2019年04月30日

勘当・・・・。

これは知人女性から聞いた話。

彼女は現在、シングルマザーとして忙しい日々を送っている。

何事にも手を抜かず、そして他人の意見よりも自分の信じた道をしっかりと

進む彼女だから、周りからの信頼も厚いものがある。

しかし、そんな彼女の性格のせいか、父親との仲は昔から良くなかったという。

大学生になった頃からしっかりと自分の眼で物事を捉え把握し、自分の判断

だけを信じる様になった彼女にとって、父親からの意見やアドバイスは

彼女の耳には届かなかった。

父親としても勿論、彼女の身を案じて色々とアドバイスや叱責を行っていたの

だろうが、その頃の彼女にとって、それは自分の生活スタイルを妨げる

雑音としか聞こえていなかったようだ。

そして、彼女が転職を決意した時に大きな決裂が生じ、更に彼女が結婚を

決めた時、彼女と父親との間には大きな溝が生まれてしまう。

結局、彼女が自分の意思を貫き通す事になったのだが、それは事実上、父と娘

という関係を完全に途絶えさせる勘当という結果を招いてしまった。

父親が欠席した結婚式、勿論、大々的には出来なかったが、それでも何とか

こじんまりとした結婚式を挙げる事は出来た。

その結婚が正解だったのかは分からないが、その後、男の子を授かってすぐに

彼女はその男性と離婚した。

そして、彼女は女手一つで小さな赤ちゃんと二人暮らしを始める。

しかし、働きながらの子育てはあまりにも大変であり、彼女自身、何度か

実家に助けて貰いたいと思ったそうだが、やはり自分が勘当状態である事を

思い出し、何とか1人で乗り切ったそうだ。

そうして、子育てが大変な時期を何とか乗り切り、仕事にも活気が出て来ると

元々の彼女の性格なのか、実家という存在を半ば忘れた様な生活を送る様になる。

もっとも、彼女自身、実家の事を考える度に辛くなってしまいそんな感情から

逃避する様に敢えて実家の事は思い出さないようにしていたそうなのだが。

実家に顔を出さない様になると母親や兄弟たちとも疎遠になった。

それでも、彼女は息子を育てる事で精一杯だったから、寂しさというものは

それ程感じなかったという。

そうして月日は流れていった。

そして、息子が大学に入り1人暮らしを始めた頃にそれは起こった。

その頃の彼女は仕事を終えると、そのまま誰もいない家に帰り、1人で

食事をしながら缶ビールを1本だけ飲むのが唯一の楽しみだった。

実際、その頃の彼女の収入からすれば、仕事帰りに外で食事したり飲んで

帰るくらいの余裕はあったが、やはり出来るだけ多くの仕送りを息子にして

やりたかったから、彼女自身は極力、節約した生活を送っていた。

そして、缶ビールを飲みながらテレビを消してラジオを聞いていた時に

突然、玄関のチャイムが鳴った。

時刻は午後10時を回っていた。

こんな遅い時刻に誰?

そう思い、玄関まで行くと鍵を掛けたままの状態で、声を掛けた。

はい・・・どちら様でしょうか?

すると、聞き慣れているがとても懐かしい声が聞こえ、思わず彼女は茫然とした。

久しぶりだな・・・・・ちょっと近くまで来たものだから・・・・。

そう答える声は紛れもなく彼女の父親の声だった。

彼女は慌てて聞き返した。

え?お父さん?・・・・どうして?

そう言うと彼女は慌てて玄関のカギを開けてドアを開いた。

いくら疎遠になっているとはいえ、父親が病気で入院しているのは当然

彼女の耳にも入っていた。

しかし、そこには間違いなく父親が立っていた。

久しぶりに見る父親はかなり痩せて年老いて見えた。

彼女は驚きの表情を隠せないまま、こう言った。

本当にどうしたの?突然やって来るなんて・・・・・。

すると、父親は小さな声で、

いや、久しぶりに顔が見たくなってな・・・・・。

そう呟いたという。

少し落ち着いた彼女は父親に向かって

あの・・・せっかくだからお茶でも飲んでいく?

と聞くと父親は静かに首を振ったという。

しばらくの間、何も会話の無い時間が流れた。

お互いに何も話さず、お互いの顔を見ているだけの時間。

ただ、そうしていると彼女自身はとても不思議な気持ちになったという。

どうして、私はこの父親をずっと敬遠してきたのだろうか?

こんなに歳をとって・・・・。

そして、私を見つめる目は明らかに私を心配し、そして愛してくれている者の

眼だったから。

彼女の眼からは知らないうちに大粒の涙がこぼれていた。

あの・・・お父さん・・・わたし・・・・。

彼女がそう言おうとした時、その言葉を遮るように、そして優しい声で父親は

こう言った。

元気でやっているのか?

何か悩みは無いのか?

その言葉は過去にも父親の口から聞いた言葉ではあったが、何故かその時は

素直な気持ちで聞けたのだという。

ああ…お父さんは本当に私の事を心配してくれているんだ・・・・・と。

そして、最後に、

お前は昔から強い子だったからなぁ・・・。

だから、自分の信じた道をいきなさい・・・・。

結局はそれが一番幸せな人生なのかもしれないもんなぁ・・・・。

そう言ったという。

そして、急に父親は深く彼女にお辞儀をすると、

突然、すまなかったな・・・・・。

私はもう行かなくちゃいけない・・・・・。

でも、もしも叶うものなら、たまにはワシの事も思い出してくれよ・・・。

そう言って少しだけ笑うと、安心したような顔をして、そのまま玄関から

出ていった。

ほんの数秒、彼女は茫然としていたがすぐにハッとして我に返り急いで

外へ出て父親を探した。

しかし、父親の姿はどこにも見つけられなかったという。

いったい、何処に消えちゃったんだろう・・・・・。

そう思いながら再び家の中に入ると、まるでそれを待っていたかのように

家の電話が鳴ったという。

慌てて電話に出ると受話器の向こうからは母親の鳴き声で父親の死を伝えられたという。

え?なんで?今まで確かにうちに居たのに・・・・・。

そう考えたが、すぐに彼女は確信したという。

きっと父親が最後の別れを伝える為にわざわざ此処へ来てくれたのだ・・・と。

その後、彼女は父親の葬儀にもしっかりと参列し、母親や兄弟達との関係も

修復されたという。

そして、母親や兄弟達から、父親がいつも彼女の心配ばかりをしていたのだ、

という話を聞かされて彼女はまた大泣きしてしまった。

その時になって初めて、父親の気持ちが彼女には痛いほどよく分かったという。

もっと親孝行すれば良かった・・・・。

彼女は心からそう思った。

しかし、彼女の後悔は決して無駄ではなかったようだ。

どうやら生前の疎遠状態を打ち消すかのように、彼女の周りではいつも父親の

気配を感じるのだという。

それは気のせいとか言うものではなく確信として、すぐ傍で父親が彼女の事を

見守ってくれているのが身に染みて分かるのだそうだ。

だから、彼女は毎日、1人暮らしのはずなのに、まるで父親に話しかける様に

しながら楽しく生活しているそうだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:09│Comments(16)
この記事へのコメント
K様、はじめてコメントします。
いつも楽しみに拝見させていただいています。
時々こういった暖かいお話に触れることができるので、時々おじゃまさせて頂いてます。
あまりご無理なさらぬよう、お身体ご自愛ください。
Posted by BLACK MAMBA at 2019年06月28日 18:53
Kさん、こんばんは。

疎遠になってしまっている実家 母親から一昨日の夜電話が有りました。
5年振りに聞く母の声、歳をとったなぁ、と感じました。
嫌な予感はしたのですが…
父の糖尿病が悪化し腎機能低下、その結果 透析を受けることになった、と言う連絡でした。
母は今は目先の事で精一杯のようなので、私は私ができることを探して協力しようと思います。

ほぼ毎日両親の夢を見るようになっていたので、こう言うのも「虫の知らせ」なのかなと思いました。

私事、長々と失礼致しました。
Posted by 1号2号 at 2019年05月18日 00:17
営業のKさん

自宅の庭、虫の音が賑やかです。

実家には86歳になる母がいます。
昨年は一度も顔を会わす事もなく、今年こそはが・・・既に5月になりました。
母に会いたいです。
何時もの事を話したいです。
一緒にご飯を食べたいです。
近所をドライブしたいです。

私の人生の羅針盤である、尊敬する両親。
生み育ててくれて、ありがとうございます。

くれぐれもご自愛下さいね。
微力ながら、福岡より応援致します。
Posted by 中西 at 2019年05月01日 20:38
Kさん、みなさん、こんばんは。

平成最後のお話、令和に切り替わってから読みました。
最後に心が通じ合えて良かった。
温かい気持ちになりました。

あることがきっかけで、実家と疎遠になってしまって早5年。
最近、よく両親の夢を見ます。
高齢の両親、元気でやっているのか…
雪解けを待つのか、待たずに自分で行動すべきか、悩ましいです。
色々考えさせられました。

今宵も…特に今宵はステキなお話をありがとうございました。

Kさん、どうぞご自愛くださいませ。
Posted by 1号2号 at 2019年05月01日 01:05
こんばんは。K様、体調はいかがでしょうか?
いよいよ令和になりましたね。
早く守護霊さんたちに戻ってきてほしいですね。
今回のお話、4年前に亡くした父を思い出しました。とても仲良くしていましたが、やはり、もっと親孝行したかったですし、未だに思い出して泣けてしまいます。

平成最後に、とても暖かくなるお話ありがとうございます!
Posted by がるご at 2019年05月01日 00:15
Kさん皆様こんばんは

令和になりましたね。
私は愛犬を抱っこして迎えました・・・。

このお話を読んで、亡くなった父を思いだし、今日母にむっとしたことを思いだし、反省しきりです。

令和は親孝行するぞ~。

では、皆様ご自愛くださいませ。
Posted by ぷぅ at 2019年05月01日 00:10
令和になります。
kさんにとって、心穏やかな日々になりますように。
Posted by やまま at 2019年05月01日 00:00
Kさん、皆様こんばんは。

2年前に亡くなった父を思いだし、うるうるきました(;_;)

令和も更なるご活躍を心より応援いたしております。
Posted by すぅ at 2019年04月30日 23:47
Kさん、皆さん、こんばんは。

涙が溢れてきます。

年号が変わる前に、新しいお話が読めて…ありがとうございます。

体調はいかがですか?
どうか無理だけはなさらぬように、ゆっくりと休んでください。
Posted by ラムレーズン at 2019年04月30日 23:44
K様、皆さんこんばんは。

3月に足の指の骨を折って、現在もリハビリ中。
ロムするのが、やっとの状態でした。

それは、さておき…。
平成の最後の素敵なお話しありがとうございました。
親孝行、したい時には、親は無し
とも、言いますものね。

私も、数年前に母を亡くしもう少し親孝行が出来れば
良かったとは、思いますが…。

致し方無いですよね。

まっ、それともかく。
余り無理しないで下さいね。
K様のお話しが、読めなくなるのは悲しいですから。
Posted by がらす工房 at 2019年04月30日 23:04
Kさん
皆さん
こんばんわ(^ ^)

このお話ステキですね(;▽;)
お父さまと心を通い合わせることができて
良かったです。
私も会いにきて欲しい人がいました…
Posted by とも at 2019年04月30日 22:51
Kさーん わっしょーい !!


前スレに 非公開希望の 方が いらっしゃいます。

はるの 『見てー。見てー。』の辺りです。
Posted by はる at 2019年04月30日 22:41
前回はすっごい怖い話だったけど
今回は ホッコリするいい話でした!
あちらの世界にも 善と悪の霊が存在するんですね‼
Posted by はっしー at 2019年04月30日 22:35
Kさん 

平成最後に、このような、人肌を感じる温かい話しをありがとう。
平成の最後に、苦しかった思い出も頭に浮かびましたが、こうして、Kさんの話し、出会った方々を思い浮かべながら過ごす時間はとても幸せです。もちろん、背筋の凍るようなお話しも。
これからもKさんのご活躍、心から応援します。
Posted by にゃんだー at 2019年04月30日 22:29
いい話です
Posted by 埼玉のりょう at 2019年04月30日 22:26
カイダンスキーさん

今、これが最新記事やで!
見つけた?
Posted by 中西 at 2019年04月30日 22:13
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