2018年11月10日

フェリー

これは俺の知人が体験した話。



フェリーというのは便利なものだ。



橋も無いような場所まで車やバイク、トラックまで運んでくれる。



運転手は、その間、しばしの休憩をとれるし、何よりトラックで車を運ぶのに



比べてかなり割安で利用できる。



俺も北海道に行く際などには、何度も利用させてもらっていた。



やはり、船だけあって客室によってかなり金額に開きがある。



だから、俺はいつも大部屋のような所で皆が自分の荷物を枕に雑魚寝している



客室?で利用していた。



そして、今でこそ、車が駐車・保管されている場所には乗船中は一切



立ち入れない事になっている。



安全と防犯がその理由のようだが・・・。



ただし、昔はそんなに厳しく管理されてはいなかった。



確かに、車のオーナーは車の駐車場所には行かないように促されるが、中には



狭い客室よりも、駐車している車の中で寝るという人もそれなりに



居たのも事実だ。



そして、その時、彼が行っていたのは明らかに違法行為。



フェリー代金を浮かせるために、彼は無銭乗船をしたらしい。



乗船待ちの場所で意気投合した人に無理を承知で頼み込んたらしい。



そして、車のトランクの中という事なら、もしも何かあって見つかっても



勝手にトランクに忍び込まれたと言い訳ができるから、ということで、そのまま



彼はその方の車のトランクに乗り込んでじっと息を潜めていたという。



そのフェリーの目的地まで丸一日かかる予定だった。



そして、彼はそのフェリー代金を支払える程の余裕は持ち合わせてはいなかった。



彼は事前に買い込んだパンとジュース、そして、小さな荷物を持ってトランクに乗り込み



自らそのトランクを閉めた。



その時、彼はヒッチハイクでとある場所を目指していた。



だから、宿泊にかかる費用は勿論、移動に係るお金というのも緊急用のごく僅かな



金額しか持ち合わせていなかったというのだから、なかなか困ったものだ。



彼の乗った車はかなり大きなセダンだった。



だから、トランクが狭くてツライという事は無かったようだがそれでも、その車が



何処を走って、そしてフェリーのどの辺りに駐車するのかすら分からないというのは



やはり不安だったそうだ。



彼を乗せた車は、スムーズに進み、途中、何度かフェリーの係員らしき人と話を



しているのが聞こえたらしく、いつトランクを開けられるか、とハラハラしていた



様だが、結局、トランクは一度も開けられず、しばらくすると車は停車し、



係員が車を固定する作業をしていたという。



そして、その作業が終わると、運転手の男性が、挨拶の様にトランクをコンコンと



叩いてから車から離れていくのが分かった。



それからしばらくは沢山の車がどんどんと停車していくのが分かり、とても



賑やかだったが、それも1時間ほど経つと、大きく重い扉が閉められる音



と同時に完全に静寂に包まれた。



彼はポケットに入れてあった小型ライトを取り出して出来るだけ音を出さない様に



荷物の中からパンとジュースを取り出して、晩御飯を食べた。



途中、トイレに行きたくなると困るのでジュースは極力飲まないようにした。



そのうち、フェリーが港を出港したのが分かった。



天気予報をチェックしていた彼はその日の夜がかなり高い波になる事は知っていた。



しかし、それから1時間ほど過ぎた頃から、外は大荒れになった。



フェリーは高い波に翻弄され、彼が乗っていた車のトランクも酷い揺れに



襲われ、彼は思わず気分が悪くなったという。



それでも、必死に船酔いに耐えているうちに、彼は寝てしまったようだった。



それからしばらくして、彼は暗闇の中で目覚めた。



最初、自分がトランクの中に隠れて寝ているのだという事を思い出すまで



少し時間を要した。



それにしても、酷い揺れだった。



しかし、睡眠をとったせいか、船酔いの症状は無かった。



ギギッ・・・・・ギシギシ・・・・ガタンガタン・・・・。



そんな音を立てながら、車の格納場所に置かれている車達が大きく傾き、そして



揺れているのが分かった。



真っ暗な中、無機質な車達が、まるで生き物の様に揺れ動いている様子を



思うと、少し気味悪く感じたという。



すると、その時、それまでとは異質な音が聞こえてきた。



ペタッ・・・ズルズル・・・・ペタッ・・・ズルズル・・・・。



それは、濡れた裸足のまま、何かを引きずり歩いている様な音。



しかも、揺れ動く車の音で溢れているその場所で、何故かその音だけは、



はっきりと聞こえてくる。



誰か来たのか?



船の係員だったら、まずいな・・・。



彼はそう思い、しばらく息を殺して動かない様にした。



しかし、その足音は、いっこうに居なくなる事はなかった。



それどころか、車1台1台を調べているかのように、動き回っているのが



分かった。



やっぱり船の係員なのかもしれない・・・。



だとしたら、隠れているのがバレない様に、気をつけないと・・・・。



彼はそう思ったという。



しかし、次の瞬間、彼は聞いた事の無い声を聞いた。



いや、それは声というよりも、叫びといった方が近いのかもしれない。



ウオーン・・・・ギャギャギャギャ・・・・・。



それはとても人間の声には聞こえなかったが、最後に不気味な笑い声が



聞こえたように思えた。



これは人間じゃないのかもしれない・・・・。



だとしたら、いったい・・・・。



そう思ってしまうと、どんどん恐怖が増していく。



彼はトランクの中で固まったままじっと息を殺してその声と音に集中した。



すると、突然、



ドン!・・・・ドンドン!・・・・。



という音が彼の耳を襲った。



一瞬、彼は真っ暗なトランクの中を見渡してしまう。



それ程、大きな音だったという。



そして、また、



ドン!・・・・ドンドン!・・・・。



という音が間近から聞こえた。



もうま違う余地は無かった。



そり音は紛れもなく、彼が隠れている車のトランクを外から力任せに



叩く音だった。



なんでだ?



どうして、此処に隠れてるのが分かったんだ?



彼は生きた心地がしなかった。



得体の知れないモノが、彼の隠れているトランクをすぐ外から叩いている。



まるで、その中に自分がいる事を知っているかのように・・・・。



それでも、彼には、何も出来る筈は無かった。



必死に耳を塞ぎ、そして口をつぐんだ。



すると、突然、彼が隠れている車が大きく揺れ出した。



その揺れ方は、海の荒天に依るものではない事はすぐに理解できた。



外にいる何かが車を揺さぶっている。



まるで早く出て来い、とでも言わんばかりに・・・・。



車はどんどんと揺れが大きくなり、次第にトランクの中で体を支える事すら



難しくなっていく。



普通の人間にそれほどの力があるとは思えなかった。



彼は思わず、



ひっ!



と声を出してしまった。



すると、トランクの外からは



ギェギェギェ・・・・・ゲラゲラゲラ・・・。



そんな不気味な笑い声が聞こえたという。



そして、彼が隠れているトランクが突然、ゴーンと叩かれるのが分かった。



その音と同時にトランクは大きく凹み、彼の顔前に迫って来た。



それから、何度もトランクが凄まじい力で叩かれ、その度にトランクが大きく



ひしゃげてくるのが分かった。



彼は必死に体をトランクの端に寄せて、クランクの凹みによって潰されないように



体勢を変えた。



すると、みるみるうちに、トランクはひしゃげ、最後には完全にその部分には



スペースが無くなった。



そして、突然、外が静かになった。



彼はそれでも息を殺し続けた。



生きているのがバレだら大変な事になる・・・。



そう思ったからだった。



じっと動かないまま、彼は全神経を耳に集中させた。



相変わらず、車の外からは何の音も聞こえてこない。



もう行ったのか?



そう思い、彼が体を動かそうとした時、彼の目が何かを捉えた。



それは潰れたトランクの隙間から中を覗き込む大きな白い眼だった。



彼はなんとか悲鳴を上げるのを堪えた。



そうしなければ殺されてしまうと思ったという。



そして、彼はそのまま目をつぶり、身動きしないようにグッと体に力を入れた。



そうしているうちに、彼はそのまま意識を失った。



そして、彼が次に目覚めたのは、彼をトランクの中に匿ってくれた男性に



揺り起こされた時だった。



大丈夫か?



その男性は心配そうに彼に声を掛けてくれた。



そして、その男性から聞いた話によると、翌朝、男性が彼の様子を見に来た時、



車のトランクは大きく潰れ、そしてトランクは開いたままになっていたという。



そして、どうやら、その男性の車だけではなく、周りの車も含めて、



かなりの台数の車のトランクが大きく潰されていたという。



結局、彼はそのままバレずに目的地の港で下船する事が出来たらしいが、



その時、彼を襲ったモノが何なのかは今でも分からないという。



そして、勿論、その事があってから、彼はフェリーに乗る際には絶対に



車に残る事はしなくなったという事だ。



Posted by 細田塗料株式会社 at 09:57│Comments(0)
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