2018年11月10日

水泳記録会

これは俺が体験した話。



俺は母親の影響なのか、昔から水泳が得意だった。



確か、幼い頃に、プールの中に母親に故意的に落とされたのが初めての



プール体験だった。



今にして思えば、酷い事をする母親だと思ってしまうが、実は母親も



祖母にそうやって泳げるようにされたらしく、きっと私の子供だから



水の中に入れば、なんとかして泳ぐんじゃないか?



という安易な考えで俺をプールに落としたらしいのだが。



ただ、幸か不幸か、その時、なんとなく沈まずに水面に浮かんでいたら



らしく、まんまと母親の作戦に乗ってしまった形になった。



まあ、そのお陰で、それから水泳というものが得意になったし、船で



沖へ出て海に飛び込んで泳ぐなんて事も出来るようになったのだが。



そして、俺が小学校5年の時だったと思うが、通っていた小学校で



1000メートルの遠泳に挑むという行事があった。



遠泳といっても、海を泳ぐわけではなく、あくまで市営の50メートル



プールを10往復するというものだったが、なかなか参加者がおらず、



毎年1~2名くらいが無事に1000メートルを泳ぎ切り、校長から



表彰されていたらしい。



そして、勿論、俺はその年のチャレンジに参加希望を出した。



その年のチャレンジには俺の他に2名のエントリーがあった。



当日は、平日の授業を午前中で切り上げて市営プールに向かう。



実は、俺が一番魅力に感じ、このチャレンジに参加した理由はそこに在った。



何しろ、他の生徒がしっかりと授業を受けているには、自分はさっさと



授業を切り上げてプールで泳いでいれば良いのだから・・・。



1000メートルの遠泳は、3人が50メートルプールのコースに、



手前、真ん中、奥という形で別れて泳ぐ形になり、それぞれに一人の専属の



計測員が付くというものになった。



とにかく、50メートルを10往復するまでの間に足を点いたり、休憩



したりしなければ、途中で泳ぎ方を変えても良い、というものだったから、



俺的には、これは楽勝かな、と思った。



なにしろ、1000メートル泳ぐのにどれだけ時間が掛っても問題無し、



というルールだったのだから正直簡単すぎて笑ってしまう。



そして、いよいよ、スタート。



クロールで泳ぐ者もいたが、俺は一番疲れない平泳ぎを選んだ。



進むのが遅いから、付き添っている計測員には悪いと思ったが、やはり



のんびりと泳いでいると気持ち的にも楽だった。



そして、ちょうど10往復を過ぎた頃になると少しずつ体が重くなってきた。



それにしても、さすがに50メータープールは長い。



いつもは、海などでも平気で泳いでおりプールでの1000メートル



くらいは楽なものだ、と高をくくっていたが、なかなか体が前へと



進んでくれない。



体も疲れてきたので、俺は少しだけ潜水してみる事にした。



すると、水面に顔を出して泳いでいるのと違って、潜水すると、体が



どんどん前に進む。



しかも、何故か疲れも感じない。



これだ!



と思った俺は、それから潜水を多用する事にした。



勿論、計測員はしっかりとそれを見ていたが特に注意される事も無かった。



そして、何度目かの潜水の際、俺はプールの底に手を着いてみようという



暴挙に出た。



ただ、泳いでいるのが退屈になっていたのだから仕方ない。



そして、無事、水面にと上がって来た俺が見たのはそれまでとは



違う風景だった。



まず、計測員の姿が見えなかった。



そして、他のコースを泳いでいるはずの者も見えない。



それどころか、先ほどまで明るく晴れていた天気が、完全に変わり、



まるで夕方の様な暗くどんよりとした天気になっていた。



しかし、そんな事を気にしてはいられなかった。



とにかく泳ぐのを止めれば、そこで即、中止になってしまう。



俺はもやもやした頭のまま、更に泳ぎ続けた。



そして、また、潜水しようと水中に潜った時、そこは別の世界に見えた。



プールの深さは、本来なら2メートルちょっと、という感じの筈だったが、



その時、見たのは、底が見えない程深い水深。



そして、何故か俺の横に立つ様に、その深いプールの底にしっかりと



足をついた女の水着姿の下半身が見えた。



どんだけ足が長いんだよ?



それに、なんで計測中に、こんな女がいるんだよ?



そう思いながら、再び水面に上がった俺は、そこで一人の女が水面から



上半身を出してニコニコと笑っているのが見えた。



見た事もない女だった。



このプールの関係者かな?



そう思い、泳ぎ続けている俺は、ふとある事に気付いた。



ちよっと待て!



あの長い下半身と水面から出ていた普通の上半身。



そんな比率の人間っているのか?



そう思うと、急に恐ろしくなってきた。



相変わらず、その女は泳いでいる俺の横に付き添う様にしてプールを歩いて



移動している。



そして、その女が話しかけてくる。



大丈夫?



疲れたら、私につかまればいいから・・・・。



その言葉を聞いた時、俺は更に恐怖が増した。



掴ればいいから・・・・という言葉が



捕まればいいから・・・・にしか聞こえなかった。



俺は、それから、一気に泳ぐペースを上げた。



1秒でも早く、このプールからさっさと上がりたかったから。



相変わらずその女は、張り付くように俺の横を歩いている。



手を差し伸べて、疲れたら休んでいいんだよ!



とさえ、言ってきた。



その言葉は、俺には恐怖でしかなかった。



ずっと、女がすぐ横にいる。



それが怖くて仕方なかった。



相変わらず、プールの周りには誰も居らず、俺とその女の二人だけ。



しかし、必死で泳いだお陰で、目標の1000メートルまであと1往復



を切っていた。



俺は最後の力を振りはぼって必死に泳いでいた。



もう、平泳ぎなどというものはとっくに止めて、クロールで必死に泳ぐ。



すると、何かが俺の足に絡み付いてくるのが分かった。



そして、体が重くなる。



いや、重くなるという表現は間違っていた。



まるで、水中から何かに引っ張られているという感覚だった。



しかし、俺は恐怖で、それらを確認する事はしなかった。



もし、確認して、そこに得体の知れない無数の手があったら、きっと



そこで、もう泳げなくなってしまうと思ったから・・・・。



そして、俺は何とかそのまま無事に1000メートルを泳ぎ切った。



しかし、俺は一瞬、考えた。



計測員も誰もいない。



居るのは、訳の分からない女だけ。



そんな状態で、誰が1000メートル泳いだと証明してくれるのか?と。



しかし、その瞬間、



やったな!



おめでとう!



という声が聞こえ、顔をあげると、そこはいつもの市営プールの風景に



戻っており、計測員もしっかりとプール脇に立っていた。



結局、その時、1000メートルを無事に泳ぎ切ったのは俺だけだった。



校長先生から色紙と賞状をもらい、副賞として、文房具のセットも



貰ったような気がする(別に欲しくはなかったが・・・)



しかし、俺はその時思った。



小さな頃から海での不思議な体験はあった。



だから、海という所は不思議なところだとしっかり認識していた。



しかし、同じように水で満たされたプールという場所も、もしかすると



とても危険な場所なのかもしれない、と思った。



そして、あの時、もしも、途中で力尽きてしまっていたら・・・・。



そう考えると、恐ろしくてしばらくは一人では寝られなかった。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:19│Comments(0)
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