2018年11月10日

廃線路を走るモノ

これは知人から聞いた話。



知人とは仕事上の付き合いなのだが、何かと気が合って、たまに



一緒に飲みに行ったりしている。



そして、彼は能登に住んでいる。



能登は残念ながら交通の便が良いとは言えない。



車があれば全く問題無いのだが、バスや電車で行こうとするとその不便さには



閉口してしまう。



彼自身は、当然車を所有しているから問題無いのだが、彼の家は七尾市の



郊外に新築で購入したものらしく、喫煙家の彼としてはなかなか不便な



思いをしているそうだ。



それはやはり、家族の手前、家の中では煙草を吸う事が出来ないということ。



もっとも、そんな事はよくある話なのだが・・・。



ただ、彼の状況が少し他の人と違うのは、家のすぐ横に廃線になった列車の



線路がいまだに残されているということである。



確かに、能登に行くと、いまだにはっきりと線路が残されている場所が



多いのは以前から知っていた。



元々、七尾市で生まれ育った彼にとって、それまではそんな事など気にした



事は無かったという。



しかし、廃止された線路の近くに住んでみると、やはり少々不思議な事が



起こるのだという。



彼はもしかしたら霊感が強いのかもしれないが、よくベランダに出て



煙草を吸っているとかなり向こうの線路を列車が通っているのを何度も目撃



した事があるという。



勿論、それは夜間に限っての事なのだが、それでも、どこか頼りない明かりを



残しながら列車が走り過ぎていくのを見ると、まるで自分が別の世界にでも



紛れ込んでしまったかのように感じて恐ろしくなる。



そして、その話を家族にしても、誰も彼の話を信じてはくれなかった。



ただ、過去に何度か寝ている時、彼は振動の様なものを感じて目を開けると、



家の近くの線路を走っていく列車の音と振動がはっきりと分かったという。



そして、思わず蒲団から起き上がった彼が見たのは、蒲団に包まりながら



恐ろしそうな顔で目を開けている妻の顔だった。



その時、彼は感じた。



妻も列車の話を信じてはくれないが、間違いなく、その時は列車が通り過ぎていく



音と振動をはっきりと感じていたのだ、と。



それからは、少しだけ気が楽になったそうだが、一度だけ本当に恐ろしい体験を



したのだという。



そして、それはこんな内容だった。



その日、彼は仕事から帰宅し、いつもの様に食事と風呂に入って、いつもより



早い時間に床についた。



特別疲れていたという訳ではなかったが、何か気持ちが落ち着かなかったという。



そして、蒲団に入り目をつぶっていたがなかなか寝付けない。



それでも、2時間ほど布団の中でぼんやりと過ごしていると知らないうちに



寝てしまったそうだ。



そして、何故か真夜中に目が覚めた。



時計を見ると、午前2時半くらいだった。



彼は一度寝ると朝まで起きないというのが、自慢だったらしいのだが、



その時には何故かはっきりと目が覚めてしまったという。



妻は隣でいつものように寝ていた。



彼は、仕方なく煙草を持つと、そのまま寝室の横にあるベランダに行った。



勿論、煙草を吸う為に・・・。



ベランダに出ると、さすがに車が1台も走っていなかった。



それにしても、秋だというのに虫の音が全く聞こえてこない。



虫も寝てるのかな・・・・。



そんな事を考えながら彼は煙草に火を点けた。



肺の奥まで煙を吸い込んで、そして思いっきり吐き出す。



まさに至福の瞬間だった。



煙草の白い煙が秋の冷たい空気に溶けていく。



そして、その時、彼はずっと遥か向こうを走っていく列車の明かりの様なものを



見つけた。



もう、この地域には列車など走ってはいない筈だった。



いつもは気持ち悪く感じる、正体不明の列車も、その時の彼には、どこか



懐かしいものに感じられた。



あの列車は何処から来て、何処まで行くんだろうか・・・・・。



そんな事をぼんやりと考えながら彼は、その遠ざかる明かりを見ながら煙草を



吸い続けた。



その時、突然、彼は何かの視線を感じて、その場に固まった。



誰かに見られている・・・・。



しかも、一人や二人ではなく、もっと大勢に・・・・。



彼は恐る恐る視線を落とすと、そこには真っ黒な列車が線路の上で停車していた。



1度、視線をその列車に向けてしまうと、もうそこから視線を外す事は



出来なかった。



怖い筈なのに、どうしてもその列車を見てしまう自分がいた。



すると、列車の中には沢山の人が乗っており、乗客の殆どが彼を



凝視していた。



睨んでいるというのではなく、ただ、じっと見つめている様に見えた。



羨ましそうな眼・・・。



そんな表現がピッタリくる顔だった。



そして、列車に乗っているそれらの乗客は皆、同じ服装をしていたという。



藁の袋に穴を開けて着ている様な服装。



それが、まるで囚人服の様に見えて、彼は更に恐怖した。



それでも視線はどうしても外す事は出来なかった。



そして、そうやって列車の車内を見ているうちに、彼はある事に気付いた。



それは、列車の乗客の中に、周りのモノ達とは様子が違う人間がいる、



という事。



他の乗客たちはまるで生気の無い、死人の様な顔をしていたのだが、その中の



ごく少数の人間は、まるでその列車から逃げ出そうともがいている様に



見えた。



彼はとっくに煙草を吸い終えて、火が消えた煙草をただ口にくわえている



だけだったが、彼にはその煙草を口から離す事も、そして体を動かす事も



出来なかった。



そのまま、そんな時間がどれくらい過ぎただろうか・・・。



突然、その列車は静かにゆっくりと動き出した。



離れていく列車の窓からは沢山の顔がいつまでも彼の顔を見つめていた。



そして、もう列車の窓すら分からない位の距離まで離れた所で彼の体は



金縛りが解かれたかのように自由になった。



しかし、彼は体の力が抜けてしまい、そのまま茫然とその列車が見えなくなる



まで、見つめ続けていたという。



そして、そのまま彼は寝室に戻り布団に入ったが、朝まで一睡も出来なかった。



その時の恐怖で頭の中が混乱していた。



そして、無事に朝になったが、彼はその夜見た列車の事は家族には一切



喋らなかった。



別に信じてくれないから、という理由ではなかった。



何故か、その列車の事は、他の人に話してはいけないのだと感じたからだった。



ただ、その事があってから、彼は何度か同じような体験をした。



真夜中に目が覚めて、ベランダで煙草を吸おうと思い窓に近づいた時、何か違和感を



感じてカーテンの蔭から外を見ると、そこにはあの列車が停まっていた。



同じように生気の無い人達を乗せて、そして逃げ出そうと足掻いている



人を乗せて・・・・・。



そんな事が数回続いてから、彼はもう2度とベランダで煙草を吸うのを



辞めて、今では台所の換気扇の前だけが彼の喫煙場所になっている。



そして、彼は最後にこう言っていた。



きっとあの列車は俺の事を迎えに来ているんだと思う。



だから、今度またベランダで煙草を吸っていて、あの列車に出会ってしまったら、



その時には今度こそ、あの列車に連れて行かれてしまうような気がする、と。



そして、あの時見たように自分も、その列車から必死で逃げだそうと足掻いたまま



何処かへ連れて行かれるんだろうな、と。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:31│Comments(0)
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