2018年11月10日

髪が伸びる人形

これは知人夫婦が体験した話である。



知人夫婦は俺の趣味関係の知り合いである。



趣味というのは写真撮影。



元々、彼らが出会ったのも偶然、撮影に出かけた土地だったというのだから、



まさにカメラが取り持つ縁というやつだ。



結婚してからも彼らのカメラ熱は冷める事は無く、いつも休みになると夫婦そろって



撮影旅行に出掛ける。



そして、持っているカメラや機材もプロ顔負けの高級な物ばかりだったから、



俺はいつもそんな彼らを羨ましく見ていた。



そんな彼らの撮影する写真にも、ごく稀に霊が写り込んでしまう事もあったが、



彼らは元々霊などというものは全く信じてはおらず、また、俺もそんな彼らの考えを



否定するつもりもなかったから、あくまで写真仲間という付き合いがずっと



続いていた。



そんな彼らにある日、子供が出来た。



元気な男の子だった。



それからというもの、彼らの撮影対象は風景や動物から、完全にわが子に



移っていった。



撮影旅行に出掛ける事もなくなり、家の中でわが子の愛らしい姿を撮影しては、



大きく引き伸ばし、家の中の至る所に貼っては、それを眺めるのが



何よりも幸せな時間になった。



そして、ある時、父親である彼が元気に育つようにと、大きな日本人形を



買ってきた。



それは、かなり高価な日本人形ではあったが、とても大きなものであり、早く



その人形を追い越す位に大きくなって欲しいという彼の願いが込められていた。



そして、そんな気持ちを知ってか、息子さんもその人形が気に入ったらしく、



それからは、スナップ写真はいつもその人形と一緒に写るようになつていく。



そして、そんな写真は、男の子が大きくなるに従って家の中を埋め尽くすほどに



なった。



彼ら家族は本当に幸せな時間の中にいたと思う。



そして、それはあまりにも突然だった。



小学校の2年生になっていた息子さんは、学校から帰り道、暴走した若者の



車に轢かれて亡くなってしまう。



それまで、全ての愛情を傾けていたものが、突然、消えてしまう。



その悲しみはとても計り知れないものだった。



彼らは仕事も手につかず、家の中でもお互いに会話すら交わさない生活に



変わっていった。



そして、母親は息子が大好きだったその日本人形をまるで我が子のように



可愛がるようになった。



食事の時も寝る時も、いつも一緒に過ごした。



そして、息子に語りかけるかのように、その人形にもいつも語りかけていた。



ただ、俺には一抹の不安はあった。



もしかして、その人形に邪悪な霊が入り込んでしまっていたら・・・。



そう考えた俺は、一度、その人形を見せて貰った事がある。



とても穏やかな顔をしていた。



まるで、彼らを温かく見守っているかのようだった。



それに、その人形が、ぎりぎりの所で彼ら夫婦の関係も維持出来ている力



になっていると感じた。



だから、俺は安心して、彼らの家を後にした。



しかし、ある時、一つの噂が耳に入る。



それは、その彼らの家にある人形が不気味すぎるというものだった。



髪が伸び、そして顔が以前とは違っているのだと・・・。



しかし、既に、その人形をこの目で見ていた俺は、何も心配などしなかった。



何故なら、その人形からは邪悪な気や、陰の気というものは一切感じなかった



のだから。



しかし、世の中にはお節介な人間もいる。



彼らの仕事上の知り合いの紹介という事で、とある霊能者という者が、



彼らの家に出向き、そしてその人形を霊視したのだという。



そして、その結果として、その人形は呪われており、悪霊が住み付いていると。



更に、そのままその人形を所有していると、彼らは命を落とす事になるのだ、と。



その人形を亡くなった我が子の代わりのようにして接していた彼らにとって、



それは寝耳に水といった感じだった。



全く信じられる話ではなかった。



そして、ちょうどその頃、時同じくして、彼らの息子さんを事故で死なせた



若者が、車を運転中に事故で亡くなってしまう。



そして、それは瞬く間に、その人形の呪いだと広まっていく。



さすがに、恐ろしくなった彼らは俺に誰か他の霊能者を紹介して欲しい、と



頼んできた。



そして、俺が紹介できる霊能者といえば、Aさんしか存在していない。



事情を話すと、Aさんは快く応じてくれた。



そして、彼らの家に行き、その人形を見た時、Aさんは、こう言った。



ふうん・・・・わかりました。



で、その霊能者という奴を此処に呼んで貰えますか?



と言ってきた。



2時間ほど待っていると、その霊能者という人物も彼らの家にやってきた。



そして、Aさんを見るなり、



ああ・・・あなたも霊能者ですか?



どうです・・・私の霊視に間違いは無かったでしょう?



と切り出した。



すると、Aさんは、笑いながら、



別に私は霊能者じゃありませんけどね。



でも、それでも分かりますよ。



この人形は呪われてもいないし、悪霊なんかが入り込んでもいませんから。



確かに、この人形の中には霊体がひとつだけ入り込んでいますけどね。



でも、それって、悪霊なんかじゃなくて亡くなった息子さんの霊ですから。



両親と離れたくなくて人形の中に入って一緒にいる。



そして、僕は此処にいるよ、と知って欲しくて髪を伸ばしたりする。



それって、何か悪い事なんですか?



亡くなっても子供が一緒に居たいと思うのは普通だし、そして現にこの人形の



中にいる息子さんが、こちらのご夫婦の中を取り持ってる。



それって、素晴らしい事じゃないんですかね?



人形の髪が伸びるから邪悪だ。



処分しないといけないって、どれだけ素人さんなんですか?



それに、本当にこの人形に悪霊がとり憑いているのだとしたら、貴方程度の



霊能者には絶対に祓えませんよ・・・。



人形っていうのは、それ程恐ろしいものなんですから・・・。



どうしても、悪霊がとり憑いた人形を祓ってみたいと仰るんでしたら、



今すぐに、そんな危険な人形を持参しますけど?



まあ、命の保証は出来ませんけどね・・・。



そう言うと、その霊能者はすごすごと退散していった。



そして、帰り道、俺はAさんに聞いた。



Aさんには、人形にとり憑いている息子さんが見えたの?と。



すると、Aさんは、呆れたようにこう返してきた。



あのですね。



あの男の子はとり憑いてなんかいませんからね。



ただ、両親の傍に居たいだけです。



だから、嬉しそうに笑ってましたよ。



きっと幸せなんだと思います。



そう言っていた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:42│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count