2018年11月10日

ラジオ

これは友人が体験した話。



彼は今でこそ弁護士という仕事をしているが、以前はバイトで



生計を立てながら、夜はずっと司法試験の勉強という生活を



送っていた。



元々、能登の田舎の出身だった彼は、その頃は完全に



一人暮らし。



金沢市内の安アパートで、自炊生活。



朝、自分で弁当を作り、それを持ってバイトに行く。



そして、夜はバイトの帰りに買ってきた安い材料で適当なものを



造って食べる。



今のそれなりにリッチな生活からはとても想像出来ない。



勿論、彼は東京の大学の法学部を出たが、すぐには司法試験に合格



する事は出来ず、一時は一般の会社にも就職した。



しかし、やはり弁護士になるという幼いころからの夢を捨てきれず、



働きながら司法試験の勉強を続けていたが、やはり正社員として



働きながらの勉強に限界を感じ、結局、会社を辞めてバイト生活



を送るようになった。



勉強の邪魔にならないように部屋にはテレビも無く、唯一の娯楽といえば



ラジオを聴く事だった。



そして、ラジオを聴きながら、彼は夜の8時ころから翌朝の3時頃まで



司法試験の勉強をするのか日課になっていた。



司法試験の勉強と聞けば、暗記や法律の理解が主になるのだからラジオの



音というのは邪魔になるのではないか、と思ってしまうが、さすがに



深夜から夜明け近くまで、独りぼっちで勉強していると、まるで自分が



一人だけ取り残されたような気持ちになってしまい、そういう気持ちを



和らげる為にも、ラジオは欠かせないものになっていたという。



彼がいつも聞くのはある民放の深夜放送だった。



午前1時に始まり、午前5時まで続けられる放送。



パーソナリティの軽快な語り口もあって、彼は勉強の途中に笑わされる



事もしばしばであり、彼には欠かせない放送になっていた。



そして、その夜も彼はその放送を聴きながら、勉強に励んでいた。



外は生憎の雨模様であり、彼は窓を閉め切って机に向かっていた。



相変わらず、楽しく進められる放送内容に、彼はその日も順調に



勉強を進めていたという。



そして、ふと、異変に気付く。



いつもより、パーソナリティの男性の声が低く感じた。



いや、正確にいえば、まるでテープの再生速度を少し落とした様な



不思議な声だった。



電池切れ?



そう思ったが、今聞いているのはカセットテープではなくラジオである。



電池が少なくなってきたからと言って、再生が遅くなるという事も



在り得なかった。



あれ?おかしいな・・・・。



そうは思ったが、あくまでラジオはBGM代わりに流しているものであり、



彼は気にせず勉強に集中した。



そして、次に彼がラジオに耳を傾けた時、ラジオからは、とても人間とは



思えないような声が流れていた。



音声にエフェクトをかけ、それを更に大幅に遅く再生した感じ。



何を話しているのかも聞き取れなかった。



その時点で、彼は勉強そっとのけで、ラジオに集中してしまう。



きっと、ラジオ番組の企画で、何か面白い事でもしているのだろう。



そう思ったという。



しかし、どうも様子が違った。



音楽も流れず、ただ聞き取れない言葉を繰り返しているだけ・・・。



しかも、声の音量も大きくなったり小さくなったりと不安定で不快だった。



彼はしばらく、そのラジオから流れてくる声に聞き入っていたが、さすがに



これ以上は無理だと判断し、ラジオを別の放送に切り替えようと



チューニングのつまみを回した。



しかし、どこの放送局に合わせても、聞こえてくるのは先ほどと同じ



良く分からない声だった。



ラジオが壊れたのか?



そう思った彼は諦めてラジオの電源を切ろうとした。



しかし、ラジオの音は消えなかった。



ラジオの電源は切る事は出来たが、何故か声は聞こえ続けている。



どうして、電源の切れたラジオのスピーカーから、まだ声が聞こえてくるのか?



彼には全く理解出来なかった。



だから、彼は急いで、ラジオの電池を抜こうとした。



すると、その時、突然ラジオから聞こえてくる声が大きくなった。



彼は思わず、



うわぁ!



という声を出してしまう。



それでも、ラジオから電池を抜き取ると、ラジオからの声は消え、彼の



部屋には静寂が訪れた。



やっぱり壊れてるのか・・・・。



新しいラジオを買わなきゃ・・・・。



そう思った時、突然、彼の背後から、声が聞こえてきた。



それは、先ほど、ラジオから流れていた声と同じものだった。



そして、それと同時に彼は何かの気配を感じた。



それが何なのかは、分からなかったが、間違いなく彼の背後にそれは



立っている。



そんな確信があったという。



彼は完全に固まっていた。



今まで、そんな体験をした事など一度も無かった。



だから、彼は霊というものの存在を全く信じてはいなかった。



それが、彼の命を救ったのかもしれない。



彼は、いきなり、大声を出して、



おい・・・勉強の邪魔するな!



早く出て行け!



さもないと、痛い目に遭わせてやるからな!



そんな言葉を、語気を強めて言った。



そして、



今、後ろ振り返るからな・・・。



もしも、その時にまだ居る様なら、容赦しないぞ!



それは、恐怖で固まっている自分を勇気づける言葉でもあった。



そして、彼は思い切って後ろを振り返った。



すると、そこには、今にも消えていきそうに薄くなっていく大きな女



の姿があったという。



言葉では表現しずらいが、とても不気味で恐ろしい顔の女だったという。



それを見た時、彼は思わず叫びだしそうになったが、彼はそれを



必死に堪えた。



そして、その女の姿が完全に消えると、そのまま部屋を出て外に出た。



辺りには明かりのついた家がまだ数軒あった。



それが、彼にはとても心強く感じたという。



それから、彼は朝が来るまで、部屋の中には入らなかった。



まだ、部屋の中に、その女が居る様な気がしたからだという。



そして、朝になってから部屋の中に入ると、彼の部屋の中は壁も襖もズタズタに



引き裂かれていた。



そして、ラジオをつけると、既に



普通の放送に戻っていたという。



彼が、それ以後、その部屋で怪異には遭遇しなかったらしいが、それから



彼は夜の勉強の際には、ラジオを聴く事はしなくなったという事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:50│Comments(0)
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