2018年11月10日

トイレ

これは俺の友人から聞いた話。



彼は仕事でよく関西や名古屋に出張している。



以前は、一泊してから翌日のんびりと帰るという事が許されていたそうだが、



いつの頃からか、景気の悪化に伴い、関東、中京、関西までは基本的には



日帰り出張しか認められなくなった。



勿論、東京などの関東には車ではなく新幹線を利用するのだから、一日での



往復も苦にならないかもしれないが、やはり大阪・神戸・名古屋などへの



出張は基本的に営業者での出張になる訳で、一日で700キロ~800キロ以上



走っての往復は、本当に過酷なものであるらしい。



そんな彼が、ある時体験した話を聞かせてくれたので、此処に書き記したい。



その日、彼は早朝から車を走らせ神戸のメーカーへと向かっていた。



北陸自動車道は車も少なく走り易いのだが、名神高速に入ってからは、一気に



車の通行量が増え、運転していても疲れる。



結局、渋滞にも巻き込まれ、彼が神戸のメーカーに到着したのは午前10時を



回っていた。



それから、メーカーとの打ち合わせに入り、一緒に食事をしてから、今度は



別の顧客の所を回ったそうだ。



そこで、幾つかの問題が発生してしまい、結局、彼がその日のスケジュールを



全て完了出来たのは、午後8時を回っていた。



以前なら、その日は神戸に一泊、となるところだが、もうそんな事は



許されるはずもなく、彼はコンビニでパンとおにぎりを買って、再び



高速道路で帰路に就いた。



渋滞になる時刻とかなりずれていたので、行きよりも、帰りの高速は走り易かった。



気分よく走っていた彼だが、運悪く工事渋滞に掴まってしまう。



そこで、彼は仕方なく最寄りのICで高速を降りて国道を通る事にした。



確か、京都東iCだったという。



そこからしばらくは交通量も多かったが、滋賀県に入った辺りから車の量も減って



走りやすくなった。



渋滞のお蔭で時刻は既に午後10時近くになっていた。



彼は遅れを取り戻すべく、快調に車を走らせた。



国道とはいえ、此処から石川県に向かう道は、これからの時間帯はどんどん



車が減っていくのが彼には分かっていたという。



ところが、福井県に入る手前で、事故によって渋滞が発生していた。



本当に今日はついていない日だ・・・・。



そう思いながら彼は渋滞の列の中で事故処理が終わるのを待っていた。



そんな時、激しい腹痛が彼を襲った。



何を食べてそうなったのか、は分からなかったが、とにかくトイレを探す



ということが彼にとっての最優先事項となった。



渋滞の列を抜けて、細い脇道に入った。



しかし、この場所は民家など存在しない場所であり、コンビニのトイレを



借りるという事が無理なのを彼は知っていた。



だから、とりあえず、渋滞の車の列から離れて,どこかの道端で用を足そうと



彼は考えていた。



ところが、細い道に入ってみると案外、街灯のようなものが存在しているもので、



彼はとりあえず、明かりが無く真っ暗な場所を求めて知らない山道を登っていった。



すると、急に視界が開け、そこに公園があるのが分かった。



公演ならばトイレがあるかもしれない・・・・。



そう考えた彼は、車を公園の脇に停めて公園へと入っていった。



案の定、公園の中にはトイレがあった。



しかも、かなり大きく綺麗なトイレが暗闇の中で眩しい位に浮かびあがっている。



助かった・・・・。



彼は、急いでトイレに駆け込むと、個室に入り鍵を掛けた。



トイレの中はとても綺麗で明るかった。



まるで、出来たばかり、といった様子で、彼は無事に用を足す事が出来た。



無事に用を足すと気持にも余裕が出来たのか、彼は、



それにしても、こんな辺鄙な場所に公園とか、こんな綺麗なトイレまで作って・・・。



なんか、税金の無駄遣いなんじゃないの?



等と好き勝手な事を考えていた。



その時、突然、トイレの中に誰かが入って来る足音が聞こえた。



彼は一瞬、ビクッとなって固まったが、個室にいるのがバレない様に、息を



殺して聞き耳を立てた。



トイレの中に入って来た足音は、すぐに聞こえなくなった。



確かに誰かがトイレの中に入って来た筈なのに、どうして音が何も聞こえて



来ないんだろうか?



彼は沈黙に耐えられなくなり、個室の中に自分がいるのを知らせるように一度



ゴホン、と咳払いをしたという。



しかし、相変わらずトイレの中からは何も音は聞こえてこない。



完全に用を足し終えた彼は、トイレの水を流した。



静かすぎるトイレの中に水音だけが響いた。



そして、水が流れ終わると、また無音状態になった。



もしかして俺の勘違いか・・・・。



そう思ったが、確かに先ほど誰かがトイレの中に入って来る音を彼は聞いていた。



その時、彼は考えたという。



もしかして、変質者か何かがトイレの中で俺が個室から出てくるのを



待っていたとしたら・・・・・。



勿論、抵抗するだけの体力は持っているつもりだったが、それでも相手の姿が



確認できないというのはやはり不安だった。



だから、彼はトイレのドアの隙間から外の様子を窺った。



ひっ・・・・・・。



思わず声が出そうになった。



トイレのドアの向こうには、明らかに女が立ってこちらを向いていた。



ドアから50センチと離れていない場所に、直立不動で・・・。



帽子をかぶり、長い髪が、そこから垂れていた。



なんなんだ?・・・・・・この女。



彼はそう思い、もう一度聞き耳を立てた。



しかし、何の音も聞こえてこない。



聞こえるのは、自分の呼吸音だけであり、彼は嫌な予感を感じていた。



幽霊・・・・・・なのか?



でも、どうして・・・・・。



そんな事を考えていると、突然、トイレのドアが、ノックされた。



彼は恐怖で、完全に沈黙を守る事しか出来なかった。



すると、今度は、



ドンドンドン!



と大きくドアが叩かれた。



彼は再びドアの隙間から外の様子を窺った。



ドアの隙間からは、知らない女が顔をくっ付けるようにして隙間からこちらを



覗き込んでいた。



彼は思わず、



うわぁ!



と大きな声をあげて後ろへ後ずさる。



その時、彼は心臓が止まるかと思った。



彼がトイレの狭い個室の中で、後ずさりした時、彼の背中が、間違いなく何かに



触れた。



それは、人間の様に柔らかく、そして服の上からでも分かる程冷たい感触だった。



彼は、顔を後ろに向けて、それが誰なのかを確認しようとした。



ゆっくりと顔を後ろに向けていくと、視界の端に、女のワンピースが映った。



しかも、どう考えてもその方の高さは彼よりも遥かに高いものだった。



彼は後ろを振り返るのを止めて、ゆっくりと個室のドアのロックを解こうとする。



すると、突然、彼の頭上から女の声で、



ねぇ・・・・・・・・。



という声が聞こえた。



彼は、ドアを開けると一気に走ってトイレを抜けて停めていた車の所まで



戻って来た。



後ろを振り向いたが、追いかけてくる女の姿は無かった。



彼は慌てて車のドアを開けて、車内に逃げ込み、エンジンを掛けた。



そして、走り出そうとした瞬間、バックミラーを見た彼の眼にあり得ない



モノが映った。



それは、ワンピースを着て、大きな帽子を被った女の姿だった。



後部座席に姿勢よく座り、角膜の無い白色だけの眼でこちらを睨んでいた。



彼は、そのまま車から転げ落ちるようにして車外に出ると、そのまま



公園の一番明るい場所まで走り逃げた。



そして、いつその女が車から降りてくるかと恐怖しながら、その場に



立ち尽くしていた。



結局、その女が車から出てくる事は無いまま、朝になった。



朝になり、車に近づいた彼は、車内に女の姿が無い事を確認すると、そのまま



急いで国道まで降りて、帰路に就いたという。



その際、恐怖の為、車の窓は全て全開にし、大きな音でラジオを鳴らしながら



帰ったのは言うまでも無い。



ちなみに、それ以後、彼の周りで怪異は一切発生していない。









Posted by 細田塗料株式会社 at 09:48│Comments(0)
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