2018年11月10日

業務用エレベータ

これは知人から聞いた話。



彼は大手デパートに勤めている。



大学を卒業してすぐにそのデパートに就職した。



当時は、出世や高給が見込める職種だったらしいが、現在は決してそうではなく



どちらかといえば、かなりブラック寄りの労働環境なのだという。



特に彼が以前勤務していたのは、催事場を管理してイベントをうまくまとめる



仕事。



毎週、週末前になると、それこそ徹夜でイベント業者が会場を設営し、出品



業者が品物を搬入する。



いつもは、夜になると真っ暗な催事場が、その時ばかりは、一晩中、照明が点き



活気に満ちている。



そして、デパートなどには必ず品物を搬入する為の専用のエレベータが設置



されている。



それは人間が乗るエレベータとは違い、奥行きがあり天井も高く、ドアの



開閉口も、比較にならない程大きく作られている。



そんな業務用エレベータだが、ある頃から不思議な噂が流れ始める。



それは、そのエレベータが夜中、勝手に動いているという噂だった。



当然、誰も乗っている筈もなかった。



昼間にはそんな事は起こらなかった。



だから、彼もそんな噂など信じていなかったようだ。



そんなある日、そのデパートで、ある展示会が開催されることになった。



それはかなり古い時代の中国の遺跡から出土した品々を展示するものだった。



昼間のうちに、出展物は全て搬入された。



しかし、何かの手違いで設営業者の手配が出来ていなかった。



急きょ、連絡すると、どうやら明日なら何とか現場に入れるとの事だった。



かといって、出展物をまた、搬出して保管する訳にも行かず、結局、その夜は



がらんとした会場に、そのまま出展物が置かれる事になった。



通常なら、それほどの出展物になれば、警備員が付随するそうだが、その時は



あくまで緊急的措置の為、警備員無しで一夜を明かす事になる。



ただ、誰も居ない催事場に、そのまま出展物を放置するわけにもいかず、彼は



責任者として、部下1人と、その催事場で、出展物が盗まれないように



警備し、夜を明かす事になった。



午後8時を回るとデパートの中にも他の従業員の姿は完全に無くなってしまい、



広い催事場はしんと静まり返り、不気味ですらあった。



そして、ちょうど午前0時を過ぎた頃、異変が起こる。



業務用エレベータの扉が開く音が聞こえてくる。



催事場から10メートル程しか離れていない暗闇が開いたエレベータのドア



から漏れる明かりで一瞬、明るくなる。



そして、しばらくすると、扉は閉まり、また、暗闇に支配される。



誰か来たのかな?



彼がそう言って待っていたが誰もこちらに来る者はいなかった。



ちょっと見た来てくれるか?



彼は部下にそう指示すると、その部下は、嫌そうな顔をしながら、渋々と



いった感じでエレベータがある暗闇の方へと歩いていく。



そして、しばらくして戻って来た部下は、



やはり誰もいませんでした・・・・。



それよりも、エレベータは上に行ったり下に行ったりと動いてるんです。



そう言われた彼は、



それじゃ、やっぱり誰かいるんじゃないのか?



と返すと、



先ほど、守衛さんが来たと思うんですけど・・・・。



もう、建物の中には誰も残っていないから火の元には気をつけてくださいって。



確かにそれは彼も知っていた。



ただ、エレベータが動いている以上、誰かが乗っているとしか考えられなかった。



そして、部下はボソッと小さな声で彼に聞いてきた。



○○さん、あのエレベータの話、ご存じですか?



ほら、幽霊が乗って一晩中、動いているって・・・・・。



真顔で怖がっている部下を見て彼は、不思議に思ったらしいが、



それじゃ、俺がもう一度見てきてやるから。



と言って、暗闇の中をエレベータに向かって歩いていった。



そして、エレベータの前に着き、階数表示を見てみると確かにエレベータは



上に行ったり、下に行ったりして動き続けていた。



誰かがいたずらしているに違いない・・・・。



そう思っていると、エレベータがスルスルと催事場の在る8階まで上がって来た。



これは好都合だ!



そう思った彼は、扉が開くのを待って、いたずらしているのが誰なのか、を



付き留めようとした。



そして、彼のいる階に停止したエレベータはゆっくりと扉を開く。



彼は、鬼の様な形相でドアの前に仁王立ちしていたが、扉が開いた途端に



拍子抜けしてしまった。



其処には、誰も乗ってはいなかった。



そして、そのままエレベータのドアが閉まり、今度は無人のままレストラン街が



在る最上階へとのぼっていった。



いったい、どうなってるんだ?



俺も、そして部下もエレベータなんか呼んでいないのに・・・・。



すると、今度は催事場からアラームの音が聞こえてきた。



彼は慌てて催事場に戻ると、部下がその場て立ち尽くし顔面蒼白になっている。



どうした?



彼が聞くと、部下はうわずった声で、



分かりません。



何故かセンサーが作動してしまって・・・。



そう言われ、彼は思い出した。



時価総額がとんでもなく高価な展示品に対して警備員をふたり用意しただけではなく、



展示品の四隅には人がある一定以上近づくとアラームで警告するセンサーが



設置されていたことを・・・・。



それにしても、どうして・・・・・。



彼が原因を考えていると、今度は立て続けにセンサーが作動し全てのアラームが



鳴りだした。



部下は既にパニックになり、



エレベータだけじゃなく、この催事場にも何かがいるんですよ・・・。



しかも、一人や二人じゃなくて、もつと沢山の何かが・・・・。



そう言うので、さすがにい彼も気味悪くなってしまい、1階にいる警備員を



呼びに行こうという事になった。



そして、1階に降りるには真っ暗な階段を手探りで降りていくか、それとも



いわくつきの業務用エレベータに乗るしか手段は無かったが、彼は迷わず、



業務用エレベータを選択した。



怖がる部下を諭すようにして一緒にエレベータへと歩く。



そして、エレベータを呼ぶ為に、ボタンを押そうとした瞬間、エレベータのドアは



暗闇の中で静かに開いた。



さすがに、彼も背筋か寒くなったが、そうなると少しでも早く1階へと



降り警備員に助けを求めたくなってしまった。



彼と部下は無言のままエレベータに乗り込んだ。



そして、1階の階数ボタンを押す。



エレベータのドアが閉まりゆっくりとエレベータは動きだした。



しかも、上へ上昇していく。



1階の階数ボタンを間違いなく押した筈なのに・・・・。



彼もそして部下も既に限界に来ていた。



得体の知れない恐怖に押しつぶされそうになっていた。



エレベータの上昇する音さえ不気味に感じた。



そして、エレベータは9階で停まり、誰もいない真っ暗なレストラン街



が目の前に現れた。



彼も部下も固まってしまい全く動けなかった。



すると、暗闇の中から、誰かが近づいてくる音が聞こえた。



カツン、カツン、カツン、カツン・・・・・。



それはゆっくりとした速度だが、間違いなくエレベータに向かって歩いて



来ていた。



彼は慌ててとあの開閉ボタンを押してドアを閉めようとした。



しかし、エレベータはまるで壊れてしまったかのように、何の反応もしなかった。



このボロエレベータが!



早くドアを閉めろよ!



恐怖から、言葉も荒くなった。



すると、その言葉が通じたのか、ドアはまた静かに閉じてくれた。



エレベータの中では、彼と部下の二人がぐったりとして入口のドア付近で



うなだれていた。



なんなんだ?・・・・・あの足音は?



彼がそう言うと、部下は震えた声で



ハイヒールの音に聞こえませんでしたか?



と返してきた。



彼も部下も恐怖で泣きそうになっていたが、それでもエレベータが動き出した



いじょう、1階へ降りるのをただ待っていれば良かった。



だから、彼も部下も少しだけホッとしていたのかもしれない。



何階ですか?



その声は突然、背後から聞こえた。



彼は固まったまま動けないでいると、また



何階ですか?



と聞いてきた。



そして、



ヒッヒッヒッヒッ・・・・・。



という微かな笑い声が聞こえてきた。



彼は生きた心地がしなかったという。



1階まで降りるほんの数秒がとてつもなく長い時間に感じたという。



そして、エレベータが1階へ着き、ドアが開くと同時に彼らは我先にと



ドアから転がるようにして飛び出した。



その様子を見て、警備員も何事かと駆け寄って来たという。



そして、エレベータのドアは再び閉まると、また、不規則な動きでずっと



動き続けていたという。



ちなみに、そのまま警備員室で朝を迎えた彼と部下が、朝になってから



催事場に戻ると、展示品を含め、全ての物に何も異常は無かったという事だ。



そのエレベータは今も実在し、そして誰かを乗せたまま朝が来るまで



動き続けているのだろう。



・・・・・・・・・・・・・。



と、ここまでが、今回の話なのたが、実は以前、これと同じような経験が



在るので、その時の事を話そうと思う。



それは、知人から頼まれて、今回の話と同じように真夜中に無人のまま



動き続けるといういわくつきのエレベータをAさんと調べに行った時の話



である。



それはとあるマンションのエレベータであり、勿論、業務用ではないのだが。



その時も、やはりエレベータは無人のまま動き続けていた。



時刻にして午前0時を回った頃から、そのエレベータは異常な動きを始めた。



その為、住民の中で、それ以後の時間帯に帰宅した者は、いつしか



非常階段で、自室のある階までのぼらなければいけなかった。



俺とAさんは、そのエレベータが何の目的でそんな動きをするのか、



見極める為に、そのエレベータに乗り続けた。



そして、何度か、扉が開くうちに、ドアの外は、明かり一つ灯っていない



漆黒の闇になっていった。



そして、ちょうど最上階でエレベータが停まり、通常よりも長い間、扉が



開いたままになった。



すると、Aさんが、



いよいよ、犯人が乗って来ますよ・・・・。



Kさん、覚悟してくださいね・・・・。



そう言ってきた。



そして、エレベータの中が急に寒くなった。



俺はAさんに言われて、エレベータの出来るだけ前の方に立っていた。



そうする方が、霊が現れやすいから、とAさんに言われたから・・・・。



そして、。ドアが閉まる。



得体の知れない緊張感がエレベータ内に広がっていく。



Aさんも、一言も喋らない・・・。



やはり、緊張しているのだろうか?



そう思っていた時、突然、背後から、



何階ですか?



という声が聞こえた。



Aさんは反応しない。



心配になった俺が、横を見ると、Aさんが肩を小刻みに震わせている。



ちょっ・・・ちょっと、Aさん・・・大丈夫なの?



俺は、その時、かなり不安感を抱いていた。



すると、また、



何階ですか?



という声が聞こえてくる。



しかも、先ほどよりかなりビブラートがかかった低い声で・・・・・。



と、その時、



あはは・・・あっ、もう駄目・・・・・・限界・・・・あははははははは、



というAさんの高らかな声が聞こえてきた。



あんた、もうちょっとまともな事言いなさいよ・・・・。



しかも、ちゃんとビブラートまで使って(笑)



何階ですか?って、私達が前に立ってるのにどうやってボタン押すの?(笑)



普通に考えれば無理でしょ?(笑)



もっと、ちゃんと、TPOに応じた話術を身に付けないとね(笑)



こんばんは・・・とか、はじめまして、とか、色々あるでしょ?(笑)



それとね・・・・エレベータの中、急に寒くするの、止めてね!



心臓にも悪いし血圧だってあがっちゃうし・・・・。



だいいち、それで私が風邪でも引いて、仕事休んだら責任取れるの?



と、大笑いの後、言いたい放題。



後ろを振り向くと、コートを着た女の霊が立っており、どうしたらいいのか、



分からない、といった表情をしている。



そして、再び、Aさんが、



それで、このエレベータで何がしたいの?



退屈でエレベータで遊びたいんなら、誰にも気付かれないようにやらなきゃ!



生きていると、エレベータを使わずに高層階まで上るのって辛いのよ。



だから、そのうちに、私みたいに優しい人じゃなくて、問答無用な強い霊能者



でも呼ばれたら大変だよ?



だから、出来るだけ目立たないようにやらなきゃ!



わかった?



ちゃんと忠告はしたからね!



そう言って、エレベータを1階まで降りさせると、さっさとエレベータから



出ていった。



勿論、俺も・・・・。



そして、それからの帰り道、Aさんに聞いてみた。



いつも、あんな風に幽霊をからかってるんでしょ?と。



すると、Aさんは、



別に、どんな相手にもあんな対応するわけないじゃないですか?



エレベータにあの女性が入って来た時、あっ、この娘は良い子だ!って



思ったからですよ!



あの娘は、エレベータに乗ってるのが楽しいんです!



そして、出来れば、生きている人とも交流したがってる・・・・。



でも、それってなかなか難しいから・・・・。



だから、常に一定の距離を置いて、共存するしかないんですよ・・・。・



あの娘も分かってくれてると良いけど・・・・。



そう言っていた。



確かに、その女性は、ある意味ずっと無表情であり、茫然としている、



という感じだった。



しかし、それは取り越し苦労に過ぎなかった。



それから、そのエレベータでは、勝手に無人のエレベータが動き続けるという



事は無くなったらしい。



しかし、今でも、その女性はそのエレベータ、そしてマンションに存在



しているらしい。



Aさんが言うのだから間違いないのだろう。



だとすれば、きちんとAさんからの忠告を守っているということなのかもしれない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:47│Comments(0)
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