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2019年06月08日

山岳キャンプの訪問者

登山が趣味という知人から聞いた話。



彼は登山自体も勿論好きなのだが、何より好きなのはテント泊



なのだという。



山の中で誰にも邪魔されず、一人きりの時間を過ごす事が



何よりも貴重な時間だという。



実際、彼は山には登るが、それほど登頂というものに固執してはいない。



それよりも、出来るだけ他の登山者が来ないような場所を探して



そこで1日を過ごす方が楽しいだという。



だから、彼はいつも一人で山へと向かう。



山に登り始めると、通常の登山ルートからはわざと外れて、見晴らしの良い



開けた場所を探す。



そして、良い場所が見つかると、そそくさとその場所にテントを張って



のんびりと過ごす。



そして、お腹が空けば、持ってきた材料で好きな料理を作り、好きなだけ



食べる。



そして、眠たくなれば、好きな時に寝る。



音楽を聴くのも自由だし、読書をする時間も、好きなだけとれる。



そして、夜になれば、自炊で好きな料理を作り、大好きなウイスキーと



一緒に食べる。



そして、好きな音楽を聴きながら、横になって読書をし、眠たくなれば



そのまま寝てしまう。



そして、それは四季を通じて別々の楽しみ方があり、そのせいか、彼は



一年中、暇さえあれば山に登っているのである。



山頂を目指さない主義の彼だから、あまり怖い体験、危険な体験というのは



無いそうだが、一度だけ、凄まじい恐怖を体験したそうである。



それが、これから書く話だ。



その日、彼は会社の休みを利用して、夏山を満喫しようと中央アルプスの



とある山に登っていた。



途中までは登山道を利用し、ある程度の高度まで行くと、いつもの様に



登山道から離れて、ある場所を目指した。



実は、その山は彼自身、2年ほど前に登っており、その時も山頂は目指さず、



キャンプでの1日を楽しんだ。



そして、そのキャンプを張った場所というのが、とても素晴らしく、



景色も、そして立地も最高の場所だった。



だから、彼はそれ以来、ずっと、もう一度その場所を訪れる事を



夢に描いていた。



念願叶って再訪したその場所は、相変わらず美しい景色と



平坦な土地、そして、何より、落石の危険も無い場所というのが



最高だった。



ただ、その時は、以前訪れた時とは違い、空気が重く、そして少し暗い



感じがしたという。



そして、その時も、街の夏の暑さが嘘の様に涼しい空気の中、彼は



早めの夕飯を食べて、テントの中で横になっていた。



持参したウォークマンで音楽を聴きながら、いつもの様に、大好きな



ウイスキーをちびちびと飲んで読書に耽っていた。



すると、何かがテントに当たる音がした。



それは誰かが小石でも投げたかのように、



ポツッ・・・ポツッ・・・・



という音だった。



彼は耳からイヤホンを外して、上半身を起こし聞き耳をたてた。



しかし、もう音はしなかった。



あれ?・・・・おかしいな・・・・・。



彼はそう思い、再びイヤホンを耳に差し込んだ。



すると、また、



ポツッ・・・・ポツッ・・・・・。



という音が聞こえてくる。



彼はイヤホンを外して、テントの入り口まで行くと、顔だけ出して



外の様子を窺った。



しかし、何も異常は無かった。



彼は、再びテントの中で体を横たえて、読みかけの本に目をやる。



今度は、何か音が聞こえた時の為に、イヤホンはしなかった。



すると、テントの外から声が聞こえた。



何してるんですか?



確かにそう聞こえたという。



彼は、慌てて起き上がると、そこには、暗闇の中に確かに人が見えた。



うわぁっ!



彼は思わず大きな声をあげてしまう。



そして、もう一度、まじまじとテントの入り口を凝視する。



すると、テントの入り口には、立ったまま屈んでテントの中を覗き込む



様にしている親子の姿があった。



まるで、古い映画に出てくる猟師の様な恰好をした親子。



父親と娘に見えたという。



そして、その二人がまた聞いてくる。



何してる?



その二人の姿は、とてもはっきりとしたもので、彼は、人間だ、と



思い、ホッとしたが、それでも、その親子の猟師の様な身なりは



とても違和感があった。



それでも、彼は、



ああ・・・キャンプをしてるんですけどね・・・・。



そう返したという。



すると、その親子は、



1人・・・・なのか?



と聞いてきたという。



彼はその時、何かとても不吉な予感がしたという。



1人だと知られてはいけない・・・・。



そんな気がしたのだという。



だから、彼は、



いえ・・・大勢で来ました!



少し遅れてますけど、もうすぐ到着しますよ!



と、少し語気を強めて言った。



すると、その親子は無言のまま、テントの前から立ち去った。



彼はしばらくの間、茫然としていた。



今来たのは、いったい誰なのか?



そして、いったい何をしにやってきたのか?



しかも、今、自分が居る場所は山の中の登山道からも外れた山の中で



あり、出歩く事さえ危険な夜間。



それを考えると、彼は一気に恐ろしいものを感じてしまう。



だから、彼は、それまてののんびりした気分が吹っ飛んでしまい、まるで



化け物でも見てしまったかの様な気持になった。



だから、彼はもう音楽も読書もする気が起きず、ただひたすら、あの親子が



もう近付かないようにと、音楽を大きな音でかける事にした。



しかし、音楽も耳に入って来ないほど、動揺している自分が居た。



こんなに、動揺している自分は初めてだった。



何がそれほど自分を動揺させているか、分からなかった。



ただ、真夜中に見知らぬ親子がテントに訪ねてきただけ・・・・。



確かに、山の中ではあったが、絶対にあり得ない事ではなかった。



しかし、彼は何故か得体のしれない恐怖を感じ、動揺しきっていた。



そんな時、また声が聞こえた。



もう、お連れさん達は来ましたか?



何人いるんですか?



それは、間違いなく、先ほどの親子の声だった。



彼は恐怖で固まってしまったが、なんとか絞り出すように、



ええ・・・もう到着しましたよ!



テントの中が窮屈なくらいで・・・。



そう返すのが精いっぱいだった。



そして、必死に、テントの入り口のあるジッパーを指で押さえた。



絶対にテントの中を見られてはいけない・・・。



もし見られたら、終わりだ・・・。



そんな気持ちでいっぱいだった。



すると、テントの外から、



そうですか・・・。



それじゃ、仕方ないですね・・・。



そんな声が聞こえたという。



彼はその時、



それじゃ、仕方ないって、どういう意味なんだ?



と考えてしまい、余計に怖くなってしまった。



だから、音楽の音量を更に上げて、テントの中の明かりも、全て点けて



気を紛らわせた。



そして、このまま朝まで起きていなければ!



寝てしまったらお終いだ・・・。



そう決意して、テントの中で眠気を振り払う様に、体を動かした。



持参した荷物の中に、武器として使えそうな調理用の携帯ナイフがあったので、



それも、しっかりと手に持った。



外からは虫の音しか聞こえてはこない。



きっと、あの親子はもう諦めてどこかに行ってくれたのだろう・・・。



そんな事をふと考えてしまった。



すると、朝から山を登って来た疲れもあってか、彼はそのままの状態で



ウトウトし、ついには寝入ってしまう。



どれだけの時間、自分が寝てしまっていたのか、全く分からなかったという。



突然、彼は何かの気配を感じて、ハッと目が覚めた。



大きな音量で鳴らしていた音楽も聞こえず、テントの中の明かりも消えていた。



彼は思わず生唾を飲み込んだ。



そして、聞き耳を立てる。



すると、真っ暗闇の中から、



誰もいないじゃないですか・・・。



1人だったんですね・・・・。



そんな声が聞こえた。



それは、テントの外からの声ではなく、明らかにテントの中から



聞こえてきた。



そして、突然、彼は左足に激痛を感じた。



その瞬間、彼は一気に起き上がると、テントの入り口を開けて外へと



走り出した。



左足からは、酷い痛みが感じられたが、そんな事を気にしている余裕



など無かったという。



彼は荷物を何も持たず、外へ飛び出した。



外は完全な暗闇であり、視界は殆ど無かった。



それでも、彼は手探りで前へと進んだ。



逃げなければ殺される・・・・。



そんな確信があった。



すると、彼の後ろから、



おーい・・・どこに居る?



と声が聞こえた。



彼は、その声を聞いて、背後から追いかけてきていると悟り、出来るだけ



音をたてないように必死で草をかき分けて前へ前へと這いずった。



それでも、その親子の声は、ずっと彼の後を追いかけてきた。



そして、その声は明らかに、少しずつではあるが、確実に彼に近づいていた。



気が変になりそうだった。



追いかけられているという恐怖は、彼に、いっそのこと、見つかってしまった



方が楽かもしれない、とさえ思わせたが、唯一、彼がずっと手に持っていた



携帯用のナイフがあるというだけで、何故か気持ちを強く持つ事が出来た。



息は切れ、体は泥まみれになっていた。



しかし、それでも、彼は、休むことなく必死に逃げ続けた。



そして、ちょうど、背後からの声が、彼のすぐ後ろから聞こえた時、彼は



少し低い場所に転がるように落ちた。



体は少し痛かったが、彼は必死にそこがどこなのかを手探りで探ろうと



していた。



しかし、草の無い開けた場所という事しか分からなかった。



すると、背後から、声が聞こえた。



こっちにおいで・・・・。



それは紛れもなく、あの親子の声だった。



彼は手に持った携帯用ナイフを突き出すようにして持つと、その場所で



腰を降ろした。



逃げなければ、とは思ったが何故か、体は全く言う事を聞かなかった。



体力の限界なのか・・・・。



そう考えた時、彼は、そのままその場に屈みこんだ。



殺されるとしても、二度とあの親子の姿は見たくなかった。



相変わらず、すぐ近くから、



おいでよ~



という声が聞こえていた。



彼は、死を覚悟したという。



そして、そのまま前かがみに突っ伏していると、そのまま意識を



失ったという。



そして、彼が次に目覚めたのが、他の登山客に揺り起こされた時だった。



どうやら、彼は登山道まで逃げて来て、そのまま気を失ってしまった、



という事が理解できた。



そして、登山道に突っ伏して倒れている彼を見た登山客が彼を揺り起こして



くれたのだった。



結局、彼の左足には、細い木の枝が突き刺さっており、その時には、



もう全く動かなくなってしまっていたという。



そして、それから、他の登山客も加わって彼を下山させてくれた。



結局、彼が元の様に歩けるようになるまで半年ほどかかった。



そして、彼は言っていた。



あいつら親子が何者なのかはわからない。



ただ、あいつらはきっと、人が行き来する登山道には入る事が出来なかった



のではないか。



そうでなければ、自分が助かった理由が見つからないのだ、と。



彼は今ではすっかり元気になって、また登山を楽しんでいるが、今では



絶対に登山道から外れる事はなくなり、そして、テントに泊まる事も



しなくなったという事だ。



Posted by 細田塗料株式会社 at 22:23│Comments(0)
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