2019年06月08日

無人島

人が使わなくなった場所には霊が集まりやすい。



以前、こんな事を聞いた。



確かに、これまでの体験から考えると、人の痕跡が全く無い場所



で霊に遭遇した記憶は無い。



それは死んでも尚、人として存在したいという霊の思いなのかもしれない。



しかし、これから書く話は、その類ではないのかもしれない。



日本という国は島国である。



大小、沢山のしまが集まってできた国。



本州も北海道も四国も九州も、地理的には島という扱いになる。



そんな島国の日本だから、無人島の数もやはり多いらしい。



勿論、無人島といっても、かつては人が大勢住み、栄えていたものもあれば、



立ち入り禁止になっている島、そして、人の痕跡が全く残されていない



生粋の無人島というものも存在している。



そして、これは知人から聞いた話。



彼は、昔テレビでやっていた探検物の番組に影響されたのか、とにかく



人の手が入っていない無人島が好きらしく、休みになると、いつも



お気に入りの無人島に出掛けていく。



その為に、ボートも買い、サバイバル道具一式も備えている。



だからといって、無人島を探検するわけではなく、あくまで釣りや



1人キャンプをして楽しむだけらしいのだが・・・・。



だから、彼には行きつけの無人島が在った。



法律的にそのような無人島に勝手に上陸して良いのか、は分からないが、



とにかく、彼はいつもその無人島に出掛けては釣りやキャンプ、そして、



自給自足生活の真似ごとをして楽しんでいた。



そして、その日も彼は有給休暇をとって、朝早くからボートを車の屋根に積んで



家を出発した。



やはり、無人島に行くにしても、日曜日や祭日ではなく、平日に有給休暇をとって



出掛けるというのが格別らしく、彼は毎年、有給を完全に使い切る形で



無人島へと出掛けている。



いつもの浜辺近くに車を停めて、ボートを降ろし、波打ち際まで運ぶ。



そして、必要な物が詰まった大きなリュックをボートに乗せると、さっさと



海へと漕ぎ出した。



波はとても穏やかだった。



彼はいつものように、釣り竿を海へと垂らし、魚を釣りながらボートを進めた。



といっても、いつもはボートのエンジンが煩くて、魚が釣れる事など無かった。



しかし、その日に限っては、無人島に到着するまでにかなりの魚が釣れたという。



馬鹿な魚もいるもんだよなぁ・・・・。



そんな事を思いながらも、彼はその日の昼食の魚が既に手に入った事で



かなり気を良くしていた。



そして、いつものように、無人島に着くと、何故か無人島は切りに覆われていた。



それに、いつもは島に着くまでに漁船に出会うのだが、その時は何故か



一隻の船とも出会わなかったという。



彼は、自分で作った簡易船着場に船を停泊させる。



そして、無人島に上陸しようかと思った際、あるモノを見つける。



それは、何人もの人間の足跡だった。



それも、どう見ても裸足に見えた。



その船着場は、泥地になっており、波が打ち寄せる為、足跡が付いたとしても



通常ならしばらくすれば消えてしまう筈だった。



だとすれば、目の前に付いている足跡はかなり新しいものだという事になる。



彼は思った。



せっかく自分一人だけで楽しんでいる島で他の奴と出会うのは嫌だな、と。



確かに、彼がお気に入りにしているその無人島は、5分も歩けば横断出来る



ほどの大きさしかなかった。



だから、誰か他の人間が島に来ているとすれば、遭遇する確率は高かった。



彼は少しがっかりしながらもそのまま島へと上陸した。



短い傾斜を登ると、いつものように草地に出た。



そこで、彼は辺りを見回した。



どんな奴が島に上陸しているのか、確かめる為に。



しかし、彼の視界には誰の姿も映らなかった。



こんな小さな島だから、誰かが来ているのだとしたら少し見渡せば簡単に



見つけられるはずだった。



もしかしたら、気のせいだったのかもしれない。



そんな事を考えながら彼はいつもの場所へと進んでいった。



草むらを抜けると、そこには岩場があり、低い崖になっていたが、そこには



平坦な場所があり、彼はいつも、その場所で釣りをしながら自給自足の真似ごと



を楽しんでいた。



彼はその場所に小さなテントを張り、火を起こして此処に来るまでに釣った魚を



焼き始める。



そして、いつものように、ラジオを聴きながら、横になって読書を始めた。



まさに、彼にとっては至福の時間だった。



海の上から見えた島は、かなり濃い霧に覆われていたが、実際上陸してみると



さほど視界を妨げるほどのものではなかった。



風が気持ちよく、そして海の香りが心地よい。



彼は起き上がりながら焼いている魚を返して、また横になろうとした。



何かがおかしかった。



潮風の香りに混じって、何か線香の様な匂いが鼻についた。



更に、彼が座っている近くには、船着き場で見たのと同じような裸足の



足跡がはっきりと残されていた。



その時、彼はハッとして固まった。



あの足跡が間違いなく誰かがこの島に上陸した時に付けられたものだとしたら、



そいつは、いったいどうやってこの島までやって来たんだ?



この島の周りには泳いでやって来れるような距離に、他の島など存在しては



いなかった。



彼は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。



彼の頭は嫌な予感でいっぱいになる。



そして、聞こえてくる読経の様な声。



最初はラジオから流れているのかと思い、周波数を変えてみた。



しかし、その読経の声はラジオからではなく、間違いなく生で彼の耳に



聞こえてきていた。



なんなんだ・・・・いったい?



彼は体を完全に起こし立ち上がると辺りを見回した。



すると、何かが草むらを移動しているのが分かった。



姿は見えなかったが、草をなぎ倒す音が彼の耳には届いていた。



ガサガサ・・・・・ガサガサ・・・・・ガササササ・・・・。



その音は凄いスピードで移動していた。



何が起こってるんだ?



彼は思わず、その音のする方を凝視する。



すると、読経の声が大きくなったり小さくなったりを繰り返しながらも、



どんどんと大きくなってくる。



彼は完全にパニック状態になっていた。



冷静に物事を考えられない程に・・・・。



そして、その時彼は見てしまった。



草むらの中を一直線に前へ進み、そして反転して後ろに進んでいる男女の



姿を・・・・。



それは確かに人間に見えた。



しかし、服は着ておらず、そして直立状態のまま、まるで高速に平行移動するかの



様に移動を続けるそれらの姿はとても人間だと断言できるものではなかった。



いや、間違いなく人間にはそんな動きは出来る筈がなかった。



そして、恐ろしい事に、移動するそれらの男女と、読経の声はどんどんと



彼が居る場所へと確実に近づいて来ていた。



どうする?



しかし、考えている余裕はなかった。



彼はすぐさま、海の方へと振り返ると、勢いよく崖の方へと助走し、そして



海を見ながら崖から飛び降りた。



下は見なかった。



もしも、下が岩場になっていたとしても、死ぬ事はないだろうと思っていたし、



何より、それらのモノが、彼の目の前に突然現れるのを見る事だけはどうしても



避けたかった。



彼の体は少しの時間落下を続け、そして冷たい水の中に落ちた。



海に着水した際、嫌な音を立てて足があらぬ方向に曲がったのが分かったが、



彼はそのまま泳いでボートまで辿りつくと、急いで船着き場にボートを



繋いであったロープを外し、そして、ボートのエンジンをかけた。



後は何処をどう通って浜辺まで戻って来たのかは覚えていないという。



そして、彼はすぐに自分で救急車を呼んで、そのまま病院へと搬送された。



片足の足首が完全に複雑骨折していたという。



それから、彼はかなりの期間、入院とリハビリを経て、ようやく退院出来た。



そして、彼は言っていた。



俺はあの時、ボートで島から逃げる際、間違いなく、沢山の何かが島の上から



遠ざかっていく俺のボートをじっと見ていたのを確認したんだが、その時、



どんなモノがその島にいたのか、どうしても思い出せないんだ・・・。



もしかしたら、あの島はあの時既に、あいつらの島になつていたのかもしれない。



そう言っていた。



ちなみに、彼はそれ以来、無人島に行くのを完全に止めてしまった。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:28│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count