2018年11月10日

お盆を過ぎた海

全国的には、どうかは分からない。



ただ、こちら石川県、いや俺の家系では、こんな言い伝えがある。



『お盆を過ぎたら海で泳いではいけない!』


お盆に泳いではいけないのではなく、お盆を過ぎたら海で


泳ぐのは危険だ、という事だ。



親から戒めるように言われた、その言葉は、お盆を過ぎてからの海は



亡者がうようよしているから、迂闊に泳いでいたら、そのまま海の底に



引き込まれてしまう・・・。



そんな内容だったと思う。



それは、確かに子供である俺の心にずっしりとブレーキを掛けるには



十分すぎるものであった。



そして、大人になっていくにしたがって、その時、親が言いたかった



本意は、お盆を過ぎてからの海には、クラゲが出て、人の刺すから



危険なのだ、というものだと理解できたのだが、本当にそうだろうか?



もっと、別の意味を込めて、古の人達がその教示として、残したもの



ではないのだろうか?



そんな風に思ってしまうのは、俺がこんな事を経験しているからだ。



その時、俺は地元の海に来ていた。



確か、夏休みも終わりかけた8月の下旬だったと思う。



勿論、泳ぎに行った訳ではなかった。



友達数人と遊んでいて、どこも行くところが無くなってしまい、どうせなら



人気の無くなった海で、ぼんやりとしたり、波打ち際で遊ぶのも



たまには良いかな・・・・。



そんな気持ちだったと思う。



車を遊歩道の近くに停め、少し歩くと、いつもの日本海が広がっていた。



眼下に広がる砂浜には、当然、誰もいない。



あれ程、人で賑わっていた海が、嘘のように・・・・。



俺達は、コンクリートの塀を乗り越えると、誰もいない砂浜を海へと向かった。



やはり、海の香りは良いものだ。



いつ来ても、何か懐かしいものを感じさせてくれる。



俺達は、波打ち際には近付かず、そのまま近くのテトラポットの方へと向かう。



そして、テトラポットの上に登り、沖の方へと移動していく。



波がテトラポットにぶつかって、心地良い音を立てる。



そして、海の中を覗くと、そこには小魚やカニなどの姿を見つけられた。



俺達は、そんな事に夢中になって、時間がたつのも忘れて海の中を覗き込んでは



カニや小魚を捕まえようと躍起になっていた。



それはそれで、楽しい時間だった。



ただ、炎天下の中、少しはしゃぎ過ぎたのかもしれない。



友人の一人が、



俺、海に入りたくなった!



と言った。



小さな頃から、お盆過ぎの海には入っていけない、と教えにれてきた俺は、



その友人を止めた。



しかし、その友人に釣られるように、他の友人もうちの中に入ると



言いだしてしまう。



俺に同調するかのように、海の中に入る事を必死で止める友人もいたが、



それでも、俺を含めて5人いた友人のうち、3人が海に入る準備を



始めてしまう。



俺ともう一人の友人は、彼らを必死に制止したが、それでも彼らは



聞く耳を持たなかった。



ついには、パンツ1枚になって次々に海の中へと入っていく。



溺れても助けないからな!



そんな言葉を彼らは笑いながら聞き流した。



本当なら、彼らの体にロープでも巻きつけてから、泳がせたいくらいの



気持ちだった。



それくらいに、その時は嫌な予感でいっぱいだった。



海の中に入った彼らは、



あ~、気持ちいい!



やっぱり、誰もいない海って最高だな!



とご機嫌だった。



そんな彼らを見て、俺は、



分かったから、せめて、浅瀬だけにしとけよ!



と声を掛けるのが精いっぱいだった。



しかし、それからしばらくは何も起こらず平和な時間が過ぎていく。



俺と一緒に彼らが海に入るのを制止した友人も、どうやら昔からその様に



言い聞かされてきたらしいが、俺と同じく、その理由については



あやふやなものだと語ってくれた。



そんな俺達の心配をよそに、海の中で泳いている友人達は、



お前らも、来いよ~



気持ちいいぞ~



と声をかけてくる。



やはり、俺の気のせいだったのかな・・・。



そんな風に思い始めていた時、突然、



あれ~・・・・なんかおかしい!



あれ?・・・なんで?



足がつかないんだけど!



そんな声が聞こえた。



彼らが泳いでいるのは波打ち際からほんの5メートル位の場所。



俺も何度も泳いだ事があるが、そんな所に、深い場所など存在



していないのは、よく分かっていた。



嫌な予感がした俺は、大声で



おーい!もうあがれ!



と叫んだ。



しかし、その声が終わらないうちに、彼らの悲鳴が重なった。



ヤべーよ、此処!



なんで、足が動かないんだよ!



うわっ!足掴むなよ!誰だよ!



それは、1人から始まり、そして結局、海の中にいる3人全てが



海面から顔を出しながら必死の形相でもがいていた。



その様子は、海の中から足を引っ張られ、それに必死で抵抗している



様にしか見えなかった。



俺達は、生まれて初めて目の前で人が溺れているという現実に



しばらく、その様子を固まったまま見ているしかなかった。



すると、突然、俺の横に座っていた友人が近くに落ちていたボロボロになった



長い竹を見つけてそれを拾った。



そして、波打ち際から彼らに向かってその竹を伸ばした。



しかし、もう少しのところで届かない。



その友人は、ジーンズが海水でびっしょりと濡れてしまう位まで進み、その場所



から、その竹を伸ばすが、何故か、先ほどと同じように届かないのだ。



その友人は、自分が海の中に入って彼らを助けようと、海の中へ入って



行こうとするのを見て、俺はそれを制止した。



巻き添えになる・・・。



そんな確信があった。



そして、俺は必死に考えた。



どうすれば、彼らを助けられるのか?



長いロープでもあれば・・・・・。



そう思って、俺は辺りを見回した。



そして、その途中に不思議な光景を目にした。



それは、テトラポットの上に、女性が立っているのだ。



麦わら帽子をかぶり、白いワンピースを着た高校生くらいの女の子。



その女の子が、滑って危険なはずのテトラポットの上に平然と立ち、



溺れている彼らの姿を微笑ましそうに見ていた。



その瞬間、俺はその少女の方へと走り出していた。



何も根拠は無かったが、俺にはその少女が、とても人間とは思えなかった。



もしかしたら、彼らが溺れているのも・・・・・。



そう思っただけだ。



俺は、波打ち際まで進むと、テトラポットの上に立つ少女に向かって



ひたすら頭を下げた。



何と言ったのかは正確には覚えていない。



きっと、ごめんなさい、ごめんなさい、と連呼していたのだろう。



すると、先ほどまで長い竹を使って彼らを救おうとしていた友人も



俺の横まで走って来て、必死にその少女に頭を下げ出した。



どれくらいの間、俺達はその少女に謝り続けただろうか・・・・。



突然、背後から、



あれ?



足が着くじゃん!



と言いながら、バシャバシャと波打ち際まで逃げてきた3にかの友人



の声が聞こえた。



俺ともう一人の友人が頭をあげると、もう其処には少女の姿は何処にも



見つけられなかった。



そして、俺達は、彼らの元に行き、



大丈夫か?



だから、海の中には入るなって言っただろうが・・・・。



と彼らを叱責したのだが、疲労困憊と言った感じの彼らに、それ以上



何も言えなかった。



それから、車に乗り、その浜辺を後にするまで誰も喋らなかった。



そして、車に乗り込み、しばらく走ると、彼ら3人の一人がこう言った。



さっきは助かったよ!



信じて貰えないだろうけど、俺が溺れてる時、一瞬、自分の足元を見たんだ!



すると、沢山の手が俺の足を掴んででさ。



そして、その手が伸びてきているのが、底が見えないような深い海の底



からだったんだ!



あのまま、引きずり込まれてたら、きっとあの深い海の底まで連れて



いかれるんだろうな、と思ったら恐怖で体も動かなくなってさ!



でも、その後、すぐにいつもの浅瀬の海に戻ったんだ?



お前ら、何したの?



そう言われた俺は、



まあ、俺もよく分からないけどな・・・・。



でも、何故かあの時、あの女の子に謝るしか助かる方法は無いって



感じただけ・・・・。



そう返した。



ちなみに、溺れた彼らにも、そして俺と一緒に謝ってくれた友人にも、



その少女の姿は見えてはいなかったようだ。



あの少女が海の神様なのか、それとも妖魔なのか、は分からないが、



もしかしたら日本全国で起きている海水浴での事故も、あの少女が



関係しているのかもしれない。



そんな気がして仕方なかった。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:02│Comments(0)
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