと立ち上がった。



猫は、彼があげた弁当の残りを、まだ食べている途中だったが、



彼は、その様子を微笑ましく見ながら、梯子を降り始める。



4階へ降りる扉は、猫が屋上から脱出出来る様にと開けたままにしておいた。



そして、彼はまだ探索していなかった1階へと降りていった。



1階へ降りると、更に暗い空間が広がっていた。



食道、そして浴室、そのどれもが、ついさっきまで誰かが使っていた



かのように生活感に溢れていた。



そして、彼は1階の一番奥に向かう為に長い廊下を歩いていた。



すると、前方に何か穴が開いていた。



彼は立ち止り、その場にしゃがみ込むと開いた穴の中を見た。



どうして、こんな所に穴が開いてるんだ?



彼がそう思って、ライトで照らそうとした時、突然、背後から突き飛ばされる。



そして、彼は、そこに開いていた穴から落ちてしまう。



下の様子は全く分からなかった。



そして、何が起こったのかも分からなかった。



彼は、そのまま暗闇の中に落ちていった。



それから、どれくらいの時間が経過したのだろうか・・・。



彼は真っ暗な中で目を覚ました。



そして、穴の中に突き飛ばされた事を思い出した。



一体誰が?



それに、廃墟だと思っていたのに、誰かが住んでるってことか?



そう思いながら、彼は自分の体を確認した。



体中に痛みはあった。



しかし、ゆつくりと指を動かすと、ちゃんと動いてくれた。



骨は折れてないか・・・。



彼はホッと胸を撫で下ろした。



こんな所で骨折でもしようものなら、単独では廃墟から脱出できなくなる。



警察沙汰は御免だったし、家族にも廃墟探索がバレテしまうのだけは



避けたかった。



それにしても、辺りは真っ暗であり、一寸先の視界も確保できなかった。



だから、彼はそこでじっとしながら、自分の目がその暗闇に慣れてくれる



のを待つしかなかった。



元々、暗闇というものに恐怖心を持ち合わせていなかった彼は、



キョロキョロしながら、自分の目が暗闇に慣れてくれるのを



待った。



すると、次第にぼんやりと周りが見えてきた。



そこは、一見すると倉庫の様になっていた。



しかし、何故か、机と椅子、そして長い鎖が2本垂れ下がっていた。



もしかして、ここで誰かを監禁していたのか?



まさかな・・・・。



彼は興味津々に辺りを見回した。



そして、頭上を見上げると、そこには彼が落ちてきた穴がポッカリと



口を開けている。



あんな高さから落ちたのか・・・・・。



よく骨折しなかったもんだ・・・・。



そう思って、不幸中の幸いを噛みしめていた。



すると、暗闇の中に誰かが立っているのが見える。



シルエットから、それが女だというのが分かった。



なんで、こんな所に女がいるんだ?



普通なら、恐怖で固まってしまうところだが、廃墟探索を生き甲斐に



しているだけあって、彼の感性は普通ではなかったのかもしれない。



彼は、その女性に声をかけようとした。



あの・・・・・・・。



すると、何処からか声が聞こえた。



それも女性の声だった。



彼が目を凝らしてみると、どうやら白いワンピースを着ている若い女性だった。



話しかけちゃ駄目!



此処から出られなくなるよ!



大声でそう言われて彼は思わず口をつぐんだ。



彼は訳が分からず、二人の女性をキョロキョロと見渡していた。



すると、頭上から、強い視線を感じる。



彼は、そちらの方を見た。



すると、そこには頭上の穴から覗く沢山の顔があった。



ライトも無く、はっきりとした顔は分からなかったが、どうやら



それらの顔は、悪意を持って自分の事を見ているというのが



分かったという。



こいつらが、俺を穴に突き落したのか?



そう思った時、怒りが込み上げてきたが、次の瞬間、それは恐怖に



変わった。



その顔ひとつひとつが、やたらと大きかったのだ。



そして、穴の周りだけではなく、穴の全てを埋め尽くしているその顔に



彼は恐怖した。



少なくとも、人間ならば、そういう覗き方は出来ない筈だった。



もしかして、幽霊っていうやつなのか・・・・。



過去に幾度も廃墟探索をしてきて、初めて彼は霊と遭遇してしまった



事で完全に体が固まってしまう。



その時、先ほど声をかけてくれた女性が彼の方に近づいてきた。



そして、彼の頬を叩いた。



しっかりして!



そんなんじゃ、此処から逃げられないよ!



私は貴方を助けるために来たの!分かる?



今ならまだ、此処から貴方を逃がしてあげられる・・・。



だから、私と一緒に来て!



そう言って、彼の手を掴んだという。



手は柔らかく、そして暖かかった。



彼は、そこで九死に一生を得た気持ちになった。



この女性は間違いなく味方だ!と。



ありがと!ありがと!



そう言いながら、彼はその女性の手を掴み返した。



すると、動かないで!



とその女性が語気を強めた。



その女性の方を見ると、どうやら、その女性はもう一人の女を



睨みつけている様だった。



動かないで!って事は、もしかして、その女が動こうとしていたのか?



そう思うと、時間差で恐怖が襲ってくる。



そして、その女性は彼に向って、



足は大丈夫?



歩ける?



と聞いてくる。



彼は、無言で頷くと、その女性は彼の手を引いて動き出した。



そして、こう言ったという。



これから、此処で起こる事は絶対に見てはダメ!



声を出してもダメ!



貴方の居場所が、。あいつらにバレちゃうから。



そして、恐ろしい声が聞こえたりするけど、私を信じて!



だから、外に出られるまでは絶対に目を開けないで声も出さず、追いてきて!



そう言われ、彼は眼を閉じた。



その女性は急ぐでもなくゆっくとり歩を進めた。



まるで、彼がしっかりと付いてこられる様に・・・。



途中、階段の様なところも通ったし身を屈めて通らなければいけない



場所もあった。



ただ、彼は少しも怖くなかったという。



何故か、その見ず知らずの女性に安心して全幅の信頼を寄せる事が



出来た。



しかし、途中、彼の耳には、聞いた事も無いような不気味な叫び声や



笑い声が聞こえたし、彼の衣服を引っ張られるような感覚もあった。



普通なら絶対に悲鳴をあげていたと思う。



しかし、彼は必死に声を堪えた。



自分を助けようとしてくれる人がいる・・・。



それだけで、十分、恐怖に耐える事が出来たという。



どれくらいの時間、歩き続けただろうか・・・・。



突然、彼の手を引っ張る女性の手の感覚が無くなった。



え?ちょっと待って!



あの・・何処にいるの?



もう目を開けても大丈夫なの?



彼は、小声でそう言ったという。



しかし、彼の耳には何も返って来なかった。



だから、しばらく、そのままの状態で待っていた彼だが、痺れを切らして



目を開けてしまう。



すると、そこはもう既に廃墟の外であり、すぐ横に彼が乗って来た



車が停まっていた。



夜になっていたのか、辺りは闇に包まれていた。



出られた?



本当に助かったんだ!



そう思うと、体中に喜びが満ち溢れてきた。



だから、彼は命の恩人である女性の姿を探した。



しかし、女性の姿は何処にも見当たらなかった。



彼は、仕方なく、車に乗り込み、さっさとその場から退散しようと思った。



車に乗り込み、エンジンをかける。



そして、車のライトを点けた時、真っ黒な猫が目の前を横切っていった。



あ・・・あの屋上の猫だ・・・・。



彼はそう思って、追いかけようとしたが、すぐに猫の姿は闇の中に



消えてしまったという。



そして、彼は、その日無事に家へと帰宅する事が出来た。



少し怪我をしていたが、釣り場で転んだということで済ませたという。



そして、それから彼はある結論に達したという。



それは、あの時、彼を助けてくれたのは、間違いなく、あの屋上で



出会った黒猫だということ。



どうして、そう思うの?と聞くと、



だって同じ匂いがしたんだから・・・・。



彼は嬉しそうにそう答えてくれた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 08:51│Comments(0)
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