2018年11月10日

野宿

知り合いに小型バイクに乗っている人がいる。



彼は古い型の125ccのバイクに乗っており、そのバイクで日本中を



ツーリングしている。



確かに大型免許は持っていないが、せめて400ccくらいのバイクに乗れば



もう少し楽に長距離を走れるだろうに、と考えてしまうが、彼に聞くと



そうではないのだという。



そもそも、日本人の体形と体力で大型バイクに乗っても、乗りこなすなど



程遠いだろうし、高速道路にしても法定速度はせいぜい100km/h。



そんな日本で大型バイクに乗っていてもストレスが溜まるだけだと



彼は言う。



まあ、確かに、一理あるのは確かなのだが・・・。



それに、彼は1日にそれ程の距離は走らないのだという。



あくまでのんびりと自分のペースで。



そんな彼のツーリングは、その殆どが野宿だという。



駅の構内、それが駄目なら駅の軒先。



それでも無理なら公園か橋の下で寝袋に包まって寝るそうだ。



決して快適とはいえないが、それでもそんな風に一夜を過ごしていると



まるでその地域の住民になったかのような気持ちになれるのだそうだ。



しかし、野宿といえば、やはり怖いのが人間。



たまに、悪戯心でちょっかいを出してきたり、中には言い掛かりをつけてくる



輩もいるらしいが、そこは平和主義でのんびりとした性格の彼らしく、



大事に至った事は無いのだという。



しかし、一度だけ不可解で気味の悪い体験をしたらしく、その時の事を



ゆっくりと話してくれた。



そして、これから書くのがその時聞いた話だ。



彼はその時、山陰のとある町にいた。



そして、近くのスーパーで半額の弁当を買い込んで、いつものように野宿を



する事にした。



彼は事前に目星をつけておいた無人駅の駅舎の前にバイクを停めると、早速



寝袋を出して、その夜泊まる場所を確保した。



時刻は既に午後9時を回っていた。



季節はちょうど秋。



夜は少し肌寒かった。



彼は買ってきた弁当をさっさと食べ終わると、昼間の疲れが出たのか、急に



睡魔に襲われてしまう。



いつもは初めての土地に緊張してしまい、なかなか寝付けないのだが・・・。



彼は気力を振り絞って、防犯の為のラジオを点けると、そのまま寝入ってしまう。



それから何時間が経過しただろうか。



彼は寒さで突然目を覚ました。



目覚めた時、彼は寝袋には入っておらず、ラジオも何故か消えていた。



そして、気が付けば、外にはシトシトと雨が降っていた。



時計を見ると、まだ午前3時頃だった。



彼は喉が渇いている事に気付き、近くにあったペットボトルに手を伸ばした。



その時、彼の手はペットボトルの手前で止まった。



誰かが駅から100メートル位離れた森の中から彼を見ているのが分かった。



そして、彼も思わず、そちらの方を凝視した。



小さな女の子だった。



こんな時間に?



彼はいぶかしく思い、更にその女の子に注視した。



どうやら、その女の子は学校の帰りだと言わんばかりに赤いランドセルを背負い



手さげ袋を持ったまま、こちらを見ていた。



おさげの髪型が少し古めかしく感じたという。



女の子は、森の木の蔭に座り、そこからじっと、こちらを見ている。



なんで、こんな時間にあんな小さな子が1人でいるんだ?



彼はその時は特に恐怖は感じず、それだけを考えていた。



もしかしたら、迷子?



そう考えた彼は、女の子に向かって優しく声を掛けた。



どうしたの?



お父さんとお母さんは?



しかし、女の子は彼の声が聞こえないかの様に全く反応が無い。



彼はまた声をかける。



しかし、やはり反応が無い。



その時、彼は思ったという。



下手に声を掛けたりして不審者として通報されたら大変だ!・・・・と。



だから、彼は女の子に向かって



気をつけて帰りなよ!



とだけ声を掛けると、今度は寝袋にちゃんと包まって再び眠ろうとした。



しかし、やはり、近くから女の子が見ていると思うだけでなかなか寝付けない。



だから、彼は女の子が、まだその木の陰に座っているのか、と確認しようと



寝返りをうった。



すると、先ほどより半分くらいの距離まで女の子が近づいていた。



え?



彼は慌てて起き上がろうとした。



しかし、何故か寝袋のチャックが開かなかった。



彼はまるで芋虫にでもなったかのように、その場でもがいていた。



それはほんの数秒の事だった。



そして、再び、彼がその女の子を見た時、その女の子は彼から10メートル



位の場所まで近づいて来ていた。



その時、初めて彼は状況の異常さに気付いたという。



辺りには明かりは殆ど無く、駅から漏れる明かりだけしかない暗さ。



その中でその女の子だけが、まるで暗闇に浮かび上がるかのようにはっきりと



視えていた。



そして、先ほどから降り続いている雨が勢いを増しているというのに、



その女の子は一切濡れている様子が無かった。



更に、決定的だったのは、彼が、女の子が木の陰に座っているのだと



思っていた姿は、アスファルトの上でも同じように見えていた。



つまり、その女の子には上半身しか存在していなかった。



彼はもうパニックになってしまい、必死に寝袋のチャックを開けようともがくのだが



チャックは全く開こうとはしなかった。



あの女の子はどうして上半身しか無いんだ?



上半身だけで、どうやって、こんなに瞬間的にこちらに近づいて来れるんだ?



そして、こちらに近づいてきているという事は、俺に向かって来ている



という事なのか?



そう考えると、頭が変になりそうなほど恐怖でいっぱいになった。



彼は、また芋虫のように転がりながら何とか寝袋から脱出しようと



何度も試みた。



そして、何度目かの時、彼の背中が何かにぶつかった。



彼は首だけをそちらの方へと向けた。



そこには、先ほどの女の子が上半身だけで彼を見ていた。



ひっ!



彼は思わず悲鳴を上げそうになった。



と、次の瞬間、彼の体は何かに押されるようにして濡れたアスファルトの上を



転がされているのが分かった。



それは、凄まじいスピードで彼の体を森の方へと移動させていく。



彼は恐怖で固まり、その女の子の顔など見る余裕は無かった。



だから、為すがままにアスファルトの上を転がっていった。



女の子が、彼の体をゴロゴロと転がしていく。



しかも、上半身だけの姿で・・・・。



そんなものを見てしまったら、即座に意識を失いそうだった。



どうして、こんな小さな女の子にそんな力があるのか・・・・。



そんな事は考えるだけ無駄だった。



彼にはもう、その女の子が生きた人間ではない事などとうに分かっていた。



すると、寝袋の足の部分がアスファルトに擦れて破れかけているのが分かった。



彼は足をジタバタさせて、その破れかかった穴を更に大きくしようとした。



彼は顔まで寝袋の中に入れて、必死に足に力を入れて何度も寝袋を蹴り続けた。



その時、鈍い音がして足が冷たいアスファルトに触れているのが分かった。



彼は少しずつ体を下の方へと移動していき、一気に寝袋から脱出する事に



成功した。



体中が酷く痛んだ。



しかし、それ以上に心配な事があった。



彼は恐る恐る振り返ると、先ほどまで彼が入っていた寝袋を転がしていた



であろう、女の子の方を見た。



その女の子も、急に寝袋が軽くなった事に気付いたのか、その場にじっと



動かずにいた。



彼は心の中で必死にお経のようなものを唱えた。



彼も、そして女の子もじっとして動かなかった。



雨が彼の体温をどんどんと奪っていく。



こっちには来ないでくれ・・・・。



彼は本気でそう祈った。



彼には、もう反抗する力など全く残っていなかった。



すると、その女の子は、まるで濡れたアスファルトの上を滑るかのように



上半身だけで森の方へとゆっくり進んでいき、そしてそのまま森の中に



消えていった。



彼は痛む体を引きずるようにして、駅の軒下まで歩いた。



そのままバイクでその場から逃げ出したかったが、何故かその時は、そんな事を



すれば、再びあの女の子が追いかけてくる様な気がしたという。



だから、彼は駅の前にあるジュースの自動販売機の前に座ってそのまま



朝まで過ごしたという。



自動販売機の明かりだけでも、かなり心強いものに感じた。



此処にいれば大丈夫・・・・。



そう思わせる何かがあった。



彼は安心したのか、それとも疲労の為か、そのまま再び眠りについた。



そして、空がうっすらと明るくなり始めた頃、彼は再び眠りから醒めた。



誰かが彼の前にいるのが分かった。



しかし、辺りは徐々に明るくなってきたいるのが分かっていた彼は



きっと誰かが心配して声をかけようとしているんだ・・・・。



そう思った。



しかし、いっこうに声を掛けてくる気配は無かった。



彼は、ゆっくりと瞳を開けた。



すると、彼の顔のすぐ目の前に、あの女の子の顔があった。



彼の顔を覗き込むようにしていたが、彼が目覚めたのを見て、その女の子は



不気味な笑みを浮かべた。



その時、彼は初めて絶叫して、その場で意識を失った。



そして、次に目が覚めたのが、通勤の為に無人駅にやってきた会社員に



揺り起こされた時だったという。



彼の体と、そして森の間のアスファルトの上に点々と石が置かれていたという。



それが何を意味するのかは全く分からなかったが、彼はそのまま急いで



バイクに乗ってその場から離れた。



いつもは、決してスピードを出さない彼も、その時ばかりはかなりのスピードを



出して出来るだけ遠くに逃げなければ、と必死になって走ったという事だ。



その後、彼の身に怪異は起こってはいないが、いまだに、その時の悪夢を



見てしまうという事である。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:23│Comments(0)
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