2018年11月10日

危険なバイト

友人に危険なバイトばかり好んでやっている男がいる。



それは自殺や殺人が起こったいわくつきのアパートやマンションに



一定期間住み込むというものだったり、立ち退きを巡って争っている



場所に住みこんでヤ○ザさんと対峙したり、また何日間も泊りがけで



薬の治験のドナーになったり、と枚挙に暇が無いほどだ。



では、何故そんなに危険なバイトばかりを選んでいるのかといえば、



勿論、バイト料が破格なのだという。



実際、そんなバイトでかなり危険な目に遭った事も一度や二度ではないが、



それでもほんの数日間で、下手をすれば数か月分のバイト料が稼げる



危険なバイトというのは、彼の生活には無くてはならないモノになってしまっていた。



そんな彼がかつて経験した中で一番怖かったという話を聞かせてくれた。



それが、これから書く話になる。



ある時、彼の元に奇妙なバイトの話が舞い込んできた。



そこは係争地でもなく、心霊スポットでもなく、ただの古い洋館。



その洋館自体は既に空家になっているらしく、其処へ行って建物の窓を



全て開けてくるというだけ。



しもか、其処に行く人数には制限はなく何人で行っても構わない、という



ものだった。



それでいて、そのバイト料は破格。



彼はすぐにそのバイトに飛びついたという。



しかし、バイト料を独り占めしたい彼は、単独でそのバイトに出向いた。



彼も一瞬、嫌な予感はしたらしい。



なにしろバイト料が破格過ぎる。



しかし、そのバイトの依頼主が大手観光業者だったこともあり、バイト料自体は



確実に手に入る事。



そして、彼自身が霊感というものがまるで無く、たとえその洋館が心霊スポットだったと



しても、きっと自分には何も感じられず見る事も無いだろう、という確信が



あったのだという。



しかし、彼もわざわざ危険を楽しむ事はしない。



だから、夜を避け、ある日の午前中にその洋館に向かった。



その洋館は、街から少し離れた小高い丘の上にあった。



彼はその洋館の前に車を停めた。



しかし、その場所にはバイトの依頼主である大手観光業者も、仲介業者も



誰一人として来てはいなかった。



こんなんじゃ、本当にバイト料がもらえるんだろうか?



だいたい、俺が窓を開けて、そして後からそれを確認しにくるとしても、



本当に俺が窓を開けたのだと信用して貰えるのだろうか?



本当にいい加減だな・・・・。



そう思ったという。



しかし、そのバイトの仲介をしてくれた者は、いつも彼に仕事を回してくれ、



そして、その支払いに関しても信用できる相手だった。



だから、彼はそのまま洋館へと入っていく事にした。



事前に渡されていた大きなカギで、玄関の大きな扉の鍵を開けた。



とても重たいそのドアは、ギィーッと嫌な音を立ててゆっくりと開いた。



建物の中からは、かび臭い匂いがした。



洋館には電気の供給が止められている事を自然に聞かされていた彼は



背中のリュックから大きな携帯用のライトを取り出して、それを点けた。



ライトが建物の中を照らしだすと、そこには視界不良になる程の埃が



舞っているのが確認できた。



彼はすかさず、業務用のマスクを取り出すと、それを口にあてがった。



玄関のドアは万が一の為に開けたままにしておいた。



そして、ゆっくりと歩き出した。



歩を進める度に床からは大量の埃が舞いあがった。



彼は思った。



明かりも無く、埃で視界も確保できない・・・。



こんな危険な状態だから、きっと高価なバイト料が支払われるんだろうな、と。



1階は洋館らしく、応接セットが置かれ、シャンデリアが天井から下がる



広間の様になっていた。



彼はその広間の窓から順に開けていこうとした。



しかし、窓は異常に固く締められており、暗闇なのもあってか、なかなか



要領を得なかった。



そこで、彼は2階から窓を開けていく事にした。



2階なら少しは視界も確保できるかもしれない、と。



そして、絨毯が敷き詰められた階段をゆっくりと上っていく。



それにしても、こんな古い洋館の窓を開けるのがそんなに重要な事なのか?



そもそも、依頼主はこの洋館をどうしようというのか?



そんな事を考えながら階段を上っていくとちょうど階段の真ん中辺りまでのぼった時、



突然、バターンという大きな音がした。



彼は固まった。



そして、ゆっくりと振り返ると、やはり玄関のあの大きな扉が閉まっていた。



あんな重く大きなドアが勝手に閉まるものなのか?



彼はそう考えたが、それ以上に深刻な問題があった。



それは、建物の中が完全に真っ暗になってしまったという事だった。



右も左も分からない程の暗闇の中に彼が持っているライトの光だけが



伸びていた。



彼はそのままその洋館から逃げ出したくなっていたが、やはりお金の力



というのは凄いものだ。



彼の恐怖を一瞬にして払拭してしまう。



彼はそのまま階段を上っていった。



いざとなれば、階段を駆け下りてあのドアから飛び出せばいいだけ・・・。



自分にそう言い聞かせながら・・・・・。



階段をのぼりきると、そこには長い廊下が真っ直ぐに伸びていた。



そして、その一番奥に窓らしきものが見えた。



彼はゆっくりと歩を進める。



しかし、その刹那、ライトが突然消えてしまう。



うわっ!



彼は思わず声を出してしまった。



彼はライトのスイッチを何度も押したが全く反応が無い。



どうして、こんな時に・・・・。



辺りは完全に漆黒の闇となり視界は全く効かない。



これでは、前にも巣城にも進める筈が無かった。



だから、彼は必死に恐怖と闘いながら、自分の目が暗闇に慣れてくるのを待った。



視界が全く駄目になると不思議なもので人間というのは聴覚が異常に敏感に



なるらしい。



彼が暗闇の中で必死に我慢していると、何処からか囁くような声や、何かが



床の上を這っている様な音が聞こえてきた。



彼は必死になって自分に言い聞かせた。



気のせいだ・・・・・どうせおれには霊感なんか無いんだから、と。



すると、彼の目の前で信じられない事が起こった。



暗闇の中で、ゆっくりとドアが開き、そして、その部屋の中から漏れてくる



弱い明かりが廊下をぼんやりと照らしたのだ。



彼は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。



この洋館は空家になっているんじゃないのか?



確かに依頼された時も、そう説明されていた。



だとしたら、今、ドアを開けたのは誰なんだ?



そして、この洋館で何をしているというのか?



考えれば考える程答えは見つからなかった。



彼はしばらくその場に茫然と立ち尽くしていたがそれでも明かりが見えているのが



その部屋だけなのだとしたら、そちらに行ってみるしかない、と



覚悟を決めた。



視界が見えない中で唯一ぼんやりと浮かび上がったドアから漏れる部屋の明かり



を頼りにして、少しずつゆっくりと彼は進んだ。



誰かいるのかもしれない・・・・。



そんな気持ちが彼に出来るだけ音をたてないような歩き方をさせていた。



彼は何かにつまずきそうになりながらも、ようやくその部屋のドアまで



辿り着く。



部屋の中からはまるでレコードでも聴いているかのようなクラシック音楽が



聞こえてきた。



やっぱり誰かいるんだ・・・・・。



彼はドアのノブに手を掛けると、そのままゆっくりと、そして少しだけ



ドアを開いた。



部屋の中は、ぼんやりとした明りに包まれており、その中に一つだけ木製の



リクライニングチェアーが置かれており、そして、その椅子には誰かが



背中を向けて座っていた。



彼はまるで吸い寄せられるように、部屋の中に体を半分だけ入れると



あの・・・・すみません・・・・。



と声を掛けた。



しかし、反応が無かった。



彼は、ゆっくりと部屋の中に入ると、その椅子に向かってフラフラと



近づいていく。



そして、その椅子までちょうど2メートル位の距離まで近づいた時、突然、



リクライニングチェアーがくるりとこちらを向いた。



彼は絶叫していた。



それまで出した事の無いほどの大声で。



喉が潰れるのではないか、と思える程の絶叫で彼は叫び続けた。



その椅子には人間らしきものが座っていた。



最初は老人に見えたがすぐにそれは間違いだと気付いた。



まるでミイラのようにしわがれた女が、だらりと在り得ない角度まで首を



横に曲げながら彼を見て笑った。



まるで獲物がようやくやって来たとでも言わんばかりのギラギラした、そして



殺人鬼の様な眼で、それは間違いなく笑っていた。



そして、次の瞬間、その女の口が開き、何かを言おうとした。



と、その瞬間、彼の体は弾かれた様にその場から走りだした。



もう視界がどうこうと言っていられる状況ではなかった。



彼は自分を鼓舞する為なのか、うおーっと大きな声を出しながらドアを



飛び出し廊下へと転がり出る。



先ほどまで一切の視界が確保できなかった廊下がぼんやりと明るく



なっているように思えた。



そして、それと同時に彼は見てしまう。



廊下の両端に、立っている男女の姿を・・・。



その男女は、まるで、その洋館に仕えている使用人のように、真っ黒な服



を着こみ、まっすぐに立っている。



ただし、その顔は、腐乱したかのように、所々が緑色に変色しており、



その眼だけが彼の動きを追う様に動いていた。



彼は急いで起き上がると、そのまま階段めがけて走った。



怖かったが、それ以上に助かりたい気持ちが強かった。



廊下に並んだ男女は階段にも並んでおり、彼はその間を通り抜けて1階



へと駆け降りた。



そして、玄関のドアに向かって必死に走った。



途中、何度か転んだが、すぐに立ち上がりまた走り出した。



それくらいに命の危険を感じていた。



とにかく、この洋館から出なければ・・・・。



彼の頭の中にはそれしかなかった。



玄関のドアまで辿りついた彼はドアノブを掴んで力いっぱい回した。



しかし、ドアノブは全く動かない。



まるで何かで固められたかのようにびくともしなかった。



くそ!・・・・くそ!くそ!・・・・・。



彼は怒鳴るようにして渾身の力でドアノブを回す。



しかし、やはりドアノブは1ミリも動かなかった。



こんな事をしていたら捕まってしまう・・・・。



いや、殺されてしまうかもしれない・・・・。



そう考えると、彼は心臓が破裂しそうなほど早く波打っているのが分かった。



ここが駄目なら、他に脱出出来るところは?



彼は必死に考えた。



そして、先ほど広間の窓を開けようとした時、窓こそ開かなかったが、その造り



自体はそれほど頑丈なものには見えなかった事を思い出す。



そして、彼は窓の方へ移動しようと振り返った。



心臓が止まりそうになった。



其処には彼の目の前に立ち並ぶ様に、先ほどの女と、そして廊下に立っていた



男女が彼の顔を覗き込んでいた。



彼は再び絶叫しそうになったが、それよりも先に、彼の意識は一気に



失われた。



そして、それから、どれくらいの時間が経過したのだろう。



彼は暗闇の中で目を覚ました。



彼は何が起こったのかという事も考えようともせず、そのままドアノブに



飛びついた。



ドアノブは軽く回った。



彼は重い扉を一気に開けると、そのまま洋館の外に出た。



そして、急いで乗って来た車に乗り込むと、エンジンをかけ、



中からドアをロックした。



考える余裕など無かった。



早くこの場から逃げなければ・・・・。



それだけを考えていた。



すると、突然、前方がぼうっと明るくなった。



彼は思わずその明かりを見た。



そこには、窓から彼を見つめる無数の朽ち果てた顔があった。



どの顔も気持ち悪いくらいの満面の笑みを浮かべていた。



彼は、急いで車を発進させるとそのままその場から走り去った。



しかし、恐怖のあまりスピードを出し過ぎていたのかもしれない。



丘を下っている途中、ガードレールを突き破って、そのまま崖の下まで



車は落ちて行った。



彼は、その後、大きな音に気付いた近くの住民によって警察に連絡され、



そして、数時間後に救助されたが、体にはかなりの大怪我をしていた。



ただ、医者によると、事故による怪我とは到底思えない不可解な傷が体中に



付いていたという。



まるで、何か鋭利なもので体中をなぞられたように深い1本線の傷が



体中を埋め尽くしていたということだった。



彼は結局、バイト先から何故か慰謝料として、満額ではなかったが、かなりの



金額の見舞金をもらった。



そのせいか、彼は退院した後も、いまだに危険なバイトを続けている。



そして、体の怪我は治ったが、何故か体に付けられた1本線のの深く太い



傷跡だけはいつまで経っても消えないそうだ。



まるで、何かの目印の様に・・・・。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:27│Comments(0)
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