2018年11月10日

預かった荷物

これはある意味、現在進行形の話である。



俺の友人に白山市の山間部に住んでいる男がいた。



とても真面目で律義なタイプであり、友人から頼まれると嫌とは言えない



男だった。



彼の仕事は不動産の管理。



彼の親戚に沢山のアパートやマンションを金沢市内に所有している者がいるらしく、



彼はその親戚から頼まれてアパートやマンションを管理していた。



とはいえ、忙しいのは、部屋に入居した時や退出した時であり、それとて、



大した仕事ではないらしく、地元である金沢市を離れて白山市の山間部の



旧家を買い取って、其処で1人で住んでいた。



だから、彼はいつもは日向ぼっこをして一日過ごしたり、気が向けば猟に



出掛けたりしながらのんびりと生活していた。



勿論、そんな暮らしが彼には理想そのものだったらしく、傍から見ていても



年齢の割に老けて、そして落ち着いて見える彼にはとてもピッタリの



生活に思えた。



そんな彼がある時、友人から頼まれごとをした。



それはある荷物を友人が海外旅行に行っている間、預かって欲しいというもの。



その友人というのはかなり昔に親交があっただけで、それほど親しかった訳では



なかった。



それでも、困った顔で頼まれると、断れないのが彼の良い所でもあり、



悪いところだ。



結局、彼は友人が海外旅行に行っている2週間、その荷物を預かる事にした。



その荷物とは大きな風呂敷包みがひとつ。



50センチ四方の箱らしく、重さはそれほどでもなかったという。



何が入っているのか?



どうして荷物を他人に預けなくてはいけないのか?



と聞いたらしいが、友人はその質問に対して、はっきりとした答えは



言わなかった。



その友人が言った言葉はただひとつだけ。



"何があっても絶対にこの荷物の中身を確認しないで欲しい・・・。



それだけだった。



元々、彼も預かった荷物の中身になど全く興味が無かったから、当然その



頼みを了承し、絶対に荷物には手を触れないと約束した。



その友人も彼のまじめな性格を良く知っているのか、とても安心した顔で



彼にその荷物を託し、翌日から海外旅行に出掛けて行った。



そして、その翌日から不思議な事が起こり始める。



彼が昼間、縁側でウトウトしていると急に電話で起こされた。



慌てて電話に出ると、耳障りな程のノイズが聞こえてきた。



電話の相手は唐突だった。



すみません・・・・荷物を預かってませんか?



四角い木箱に入った荷物・・・・。



大切なものなんです・・・・返してください・・・・。



そう、ゆっくりとした低い声で言った。



その声は中年の女の声であり、どこかエコーがかかった様な声であり、



とても遠くからの電話に感じた。



唐突に、そんな事を言われた彼は、



どちらにおかけですか?



すみませんけど、間違い電話じゃないですか?



そう言うと、電話はそのまま切られてしまった。



彼は再び縁側まで戻って来ると板の間に横になった。



そして、考えた。



あの女は何者なんだ?



そもそも、どうして俺が荷物を預かっている事を知っているんだ?



それにしても、どうして俺の電話番号まで知っているんだ?



彼は何か薄気味悪いものを感じたが、それでも彼の性格なのか、すぐに



そんな事は忘れて、すぐに出掛ける用意をした。



その日は、定期的に管理するアパートやマンションを巡回する予定日だった。



そして、彼は金沢市内で仕事を終えると、久しぶりに片町に飲みに出た。



そして、午前1時頃、店を出ると、運転代行を使って白山市の家に向かった。



正直、代行で無理して帰るよりも、一晩カプセルホテルに泊って翌朝帰った



方が安くつくはずなのだが・・・・。



代行業者の車が走り去り、彼が家に入ると、けたたましく電話が鳴っていた。



彼は急いで家に上がると、そのまま電話に出た。



すみません・・・・荷物を預かってませんか?



四角い木箱に入った荷物・・・・。



大切なものなんです・・・・返してください・・・・。



それは昼間の電話の女だった。



時刻は既に午前3時近くになっていた。



こんな時刻に電話を掛けてくるなんて非常識にも程がある・・・・。



彼は少しムッとした声で、



あの、今何時だと思ってます?



だいたい貴女は誰なんですか?



普通はそちらから名乗るのが常識じゃないですか?



そう返したという。



すると、



すみません・・・・荷物を預かってませんか?



四角い木箱に入った荷物・・・・。



大切なものなんです・・・・返してください・・・・。



と、また同じ言葉を繰り返してきた。



彼は完全に酔いが醒めてしまい、かなり頭に血がのぼっていた。



だから、いつもの彼らしくなく、



いい加減にしないと警察を呼ぶぞ!



あんた、頭がおかしいんじゃないのか?



だいたい、とうやって俺の電話番号を知ったんだ?



新手のストーカーか何かか?



そう電話の向こうの女に向って怒鳴った。



すると、



すみません・・・・荷物を預かってませんか?



四角い木箱に入った荷物・・・・。



大切なものなんです・・・・返してください・・・・。



と、また同じ言葉を繰り返すだけだった。



彼は完全にに切れてしまい、



いい加減にしろよ!



だいたい、あの荷物はあんたの物じゃないだろうが!



そう言って彼はハッとした。



すると、電話の向こうから少し嬉しそうな声で、



やっぱり荷物・・・・あるんですね・・・・・そちらに・・・・。



今から返して貰いに行きます・・・・。



そう言って電話が切れた。



彼は暗い部屋の中で茫然としていた。



荷物の事をうっかり話してしまったのは完全に彼のミスだった。



だとしても、これから此処に来る、というのはどういう意味なんだ?



電話番号だけでなく住所まで知っているというのか?



それに、今から取りに来るって言ったが、あの女はそんなに近くの場所から



電話をしてきたのか?



考えれば考える程、答えは見つからなかった。



その時、突然、玄関の引き戸が叩かれた。



彼はドキッとして心臓が止まるかと思った。



恐る恐る玄関に近づくと、引き戸から女の姿が透けて見えていた。



着物を着た女。



しかも、黒い着物であり、彼にはそれが喪服に見えたという。



彼は息を潜めて様子を窺った。



そして、彼は恐怖で頭がいっぱいになっていた。



そして、彼が家に着くなり電話の音が聞こえたので、玄関の鍵をかけていない



事に気付いた。



その時、突然、玄関の向こう側から声がした。



ごめんください・・・・・。



荷物を返して貰いに参りました・・・・。



その声は間違いなく先ほどの電話の女だった。



どうして、こんなに早く此処に来られるんだ?



いったい、この女は何処から電話をかけていたんだ?



そう考えると、恐怖で体が固まった。



彼は女の声に応えず、静かに奥の間に行き、厳重に管理している猟銃を



取り出して弾を込めると、そのまま玄関へと戻った。



勿論、実弾が入った猟銃を人に向けるなど絶対にしてはいけない事だと



分かっていたが、彼にはその女がどうしても人間の女には思えなかったという。



彼は猟銃をしっかりと抱えて、玄関に戻る。



いつも猪や熊を狩っている猟銃を持っているというだけで彼はかなり



勇気が湧いてきた。



彼は玄関に戻り、再び、引き戸の方を見た。



ひっ!



思わず声が出そうになる。



玄関の引き戸がほんの少しだけ開けられており、その隙間から女がこちらを



覗いていた。



その顔は人間というには余りにも細く長い顔であり、まさにキツネそのもの



といった顔をしており、その顔がじっと動かないままこちらを覗き込んでいる。



彼は固まったまま動けなくなっていた。



それでも恐怖に支配されているのを見透かされないように勇気を振り絞って



大声を上げた。



一歩でも家の中に入ったら、この銃で撃ち殺すからな!



自分でも声が震えているのが分かったという。



すると、女は、先ほどまでの声とは全く違う気味の悪い声で、



かえせ・・・・かえせ・・・・かえせ・・・・かえせ・・・・かえせ・・・。



そう繰り返した。



彼はその場にへたり込むように座ると、それでもしっかりと銃口を



その女の方へと向け続けた。



そして、腹に力を入れて出来るだけドスの効いた声で、



お前、この銃が怖くないのか?



撃たれたら死ぬんだぞ?



そう叫んだ。



すると、その女は、彼の言葉がおかしくてたまらない、といった感じで



そんなもので、私は殺せませんよ・・・・・。



それよりも、荷物を此処に持って来てください・・・・。



出来るだけ痛くないように・・・・・してあげますから・・・・。



そう聞こえた。



彼は、最後の言葉がよく聞こえなかった。



しかし、



痛くないように、”殺してあげる”もしくは、”食べてあげる”と言った様にも



聞こえた。



確かに、その女は銃など恐れている素振りは微塵も無かった。



確かに、その女が人間ではないのだとしたら、もしかしたらこんな猟銃など



何の役にも立たないのかもしれない・・・。



そう考えると、再び、彼に恐怖がのしかかってきた。



彼は生れて初めて、死というものを身近なものに感じたという。



このまま、俺は殺されてしまうのかもしれない・・・・。



そんな事を考えていた。



そして、そのまま時間だけが流れていった。



女は、何度も何度も、同じ言葉を繰り返していた。



荷物を此処に持って来てください・・・・。



という言葉を・・・。



しかし、彼はその言葉に反応する事は無かった。



それはもしも、荷物を持って玄関の引き戸を開ければ、たちまち、彼はその女に



殺されてしまうのだろうと確信していたから・・・。



だから、彼はそのまま沈黙を守った。



決してその女の言葉には反応しない様にした。



そして、時間が経過し、朝日が昇り始め、辺りが明るくなり始めたころ、その女は



玄関の引き戸から離れ、そのまま何処かへ消えていった。



それからというもの、毎日、その女は彼の家にやってきた。



昼間にその女が来る事は無かった。



来るのはいつも真夜中。



しかも、いつも玄関の引き戸の前で立ったまま同じ言葉を繰り返すだけ。



そのうちに、彼はある事に気付いた。



それは、その女は玄関からしか、家の中に入れないのだという事。



そして、自分からは決して玄関の引き戸を開ける事が出来ないのだという事。



鍵が掛っていようがいまいが、自分からは家の中に入っては来れない。



そう思うと少しだけ気が楽になった。



ただ、その女が家の外にやって来ると、家中の明かりが全て消えてしまい、



完全に真っ暗闇になってしまう。



それが、一番困る事なのだという。



それから、随分経つが、旅行に行った友人からは何の連絡も入らないのだという。


勿論、連絡もつかない・・・。


友人はどうなってしまったのか?



そして、彼はいまだに、荷物の中身が何なのかを確認する事はしていない。



俺にはその荷物の中身が何か曰くつきの物に思えて仕方ないのだが・・・。



きっと、今夜もその女は彼の家にやって来るのだろう・・・。



もしも、何か実害が及ぶような事になれば、その時にはAさん達に相談



してみなければ・・・。



そう思っている。



Posted by 細田塗料株式会社 at 09:25│Comments(0)
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