2018年11月10日

止まった時計

これは友人の体験した話。



その時、彼は、見知らぬ場所で目を覚ました。



その場所は明らかに彼が来た事の無い場所だった。



周りには民家も無ければ、建物らしきものも一切無かった。



ただ、まっすぐな白い道がどこまでも続いていた。



そして、その白い道を彼は黙々と歩いていた。



どうして、歩き続けているのか、自分でも分からなかった。



ただ、心の中で何かが彼に囁きかけていた。



この道をまっすぐに進め、と。



だから、彼はひたすら、まっすぐにその道を歩き続けた。



彼は元々、そんなに素直な性格ではなかった。



右に行け、と言われれば、つい左に行きたくなる性格。



しかし、その時は選択肢はなかった。



目の前には、ただまっすぐな道が続いているだけ・・・。



要は、止まるか、歩き続けるか、だけであった。



彼は、いつも良く着ている普通の服装だった。


ただ、買ったばかりのブランド品の腕時計のガラスが割れ


時計の針も完全に停止していた。


あれ?買ったばかりなのに、なんでだ?


彼はぼんやりとそんな事を考えたが、すぐに考えるのを


止めた。


思い出したくないという気持ちの方が強かったから・・・。



そして、目の前には、見たことも無い道ではあるが、何故か安心できる、



そんな雰囲気が満ち満ちていた。



道自体は白い無機質なものだったが、回りの風景は建物などが



無い以外は、取り立てて変わった風景には感じなかった。



道の両脇には、鬱蒼とした森が広がっており、その森から一段



高いところに、その白い道が通っていた。



それにしても不思議な場所だった。



普通に考えればあり得ない風景・・・・。



まるで、未来にでもタイムスリップしたかのような真白な道。



そして、それとは不釣り合いに道の両脇に広がる森。



それなのに、自分自身には焦りも不安も無い。



だから、彼はこう思った。



これは夢の中の世界なのだと・・・。



いつかは目が覚めていつもの朝が来る・・・。



自分の頬をつねれば、たちまち目が覚めるに違いない、と。



しかし、彼は不思議と、その夢から覚めた糸は思わなかったという。



どうせ夢ならば、この先に何があるのか、を見届けたい。



そんな気持ちだったという。



それにしても、不思議だった。



彼は先ほどから、この白い道の上を歩き続けている。



そして、自分自身、体力に自信も無ければ、日頃の運動不足も自覚していた。



それなのに、どれだけ歩いても全く疲れなかった。



息も乱れず、汗もかいてはいない。



それどころか、どんどんと先に進みたくなっている。



歩けば歩くほど体が軽くなって来る。



本当に不思議だった。



しかし、彼は、



どうせ、夢なんだから・・・。



そんな風に考えると、その不自然さにも説明が付いた。



そして、それから彼は、体感的には丸一日くらい、黙々と歩き続けていた。



それでも飽きるという事も無かった。



そんな時、彼の目の前の風景が変わったという。



気が付くと、彼の目の前には古ぼけた駅が建っていた。



彼は思った。



ここなら誰か他の人に会えるのかもしれない、と。



彼は疑うことなく、自然にその駅の中に入っていった。



その駅は何故か懐かしい匂いがした。



間違いなく、彼がその駅を訪れるのは初めてだった。



にも拘わらず、その駅に着いた途端、彼は例えようも無い程の



安心感に包まれた。



もう少しだ・・・。



もう少し行けば・・・・。



そう思った時、彼はふと考えた。



どうして、自分は、もう少し行けば・・・と考えたのだろう、と。



もう少し行けば何があるというのか?



もしかしたら、自分は以前にもこの駅に来た事があるのではないのか?



そして、このまま進めば、そこに何があるのか、という事も知っている



のではないのか?



しかし、そんな事を考えながらも、彼は自然に駅の中を進んでいく。



改札口は無かった。



目の前にある階段を上ると、そこには単線だけのホームがあった。



そして、ホームにあるベンチに腰をおろした。



この線路は片道なのか?



それならば、どうやってここを通る電車は戻るのだろうか?



そんな事をぼんやりと考えていると、まるで彼がベンチに座るのを待っていた



かのように、向こうから電車の近付く音が聞こえてきた。



真っ白な電車。



そして、異様に長く連結された車両。



それにしては、その電車の中には誰も乗っている様子が無かった。



おいおい、これじゃ、完全に赤字路線だろ・・・・。



そう思いながらも、彼はその電車が何処に向かうのかも分からないまま



無意識にその電車に乗り込んだ。



この電車に乗らなければいけない・・・。



そんな思いが頭の中に広がっていた。



彼は、そのまま座席に座った。



彼が乗った車両には彼以外の姿は無かった。



それでも、不思議と不安感は無かった。



それよりも、誰とも会いたくない、という気持ちの方が強かった。



それよりも、彼はその電車に乗った時、更に懐かしいものを感じた。



間違いなく自分は以前、この電車に乗った事がある。



そんな確信があった。



しかし、どれだけ考えても、それがいつの事だったか思い出せない。



彼はつい、懐かしくて、その電車の中を見て回りたくなった。



座席から立ち上がった彼は、そのまま車両の中を進んだ。



次の車両・・・・そして、また次の車両、と。



しかし、どれだけ進んでも相変わらず、彼以外には誰も乗っていない。



それにしても、不思議だった。



彼は、いくつもの車両をどんどんと進んだ。



しかし、どれだけ進んでも、いっこうに一番最初の車両には辿りつけない。



どんだけ長いんだよ・・・・・。



そう思って彼は、近くの座席に座った。



そして、その座席の車窓から外の風景を見た。



窓の外には何処までも続く田園風景が広がっていた。



一面の緑がとても心地良かった。



こんな時間も良いな・・・。



ずっと乗って居たくなる・・・・。



そう思って彼はぼんやりと外の風景を眺めつづけていた。



すると、誰かがその風景の中に立っているのが見えた。



大きく手を振っている。



電車はゆっくりと進んでいたから、そこに立っている人も、ゆっくりと



近づいてくる。



電車からはかなりの距離があった筈だった。



しかし、彼には何故か、その人が誰なのか、そして何をしているのかが



とても良く見えたという。



それは、彼の母親だった。



そして、大きく手を振りながら何かを叫んでいた。



降りろ~



すぐに降りないと駄目だ~



そう聞こえた。



彼は不思議だった。



彼の母親は数年前に亡くなっていた。



夢だから、そんな事もあるのだろう、と思ったが、その母親の姿と声を



聞いた時に、彼は初めて、得体のしれない焦燥感を感じた。



知らないうちに涙がこぼれていた。



そして、彼は、急いで立ち上がると、その座席の窓を全開にして、おもむろに



その窓から体を出した。



怖いとか危険だという感覚は無かった。



彼はそのまま、車窓から飛び出した。



すると、そのまま急に意識を失ったという。



彼が次に目を覚ました時、目の前には高く白い天井が見えた。



周りでは、慌ただしく誰かが動き回っていた。



何故か体はピクリとも動かなかった。



しかし、耳と目から入って来る情報で、彼はそこが病院なのだと



分かったという。



そして、目を開けた彼に気付いた看護師の動きがさらに慌ただしくなる。



医師らしき男性が何かをしている。



そして、その横には彼の妻と子供たちが嬉しそうに涙を流していた。



その顔を見た時、彼は何故かとてつもない安心感を感じてそのまま再び



目をつむった。



皆だが流れているのが自分でも分かったが、彼はそのまま深い眠りに落ちた。



そして、次に目を覚ました時、彼の眼には妻と子供たちの嬉しそうな顔が



真っ先に映った。



体は相変わらず全くと言って良いほど動かず、感覚も無かった。



更に、自分がどうして、こんな所に寝ているのか、という事も全く



思いたせなかったが、それでも、死の淵から戻った、もう一度生きたい、



そんな気持ちが溢れていた。



それから、彼は順調に回復し、半年後には退院できた。



体には後遺症が残っていたが、退院し、再び家族と生活出来る事が彼には



何より嬉しかった。



今でも彼には、。その時の記憶は戻っていないが、どうやら彼は高速道路を



仕事で走っている時、大きな事故に巻き込まれ、危篤状態になった



らしい。



家族は医師から、たぶん助からない、と言われていたそうで、彼が意識を



取り戻した時、医師たちも口を揃えて奇跡だと驚いていたという。



そして、彼はこんな事を言っていた。



きっと、あの白い道と長い電車は、あの世に行くための道筋なのかもしれない。



そして、自分はきっとあのまま死ぬ運命だったのだろう・・・。



だから、あの時、亡くなった母親の姿を見つけられなかったら、間違いなく



あのまま俺は死んでいたんだ・・・・。



まだ、死んじゃいけないって・・・・。



母親が教えてくれたんだよな。



だから、一度死んだ人生だから、尚更、家族を大切にして生きていかなきゃな!



そう言ってくれた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 08:59│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count