2018年11月10日

真夜中のトイレ

これは俺の友人が体験した話である。



彼は、高校の教師をしながら、休日はバンド活動に勤しんでいる



30代。



結婚して奥さんと一人のお子さんと一緒に金沢市北部の一戸建てに



住んでいる。



その家というのは、中古物件として掲載されていたものを思い切って



購入したらしいが、綺麗にリフォームされており立地も良い割には



かなりのお買い得価格だったという。



しかし、彼ら家族が住むようになって、怪異というのは殆ど起きて



いないという事だから、きっとその家が安かったのは別の理由が



あったのだろう。



そして、殆ど起きていないと聞いた俺は、それじゃ一度くらいは



不思議な事が起こったの?ときいたところ、話してくれたのが



これから書く話だ。



彼の家は国道から20メートル位、入った場所にある。



建物は2階建てで1階にはリビングと和室、そしてキッチン、



トイレ、浴室があり、2階にはちょうど3部屋あり、家族それぞれが



自分の部屋として使っている。



結婚当時は、夫婦一緒に寝ていたそうだが、子供が出来てからは



夫婦は別々の部屋で寝るようになり、今でもそれは続いている。



彼は寝付きもよく、一度寝ると、朝まで起きる事が無いそうだ。



そして、その日の夜も、彼はすぐに寝てしまう。



それも、買ってきた本を読んでいる時、そのまま知らぬ間に寝てしまった



のだという。



そして、彼は夜中に突然目が覚めた。



明かりを消した記憶は無かったが、何故か部屋は真っ暗だった。



だから、彼は、きっと妻が消してくれたのだろう、と思っていた。



そして、彼はそのまま起き上がると部屋を出て1階のトイレに



行く事にした。



決して新しい家ではなかったから、廊下や階段を歩くと、必ずミシミシと



大きな音がする。



だから、彼は出来るだけ音が出ないように静かにゆっくりと部屋から



出た。



そして、廊下の電気を点けて階段をゆっくりと降りていく。



階段にも明かりはなく、1階の廊下の明かりのスイッチも2階には



無かったから、彼は暗い階段を更に真っ暗な1階の廊下に向けて



降りていかなければならない。



正直、彼は、夜中に1階へ降りるのは好きではなかった。



子供がいる手前、怖がっていると悟られる訳にはいかなかったが、



どれだけ、この家に住んでいても慣れる事がなかった。



ただ、それも、1階へ降り、そこにある明かりを点ければすぐに



解消される恐怖ではあったのだが・・・。



だから、彼はその時も、ほんの少しの辛抱だと思いながらゆっくりと



階段を降りていった。



そして、問題無く1階の廊下へ着いた。



そこで、いつも玄関に向かう廊下の方を見て、誰もいないのを確認してから



明かりを点けるのがいつものパターンだった。



彼はいつもの様に、玄関へと続く廊下にチラッと顔を向けた。



心臓が止まるかと思ったという。



いつもは誰もいる筈のない廊下に間違いなく誰かが立っていた。



女だったという。



色は分からなかったが、長いドレスを着た女が、間違いなく玄関の



横に立っていた。



人間というのは不思議なもので、いつもは幽霊が怖いと思っていても、



いざ、そういう場面に遭遇すると、それは幽霊ではなく、誰かが



家の中に侵入している、と判断してしまうらしい。



彼は、恐ろしくて廊下の明かりをつける事が出来ず、そのまま



階段を降りたところにあるトイレの明かりを点けると、急いでトイレの中に



逃げ込み、中から鍵をかけた。



もう用を足す余裕など無かった。



トイレの中で、彼は必死に、あの女は何者だ?と考え始める。



どうやって、家の中に入ってきた?



何が目的なんだ?



泥棒?・・・それとも不審者?



そんな事を考えていると、彼は究極の答えに辿り着く。



女だったら俺にも勝ち目はあるんじゃないのか?と。



だから、彼は深呼吸して気持ちを落ち着かせた。



トイレの外から聞こえてくる音は一切聞き漏らさない様にした。



しかし、トイレの外からは何も聞こえてこない。



彼は、思い切って、トイレの鍵を開けてゆっくりと開いていく。



本当は、思いっきり勢いよく開けたかったが、それ程の勇気は無かった。



もしも、誰かがいても、ゆっくり開けていけば、すぐにまた閉められる。



そう思っていた。



そして、トイレのドアが半分ほど開き、廊下から音が聞こえてこないのを



確認して彼はトイレから出て、廊下の電気を点けた。



しかし、何故か廊下の電気は点かなかった。



仕方なく、彼は再び、玄関の方を見ると、そこにはもう誰もいない。



しかし、やはり怖かった彼は、そのまま玄関を確認せず、さっさと階段を



あがって自分の部屋に入ろうと思った。



やはり素手というのは心許なかったし、部屋に戻れば、護身用の木刀も



ある。



玄関を確認するのなら、一度部屋に戻ってから・・・。



そう思っていた。



彼は、階段をのぼり始める。



今度は、わざと大きな音が鳴る様に、力強くのぼった。



すると、何か声の様なものが聞こえた気がした。



彼はよせば良いのに、わざわざ振り返って階段下の廊下を確認した。



其処には、先ほど玄関横に立っていたであろう女の姿があった。



じっと彼の方を見上げていたという。



彼は恐怖のあまり大きな悲鳴を上げそうになったが、全く声が



出なかったという。



なんだ?



どうなってるんだ?



そう思った瞬間、階段下にいた女が彼めがけて一気に階段を駆け上がって来る。



一瞬の出来事だった。



気が付いた時には、彼は階段に尻もちをつき、女の顔がすぐ目の前にあった。



昼間見たらきっと美人だったのだと思う。



しかし、夜中、真っ暗な階段で、しかも間近で見る女の顔は、十分な



恐怖を彼に与えた。



しかも、その女はドタドタと階段をのぼって来たにも拘わらず、誰も



起きてくる気配は無かった。



そして、次の瞬間、その女は彼が固まる目の前で、大きな声で笑った。



思わず耳を塞ぎたくなるような不気味で甲高い笑い声だった。



そこで、彼は意識を失った。



そして、朝になり、起きてきた妻に発見されたという事だった。



しかし、彼はその夜の事を家族の誰にも話さなかったという。



何故?



と聞く俺に、彼は、



だって、その話をして家族がこの家に住めないって言い出したら



大変ですから・・・。



新しく家を買う余裕も無いし・・・・。



だから、トイレに行って寝ぼけてそのまま階段で寝てしまったという事に



しておくのが一番なんですよ・・・。



そう言って笑った。



ちなみに、彼がその家で怪異に遭遇したのは、その時、一度きり



なのだという。



だから、もしかしたら、寝ぼけていたのかも?



と言っていたが、その後、彼に聞いた話では、朝になって、自分の部屋に



行くと、彼の部屋の明かりが点いたままになっており、部屋中に物が



散らばっていたのだという。



几帳面な彼が、寝ぼけていたとしてもそんな事をするとは到底



思えないのだが・・・。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:11│Comments(0)
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