2018年11月10日

天窓

これは知人女性から聞いた話である。



その女性は以前の勤務先の同僚であり、結婚して会社を辞めたのだが、



その後も仲の良かった数人での付き合いが続いている。



彼女が結婚したのは、小さいながらも住宅販売会社の社長さんだった。



そして、結婚すると、夫の方から二人の新居を建てようか、と提案があった。



勿論、彼女は大賛成し、土地探しと同時に家の設計に入った。



そして、その中で彼女がどうしても譲れなかったのが、寝室に天窓が



在る家に住みたいという事だった。



それは、彼女の幼い頃からの夢であり、天窓から星空を見ながら眠れたら



どんなに幸せだろう、という想いからだった。



土地探しも家の設計も全てが順調に進んだ。



そして、数ヵ月後には彼ら夫婦の新居が完成した。



そして、寝室の天井には、しっかりと天窓が備えられていた。



そして、実際に天窓から星空を見ながら眠ると、とても寝つきが良く



朝も幸せな気分で目覚める事が出来た。



そして、彼ら夫婦の新婚生活はとても楽しく幸せなものになった。



しかし、結婚生活にも慣れてきて仕事と火事の忙しさも重なってしまうと



なかなか天窓から夜空を見上げる余裕も無くなってしまう。



そのうち、彼女は寝ている時、いつも怖い夢ばかりを見るようになった。



いつも何か恐ろしいものに追いかけられる夢。



逃げて逃げても追いかけてくる。



そして、いよいよ追いつかれそうになった時、いつも夢から醒めた。



夫も心配してくれて、仕事を少し休んだらどうだ?と言ってくれた。



しかし、彼女はもしかしたら自分でも気付かないうちに生活の中で



ストレスを感じていたのかもしれないと思った。



そして、思い出したのが、例の天窓だった。



彼女は、その日、いつもより早めに1人で寝室に向かった。



1人きりで天窓から星を眺めていれば、きっとリラックスして眠れる。



そう思っていた。



ベッドに入り明かりを消す。



天窓からは綺麗な星空が見えるはずだった。



しかし、天窓は真っ暗で何も見えない・・・。



あれ?



そう思いながら、ぼんやりと天窓を見つめ続けた。



天気は晴れのはず・・・。



それならば、当然、綺麗な星空が見えるはず・・・・。



そう思って、彼女は半ば意地になって天窓を睨み続ける。



そうしているうちに、彼女の目が暗闇に慣れてきた。



すると、天窓の方で何かが動くのが見えた。



彼女は最初、猫でも屋根にいるのかな、と思ったらしい。



しかし、暗闇に目が慣れた彼女が見たものは決して猫などではなかった。



その天窓には、無数の顔が折り重なるようにしながら、窓の外から



ジッとこちらを見ていた。



彼女は思わず悲鳴をあげてしまった。



そして、その悲鳴を聞いて夫がバタバタとやって来た。



夫は明かりをつけて、妻の身を案じた。



しかし、彼女は夫の問いかけに対して、



窓!・・・・窓に何かいる・・・・。



そう返すのが精一杯だった。



そして、夫は彼女に言われたとおりに天窓を点検した。



しかし、何処にも何もいない・・・・。



きっと疲れてるんだよ・・・。



夫はそう言うと、そそくさとリビングに戻り、戸締りを確認して



2階の寝室に戻ってきた。



一緒に居てあげるから・・・・。



安心して眠るといいよ・・・・。



明かりはしばらく点けたままにしておくから・・・。



そう言われ、彼女はゆっくりと目を閉じた。



確かに疲れていたのかもしれない。



先ほどの恐怖も忘れてしまったかのように、彼女はすぐに深い眠りに就いた。



体はまるでベッドの中に深く沈んでいくかのように深い眠りだった。



しかし、彼女は夜中に目を覚ました。



部屋の電気は既に消されており、真っ暗になっていた。



時計を見ると、午前2時半を指していた。



頭がぼんやりとしていた。



どうしてこんな時刻に目を覚ましちゃったんだろう・・・・。



そう思いながら、彼女は再び、天窓のほうを見た。



天窓からは綺麗な星空が見えていた。



これこれ・・・これが見たかったのよ・・・。



そう思いながら、彼女はジッと目を凝らして綺麗な星空を見つめ続けた。



やっぱり私は疲れていたんだ・・・・。



だから、幻覚を見てしまっただけ・・・・。



そう考えていると、先ほどあれ程恐怖で固まっていた自分が滑稽に



感じられてしまう。



やっぱり天窓のある家にして正解だったな・・・・。



そんな事を思っていると、何処からか声が聞こえてきた。



こんな時間に誰だろ?



最初はそう思っていたが、どうやらその声はまるで自分の耳元で



囁いているように聞こえてくる。



あけて~・・・・・あけて・・・・あけて・・・・。



それは1人の声ではなかった。



男も女も、そして大人の声も子供の声も混じっていた。



ハッとして彼女が天窓を見ると、また先ほどの沢山の顔が天窓に



張り付いてガラスを指でコツコツと叩いている。



彼女は、急いで夫を起こそうとしたらしい。



そして、横を見ると、そこには寝たままの状態で顔を彼女の方に向け、



じっと顔を見つめている夫がいた。



彼女は、その顔が、いつもの優しい夫の顔ではない、と一瞬で感じ取った。



そして、そのまま固まっていると、夫はブツブツと言いながら



ベッドから起き上がった。



そして、



今開ける・・・・早く開けなきゃ・・・・。



そう言いながら、電動で天窓を開ける為のスイッチの方へと歩いていく。



ちょっと・・・ちょっと止めてよ!



そう叫ぶ彼女の顔を夫は一瞬振り返ってみたらしいが、何かとても



嬉しそうな顔をしており、それが逆に恐ろしく感じた彼女はそのまま



口を閉ざした。



すると、次の瞬間、夫が天窓のスイッチを押したのだろう・・・。



ウイーンという音とともに、天窓かゆっくりと開いていく。



その瞬間、幾つもの白い靄のようなものが部屋の中に入ってきて、



それはやがて人の形になった。



首から下はぼんやりと靄のようにかすれていたが、顔だけはどれも



はっきりとしており、それが、とても異様だった。



そして、それらの顔は、突然、スッと彼女が上半身を起こしている



ベッドのすぐ脇まで近寄り、彼女を取り囲んだ。



そして、何故か、その中に彼女の夫の顔もあり、彼女は恐怖のあまり



そのまま失神した。



次に彼女が目を覚ましたのは、明るい朝日が差し込んでいる部屋だった。



いつもの様に、彼女はベッドで寝ており、横には夫もスヤスヤと寝ている。



その後、彼女は夫を揺り起こし、昨晩の事を聞いてみたが、どうやら



全く何も憶えていないという事だった。



しかも、自分がいつ、ベッドに入ったかも憶えていなかった。



彼女は、夢であって欲しいと願った。



しかし、昨夜開いた天窓は、まだしっかりと開いたままになっていた。



結局、彼女は、夫に頼み込んで、その家を売りに出した。



そして、その家はすぐに売れてしまい、それから彼女たち夫婦は



アパートの一室で生活する事になった。



彼女はこう言っていた。



あいつらが、何物なのか、全く分からない・・・・。



でも、まだ、家の中に居る様な気がして・・・。



だから、家は売るしかなかった・・・。



次の購入者には、悪いけど・・・。



そう言って、申し訳なさそうな顔をしていた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:39│Comments(0)
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